抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

マクマの怒りとリバーの話

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 立って教師二人の後ろ姿を見送ったアーロンは、「ふう」と息を吐き出すと、ソファーに腰掛けようとした。その途端お尻の下で、何かをぐにゅっと潰したのに驚き、「うわっ!」と奇声を上げて立ち上がる羽目になった。何だろうと下を覗くと、その原因となったマクマが這いずり出してきて、ぴょんと机の上に飛び乗ると、そこから跳ね飛んでアーロンをぺしぺしとその短い腕で叩き始めた。

 「うぉっ! 何だお前、止めろよ。痛い、痛く無いけど痛いから」

 元が布で出来た熊さんなのでどれだけマクマが叩いてきても痛くは無い筈なのだが、マクマは縦横無尽に跳ね回りあっちこっちからその短い腕でアーロンを叩いてくる。しかも物凄い速さなので、それをやられると痛くは無いのについ痛いと言ってしまうのだ。普段はそんな目に合うのはケビンの役目なのだが、何故だかアーロンのお尻の下に居たらしいマクマのせいで今日はアーロンがマクマの攻撃を受ける羽目になった。

 「止めろ、止めてくれよ。お前が悪いんだろ、僕のお尻の下に居たんだから。お前が避ければいいじゃないか」

 その言葉に余計怒ったらしいマクマの攻撃が早くなる。正直、思いっきりアーロンが振り払ったらマクマは何処かへ飛んで行ってその攻撃も止むだろう。けれどそれをしたら、飛ばされてぶつかったマクマが二度と動かなくなるかもしれない。小さい時はアーロンも本気でやり返していたけれど、大きくなった今はそれが分かっているからやり返せない。それを知ってか知らずか、マクマの攻撃は止まらない。アーロンは頭を抱えて小さくなるだけだ。

 「おお、お前等何戯れあってるんだ? おかわり持って来たぞ、アーロンは座れ。マクマはこっちに来い」

 呆れた様なリバーの声にマクマの攻撃がぴたっと止んだ。アーロンが恐る恐る顔を上げると、飲み物の杯とクッキーが乗った盆を持ったリバーが居て、その肩の上でふんぞり返っているマクマが見えた。

 「えー」
 
 アーロンは理不尽さに口を尖らせたくなる。ケビンの気持ちがやっと分かった。やっぱりこいつは碌でも無い熊だ。

 「ジンジャークッキーを焼いたんだ。人形でなく、マクマの形にしてみた。どうだ、可愛いだろう?」

 自慢げにリバーに勧められて、アーロンは良い仕返しを思いついた。熊のぬいぐるみの形をしたクッキーを、一枚取ってマクマに見える様に目の前に上げて、「本当にそっくりですね!」とリバーを褒めてから、ぱくりと頭から噛み付いた。あっという様にマクマが自分の頭を抱えるのが目の隅に見えた。

 (うふふ。いい気味)

 マクマはアーロンの意図が分かったらしく、怒った様に片手を上げたが、リバーも一枚取って迷い無く頭から齧り付いたので渋々その手を下ろした。

 「それで、残って貰った理由だけどな、アーロンは友達に何て言うつもりだ? その擦り合わせをしておきたい」
 「友達にですか?」

 今日アーロンがリバーと副担任と話をしているのはいつもの仲間は知っている。多分夕食時に会ったらタイスケ当たりがどうだったか聞いて来るだろう。

 「上級生達は退学になったのでもう心配は無いけど、図書館の件は結局誰がやったか分からないままだった。今回の件は一応解決したけど、これからも気を付けた方が良いと副担任の先生に言われた、と話そうかと」
 「うーん。それじゃあ及第点はやれないな」

 話の内容を理解しているのか、リバーの肩でマクマがうんうんと頷く。

 (むかつく)

 「ジェフ兄上の事、僕は口止めされませんでしたが言わない方がいいですよね?」
 「おお。それは分かってるんだな」
 「はい。だからこそ暈して説明したつもりなのですが」
 「うん。だが、それで満足する奴等か?」
 「え、それはどうだろう?」

