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四章 表の無い硬貨
第9話 影に堕ちる
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カイムは執務室で〈夜空〉から用向きのある星へ触れる。語り掛けた瞬間、星が強く瞬いた。すると、光が少しだけ膨張して、そこだけ夜闇が柔らかく暈ける。
殆ど瞬間的に、必要な猟犬へ一度で伝えてしまった。だからカイムは、何事もなかったように俯いて、確認中の書類へ意識を戻してしまう。
館に散っている猟犬を集めるのには、少々時間が掛かるのは承知の上だった。なので、仕事を片付けて仕舞おうと、手早く膨大な情報の塊に承認の印を残していく――読み込むだけで。
ステルスハウンドが未だ紙でのやり取りを中心にしているのは、主権者の能力からくる問題が大きい。いつかチェスカルは、ヘルレアに情報漏洩対策だと、設定をしっかり説明していたのが思い出される。ヘルレアへ真実を伝えようが、伝えまいが、あまり意味の無い事柄なので、何を言うつもりもなかった。
時代が変わり、情報の伝達手段が多様化しても、ノヴェクは紙を手放せない。デジタルな情報も扱えるが、猟犬の主人は紙を用いると、質が異なる情報が得られる。
ノヴェクの疵は根深い。
この現状をそう表してしまってもいいだろう。過去の物に囚われ続けるのは……ノヴェクの始祖生母である、ヨルムンガンド・アルヘリオンの時代に、囚われ続けるということだ。
アルヘリオン――アルオンが自分の内にも確実に居る。ヘルレイアと同族の、ヨルムンガンドの血が流れている。考えてみれば不思議なことだ。カイムは自分自身を完璧に人間だとは断言出来ないが、それでもナイフで一突きされれば死ぬのだし、背後の窓から飛び降りれば、それこそ醜く死に絶える。
ヘルレアはエマに軍用ダガーで刺されても、それを擦り傷のように振る舞い、また、平気で高所から飛び降りていく。
〈血統〉だとしても、ヨルムンガンドの身体能力を完全には受け継げないようで、その一点だけを考えれば、やはり人間なのだろう。
いっそ、人間でない方が楽なのではないかと思うときがある。人間の心がある――はず、だから悩むのだし、苦しい。
エマを救うにはどうすればいいのか――。
「オリヴァンでも限界がある……だとすれば、」カイムは書類を、机へと押さえるように置いた。
豪快なノックに扉が軋む。むしろ、ノックというより殴っている。
「カ、イ、ム、様ー! お邪魔しまーす!」ヴィーは、一応ノックらしきものはしたが、カイムの返事を待たず、部屋へ勝手に入ってくる。赤い髪は、いつも通りのツンツンした寝癖状態で、迷彩服姿だった。彼女以外、他に猟犬は居ない。
「こら! 返事を待たずに入ったら駄目だろう」正直、躾どころかあまり叱ってはいなかったから、ヴィーはまったく動じていない。
そうしてヴィーは、好き放題部屋へ入って来ると、机の前に張り付いた。彼女は身体を折り曲げ、カイムの顔に自分の顔を寄せる。
「お呼ばれ嬉しいです!」
「もう少し、マナーを教えるべきだった」
「まなぁは遠慮します。スカルさん、怖いもん」
「頭蓋骨じゃない、チェスカル」
「変な名前」ヴィーが渋い顔をしている。
「僕が付けたんだけどな」
「え、めっちゃ良い名前」
「やっぱり、これは駄目か?」
「ダメじゃ無い、ダメじゃ無い!」ヴィーはカイムへ、両手の平を大袈裟に振って否定した。
カイムは猟犬が可愛くて、無言のまま笑み崩れてしまった。親バカ過ぎるのも実害があるものだが、おバカ加減がヴィーまで来てしまうと、カイムですら自棄っぱちに笑ってしまう。
