抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との初めて

ライム先輩の話

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 え、という驚きの声はアーロンの喉の奥を転がって消えた。
 それを否定と取ったのか、ライム先輩は畳みかけるように話し出す。

 「無理なら愛し子の話は無かった事にしよう。まだ本契約はされていないので賠償金は求めないが、先程の簡易魔法契約書の期限が切れる前に、先程私が申し出た件を生涯口外しないという魔法契約書を結んで貰おう。それから、今日はもうこんな時間だがマーリーに送らせるので、男爵家の寮へ帰って欲しい。流石に断られた君とこの部屋で同衾するのはきついものがあるし、他に寝る場所も無いのでね。そして今後一才私の方から君へ話し掛けないので、君もどうか」
 「待って、待って下さい!」

 アーロンは立ち上がると両手を前に出して、ライム先輩の言葉を止めた。
 ライム先輩は勉強机にもたれ、腕を組んで此方の様子を窺っている。その顔は歪んでいて、気のせいと思いたいが泣き出しそうに見えた。

 「僕、出来ないとは言ってません」

 急に大声を出したせいで、アーロンははあはあと息を継いだ。だがライム先輩は訝しげに眉を顰める。

 「出来ないとは言っていないとは、かなりあやふやな返事だ。無理をしているなら、それは私は望まない。嫌々ではきっと互いに快感を得る事は難しいだろう。それは私の意図する所ではない。私の爵位に遠慮しているのなら、心配は無い。先程言った様に賠償金は求めない。ただ私と君とが疎遠になるだけ」
 「出来ます! 出来ますから!」
 「から?」
 「出来ます!」
 
 神経質になっているのか、ライム先輩はアーロンの言葉の選択に厳しい。はっきり言い切らないと駄目な様だ。

 「嫌々ではない」
 「はい! やりたいです! 是非抱かせて下さい!」

 紙縒を使いたくなかったアーロンにとっては、寧ろ願ったり叶ったりだ。

 「はあ」

 ライム先輩は力が抜けた様だ。組んでいた腕を解くと背後に回して、机に半ば腰を下ろす様にして両手を付き項垂れた。

 「だが、君は私に抱かれるつもりだったろう?」
 「そうですけど、多分出来ます」
 「多分?」

 ああ、また言葉選びを失敗したと、アーロンは慌てて訂正する。

 「違います違います。その、僕はずっと抱かれる方だと思ってたから、抱かれる側の知識しか無いんです。だから不安なんです。出来るけど正しいやり方が分からなくて。だから、先輩を抱くのであれば、その、先輩にも協力して欲しいというか」
 「協力?」
 「だって、先輩はその、多分ですが(ああまた多分と言ってしまったとアーロンは慌てたが、今度はライム先輩はそこに引っ掛からなかった)、抱く方のやり方をどなたかから教わって来たでしょう? それを僕に教えて欲しいというか」
 「ああ、成程」

 ライム先輩は明るい表情になり顔を上げた。

 「所で、先程君が何か言いかけていた様だが、何だったのかい?」
 「ああ、それなら何の問題も無いです」
 「本当に?」
 「はい」
 「本当に本当かい?」
 「はい!」
 「そう、なら良かった」



         ☆ 



 ライム先輩は寝台に腰掛け、四角い銀のお盆にのった物を同じ様に腰掛けているアーロンとの間に置いた。
 先輩の寝台はアーロンの部屋にある物よりずっと大きく、高さも高い。腰掛けるとちびのアーロンでは足が床に届かなくて、ぶらんぶらんしてしまうのでちょっと収まりが悪い。

 「マーリーに用意させた物だ」

 お盆の上にのっている物を見て、アーロンはぎょっとした。高価そうな瓶は潤滑油だろう。その隣は薄緑色に白い線がところどころ入った石で出来た張型だった。それが五本。

 「ええと、手に取っても良いでしょうか?」
 「ああ」

 アーロンは一番細い物を手に取った。ケビンに渡された木の張型も卑猥だったが、石だと更に本物じみている。より滑らかに加工されていて、括れや先っぽの形、よく見たら先端には尿の出る穴らしき窪み迄ある。右に行くにつれて段々と太くなるそれを、順に手に取っていく。石だからひんやりとして冷たい。こんなのが自分の中に入らなくて良かったとアーロンはほっとする。一番太いのなんて血管の筋が浮き出ていてとても醜悪だった。

 「東の国の玉石で出来ているそうだ。一番太いので、私の物と同じ太さだろうとマーリーは言っていた」

 嬉々としてライム先輩は教えてくれたが、醜悪な張型に、まるで毒蛇に睨みつけられた蛙の様な気持ちになったアーロンは、慌てて、でも壊さないようにそっとお盆の上に戻した。

