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ライム先輩との初めて
朝
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「アーロン、アーロン、起きて、起きなさい」
ゆさゆさと揺り動かされてアーロンは目が覚めた。
「ん? んむう」
眠い目を擦りながら何とか開けると、下の方に慌てた様なライム先輩の顔があった。
「先輩、おはようございます」
「おはよう」
アーロンは寝ぼけていた。何で先輩が居るんだろうと考えて、あ、そうだ昨日先輩の部屋に泊まったんだと思い出す。それなのに何故かライム先輩は隣に寝ていなくて、寝台の上にのって居るのは上半身だけだ。
「なかなか起きてくれないから大変だったよ」
アーロンは不思議に思いながら、気怠そうにもぞもぞと寝台の陰に引っ込んで行くライム先輩を目で追う。
「どうされました?」
「立てない」
「は?」
一気に目が覚めた。起き上がると、バスローブを乱したライム先輩が途方に暮れた顔で床にしゃがみ込んでいた。
「何でそんなとこに居るんですか?」
「だから、立ち上がれないんだ」
よくよく話を聞いてみると、先に目を覚ましたライム先輩はアーロンが色々やってくれた事に気が付いた。だが喉も渇いたし、身だしなみも整えたい。マーリーを呼ぼうと手振り鈴を鳴らしたが反応が無かった。それで、昨夜部屋に鍵を掛けたのと、防音の魔道具を使ったのを思い出した。しかし先輩は寝台から降りるとまるで力が入らなくて、へなへなとしゃがみ込んでしまって動けなくなった。驚いてアーロンを起こしたのだそうだ。
先輩は心細げで頼りなく見えた。二つ年上の裕福な伯爵家の嫡男ではなく、アーロンと同い年の貧乏男爵の十男の様に見えた。
「え? 大丈夫ですか?」
アーロンは直ぐに寝台から飛び降りるとライム先輩を抱え上げる。
「!?」
「僕は力持ちなので」
「……ああ、そうだったね。頼む。だが、ゆっくり運んで欲しい。腰の違和感が酷いのだ」
「分かりました」
アーロンはライム先輩をそうっと寝台の飾り板にもたれ掛ける様にして座らせた。先輩に聞きながら、腰に枕を当て、足を伸ばすのを手伝う。
「大丈夫ですか?」
「分からない。こんな風になったのは初めてだ」
心底不思議そうなライム先輩にアーロンは自分のせいだと感じた。
「そうですよね……、すみません。抱かれる方に負担が大きいのは兄から聞いていたのですが、まさかこんな事になるとは……。どうしましょう?」
「様子を見るしかない。マーリーには言えないから医者は呼べないし」
「ですよね……」
「取り敢えずマーリーを中に入れたい。だが、私が立てないのは知られたくない」
「どうすれば?」
申し訳なさからアーロンの心は先輩の役に立ちたいという想いで一杯になった。
「うーん。鈴を鳴らしたので、起きたのは気が付いただろう。まずは鍵を開けずに中から指示だけ出したい。アーロン、防音の魔道具を取って来てくれるかい?」
「はい」
アーロンはぴょん、と寝台から飛び降りると駆け足で防音の魔道具を取って来た。渡すと、ライム先輩は渋い顔で受け取った。
「アーロン、室内履きはどうした?」
「え、あ、すみません。うっかり忘れてました。あります!」
「そうか」
(まずい、室内履きの事、すっかり忘れてたよ。兄上に口煩く注意されたのに。気を付けないと! あ、走ったのも良くなかったかも……)
一晩を一緒に過ごしたせいでアーロンの中からライム先輩に対する遠慮が抜け落ちてしまっていた。良くなかったと慌てて気を引きめる。
「これから、魔道具を解除するが、その前に頼みがある」
「はい」
「私が立てないのを知られる訳にはいかないから、君が立ち上がれないのでそれに私が付き添っている事にしたい」
「え?」
アーロンは吃驚したが、ライム先輩は真面目な顔だ。それに先輩を立てなくしたのは自分だ。
「……はい」
「全部私が話すから、君は黙っていて欲しい」
「分かりました」
まあ黙って居るだけなら簡単だ。それなら文句は無い。
「いいね?」
「はい。あ、でも先輩声が」
「声?」
「ちょっと掠れてます」
「え?」
とライム先輩は自分の喉に手を当てた。「あー」と声を出してみて、「確かに」と頷く。
