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ライム先輩との冬
マヨネーズと子熊
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月曜日のアーロンは食堂へは火の国の寮から向かう。
食堂の入り口で、イアンが待っていた。
「イチロウ様、重箱と風呂敷。ありがとう。美味しかった」
そう、布の名前が風呂敷である事を、金曜日の火の国語入門でケビンから教わったのだ。受講生には一応ちゃんとした火の国の知識も増えているのだ。余計な知識も増えているが。
イアンはそれとは別に紙袋を二つ持っていて、一つをイチロウへ差し出した。
「お礼」
「その様なお気遣いは無用でしたのに」
「開けてみて」
促すイアンに、イチロウは重箱と風呂敷をタイスケに預けると、貰った紙袋を開いた。
「おお」
中には瓶のマヨネーズが二つ入っていた。
「銀鼠は一番売れてるけど安い。こっちはちょっと高いやつ」
「なんと」
「食べ比べ」
イアンの得意顔にイチロウの顔も綻ぶ。
「これは、楽しみです」
「好みの餡子探すの楽しい。マヨネーズも同じ」
イチロウは頷きながら、
「確かにその通りですね」
と同意する。
「イチロウ様の餡子、一番だった」
とイアンが言うのに、後ろから、
「おう。こいつちっとも分けてくれなかったんだぜー」
とルークが割り込んで来た。
「愚兄にだけ、母さんとカリーヌ様には分けた。マヨネーズの事教えてくれた」
カリーヌというのはルークの婚約者で、寮長の姉だ。
「何言ってるんだ? 買いに行くの、俺も付き合ってやったろう?」
とルークがイアンの首に手を回して体重を掛けて来るのに、イアンは嫌そうな顔をする。
「勝手に着いて来た」
「イアン様、ご所望でしたらまた餡子を炊きましょうか?」
とイチロウが尋ねるのにイアンが、
「今週は平気。またお願いする」
と答えると、ルークがまた会話に割り込む。
「おう。こいつ、銀鼠で買ったメロンパンに嵌って、今週はメロンパンが流行りらしい」
「左様ですか」
「愚兄煩い」
イアンは背後の兄を煩わしそうにしているが、アーロンとは違って力は無いので振り払えずにいる。そんな二人のやり取りを見て、タイスケが「どっかの兄弟みたいっす」と呟いたのにイチロウはくすりと笑ったが、アーロンは首を傾げた。
☆
一時間目は魔獣学の講義だ。
いつもの様に魔獣達の世話をしていくが、今週から新しい仲間が加わった。
「ほら、マルタン、甘えていないで食べなさい」
イチロウが世話しているは、火の国から来たツキノワグマの子熊、名前はマルタンだ。今迄は火の国の商会にいて、店先で芸をして客引きをさせていたが、大きくなって来たし冬眠の時期でもあるしと商会がケビンに相談した結果、学院で引き取る事になったそうだ。
イチロウはにこにこと世話をしているが、タイスケは距離を取り嫌そうな顔だ。
「とうとう来やがったな、この天敵め」
「タイスケ様、仲悪いの?」
とアーロンが聞くと、タイスケは大きく頷いた。
「こいつ雌なんすが、若に惚れてるっす」
「え、そうなの?」
「国元に置いて来ようとしたのに、泳いで船に付いて来たから、仕方なく乗せたっす」
「自分を母熊と勘違いしているのでしょう。母熊を亡くして鳴いているのを自分が見つけて育てたものですから」
とイチロウが教えてくれるが、タイスケは首を振った。
「絶対違うっす。その証拠においらが近付くと歯を剥いて威嚇するっす」
タイスケが恐る恐る近寄って行くと、ころころとした丸っこい身体でイチロウに愛嬌を振り撒いていたマルタンが、歯を剥いて唸った。
「ほら」
「単にタイスケ様が嫌われてるだけじゃないの?」
「いえいえ、若以外には全員にこうっす。こんなんでよく花街にいれたっす」
「それは、ヘイゾウさんがいましたからね」
「ヘイゾウってのは、猛獣使いっす。ヘイゾウに掛かっちゃ、どんな生き物も借りて来た猫みたいになるっす。こっちの国の生き物が見てみたいって一緒に来てたんで助かったっす」
「へえ。じゃあ、僕達も駄目かな?」
とアーロンがイアンを見上げる。イアンは小さく首を振りながら後ろに少しずつ下がって行く。冒険する気はないようだ。
「ええ? じゃあ、僕だけ」
アーロンがゆっくり近付いて行くと、マルタンは歯を剥かなかった。それどころか撫でさせてくれた。
「わあ、可愛い」
と喜ぶアーロンに、タイスケがぼそりと呟く。
「そういえば、こいつ面食いだったっす」
「仕方無い」
とイアンが、タイスケの肩をぽんぽんと叩く。タイスケは忌々しげにマルタンを見ながら、
「出来ればこの国で婿を見付けて欲しいっす。帰りも一緒なのは御免被りたいっす」
と言った。
「ねえ、でもどうしてこの子マルタンっていうの? 女の子だよね?」
アーロンの問いにイチロウが首を傾げるのに、イアンが、
「マルタン、この国では男の名前」
と教えると、「ああ」と頷いて、
「最初はマルという名だったのです。丸々としていたので。『マル』とは火の国では丸いという意味です」
と言うのに、タイスケが、
「後で雌って分かって、女の名前にしようと、若がマルコとか、マルミとか呼んでみたんすけど、生意気にもこいつ気に入らなかったみたいで。ところが、師匠がマルタンって呼んだらお気に召したらしいっす。何でも、師匠が仰るには、『タン』ってのは可愛い者を呼ぶ時に使うらしくって」
