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ライム先輩とのお出掛け
談話室前で
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アーロンは両手で抱える様にしていた荷物を左手一本に持ち変え、右手でおでこを抑えた。
「あれ、あれ、あれ?」
ほっぺたがぽっと熱を持つ。
「でもこれって、母上や二の兄上にも寝る前にして貰ってたのと同じだから……」
そう思ってみても、ほっぺたの熱は引かない。閉まる扉の向こうに見えた、ライム先輩の綺麗な形の唇を思い出してしまう。
「うわ」
恥ずかしくなってもっと大きな声を出してしまいそうになった所で、アーロンはあれ?と気が付いた。
「誰も居ない?」
男爵家の寮は入って直ぐの所が談話室になっているのだが、いつも誰かしら居て消灯時間ぎりぎり迄粘っている。そして寮監のリバー先生に「そろそろ消灯時間だぞ、早く寝ろ」と部屋に追い立てられるのだ。男爵家の生徒達は仲が良い、リバー先生との関係も良好で、そうやってリバー先生に追い立てられるのを楽しんでいる節がある。
談話室の柱時計を見るがまだまだ消灯時間では無い。ライム先輩も余裕で伯爵家の寮に辿り着けるだろう時間。なのに誰も居ない。普段なら今のを見たら、キースかアレックス辺り、居なければ他の生徒にひゅーひゅー冷やかされるのにしーんとしている。
「変なの」
アーロンは首を捻りながらも自室へ向かって歩き出した。すると、「ういー」っと変な声を上げながら、リバー先生の部屋から出て来る人物と行き合った。白いマントの合わせ目から腹の辺りに手を突っ込んでぼりぼりと掻いてるのは、アーロンの三番目の兄、ケビンだった。目が合って、ケビンが驚いた様に足を止める。
「あ、兄上、丁度良い所に」
アーロンは左手に持っていた図鑑を兄に見せる為に、ひょいと投げ上げる様にして図鑑の上にのっていた箱を右手の上に移動させる。中で物がかさかさと動く音がして、しまったと思ったが、やってしまったのでもう遅い。割れたりする物でない事を祈るのみである。
「この図鑑、全種類揃えて領地に送りたいんだけど構わない?」
「えっ! 図鑑? ああ、これ? 構わないけど」
「うん。じゃあ、兄上の名義で手配しとく。お金も兄上に付けていい?」
「おお、それはオッケーだけど」
「ありがと。じゃあお休みなさい」
アーロンは兄に挨拶すると階段を登ろうとした。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ」
「何?」
「いや、何って、そんなクールに。何でアーロンちゃん此処に居るの?」
「先輩に夕飯ご馳走になって、送って貰ったから」
「ああ、そう」
「うん。じゃあ、僕寝るね」
「おお、楽しんだようで何より、ってちげえ!」
とケビンは行こうとするアーロンの袖を引き止めた。
「兄上、夜なのに大声出すなんて迷惑だよ」
とアーロンは眉を顰める。
「ごめんなさい。って、そうじゃなくって」
「?」
アーロンは首を傾げた。
「アーロンちゃん、兄がリバーの部屋から出て来た件について、何か無いの?」
「何も」
「何もって、何でかなーとか気になったりしないの?」
「別に」
「えええー、もっと気にしてよ。兄に興味を持ってよ」
「何で? リバー先生とお話ししてて、帰るとこでしょ?」
「うん、そ、そう。そうなんだ」
ケビンはおかしな顔をしたが、アーロンが真面目な顔で答えると慌てて取り繕う様にアーロンの言葉尻に乗った。
「うん、じゃあ僕は寝るね。今度こそお休みなさい」
「お、おう」
アーロンは階段を上り、踊り場の所で振り返った。
「まあ、お話しだけしてた訳じゃないって分かってるけどさ、寮の皆に変に気を遣わせる事はしないでよね」
「ふえっ! えっ、それはバッチリ。防音の魔道具使ってるからさ」
「ふーん」
怪しむ様な目線を送って、ふんと階段を登って行くアーロンには、ケビンが「アーロンちゃんが、あの、俺がおしめを取り替えたアーロンちゃんの理解が深い。そして怒られた……」と大袈裟に崩れ落ちる様子が見えたがもう相手にはしなかった。
(あー、寮の皆が僕がリバー先生と話してる時、変な顔してたのはこれだったんだなー。てっきり三年生に襲われそうになった件かと思ってたけど、違ったのか。もうもう、三の兄上ったら!)