ルークもヴィーと似た性質だが、一応はルークの方が成獣らしい。年齢は二、三才違うかどうかのくらいしかないものの、雌雄の差がやはり良く出ている。雄猟犬のルークは独立心が強く、主人への甘え方も一応、一歩引いたものとなっている。雌猟犬のヴィーだと距離の取り方が短く、言語的意思疎通を特に好んで主人に求める。
愛情の感じ方が、異なる証であろう――。
「ねえ、他の猟犬は見かけ無かった?」
「たいちょは一階のお便所、スカルさんは個人事務室、シドは地下演習場で射撃訓練、アトラスは備品補充を問い合わせる為に、ダグラスじじぃのところでーす」
「なんというか、相変わらず……ヴィーは凄いね」
ヴィーは猟犬の中で稀に生まれる
〈星を観る者〉と観て間違いないだろう。主人であるカイムのように、はっきりと星が見えている。猟犬固有の能力なので、これを天与の器とするには憚りがあるが、マイノリティな特殊能力と見做していい。
だから誰を呼んだのか細かく問わなくても、返事が出来たのだ。
「呼び出した全員、揃うまで待っててね」
「たいちょ、お便所長くて面倒臭い」
「呼んだから直ぐ来るって」ヴィーはもう成獣なのだが、つい、仔犬へ話すように接してしまう。
まるで浮きのような唐突さで、チェスカルが近付いて来る気配がする。そうして、少しも経たずに彼は、半分開きっぱなしの扉を丁寧に叩いた。ほぼ同時に、チェスカルは眉間に深い皺を寄せている。
「カイム様、失礼を――ベル・ヴィッカ! また君はカイム様に無礼を働いただろう。扉も開きっぱなしにして、どういうつもりだ。散々、人様の部屋を訪ねるときは、どうするのか教えただろう。よりによって、カイム様のいらっしゃるお部屋で失礼な行動を取るなんて――、」
「はい、待った! チェスカル、叱るのはそれでもう十分。ありがとう。ヴィーも分かったね」
「いっぱい分かりました」
「カイム様はヴィーに甘すぎます。後で礼儀を一から叩き込むから、覚悟しておくことだ」
カイムもついでに叱られてしまった。ヴィーは頬を膨らませて不満全開のようだが、チェスカルが怖くて口答えしない。チェスカルは、ある意味カイムより強い。
「また何かヴィーがしましたか」チェスカルの背後から声が上がる。シドがいつの間にか険しい顔で、チェスカルの後ろに立っている。
「まあ、いつものことさ。二人共来なさい。まだ、ジェイドとアトラスが来ていないから、もう少し待っていてくれ」
「ヴィー下がるんだ。目上の方へ対する距離間は守れ」チェスカルはカイムが着く机に、近い位置で背筋を伸ばす。そして、ジェイドは更に近い場所で主人に侍ることを許されている。
「はーい、ごめんちゃーい」
「いい加減に、」
「……切りが無いから、もう、叱らないでやって。後にしよう」
チェスカルは盛大な溜息を吐いて、小言を呑み込んだようだった。
これから話す人事については、予めチェスカルにも伝えておいたので、彼はもう静かに控えている。
「んー? たいちょよりも、アトラスの方が早い」
「そうだね、アトラスはもう直ぐここへ来られるみたいだ」
丁寧なノックの後一拍間が空く。カイムが入室を許可すると、ジェイドと同じくらい体格の良い雄猟犬が顔を出した。アストラル・ゼメキスは濃灰色をした開襟型制服を着ていて、制帽もしっかりと被っている。直ぐに制帽を取ると、黒い短髪がさらりと靡いた。
「お待たせして申し訳ございません」
「いや、ジェイドもまだ来ていないし、気にしないで」
「たいちょって何食べてるの? 便秘?」
シドは額を押さえているが無言だし、無になっている。チェスカルは躾の算段をしているようで、叱責のリストにまた一つ項目が増えたようだった。
「便秘なら、飼い主である僕の責任だな」
「あ、動いた!」
そうこうしているうちに、ジェイドは執務室へ一直線に向かって来た。部屋の近くまで来ると、何の躊躇いも無く扉が開かれた。
