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ライム先輩との冬
ライム先輩のお迎え
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「先輩」
アーロンが駆け寄ると、ライム先輩のひんやりした手が頬に触れた。
「先輩の手、冷たくて気持ちいいです」
頭をぼんやりさせていた嫌な熱を全部吸い取ってくれているようで清々しい。この気持ち良い手に、もっと全身で包まれてしまいたい様な気分になる。アーロンはうっとりと目を瞑った。
「具合は大丈夫なのかい?」
「はい。大丈夫です。先輩わざわざ来てくださったんですか?」
アーロンは目を瞑ったまま答える。
「うん。君の友達がお迎えを代わってくれてね」
はっとしてアーロンは目を開いた。長い睫毛が揺れる。そうだ此処は教室だった。自分達以外にも生徒は居て、本来なら向かいの建物で講義を受けているイアンと待ち合わせて男爵家の寮へ戻る筈だった。さっとライム先輩から身を引いて、教室をきょろきょろと見回すと自分達以外誰も居なかった。
「もう皆出て行ったよ」
と目の前でライム先輩がくすくすと笑っている。
ああ、たった半日でもどうして自分はこんな美しい人の事を忘れていられたのだろうとアーロンは不思議に思う。光り輝く様な人だ。綺麗な金髪、澄んだ碧い瞳、高く通った鼻筋、形の整った唇はどこか蠱惑的だ。そして端正な容貌に相応しい高い身長に、程よく鍛えられた身体。落ち着いた柔らかな声には耳に心地良い。アーロンの年頃の少年なら誰しもが憧れるようなこうなりたいという理想像。この人の事をすっかり忘れていたなんて。
「寮迄送ろう。行こうか?」
「はい」
並んで歩き出す。廊下にはもう誰も居なかった。
「本当は寮の部屋に見舞いに行きたかったのだが」
「お気遣いありがとうございます。でもたった半日の事ですから」
「そうは言ってもね。堂々と見舞いに行けない身であるのが恨めしいよ」
「……それは申し訳ありません」
「いや、君を責めている訳では無い。私の言い方が良く無かったね。誰かを責めるとしたら、それは私自身をだから」
そう言うとライム先輩は立ち止まった。アーロンもそれに合わせて歩くのを止めると、ライム先輩がアーロンの両手を掬い上げる様に優しく握り締めた。
「私が急ぎ過ぎたせいで君を悩ませてしまった。君の友達はスミスもホプキンスも実家は王都にあって気軽に親に甘えられる。火の国の二人は遠い異国へ来てはいるが、何時も二人一緒だし、一軒家を寮として宛てがわれているから慣れない寮生活や人付き合いに関する苦労は君より少ないだろう。だが君は一人だ。おまけにその容姿から周りに注目された所為で神経も尖らせなければならない。そんな君を私は守るつもりで追い込んでしまった」
「そんなっ! 違います!」
アーロンとしては、ちょっと考え過ぎて知恵熱が出た、程度に思っていたのだ。それにアーロンの家は兄弟が多い。寮生活で人が多い事に何の不満も抱いていない、鍵の掛かる自室が貰えて嬉しかったくらいなのだ。教師として三番目の兄であるケビンも居る。だからそれ程寮生活は苦では無かったのだ。
なのにライム先輩の表情は後悔に沈み暗く翳っている。この美しい人にこの様な顔をさせてはいけない、とアーロンは思った。思わず手を振り解き、ひんやりとしたライム先輩の手を逆に自分の小さな手で包み込む。
「先輩、僕は元気です。ちょっと疲れが溜まっただけです。気にしないで下さい」
「そうかい? 本当に大丈夫なのかい? 顔色は悪く無い様だが、医者には見せていないと聞いているので心配だ。良ければ私が手配しようか?」
「本当に大丈夫です」
「そうかい? 君がそう言うなら私は引き下がるが」
尚も心配するこの美しい人をどうしたら安心させられるだろうかとアーロンは見上げた。言葉では無理だ。もっと直接触れ合えて、しっかりと納得して貰える方法は無いか。
「先輩、許して下さい」
「えっ」
アーロンは握っていたライム先輩の手を離すと、ぎゅっと抱き付いた。
「僕の方が爵位が低いのに失礼かもしれないけど」
「いや、いや、構わない」
「僕の体温、伝わりますか? 熱くはないでしょう? 熱はもう下がったんです。大丈夫ですよ」
「ああ、ああ」
アーロンは抱き付いたままライム先輩を見上げた。ライム先輩はのっぽのイアンよりも更に背が高いので、アーロンの頭は先輩の胸辺りになる。
「ねっ?」
見つめ合うと、不安そうだった先輩の瞳が段々と明るくなってゆく。
「うん。そうだな」
ゆっくりライム先輩の顔が下りてきたのにどきどきしたアーロンは、ぱっとその胸に顔を押し付けた。くすくす笑いが頭の上から聞こえて、アーロンの銀の旋毛に優しくライム先輩の唇が押し付けられた。