「まあ、これはマーリーも気が付くかもしれないが別に構わない。もし聞かれたら喉が渇いたとでも言う事にしよう。それより先程の件、大丈夫だね?」
「はい」
先輩が魔道具を弄ると、同時に外から繰り返し扉を叩き先輩の名を呼ばう声が聞こえて来た。
「大丈夫だ。防音の魔道具を切るのを忘れていただけだ」
とライム先輩が声を張ると、直ぐに収まり外からマーリーの声がした。
「ようございました。何かあったかと心配致しました」
「…こほん。ああ、問題無い」
と声を張って喉が痛かったのか、咳を一つするとライム先輩は声を落として答える。
「まだアーロンが眠って居るので、お前に見せたくない。少し時間を置いて、また来てくれ」
「鍵が閉まって居る様ですが」
「うん、開けておく。入る前に声を掛ける様に」
「かしこまりました」
扉の向こうにマーリーの気配が無くなる迄少し待ってから、ライム先輩は声を顰めてアーロンに次の指示を出した。その頃には調子を取り戻したのか、ライム先輩は普段の頼り甲斐のある優しい先輩に戻っていた。顔付きも心細げでは無く、常に優しい笑みを浮かべて居るいつもの先輩だ。
「では鍵を開けて来てくれ。あそこの寝室の入り口だけだ」
「浴室は?」
気が抜けていたアーロンは勢い良く先輩の言葉に被せる様に尋ねてしまった。ライム先輩の口の端がびくりと動いた気がした。だが一瞬の事で後は普通の表情に見えたから気のせいだったかもしれない。
「浴室は後でマーリーに開けさせる。後、声は顰めてくれ」
「はい」
「鍵を開けたら直ぐ戻って来て私の横で毛布を被って横になって居る様に。その後は私が良いという迄、黙って居て欲しい。出来るかい?」
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ行ってくれ」
「はい」
とアーロンが寝台から降りようとすると、
「室内履きを忘れないでおくれよ」
と声が掛かった。振り向くと、ライム先輩は茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってくれたので、アーロンはほっとして、
「はい!」
と元気良く返事してしまい慌てて口を押さえた。それにライム先輩の顔が慌てた様に自分の口の前に人差し指を立てて「しーっ!」と声を出さずにやって来たので、アーロンはぺこぺこ頭を下げながら鍵を閉めに行った。
ゆさゆさと揺り動かされてアーロンは目が覚めた。
「ん? んむう」
眠い目を擦りながら何とか開けると、下の方に慌てた様なライム先輩の顔があった。
「先輩、おはようございます」
「おはよう」
アーロンは寝ぼけていた。何で先輩が居るんだろうと考えて、あ、そうだ昨日先輩の部屋に泊まったんだと思い出す。それなのに何故かライム先輩は隣に寝ていなくて、寝台の上にのって居るのは上半身だけだ。
「なかなか起きてくれないから大変だったよ」
アーロンは不思議に思いながら、気怠そうにもぞもぞと寝台の陰に引っ込んで行くライム先輩を目で追う。
「どうされました?」
「立てない」
「は?」
一気に目が覚めた。起き上がると、バスローブを乱したライム先輩が途方に暮れた顔で床にしゃがみ込んでいた。
「何でそんなとこに居るんですか?」
「だから、立ち上がれないんだ」
よくよく話を聞いてみると、先に目を覚ましたライム先輩はアーロンが色々やってくれた事に気が付いた。だが喉も渇いたし、身だしなみも整えたい。マーリーを呼ぼうと手振り鈴を鳴らしたが反応が無かった。それで、昨夜部屋に鍵を掛けたのと、防音の魔道具を使ったのを思い出した。しかし先輩は寝台から降りるとまるで力が入らなくて、へなへなとしゃがみ込んでしまって動けなくなった。驚いてアーロンを起こしたのだそうだ。
先輩は心細げで頼りなく見えた。二つ年上の裕福な伯爵家の嫡男ではなく、アーロンと同い年の貧乏男爵の十男の様に見えた。
「え? 大丈夫ですか?」
アーロンは直ぐに寝台から飛び降りるとライム先輩を抱え上げる。
「!?」
「僕は力持ちなので」
「……ああ、そうだったね。頼む。だが、ゆっくり運んで欲しい。腰の違和感が酷いのだ」
「分かりました」
アーロンはライム先輩をそうっと寝台の飾り板にもたれ掛ける様にして座らせた。先輩に聞きながら、腰に枕を当て、足を伸ばすのを手伝う。
「大丈夫ですか?」
「分からない。こんな風になったのは初めてだ」