実はアーロンは結構怒っていた。
火の国の寮で朝、兄が消えているのは誰かの所に行っているのだろうとは思ってはいた。そもそもケビンは隠そうとはしていない、昔からそうだ。アーロンが小さい頃から。
ケビンの相手は領民にもいたようで、それも一人や二人じゃなくて。母と二番目の兄は幼いアーロンの耳には入らない様に注意していたし、父と長兄は我関せずで全くその件には触れなかったが、アーロンには何しろ九人の兄が居る。一番上と二番目が三番目について話さなくても、四番目以降はそうじゃなかった。だからちゃーんと知っているのだ、兄の相手が男性であちこちに相手が居る事を。
(別に相手が、リバー先生でも良いんだけどさ。良いんだけどって言うより、寧ろ兄を引き受けてくれてありがとうすみません!って感謝と申し訳無い気持ちで一杯なんだけどさ。寮の皆に気を遣わせているのが許せないよ! リバー先生は良いんだよ、いつも、毎日寮に詰めていて気の休まる時が無いんだからさ。けど兄上は違うじゃん、自分の部屋もある訳だし、良い大人なんだからさあ子供に気を遣わせるなんてさあ。もう絶対許せん! あ、そうだ。日曜日の夜に、部屋で食べられるお菓子を兄上に用意して貰おう、お詫びの印に。あれで、結構お金は持っているんだから。うん、勿論僕の分も!)
アーロンは兄にたかる気満々だった。
「あれ、あれ、あれ?」
ほっぺたがぽっと熱を持つ。
「でもこれって、母上や二の兄上にも寝る前にして貰ってたのと同じだから……」
そう思ってみても、ほっぺたの熱は引かない。閉まる扉の向こうに見えた、ライム先輩の綺麗な形の唇を思い出してしまう。
「うわ」
恥ずかしくなってもっと大きな声を出してしまいそうになった所で、アーロンはあれ?と気が付いた。
「誰も居ない?」
男爵家の寮は入って直ぐの所が談話室になっているのだが、いつも誰かしら居て消灯時間ぎりぎり迄粘っている。そして寮監のリバー先生に「そろそろ消灯時間だぞ、早く寝ろ」と部屋に追い立てられるのだ。男爵家の生徒達は仲が良い、リバー先生との関係も良好で、そうやってリバー先生に追い立てられるのを楽しんでいる節がある。
談話室の柱時計を見るがまだまだ消灯時間では無い。ライム先輩も余裕で伯爵家の寮に辿り着けるだろう時間。なのに誰も居ない。普段なら今のを見たら、キースかアレックス辺り、居なければ他の生徒にひゅーひゅー冷やかされるのにしーんとしている。
「変なの」
アーロンは首を捻りながらも自室へ向かって歩き出した。すると、「ういー」っと変な声を上げながら、リバー先生の部屋から出て来る人物と行き合った。白いマントの合わせ目から腹の辺りに手を突っ込んでぼりぼりと掻いてるのは、アーロンの三番目の兄、ケビンだった。目が合って、ケビンが驚いた様に足を止める。
「あ、兄上、丁度良い所に」
アーロンは左手に持っていた図鑑を兄に見せる為に、ひょいと投げ上げる様にして図鑑の上にのっていた箱を右手の上に移動させる。中で物がかさかさと動く音がして、しまったと思ったが、やってしまったのでもう遅い。割れたりする物でない事を祈るのみである。
「この図鑑、全種類揃えて領地に送りたいんだけど構わない?」
「えっ! 図鑑? ああ、これ? 構わないけど」
「うん。じゃあ、兄上の名義で手配しとく。お金も兄上に付けていい?」
「おお、それはオッケーだけど」
「ありがと。じゃあお休みなさい」
