抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との初めて

夕食

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 昼食後アーロンが手洗いを借りたいと申し出ると、マーリーが簡易厨房へ続く扉を開けて案内してくれようとしたが、ライム先輩が止めた。

 「いいや、そちらからではなく。私が案内しよう」
 
 直ぐにマーリーは下がり、アーロンはライム先輩に玄関から寝室へと誘われた。寝室とライム先輩は呼んでいたが、こっちの部屋だけで十分じゃ?あっちの部屋いらないのでは?と思ってしまう位に広い。
 こちらの部屋にも暖炉があって違うのは置いてあるソファが三人掛けのが一台な事、それとアーロンの部屋のよりずっと大きくて立派な寝台と勉強机があって家具が置かれていない場所も広く空間に余裕があった。必要最低限の広さしかないアーロンの部屋とは大違いである。

 「化粧室はこちらだよ」

 ライム先輩が案内してくれる。

 「ありがとうございます」
 「うん。次からは自由にこちら側を通ってくれて構わない。君と私の間柄だから」
 「はい」
 
 アーロンが用をたして出て来るとライム先輩は三人掛けソファに腰掛けて待っていてくれた。

 「夕食迄はこちらで過ごそう」
 「あ、はい。あ」
 「どうしたのかい?」
 「あ、いいえ。何でもないです」

 アーロンは今、紙縒を使うべきだったのでは、と気が付いたのだった。うっかりしていた。だが、まだ機会はあると思い直す。

 「実は渡しておきたい物があってね」
 「あ、はい」

 隣に座るよう促される。

 「もう少し此方に寄って欲しい。これを着けたいのでね」

 見せられたのは箱に入った耳飾りが二つで、小さな青い石が輝いていた。

 「私と君が愛し子の契約を結んだ証となる物だ。そしてこの色は我が領の色でもある」
 「そうなのですね」
 
 そういえばライム先輩の部屋には青い物が多かった。絨毯やカーテンなどが青いのはだからなのか。男爵家の寮のアーロンの部屋は備え付けられている物をそのまま使っているが、ライム先輩は個人で用意しているのかもしれない。

 「契約書を作成し直したので、父に年末に会う時に確認と署名をして頂く。本来ならその後に渡すべき物だが、離れている間の君が心配でね。これさえあれば君に手を出してくる生徒はいないだろう」
 「ありがとうございます」
 「つけてあげよう。私には君がつけて欲しい」
 「はい」

 マーリーから消毒液の染みた脱脂綿を受け取ったライム先輩に促され、アーロンは左耳を先輩が見やすい様に銀の髪を耳に掛けた。液体のひやりとした感触の後少しちくっとして何が耳たぶを挟んだ感触があった。

 「うん。良く似合う。運動の邪魔にならないように石のみの意匠にしたが正解だったね」

 満足気に頷いたライム先輩が、今度は自分の左耳を出してアーロンに顔を寄せて来たので、アーロンはマーリーに目で確認しながらライム先輩の分の耳飾りを刺す。

 「腕輪と迷ったが、君の銀の髪からちらりと青い宝石が見えるのがいい。今回の耳飾りは魔道具ではないが本契約したら、用意しておいて良いかもしれないね」

 とライム先輩の冷たい指が針を刺して熱を持った耳朶を撫でてくるのが気持ちいい。マーリーが鏡を持って来て、ライム先輩に渡そうとしたが、先輩は「いい」と言って確認はしなかった。自分の耳よりもアーロンの出来具合にご執心の様で、ずっとアーロンの耳に掛かる髪をかき上げたり、アーロンの耳朶と耳飾りを弄ったりしている。こそばゆいのだが、いつもより砕けた態度の先輩に親密さを感じたので、先輩が満足してその手を離す迄アーロンは大人しくされるがままになっていた。

 「腕輪は魔道具を作る時に気になってしまいそうなので、耳飾りで良かったです」
 「ああ、そうだったね。ただ最近の流行りは腕輪らしくてね。その方が後から追加できる魔石の数が多いから人気があるそうだ。耳飾りだとせいぜい嵌められる魔石は一つか二つに絞られるだろう?」
 「確かにそうですね」

 アーロンはライム先輩の言葉に頷きながら、他の人って何かつけていたっけ?と思い出していた。三番目の兄ケビンは防音の魔道具付きの耳飾りをしていたが、キースはどうだったろうか? 目立つ装飾品を身に付けてはいなかった気がする。キースにはその言動で振り回される事が多いので、余り本人が身に付けている物に注目した事がなかった。アーロンが良く見ていなかっただけで、耳飾りをしていたかもしれない。

 (けど兄上は愛し子じゃないしな。今度会った時に、キース先輩の耳見てみよう。あ、他にも愛し子がいるなら、耳飾りか腕輪付けてるのか。腕輪って、タイスケ様達がしてるのとはきっと違うんだよね? そんなのあるって、三の兄上言ってたっけ? 結構聞いてない事が多いな)


 その後は、夕食の時間迄、話しをしたり、ライム先輩が読んでいる本(小説の類はなく、領地経営に関する本だった)を借りてぱらぱらと捲ってみたり、少しうとうとしたりして、のんびりと過ごした。
 チェスやカードゲームもあったがアーロンはあまり得意ではなく、ライム先輩もそれ程好きな訳ではなくてアーロンの為に用意してくれていたので、二、三戦しただけでそれらはお役御免にされた。
 夕食はまた応接室へと戻ってとった。献立はロールキャベツとロールケーキで食堂で食べるよりは少なめだ。

 「この後は寝室で軽食を取りながらゆっくり過ごしたいと思っているのでね。君には物足りないかもしれないが、夕食は少なめにさせて貰ったよ」
 「あ、はい」

 いよいよ来るべき時が来てしまった。元々食事は少なめにして欲しいと思っていたので、それについてはアーロンに不満はなかった。ただ、例の紙縒りはまだ使っていなかった。後で良いだろうと後回しにし続けた挙句、とうとう夕食が終わる迄それは胸ポケットに仕舞われたままだった。

 

 
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