心底不思議そうなライム先輩にアーロンは自分のせいだと感じた。
「そうですよね……、すみません。抱かれる方に負担が大きいのは兄から聞いていたのですが、まさかこんな事になるとは……。どうしましょう?」
「様子を見るしかない。マーリーには言えないから医者は呼べないし」
「ですよね……」
「取り敢えずマーリーを中に入れたい。だが、私が立てないのは知られたくない」
「どうすれば?」
申し訳なさからアーロンの心は先輩の役に立ちたいという想いで一杯になった。
「うーん。鈴を鳴らしたので、起きたのは気が付いただろう。まずは鍵を開けずに中から指示だけ出したい。アーロン、防音の魔道具を取って来てくれるかい?」
「はい」
アーロンはぴょん、と寝台から飛び降りると駆け足で防音の魔道具を取って来た。渡すと、ライム先輩は渋い顔で受け取った。
「アーロン、室内履きはどうした?」
「え、あ、すみません。うっかり忘れてました。あります!」
「そうか」
(まずい、室内履きの事、すっかり忘れてたよ。兄上に口煩く注意されたのに。気を付けないと! あ、走ったのも良くなかったかも……)
一晩を一緒に過ごしたせいでアーロンの中からライム先輩に対する遠慮が抜け落ちてしまっていた。良くなかったと慌てて気を引きめる。
「これから、魔道具を解除するが、その前に頼みがある」
「はい」
「私が立てないのを知られる訳にはいかないから、君が立ち上がれないのでそれに私が付き添っている事にしたい」
「え?」
アーロンは吃驚したが、ライム先輩は真面目な顔だ。それに先輩を立てなくしたのは自分だ。
「……はい」
「全部私が話すから、君は黙っていて欲しい」
「分かりました」
まあ黙って居るだけなら簡単だ。それなら文句は無い。
「いいね?」
「はい。あ、でも先輩声が」
「声?」
「ちょっと掠れてます」
「え?」
とライム先輩は自分の喉に手を当てた。「あー」と声を出してみて、「確かに」と頷く。
「まあ、これはマーリーも気が付くかもしれないが別に構わない。もし聞かれたら喉が渇いたとでも言う事にしよう。それより先程の件、大丈夫だね?」
「はい」
先輩が魔道具を弄ると、同時に外から繰り返し扉を叩き先輩の名を呼ばう声が聞こえて来た。
「大丈夫だ。防音の魔道具を切るのを忘れていただけだ」
とライム先輩が声を張ると、直ぐに収まり外からマーリーの声がした。
「ようございました。何かあったかと心配致しました」
「…こほん。ああ、問題無い」
と声を張って喉が痛かったのか、咳を一つするとライム先輩は声を落として答える。
「まだアーロンが眠って居るので、お前に見せたくない。少し時間を置いて、また来てくれ」
「鍵が閉まって居る様ですが」
「うん、開けておく。入る前に声を掛ける様に」
「かしこまりました」
扉の向こうにマーリーの気配が無くなる迄少し待ってから、ライム先輩は声を顰めてアーロンに次の指示を出した。その頃には調子を取り戻したのか、ライム先輩は普段の頼り甲斐のある優しい先輩に戻っていた。顔付きも心細げでは無く、常に優しい笑みを浮かべて居るいつもの先輩だ。
「では鍵を開けて来てくれ。あそこの寝室の入り口だけだ」
「浴室は?」
気が抜けていたアーロンは勢い良く先輩の言葉に被せる様に尋ねてしまった。ライム先輩の口の端がびくりと動いた気がした。だが一瞬の事で後は普通の表情に見えたから気のせいだったかもしれない。
「浴室は後でマーリーに開けさせる。後、声は顰めてくれ」
「はい」
「鍵を開けたら直ぐ戻って来て私の横で毛布を被って横になって居る様に。その後は私が良いという迄、黙って居て欲しい。出来るかい?」
「はい、大丈夫です」
「よし、じゃあ行ってくれ」
「はい」
とアーロンが寝台から降りようとすると、
「室内履きを忘れないでおくれよ」
と声が掛かった。振り向くと、ライム先輩は茶目っ気たっぷりに片目を瞑ってくれたので、アーロンはほっとして、
「はい!」
と元気良く返事してしまい慌てて口を押さえた。それにライム先輩の顔が慌てた様に自分の口の前に人差し指を立てて「しーっ!」と声を出さずにやって来たので、アーロンはぺこぺこ頭を下げながら鍵を閉めに行った。
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