「取り敢えず揃ったな」ジェイドがのんびりと最後に現れて、悠々と扉を閉めた。大型の猟犬共の間を割って入り、主人に最も近い場所へ陣取る。
「ヴィーは隊長を手本に育ったようですね」相変わらず、チェスカルに恐いものはない。
「あ? 嫌味はいいから、仕事するぞ」
「じゃあ、皆揃ったようだし始めようか。〈雑用〉の君達――シド・ペテル、ベル・ヴィッカ、アストラル・ゼメキスには、これから〈影の猟犬〉に加わってもらうことになる。君達も知っていると思うが、三班が全員欠員となった。編成については、チェスカルよろしく」
「はい。ヴィーとシドは、ジェイド・マーロン隊長の班へ着任。そしてアトラスは、新しく副隊長となるエルド・シュライフの班へ着任して、ユニス・カロルと共に班を構成させることになる」
カイムは頷くと、腕を組んで猟犬共を見渡す。
「つまり班制としてまとめると、一班はジェイド、ヴィー、シド。二班は、チェスカル、ルーク、ハルヒコ――ここは変わらず。三班は、エルド、ユニス、アトラス、となる」
「因みに、まだ〈影の猟犬〉全体には、班の編成については詳しく説明していない。改めて全員、余裕を持って集まれるときに、議題とする方針だ――口を慎むんだヴィー」チェスカルが目を細めて鋭く睨め付ける。
「何で私だけ」
「〈影〉でお喋りは、君とルークだけだ」
「ええ? ルークと一緒にしないでください」
「五十歩百歩という言葉を君へ贈ろう」
ヴィーは首を傾げて固まってしまった。ジェイドが、チェスカルのキツい態度に、笑いを懸命に堪えている。
「班についての話は、もういいか、カイム?」
「そうだね、取り敢えず君達が今知るべきことは伝えたから。では、散会を許す――ああ、でもシドはここに残って」
ヴィーとアトラスが執務室を出て行った。
主人と上司二人、執務室に残されたシドは緊張している。それはおかしなことではないので、カイムは特に気にならなかった。
「シドには特別な仕事をしてもらいたい。〈レグザの光〉は知っているかな」
カイムは執務室で〈夜空〉から用向きのある星へ触れる。語り掛けた瞬間、星が強く瞬いた。すると、光が少しだけ膨張して、そこだけ夜闇が柔らかく暈ける。
殆ど瞬間的に、必要な猟犬へ一度で伝えてしまった。だからカイムは、何事もなかったように俯いて、確認中の書類へ意識を戻してしまう。
館に散っている猟犬を集めるのには、少々時間が掛かるのは承知の上だった。なので、仕事を片付けて仕舞おうと、手早く膨大な情報の塊に承認の印を残していく――読み込むだけで。
ステルスハウンドが未だ紙でのやり取りを中心にしているのは、主権者の能力からくる問題が大きい。いつかチェスカルは、ヘルレアに情報漏洩対策だと、設定をしっかり説明していたのが思い出される。ヘルレアへ真実を伝えようが、伝えまいが、あまり意味の無い事柄なので、何を言うつもりもなかった。
時代が変わり、情報の伝達手段が多様化しても、ノヴェクは紙を手放せない。デジタルな情報も扱えるが、猟犬の主人は紙を用いると、質が異なる情報が得られる。
ノヴェクの疵は根深い。
この現状をそう表してしまってもいいだろう。過去の物に囚われ続けるのは……ノヴェクの始祖生母である、ヨルムンガンド・アルヘリオンの時代に、囚われ続けるということだ。
アルヘリオン――アルオンが自分の内にも確実に居る。ヘルレイアと同族の、ヨルムンガンドの血が流れている。考えてみれば不思議なことだ。カイムは自分自身を完璧に人間だとは断言出来ないが、それでもナイフで一突きされれば死ぬのだし、背後の窓から飛び降りれば、それこそ醜く死に絶える。
ヘルレアはエマに軍用ダガーで刺されても、それを擦り傷のように振る舞い、また、平気で高所から飛び降りていく。