アーロンが駆け寄ると、ライム先輩のひんやりした手が頬に触れた。
「先輩の手、冷たくて気持ちいいです」
頭をぼんやりさせていた嫌な熱を全部吸い取ってくれているようで清々しい。この気持ち良い手に、もっと全身で包まれてしまいたい様な気分になる。アーロンはうっとりと目を瞑った。
「具合は大丈夫なのかい?」
「はい。大丈夫です。先輩わざわざ来てくださったんですか?」
アーロンは目を瞑ったまま答える。
「うん。君の友達がお迎えを代わってくれてね」
はっとしてアーロンは目を開いた。長い睫毛が揺れる。そうだ此処は教室だった。自分達以外にも生徒は居て、本来なら向かいの建物で講義を受けているイアンと待ち合わせて男爵家の寮へ戻る筈だった。さっとライム先輩から身を引いて、教室をきょろきょろと見回すと自分達以外誰も居なかった。
「もう皆出て行ったよ」
と目の前でライム先輩がくすくすと笑っている。
ああ、たった半日でもどうして自分はこんな美しい人の事を忘れていられたのだろうとアーロンは不思議に思う。光り輝く様な人だ。綺麗な金髪、澄んだ碧い瞳、高く通った鼻筋、形の整った唇はどこか蠱惑的だ。そして端正な容貌に相応しい高い身長に、程よく鍛えられた身体。落ち着いた柔らかな声には耳に心地良い。アーロンの年頃の少年なら誰しもが憧れるようなこうなりたいという理想像。この人の事をすっかり忘れていたなんて。
「寮迄送ろう。行こうか?」
「はい」
並んで歩き出す。廊下にはもう誰も居なかった。
「本当は寮の部屋に見舞いに行きたかったのだが」
「お気遣いありがとうございます。でもたった半日の事ですから」
「そうは言ってもね。堂々と見舞いに行けない身であるのが恨めしいよ」
「……それは申し訳ありません」
「いや、君を責めている訳では無い。私の言い方が良く無かったね。誰かを責めるとしたら、それは私自身をだから」
そう言うとライム先輩は立ち止まった。アーロンもそれに合わせて歩くのを止めると、ライム先輩がアーロンの両手を掬い上げる様に優しく握り締めた。
「私が急ぎ過ぎたせいで君を悩ませてしまった。君の友達はスミスもホプキンスも実家は王都にあって気軽に親に甘えられる。火の国の二人は遠い異国へ来てはいるが、何時も二人一緒だし、一軒家を寮として宛てがわれているから慣れない寮生活や人付き合いに関する苦労は君より少ないだろう。だが君は一人だ。おまけにその容姿から周りに注目された所為で神経も尖らせなければならない。そんな君を私は守るつもりで追い込んでしまった」
「そんなっ! 違います!」
アーロンとしては、ちょっと考え過ぎて知恵熱が出た、程度に思っていたのだ。それにアーロンの家は兄弟が多い。寮生活で人が多い事に何の不満も抱いていない、鍵の掛かる自室が貰えて嬉しかったくらいなのだ。教師として三番目の兄であるケビンも居る。だからそれ程寮生活は苦では無かったのだ。
なのにライム先輩の表情は後悔に沈み暗く翳っている。この美しい人にこの様な顔をさせてはいけない、とアーロンは思った。思わず手を振り解き、ひんやりとしたライム先輩の手を逆に自分の小さな手で包み込む。
「先輩、僕は元気です。ちょっと疲れが溜まっただけです。気にしないで下さい」
「そうかい? 本当に大丈夫なのかい? 顔色は悪く無い様だが、医者には見せていないと聞いているので心配だ。良ければ私が手配しようか?」
「本当に大丈夫です」
「そうかい? 君がそう言うなら私は引き下がるが」
尚も心配するこの美しい人をどうしたら安心させられるだろうかとアーロンは見上げた。言葉では無理だ。もっと直接触れ合えて、しっかりと納得して貰える方法は無いか。
「先輩、許して下さい」
「えっ」
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「僕の方が爵位が低いのに失礼かもしれないけど」
「いや、いや、構わない」
「僕の体温、伝わりますか? 熱くはないでしょう? 熱はもう下がったんです。大丈夫ですよ」
「ああ、ああ」
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「ねっ?」
見つめ合うと、不安そうだった先輩の瞳が段々と明るくなってゆく。
「うん。そうだな」
ゆっくりライム先輩の顔が下りてきたのにどきどきしたアーロンは、ぱっとその胸に顔を押し付けた。くすくす笑いが頭の上から聞こえて、アーロンの銀の旋毛に優しくライム先輩の唇が押し付けられた。
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