と続けると、アーロンは、
「あー、僕、兄上に時々アーロンタンって呼ばれる」
と苦笑したが、残り三人は成る程と頷いた。
食堂の入り口で、イアンが待っていた。
「イチロウ様、重箱と風呂敷。ありがとう。美味しかった」
そう、布の名前が風呂敷である事を、金曜日の火の国語入門でケビンから教わったのだ。受講生には一応ちゃんとした火の国の知識も増えているのだ。余計な知識も増えているが。
イアンはそれとは別に紙袋を二つ持っていて、一つをイチロウへ差し出した。
「お礼」
「その様なお気遣いは無用でしたのに」
「開けてみて」
促すイアンに、イチロウは重箱と風呂敷をタイスケに預けると、貰った紙袋を開いた。
「おお」
中には瓶のマヨネーズが二つ入っていた。
「銀鼠は一番売れてるけど安い。こっちはちょっと高いやつ」
「なんと」
「食べ比べ」
イアンの得意顔にイチロウの顔も綻ぶ。
「これは、楽しみです」
「好みの餡子探すの楽しい。マヨネーズも同じ」
イチロウは頷きながら、
「確かにその通りですね」
と同意する。
「イチロウ様の餡子、一番だった」
とイアンが言うのに、後ろから、
「おう。こいつちっとも分けてくれなかったんだぜー」
とルークが割り込んで来た。
「愚兄にだけ、母さんとカリーヌ様には分けた。マヨネーズの事教えてくれた」
カリーヌというのはルークの婚約者で、寮長の姉だ。
「何言ってるんだ? 買いに行くの、俺も付き合ってやったろう?」
とルークがイアンの首に手を回して体重を掛けて来るのに、イアンは嫌そうな顔をする。
「勝手に着いて来た」
「イアン様、ご所望でしたらまた餡子を炊きましょうか?」
とイチロウが尋ねるのにイアンが、
「今週は平気。またお願いする」
と答えると、ルークがまた会話に割り込む。
「おう。こいつ、銀鼠で買ったメロンパンに嵌って、今週はメロンパンが流行りらしい」
「左様ですか」
「愚兄煩い」
イアンは背後の兄を煩わしそうにしているが、アーロンとは違って力は無いので振り払えずにいる。そんな二人のやり取りを見て、タイスケが「どっかの兄弟みたいっす」と呟いたのにイチロウはくすりと笑ったが、アーロンは首を傾げた。
☆
一時間目は魔獣学の講義だ。
いつもの様に魔獣達の世話をしていくが、今週から新しい仲間が加わった。
「ほら、マルタン、甘えていないで食べなさい」
イチロウが世話しているは、火の国から来たツキノワグマの子熊、名前はマルタンだ。今迄は火の国の商会にいて、店先で芸をして客引きをさせていたが、大きくなって来たし冬眠の時期でもあるしと商会がケビンに相談した結果、学院で引き取る事になったそうだ。
イチロウはにこにこと世話をしているが、タイスケは距離を取り嫌そうな顔だ。
「とうとう来やがったな、この天敵め」
「タイスケ様、仲悪いの?」
とアーロンが聞くと、タイスケは大きく頷いた。
「こいつ雌なんすが、若に惚れてるっす」
「え、そうなの?」
「国元に置いて来ようとしたのに、泳いで船に付いて来たから、仕方なく乗せたっす」
「自分を母熊と勘違いしているのでしょう。母熊を亡くして鳴いているのを自分が見つけて育てたものですから」
とイチロウが教えてくれるが、タイスケは首を振った。
「絶対違うっす。その証拠においらが近付くと歯を剥いて威嚇するっす」
タイスケが恐る恐る近寄って行くと、ころころとした丸っこい身体でイチロウに愛嬌を振り撒いていたマルタンが、歯を剥いて唸った。
「ほら」
「単にタイスケ様が嫌われてるだけじゃないの?」
「いえいえ、若以外には全員にこうっす。こんなんでよく花街にいれたっす」
「それは、ヘイゾウさんがいましたからね」
「ヘイゾウってのは、猛獣使いっす。ヘイゾウに掛かっちゃ、どんな生き物も借りて来た猫みたいになるっす。こっちの国の生き物が見てみたいって一緒に来てたんで助かったっす」
「へえ。じゃあ、僕達も駄目かな?」
とアーロンがイアンを見上げる。イアンは小さく首を振りながら後ろに少しずつ下がって行く。冒険する気はないようだ。
「ええ? じゃあ、僕だけ」
アーロンがゆっくり近付いて行くと、マルタンは歯を剥かなかった。それどころか撫でさせてくれた。
「わあ、可愛い」
と喜ぶアーロンに、タイスケがぼそりと呟く。
「そういえば、こいつ面食いだったっす」
「仕方無い」
とイアンが、タイスケの肩をぽんぽんと叩く。タイスケは忌々しげにマルタンを見ながら、
「出来ればこの国で婿を見付けて欲しいっす。帰りも一緒なのは御免被りたいっす」
と言った。
「ねえ、でもどうしてこの子マルタンっていうの? 女の子だよね?」
アーロンの問いにイチロウが首を傾げるのに、イアンが、
「マルタン、この国では男の名前」
と教えると、「ああ」と頷いて、
「最初はマルという名だったのです。丸々としていたので。『マル』とは火の国では丸いという意味です」
と言うのに、タイスケが、
「後で雌って分かって、女の名前にしようと、若がマルコとか、マルミとか呼んでみたんすけど、生意気にもこいつ気に入らなかったみたいで。ところが、師匠がマルタンって呼んだらお気に召したらしいっす。何でも、師匠が仰るには、『タン』ってのは可愛い者を呼ぶ時に使うらしくって」
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