〈血統〉だとしても、ヨルムンガンドの身体能力を完全には受け継げないようで、その一点だけを考えれば、やはり人間なのだろう。
いっそ、人間でない方が楽なのではないかと思うときがある。人間の心がある――はず、だから悩むのだし、苦しい。
エマを救うにはどうすればいいのか――。
「オリヴァンでも限界がある……だとすれば、」カイムは書類を、机へと押さえるように置いた。
豪快なノックに扉が軋む。むしろ、ノックというより殴っている。
「カ、イ、ム、様ー! お邪魔しまーす!」ヴィーは、一応ノックらしきものはしたが、カイムの返事を待たず、部屋へ勝手に入ってくる。赤い髪は、いつも通りのツンツンした寝癖状態で、迷彩服姿だった。彼女以外、他に猟犬は居ない。
「こら! 返事を待たずに入ったら駄目だろう」正直、躾どころかあまり叱ってはいなかったから、ヴィーはまったく動じていない。
そうしてヴィーは、好き放題部屋へ入って来ると、机の前に張り付いた。彼女は身体を折り曲げ、カイムの顔に自分の顔を寄せる。
「お呼ばれ嬉しいです!」
「もう少し、マナーを教えるべきだった」
「まなぁは遠慮します。スカルさん、怖いもん」
「頭蓋骨じゃない、チェスカル」
「変な名前」ヴィーが渋い顔をしている。
「僕が付けたんだけどな」
「え、めっちゃ良い名前」
「やっぱり、これは駄目か?」
「ダメじゃ無い、ダメじゃ無い!」ヴィーはカイムへ、両手の平を大袈裟に振って否定した。
カイムは猟犬が可愛くて、無言のまま笑み崩れてしまった。親バカ過ぎるのも実害があるものだが、おバカ加減がヴィーまで来てしまうと、カイムですら自棄っぱちに笑ってしまう。
ルークもヴィーと似た性質だが、一応はルークの方が成獣らしい。年齢は二、三才違うかどうかのくらいしかないものの、雌雄の差がやはり良く出ている。雄猟犬のルークは独立心が強く、主人への甘え方も一応、一歩引いたものとなっている。雌猟犬のヴィーだと距離の取り方が短く、言語的意思疎通を特に好んで主人に求める。
愛情の感じ方が、異なる証であろう――。
「ねえ、他の猟犬は見かけ無かった?」
「たいちょは一階のお便所、スカルさんは個人事務室、シドは地下演習場で射撃訓練、アトラスは備品補充を問い合わせる為に、ダグラスじじぃのところでーす」
「なんというか、相変わらず……ヴィーは凄いね」
ヴィーは猟犬の中で稀に生まれる
〈星を観る者〉と観て間違いないだろう。主人であるカイムのように、はっきりと星が見えている。猟犬固有の能力なので、これを天与の器とするには憚りがあるが、マイノリティな特殊能力と見做していい。
だから誰を呼んだのか細かく問わなくても、返事が出来たのだ。
「呼び出した全員、揃うまで待っててね」
「たいちょ、お便所長くて面倒臭い」
「呼んだから直ぐ来るって」ヴィーはもう成獣なのだが、つい、仔犬へ話すように接してしまう。
まるで浮きのような唐突さで、チェスカルが近付いて来る気配がする。そうして、少しも経たずに彼は、半分開きっぱなしの扉を丁寧に叩いた。ほぼ同時に、チェスカルは眉間に深い皺を寄せている。
「カイム様、失礼を――ベル・ヴィッカ! また君はカイム様に無礼を働いただろう。扉も開きっぱなしにして、どういうつもりだ。散々、人様の部屋を訪ねるときは、どうするのか教えただろう。よりによって、カイム様のいらっしゃるお部屋で失礼な行動を取るなんて――、」
「はい、待った! チェスカル、叱るのはそれでもう十分。ありがとう。ヴィーも分かったね」
「いっぱい分かりました」
「カイム様はヴィーに甘すぎます。後で礼儀を一から叩き込むから、覚悟しておくことだ」
カイムもついでに叱られてしまった。ヴィーは頬を膨らませて不満全開のようだが、チェスカルが怖くて口答えしない。チェスカルは、ある意味カイムより強い。