アーロンは兄に挨拶すると階段を登ろうとした。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ」
「何?」
「いや、何って、そんなクールに。何でアーロンちゃん此処に居るの?」
「先輩に夕飯ご馳走になって、送って貰ったから」
「ああ、そう」
「うん。じゃあ、僕寝るね」
「おお、楽しんだようで何より、ってちげえ!」
とケビンは行こうとするアーロンの袖を引き止めた。
「兄上、夜なのに大声出すなんて迷惑だよ」
とアーロンは眉を顰める。
「ごめんなさい。って、そうじゃなくって」
「?」
アーロンは首を傾げた。
「アーロンちゃん、兄がリバーの部屋から出て来た件について、何か無いの?」
「何も」
「何もって、何でかなーとか気になったりしないの?」
「別に」
「えええー、もっと気にしてよ。兄に興味を持ってよ」
「何で? リバー先生とお話ししてて、帰るとこでしょ?」
「うん、そ、そう。そうなんだ」
ケビンはおかしな顔をしたが、アーロンが真面目な顔で答えると慌てて取り繕う様にアーロンの言葉尻に乗った。
「うん、じゃあ僕は寝るね。今度こそお休みなさい」
「お、おう」
アーロンは階段を上り、踊り場の所で振り返った。
「まあ、お話しだけしてた訳じゃないって分かってるけどさ、寮の皆に変に気を遣わせる事はしないでよね」
「ふえっ! えっ、それはバッチリ。防音の魔道具使ってるからさ」
「ふーん」
怪しむ様な目線を送って、ふんと階段を登って行くアーロンには、ケビンが「アーロンちゃんが、あの、俺がおしめを取り替えたアーロンちゃんの理解が深い。そして怒られた……」と大袈裟に崩れ落ちる様子が見えたがもう相手にはしなかった。
(あー、寮の皆が僕がリバー先生と話してる時、変な顔してたのはこれだったんだなー。てっきり三年生に襲われそうになった件かと思ってたけど、違ったのか。もうもう、三の兄上ったら!)
実はアーロンは結構怒っていた。
火の国の寮で朝、兄が消えているのは誰かの所に行っているのだろうとは思ってはいた。そもそもケビンは隠そうとはしていない、昔からそうだ。アーロンが小さい頃から。
ケビンの相手は領民にもいたようで、それも一人や二人じゃなくて。母と二番目の兄は幼いアーロンの耳には入らない様に注意していたし、父と長兄は我関せずで全くその件には触れなかったが、アーロンには何しろ九人の兄が居る。一番上と二番目が三番目について話さなくても、四番目以降はそうじゃなかった。だからちゃーんと知っているのだ、兄の相手が男性であちこちに相手が居る事を。
(別に相手が、リバー先生でも良いんだけどさ。良いんだけどって言うより、寧ろ兄を引き受けてくれてありがとうすみません!って感謝と申し訳無い気持ちで一杯なんだけどさ。寮の皆に気を遣わせているのが許せないよ! リバー先生は良いんだよ、いつも、毎日寮に詰めていて気の休まる時が無いんだからさ。けど兄上は違うじゃん、自分の部屋もある訳だし、良い大人なんだからさあ子供に気を遣わせるなんてさあ。もう絶対許せん! あ、そうだ。日曜日の夜に、部屋で食べられるお菓子を兄上に用意して貰おう、お詫びの印に。あれで、結構お金は持っているんだから。うん、勿論僕の分も!)
アーロンは兄にたかる気満々だった。
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