抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

王都の寒さ

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 次の日の朝、アーロンは夜の内に書き上げた図鑑注文の手紙を持って部屋から出た。食堂へ行くついでに売店に寄って出すつもりだ。学院の売店は郵便局も兼ねている。

 「あれ? アーロン様」
 「イアン様、おはよう」
 「おはよう」

 イアンが不思議そうにしているので、アーロンは歩きながら月曜日の朝なのに火の国の寮からではなく、男爵家の寮から食堂へ行く理由を説明する。途中で寮長も合流したので、最初からまた話す羽目になったけれど。
 二人もアーロンと一緒に売店を経由して行くと言うので、一緒に向かう。
 急に気温が下がり寒くなったので、アーロンは首にマフラーを巻いて来た。イアンと寮長も同じだ。三人とも吐く息が白い。歩いていると似た様な格好をした生徒を見かける。
 
 「図鑑って何処の出版社のかい?」
 「銀の子猿社です」
 「ああ、あそこのは良いよねえ。僕も子供の時持っていたよ」
 
 寮長の言葉に、イアンがうんうんと頷いている。銀の子猿社は子供の向けの良本を多く出している出版社だ。代々王家の教育係をしている寮長の家も、医師の家系であるというイアンの家も、子供の教育にはさぞかし熱心だったのだろう。
 売店迄は寮から十五分位。アーロンは真っ直ぐ勘定台へ向かったが、寮長は新聞売り場、イアンはパン売り場へと各々の目的へ向かう。寮長は直ぐに新聞を一部持って、アーロンの後ろへ並んだ。イアンは昼のパンをゆっくり選んでいる、いつも昼食の時間に売店迄来ていたから今買えるなら楽でいいと話していた。
 切手代を払ったアーロンは、受け取った切手を貼る為に移動する。貼ったらまた、勘定台に持って行って発送して貰う。手紙で書店へ注文すれば領地へ送ってくれる。本の代金の請求先は兄にしたが、切手代位は自分で出した。

 「終わったよ」

 いつの間にか寮長はアーロンの隣で新聞を読んでいた。イアンはまだパンを選んでいる。アーロンはとことことイアンの横に行って並んだ。

 「イアン様、僕終わったよ。決まらないの?」
 「うん」

 パン売り場には10種類程のパンが並んでいた。品揃えは毎日変わるそうで、新しいパンがあるとイアンは目移りしてしまって決められないらしい。

 「あ、あんぱんがある」
 「あんぱん?」

 イアンはあんぱんを知らない様だ。甘い物が好きらしいし、丁度良いとアーロンは勧める事にした。

 「火の国の小豆という豆を砂糖で甘く煮た餡子っていうのが中に入っているの。多分イアン様好きだよ」
 「餡子」
 「うん、あ、こっちはあんバターだって。わあ餡子の上にバターがのってる。 バターってしょっぱいよね。甘いのとしょっぱいのか。どんな味なんだろう?」
 「この黒いのが餡子。これとこれにする」

 イアンはあんぱんとあんバターパンを買い、紙の袋に入れて貰った。



        ☆


 食堂に着くと、丁度火の国の二人も来た所だった。二人はコートを着てマフラーをし、まん丸に着膨れていた。下には上着だけなくセーターも着込んでいると言う。

 「急に一気に寒くなったっす」
 「下が石畳だからでしょうか? 寒さが足元から這い上がって来てどんどん身体中に染み込んで行く様で耐えられないです」
 「何で、皆さんマフラーだけなんすか? 信じられないっす」

 二人共暖かい室内に入るとほっとした様だった。ほっぺが真っ赤になっている。
 寮長が心配する。

 「今からそうでは、この先耐えられないのでは無いかな?」
 「いや、さすがにその内身体が慣れて来るとは思いますが」
 「昨日、ライム先輩が仰ってた冬用の魔道具も買っておくべきだったっす」
 「だがなあ……」

 イチロウの言いたい事は分かる。髪の色変えの魔道具だけでも中々の値段だったから、また新しい魔道具を買うのは躊躇われるのだろう。ビュッフェの列に並びながら、寮長がイチロウに提案する。

 「銀鼠商会から出ている、『じじシャツ』はどうです?」
 「『じじシャツ』?」
 「ええ、服の下に着る、下着なのですがそう高価では無いし、あったかいですよ」
 「僕も持ってるよ!」

 とアーロンが会話に加わる。

 「え、アーロン様『じじシャツ』着てるんすか? そりゃあマフラーだけでいい訳だ」
 「まだ着てないよ。これ位の寒さならまだ必要無いでしょ」

 とアーロンがタイスケに応えるのに、イアンがうんうんと頷く。
 今日の朝食は自分で挟んで食べるサンドイッチの様だ。美味しそうなハムやソーセージ、サラミ、チーズ等をアーロンはどんどん皿にのせて貰う。その後ろでタイスケが、

 「何で寒いのに冷たいもんばっかなんすか」

 と小声でぶつぶつ文句を言っている。

 「そうかな? あったかい食べ物もあるよ?」
 
 アーロンは更に、カリフラワーのローストやローストしたラム肉の薄切りを注文する。

 「いや、それっぽっちじゃ暖まらないっす」

 とタイスケは不満そうだが、アーロンはどんどん食べ物を選んでいく。ハーブペーストはあんまり好きじゃ無いので、やめて雛豆のフムスとスモークサーモンも貰った。葉っぱは嫌いだが、アボカドは別だ。沢山貰う。

 「あ、タイスケ様、キッシュあるよ。焼き立てだよ」
 「ああ、やっとちょっとあったかく」

 喜んだタイスケはブロッコリーとベーコンのキッシュを四切れ頼むのを見て、アーロンは丸ごとホールで貰っても良かったんじゃと思った。

 「茹で卵に、あ、パンケーキもあるよ」
 「おお」

 アーロンとタイスケはベーコンと卵のパンケーキにしたが、イチロウはバナナとキャラメルソースに生クリームをたっぷりのせて貰っている。

 「あ、スープが色々ある」
 「全部お願いするっす」

 タイスケはマッシュルームのポタージュと、大根のポタージュ、オニオンスープ、シチューも頼んだ。お盆にのり切らない分は後で席迄届けてくれるので安心だ。そっとイチロウがアーロンに話し掛けて来た。

 「アーロン様、昨日帰りにライム先輩からお土産にフォアグラを頂いたのですが」
 「え、そうだったの?」

 アーロンが貰ったお土産はライム先輩の領地のクグロフというお菓子だった。一週間は持つので夜お腹が空いたら食べなさい、とライム先輩からのお手紙が食べ残した焼き栗と共に入っていた。フォアグラか良いな、でも僕が貰っても結局火の国の寮に持って行くしかないもんな、と考えていると、

 「アーロン様と食べる様にと、今度いらっしゃった時に食べましょう」

 とイチロウが言った。

 「ほんと? やったあ!」
 「それでなのですが、あの後師匠が自分達の寮に戻られて」
 「え」

 (三の兄上、あの後、イチロウ様達のとこ行ったんだ)

 「お土産を見つけて、フォアグラ丼かフォアグラ大根が食べたいと」
 「ああ」

 如何にもあの兄の言いそうな事だった。

 「その、自分には作り方が分からないので」
 「大丈夫ですよ。僕出来ます」
 「ああ、良かった。何か特別な材料等はありますか?」
 「うーん、お米と大根とお出汁、正油とかかな?」
 「でしたら全て厨房にあります。良かった」
 「うん。楽しみだねー」
 「そうですね」

 と二人は今週末の食事に思いを馳せた。

 
 
 
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