 「アーロン君の太さはどれだい?」

 恥じらい顔で、しかし何処か嬉しそうにライム先輩に尋ねられてアーロンは苦い顔をした。

 「えっと、そうですね。体格に見合う太さだと思います」

 おそらく期待しているだろうライム先輩に「一番細いのと同じ位でしょうか」なんて馬鹿正直に答えたくは無かった。一応アーロンにも男としての見栄がある。それよりもだ、それよりもアーロンには言わねばならない事がある。お盆を見た時ぎょっとしたのは、その為だった。

 「先輩」
 「何だい?」
 「ここには足りない物があります」
 「えっ、本当かい? それでは出来ないじゃ無いか。マーリーには必要な物を全て用意する様に言い付けたのだが。直ぐに呼んで用意させよう」

 とライム先輩が寝台横の小机に置いてあった手振り鈴を鳴らそうとしたので、慌てて止める。

 「大丈夫です。僕が用意して来てます。その、多分、マーリーさんは知っていて、敢えて用意していないんだと思います」
 「敢えて?」
 「はい。その、僕は兄に教わって来たのですが、『高位貴族相手の場合、抱かれる側は直ぐに行為が出来る様に下準備して行く事を求められる場合がある』と言っていたので、多分それではないかと」
 「下準備」
 「はい。ですからライム先輩が抱く方だと思っているマーリーさんは用意しなかったのだと」
 「成程。では次から用意させよう」
 「大丈夫ですか?」
 「ああ」
 「その、先輩は対外的には抱く方だと思われたいのかと」
 「まあその通りだが、マーリーは私が揃えろと言えば黙って言われた通りにするから問題は無い」
 「そうですか、まあ何か言われたら先輩がやってあげたいからとか言うのも良いかもしれません。その、兄が言うには下準備をやってあげるのが好きな方や、自分の目の前させてそれを見るのが好きな方も居るらしいので……」
 「……成程、それで具体的にはどの様な事をするのかな」

 うっ、本気で聞いているのだろうかとアーロンは狼狽えたが、ライム先輩は平素の表情だから本気なのだろう。アーロンは覚悟を決めると「失礼します」と言って立ち上がってガウンのポケットから紙縒を包んだハンカチを出した。

 「これは何だろう」

 醜悪な張型をそっとライム先輩の方へ寄せて、お盆の真ん中に広げたハンカチを置く。

 「えっと、まず確認なのですが、ライム先輩はマーリーさんが用意してくれていた物の使い方はご存知ですか?」
 「ああ。男は女のように濡れないから私の男性器にこの油を塗ってからアーロン君に挿入すると言っていたな。張り型の方は、私の物が入らなかった時に拡張に使うと」
 「そうですか」

 間違ってはいない。ただ、アーロンが準備して来る事が前提となっていただけだ。そして、マーリーの説明に抜けていた部分をこれからライム先輩にやって貰わなければならない。

 「えっとですね、抱かれる側の後孔に、抱く側が男性器を挿入する訳ですが」
 「そうだね。だから拡張するのだろう」
 「そうなんですけどね。考えてみて下さい。後孔って肛門ですよね? つまり普段は、えっと、その、そのですね、便を出すとこですよね?」
 「べん」
 「はい」

 ライム先輩は俯き顎に手を当てて考えると、「あ」と顔をあげた。

 「そうか、そうだね」
 「はい。ですから事前に掃除が必要です」
 「掃除」
 「はい、中の」
 「中」
 「はい、その、中に便が残っている可能性がありますから」
 「ああ」

 やっと意味が分かったらしく、ライム先輩の顔が朱に染まる。

 「その、人間ですからどんな方でも中のお掃除が必要です」
 「……そうだね」

 先輩の声が小さくなった所をみると、今迄はそこに思い当たっていなかった様だ。アーロンはそれについては掘り下げない方が先輩の恥ずかしさも少ないだろうと考えさくさく説明していく。

 「この紙縒は抱かれる側の中を掃除するのに使います。その、さっき僕が簡易版の魔法契約書を交わす時に先輩に言おうとしていたのは、実はこれを使う時間を頂こうと思っていました」
 「ああ、成程」
 「此の紙縒は火の国の商品ですが、最初はこんなに細いんですが、後孔に入れて此の持ち手の部分、見えますか?」
 「うん、色が付いている方が持ち手なのかな」
 「そうです。中に入れて暫くすると汚れを吸い取って膨らみます。そして白い部分が持ち手と同じ色になる迄待ったら完了です」
 「膨らむのかい」
 「はい。俄には信じられないでしょうが、その、完全に膨らむとそこにある張り型の一番太いのと同じ大きさになります」

 ライム先輩はお盆の上の太い張り型を凝視した。

 「その、……僕のはそこ迄太くは無いので、もう少し薄い色位で大丈夫だと思いますが」
 「もう少し薄い色」
 「はい。ですので、大変恐縮ですが、御手洗いに行ってやって来て頂けないでしょうか?」
 「ふむ」
 「はい」
 「そうか、ならば此の場で構わないので、君にやって貰えないだろうか」
 「はい?」



 
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