「また何かヴィーがしましたか」チェスカルの背後から声が上がる。シドがいつの間にか険しい顔で、チェスカルの後ろに立っている。
「まあ、いつものことさ。二人共来なさい。まだ、ジェイドとアトラスが来ていないから、もう少し待っていてくれ」
「ヴィー下がるんだ。目上の方へ対する距離間は守れ」チェスカルはカイムが着く机に、近い位置で背筋を伸ばす。そして、ジェイドは更に近い場所で主人に侍ることを許されている。
「はーい、ごめんちゃーい」
「いい加減に、」
「……切りが無いから、もう、叱らないでやって。後にしよう」
チェスカルは盛大な溜息を吐いて、小言を呑み込んだようだった。
これから話す人事については、予めチェスカルにも伝えておいたので、彼はもう静かに控えている。
「んー? たいちょよりも、アトラスの方が早い」
「そうだね、アトラスはもう直ぐここへ来られるみたいだ」
丁寧なノックの後一拍間が空く。カイムが入室を許可すると、ジェイドと同じくらい体格の良い雄猟犬が顔を出した。アストラル・ゼメキスは濃灰色をした開襟型制服を着ていて、制帽もしっかりと被っている。直ぐに制帽を取ると、黒い短髪がさらりと靡いた。
「お待たせして申し訳ございません」
「いや、ジェイドもまだ来ていないし、気にしないで」
「たいちょって何食べてるの? 便秘?」
シドは額を押さえているが無言だし、無になっている。チェスカルは躾の算段をしているようで、叱責のリストにまた一つ項目が増えたようだった。
「便秘なら、飼い主である僕の責任だな」
「あ、動いた!」
そうこうしているうちに、ジェイドは執務室へ一直線に向かって来た。部屋の近くまで来ると、何の躊躇いも無く扉が開かれた。
「取り敢えず揃ったな」ジェイドがのんびりと最後に現れて、悠々と扉を閉めた。大型の猟犬共の間を割って入り、主人に最も近い場所へ陣取る。
「ヴィーは隊長を手本に育ったようですね」相変わらず、チェスカルに恐いものはない。
「あ? 嫌味はいいから、仕事するぞ」
「じゃあ、皆揃ったようだし始めようか。〈雑用〉の君達――シド・ペテル、ベル・ヴィッカ、アストラル・ゼメキスには、これから〈影の猟犬〉に加わってもらうことになる。君達も知っていると思うが、三班が全員欠員となった。編成については、チェスカルよろしく」
「はい。ヴィーとシドは、ジェイド・マーロン隊長の班へ着任。そしてアトラスは、新しく副隊長となるエルド・シュライフの班へ着任して、ユニス・カロルと共に班を構成させることになる」
カイムは頷くと、腕を組んで猟犬共を見渡す。
「つまり班制としてまとめると、一班はジェイド、ヴィー、シド。二班は、チェスカル、ルーク、ハルヒコ――ここは変わらず。三班は、エルド、ユニス、アトラス、となる」
「因みに、まだ〈影の猟犬〉全体には、班の編成については詳しく説明していない。改めて全員、余裕を持って集まれるときに、議題とする方針だ――口を慎むんだヴィー」チェスカルが目を細めて鋭く睨め付ける。
「何で私だけ」
「〈影〉でお喋りは、君とルークだけだ」
「ええ? ルークと一緒にしないでください」
「五十歩百歩という言葉を君へ贈ろう」
ヴィーは首を傾げて固まってしまった。ジェイドが、チェスカルのキツい態度に、笑いを懸命に堪えている。
「班についての話は、もういいか、カイム?」
「そうだね、取り敢えず君達が今知るべきことは伝えたから。では、散会を許す――ああ、でもシドはここに残って」
ヴィーとアトラスが執務室を出て行った。
主人と上司二人、執務室に残されたシドは緊張している。それはおかしなことではないので、カイムは特に気にならなかった。
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