抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との初めて

昼食2

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 スープとサラダの後にマーリーが台車にのせて運んで来たのは、お皿が三段のケーキスタンドが二人分。

 「わあ」

 どの皿にもたっぷりと食べ物がのっているのに、思わずアーロンは歓声を上げてしまった。

 「アフタヌーンティーと言ってね、貴族女性の中で最近人気らしい。今日は二人っきりだし、ゆっくりと会話を楽しみながら昼食をとりたいと思ったのだよ。君は沢山食べるし、甘い物も好きだろう? きっと喜ぶんじゃないかと考えたのでね」
 「凄いです。こんなの初めて見ました! ありがとうございます!」
 「うん。思った通りだ。良かった。私は甘い物は沢山は食べられないので、君が食べてくれると嬉しい」
 「はい!」

 元気にお返事してから、アーロンは「あっ」と心の中で思った、今日はあんまり食べない様にするつもりだったのにと。しかし、ライム先輩はにこにこしてアーロンの返事に頷いてくれたので、今更「やっぱり控えめに」とはとても言い出せない。しかも理由が理由だ。

 「下の段から順に食べていくと味の配分が丁度良いそうだ。この段はサンドイッチか。ナイフとフォークもあるが、二人だけだから手で食べて構わないよ。どれ、私が取ってあげよう、何から食べるかい?」
 「いえ、自分で」
 「卵のサンドイッチが三種類もあるね、一番最初はどれからいくかい?」
 「えっと、では普通の卵サンドから」
 「普通の、これかい?」
 「いいえ、それで無くて手前の」
 「ああこれだね」

 ライム先輩が取ってくれた卵サンドを目の前に、アーロンは少し躊躇った。

 (構わないよって事は、ライム先輩はナイフとフォークで食べるけど僕は手でいいよって意味だよね? 食堂では気にしてなかったけど、こういう時どっちが正解なの? なんか二人っきりの方が返って考えちゃうんですけど?)

 「遠慮せず食べなさい」
 「あ、はい」

 それでもアーロンがもじもじしていると、察してくれたのか、ライム先輩も同じ卵サンドを皿に取ると、手に持って食べ始めた。
 
 「うん。茹で卵かな?」

 ライム先輩が食べたのを見て、慌ててアーロンも手を伸ばした。

 「茹で卵を細かく刻んでマヨネーズで和えているんです。これ、家で食べるのと味が似ています。なんだかほっとする味」
 「確かに優しい味わいだね。私もこれは気に入った。うん、次はどちらにするかい?」
 「えっと、じゃあ厚焼き卵のサンドイッチで」
 「厚焼き卵? オムレツではなく?」
 「多分? 断面が均等なのでオムレツではないと思います」

 とライム先輩に取って貰ったのにアーロンは元気に口を開けてぱくりと齧り付いた。サンドイッチにしては分量がある。

 「うわ、これだし巻き卵です。不思議だけど、合う」
 「だし巻き?」

 不思議そうな顔のライム先輩だったが、アーロンがにこにこと見守っているので、手で持ってぱくりと、だがアーロンとは違って上品に口を付けた。そして小さく目を見開く。

 「初めて食べる味だが、美味だな」
 「ですよね。だし巻き卵って、火の国のお料理です」
 「ほう、火の国では卵はこの様にして食べるのか」
 「あ、いえ、パンに挟まってるのは初めて見ました。火の国の主食は米なので、普通はお米と一緒に食べます」
 「そうなのかい? 食堂に米はあるが、このだし巻き卵というのは初めて見たな」
 「そうですよねー。食堂でも出してくれたらいいのに」
 「ふふふ。そうだね」

 普段と違う昼食の献立に会話が弾み、アーロンは楽しくなって来た。緊張も解け、会話も弾む。

 「最後はこれかな」
 「そうですね。初めて見ます、茹で卵が丸ごと入ってる」

 最後に残ったのは、茹で卵が丸ごと挟まっているサンドイッチだった。サンドイッチというにしてはパンが具をぴったり挟んでいない。前出の二つはパンで挟んだ断面を綺麗に見せる様に切って縦に置かれていたが、これは切らずに横に寝かされたままの状態。パンの上に青菜が申し訳程度に敷いてあって、その上に茹で卵が丸ごとごろんとのっていて、更にその上にアンチョビが一切れ。最後にまたパンが被せられているのだが、丸ごと茹で卵のせいで不安定だ。下手に触ったら上のパンが落ちて卵も転がりそうだ。
 見た目は美しくない。茹で卵に魚がでろんとのっけられているので、もう少しアンチョビの置き方を工夫してくれたらと思える。ただ乱暴にのせられただけの状態で、アンチョビも少し尻尾が干からびていて何だか生臭そうだ。

 「これはこのまま食べるのだろうか?」

 ライム先輩も不思議そうだ。

 「多分? ハンバーガーを食べる時の要領で両手て持って一気にぱくんといくんじゃないでしょうか?」
 「ふむ」

 もしかして、先輩はハンバーガーなんて庶民的な物は食べた事はないのでは無いのかもと考えたアーロンは、

 「気になるならナイフとフォークを使われた方が」
 
 と言ってみた。

 「うん。そうだろうが、この組み合わせは果たして合うのか気になってね」

 ライム先輩が言うのにアーロンも同感だ。アンチョビと卵が合うのは分かっているし、食堂の料理は何でも美味しいのだが何だか不安になる外見だ。ライム先輩は慎重に皿に取ってくれたが、手を出しにくそうにしていたので、アーロンは先に食べて見せる事にした。
 両手で持つと、意外にも安定感がある。思ったより、パンも中の具も一体化していて茹で卵が零れ落ちる事はなかった。

 「あれ? これ、凄く美味しいです!」
 「そうかい?」
 「はい。アンチョビに掛かっているオリーブ油が凄く美味しいやつで、卵は半熟気味だし、何よりこの一番下に少しだけある青菜が良い食感を出しています。ちょっとしゃくしゃくした歯触りで、これ何の葉っぱだろう? 後、青菜に掛かっているドレッシングの塩っけもいい。吃驚です」

 アーロンが自分が齧り付いた部分を不思議そうに確認しながら感想を述べると、ライム先輩も恐る恐る口を付けた。

 「本当だ。これは良いアンチョビだ。いやあ、これは意外だ。見た目と違って繊細な組み合わせだね、よく考えられている、少し失礼な印象を持ったのが申し訳ない」
 「僕もです。ただ乱暴にのっけただけだと思っちゃいました」

 二人で向かい合って笑う。いつもより時間を掛けて食べる昼食はとても楽しかった。そしてライム先輩に勧められるまま、結局殆どをアーロンが平らげる事になった。
 
 
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