抱かれてみたい

小桃沢ももみ

文字の大きさ
93 / 142
ライム先輩との冬

ライム先輩のお迎え

しおりを挟む
 「先輩」

 アーロンが駆け寄ると、ライム先輩のひんやりした手が頬に触れた。

 「先輩の手、冷たくて気持ちいいです」

 頭をぼんやりさせていた嫌な熱を全部吸い取ってくれているようで清々しい。この気持ち良い手に、もっと全身で包まれてしまいたい様な気分になる。アーロンはうっとりと目を瞑った。

 「具合は大丈夫なのかい?」
 「はい。大丈夫です。先輩わざわざ来てくださったんですか?」

 アーロンは目を瞑ったまま答える。

 「うん。君の友達がお迎えを代わってくれてね」

 はっとしてアーロンは目を開いた。長い睫毛が揺れる。そうだ此処は教室だった。自分達以外にも生徒は居て、本来なら向かいの建物で講義を受けているイアンと待ち合わせて男爵家の寮へ戻る筈だった。さっとライム先輩から身を引いて、教室をきょろきょろと見回すと自分達以外誰も居なかった。

 「もう皆出て行ったよ」

 と目の前でライム先輩がくすくすと笑っている。
 ああ、たった半日でもどうして自分はこんな美しい人の事を忘れていられたのだろうとアーロンは不思議に思う。光り輝く様な人だ。綺麗な金髪、澄んだ碧い瞳、高く通った鼻筋、形の整った唇はどこか蠱惑的だ。そして端正な容貌に相応しい高い身長に、程よく鍛えられた身体。落ち着いた柔らかな声には耳に心地良い。アーロンの年頃の少年なら誰しもが憧れるようなこうなりたいという理想像。この人の事をすっかり忘れていたなんて。

 「寮迄送ろう。行こうか?」
 「はい」

 並んで歩き出す。廊下にはもう誰も居なかった。

 「本当は寮の部屋に見舞いに行きたかったのだが」
 「お気遣いありがとうございます。でもたった半日の事ですから」
 「そうは言ってもね。堂々と見舞いに行けない身であるのが恨めしいよ」
 「……それは申し訳ありません」
 「いや、君を責めている訳では無い。私の言い方が良く無かったね。誰かを責めるとしたら、それは私自身をだから」
 
 そう言うとライム先輩は立ち止まった。アーロンもそれに合わせて歩くのを止めると、ライム先輩がアーロンの両手を掬い上げる様に優しく握り締めた。

 「私が急ぎ過ぎたせいで君を悩ませてしまった。君の友達はスミスもホプキンスも実家は王都にあって気軽に親に甘えられる。火の国の二人は遠い異国へ来てはいるが、何時も二人一緒だし、一軒家を寮として宛てがわれているから慣れない寮生活や人付き合いに関する苦労は君より少ないだろう。だが君は一人だ。おまけにその容姿から周りに注目された所為で神経も尖らせなければならない。そんな君を私は守るつもりで追い込んでしまった」
 「そんなっ! 違います!」

 アーロンとしては、ちょっと考え過ぎて知恵熱が出た、程度に思っていたのだ。それにアーロンの家は兄弟が多い。寮生活で人が多い事に何の不満も抱いていない、鍵の掛かる自室が貰えて嬉しかったくらいなのだ。教師として三番目の兄であるケビンも居る。だからそれ程寮生活は苦では無かったのだ。
 なのにライム先輩の表情は後悔に沈み暗く翳っている。この美しい人にこの様な顔をさせてはいけない、とアーロンは思った。思わず手を振り解き、ひんやりとしたライム先輩の手を逆に自分の小さな手で包み込む。
 
 「先輩、僕は元気です。ちょっと疲れが溜まっただけです。気にしないで下さい」
 「そうかい? 本当に大丈夫なのかい? 顔色は悪く無い様だが、医者には見せていないと聞いているので心配だ。良ければ私が手配しようか?」
 「本当に大丈夫です」
 「そうかい? 君がそう言うなら私は引き下がるが」

 尚も心配するこの美しい人をどうしたら安心させられるだろうかとアーロンは見上げた。言葉では無理だ。もっと直接触れ合えて、しっかりと納得して貰える方法は無いか。

 「先輩、許して下さい」
 「えっ」

 アーロンは握っていたライム先輩の手を離すと、ぎゅっと抱き付いた。

 「僕の方が爵位が低いのに失礼かもしれないけど」
 「いや、いや、構わない」
 「僕の体温、伝わりますか? 熱くはないでしょう? 熱はもう下がったんです。大丈夫ですよ」
 「ああ、ああ」
 
 アーロンは抱き付いたままライム先輩を見上げた。ライム先輩はのっぽのイアンよりも更に背が高いので、アーロンの頭は先輩の胸辺りになる。

 「ねっ?」

 見つめ合うと、不安そうだった先輩の瞳が段々と明るくなってゆく。

 「うん。そうだな」

 ゆっくりライム先輩の顔が下りてきたのにどきどきしたアーロンは、ぱっとその胸に顔を押し付けた。くすくす笑いが頭の上から聞こえて、アーロンの銀の旋毛に優しくライム先輩の唇が押し付けられた。
 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

処理中です...