 そう言われると、タイスケと寮長はぐいぐい聞いて来そうな気がする。「何で退学に出来のか?」とか「どうしてこれからも気を付けるのか?」とか。

 「うーん、それはちょっと言えないと言ってはぐらかそうと思います」
 「だったら、最初から口止めされたので詳細は言えないと言った方がいい。そしたら聞かれずに済む」
 「え、でも僕口止めされてません」
 「主語抜きで話せばいい。(加害者家族が)口止めされたので、(加害者家族は)詳細は話せない。括弧内は言わないだけだ、嘘は付いてない。罪悪感はねえだろ?」
 「はあ……」

 アーロンは腑に落ちないが、リバーは呆れた顔だ。

 「おいおい。ちょっと逆の立場で考えてみろよ。お前がイアンを心配して色々尋ねた後に詳細は言えないごめんねって言われるのと、先に口止めされたから細かい事は言えないんだけどって前置きされるのとどっちが感じいい?」
 「それは前置きされる方がいいですね。色々尋ねた後にそう言われると、イアン様に嫌な思いさせちゃったなと思いますね」
 「そうだろ?」
 「成る程分かりました。先生の仰る通りにします」
 「おお。それから、ライムの息子には何て言うんだ?」
 「え、ライム先輩ですか? 先輩には別に言わなくても? 聞かれたら、今先生に教えて貰った様に話します」
 「あー、不正解」

 更に呆れた様なリバーの肩で、マクマも両腕を軽く上げてやれやれという様に首を振っている。

 「えー」
 「聞かれなくても自分から言え。それが可愛げってもんだ。頼っている所を見せろ。まあ、まだ契約を交わしてないんなら口止めされたが無難だな。下手に理由を教えられても、ライム伯爵家も対応に困るだろう。今ならまだ知らない振りが通用する」
 「はあ」
 「そんな頼りない返事するな。俺も、何でお前にこんな話してるんだ?って自分が情けなくなるだろ」
 「申し訳ありません」
 「全く。お前の家庭教師がジェフだったと聞いたから、怪しいとは思ってたんだ。時間を取って正解だったな。ジェフは頭は良いが、そういうのは全然だったからなあ。よっぽど頼りない生徒にしか俺はここ迄話さんぞ。ケビンは人あしらいは上手えが、あいつからは教わってねえだろ?」
 「ケビン兄上が教えてくれたのは、なんかちょっと違う方向性で」

 えっちな話とか他国の文化とか、自分が面白いと思った話したい事を、話したい時に話すだけだった気がする。

 「あいつは考えたりしなくても自然と出来るから、わざわざそれを弟に教える必要があるなんて思いもしねえんだろうなあ。分からないのはそういう性格だとでも思ってるんだろ。そういうとこ、キースと似てるんだよなあ。あいつが寮長としていまいちなのはそのせいだ。自分に出来る事がどうして他人が出来ないか理解出来ない。もうちょっと他人の事を考えられる様になったら歴代最高の寮長になれると思うんだが、なかなか」

 (え、それはどうだろう……)

 アーロンはリバーのキース評にかなり疑問を抱いたが、その件に関してリバーはアーロンに同意を求める事も無く、自分の中で消化した様で話を続けた。

 「と、俺の愚痴は置いといてだな、いいか、アーロンこういうのは皆家で教わって来るんだ」
 「そうなんですか?」
 「ああ。お前の友達の火の国の二人も、イアンも、フランクも、お前の事を心配はしているだろう。けれども奴等は背後に自分の国や家を背負ってるんだってきっちり理解してるぞ。お前の事を心配しつつ、お前からどんな利益が得られるのか常に計算してる筈だ。それが自分の国や家の為になるか。ライムの息子だってそうだ。この学院の生徒は常に計算しながら友達付き合いをしてる。何も考えず、そんなふわふわしてるのはお前ん家位なもんだ」
 「そう、でしょうか?」
 「ああ」

 自信満々にリバーに頷かれて、アーロンは思わず零してしまった。

 「でもそれって、寂しいですね」

 
 
 
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