2 / 6
第2話
しおりを挟む
私がマティウス様から婚約破棄を告げられ、部屋を出た直後、これをはじめから狙っていたかのようなタイミングでマリンが私の前に姿を現した。
「ミレーナお姉様、お兄様と何かお話をされていたのですか?どのようなお話を?」
その表情は非常に楽しそうな雰囲気を放っており、彼女はすでに私が婚約破棄を告げられたことなど計算通りといった様子だった。
「マリン、私はマティウス様から婚約破棄をされてしまったわ。あなたの事を虐げたのが理由だそうよ」
「まぁ、それはお気の毒ですねぇ。私はお姉様の事をここに残してくださるようお兄様には掛け合っていたのですけれど…。それを聞き入れてもいただけないほどにお兄様はお怒りのご様子ですねぇ」
口でこそそう言葉を発するマリンだけれど、その言葉は間違いなく嘘なのだろう。
彼女が私のためにマティウス様に言葉をかけることなどあるはずがないのだから。
「そんな気を遣ってくれていたのね、それはどうもありがとう」
「婚約破棄ですかぁ。でも仕方ないですよねぇ。お兄様から愛想を尽かされてしまったのですから、これ以上関係を続けていく理由もないというものですものねぇ」
そもそも婚約破棄のきっかけを作ったのはあなたでしょうに、自分はまったくかかわっていないという態度を崩さない彼女。
あくまで自分は私の味方だけれど、助ける事ができなかったというストーリーで行きたいらしい。
「お兄様は最初こそお姉様の事を愛されていましたけど、すぐにお姉様の本性を見抜かれたのでしょうねぇ。私の事を一方的に悪く言ってきてばかりですから、仲良くなれるはずもありませんでしたし」
それは私のセリフなのだけれど…。
私は義理にも姉妹となる関係にあるマリンとの距離を、自分なりに縮めていこうといろいろと考えていた。
けれど彼女は私の事を一方的に毛嫌いし続けており、その思いに答えようとはしなかった。
おそらくは、マティウス様から向けられる溺愛の感情を私に横取りされることを恐れたのだと思うけれど。
「でもご心配はいりませんよお姉様。お兄様の事はおそばで私がきちんと支えて差し上げますから。後の事はどうぞおまかせください」
あなたは最初からこれをやりたかったのでしょう?
私が気づいていないとでも?
「マティウス様はあなたの事を溺愛されているみたいね。あなたが何を言っても信頼されているから」
「それが私たちの間の絆というものです。お姉様にはそれが全くなかったのですよ。だからこうして婚約破棄をされるようなことになってしまったのです。ここから追い出された後に、よくよく反省なさってくださいませ?」
「反省することもないような気がしているけれど…。あなたの好き嫌いだけでこうなることになったわけだから」
結局私の事が気に入らなかった、彼女の中にあるのはその理由だけなのでしょうね。
そのやり方がどこまで通用するかはわからなかったけれど、実際にやってみるとマティウス様は想像以上に彼女の方に肩入れをしていたから、なおさら彼女の自信を増進させる結果になったのでしょう。
「言わせていただきますけれど、お姉様なんて最初からいてもいなくてもどちらでもよかったのですよ。お兄様はそれくらいにしかお姉様の事なんて考えていなかったと思いますよ?その事がようやく理解できましたか?」
「ええ、そうね」
そうでもなかったら、私の事を婚約は記なんて言い出しもしないでしょうからね。
ここまで急に婚約破棄を決めてくるという事は、その程度にしか私との関係は考えられていなかったというなによりの証なのでしょう。
「けれど、これから先あなたが愛され続けるかどうかも私にはわからないわ。マティウス様にはなにか、お考えがあるようだけれど?」
「はい?負け惜しみですか?私たちの絆を壊そうとしたってそうはいきませんよ?お兄様が私に愛想を尽かすはずがないでしょう?自分がそうされたからって私にあたってこないでくださーい」
楽観的な口調でそう言葉を返してくるマリン。
けれど、私はそうなるだけの理由がきちんと浮かんでいるからこそ彼女にこの事を告げているのだけれど…。
「あなたがどこまで私の言葉を受け入れるかどうかは知らないけれど、一応警告だけしておいてあげるから。マティウス様はきっと、これから先は今までのようにはいかないわよ?あなたの事を無償で愛し続けたりはしないわよ?」
それは、私がここに婚約者として連れてこられたことを考えればわかるはず。
…マティウス様は、マリンの身代わりを求めている。
「どうしてマティウス様がわざわざ新しい婚約者を探しているのか…その事をよく考えてみるのね。あなたにもわかることがあると思うけれど」
「負け惜しみには付き合ってられませんから。もうこのくらいでいいですか?」
マリンは乱暴に会話を切り上げると、そのまま私の前から姿を消していった。
…それはどこか、私の言葉を聞いて嫌な予感を抱えたような雰囲気にも感じられた。
「ミレーナお姉様、お兄様と何かお話をされていたのですか?どのようなお話を?」
その表情は非常に楽しそうな雰囲気を放っており、彼女はすでに私が婚約破棄を告げられたことなど計算通りといった様子だった。
「マリン、私はマティウス様から婚約破棄をされてしまったわ。あなたの事を虐げたのが理由だそうよ」
「まぁ、それはお気の毒ですねぇ。私はお姉様の事をここに残してくださるようお兄様には掛け合っていたのですけれど…。それを聞き入れてもいただけないほどにお兄様はお怒りのご様子ですねぇ」
口でこそそう言葉を発するマリンだけれど、その言葉は間違いなく嘘なのだろう。
彼女が私のためにマティウス様に言葉をかけることなどあるはずがないのだから。
「そんな気を遣ってくれていたのね、それはどうもありがとう」
「婚約破棄ですかぁ。でも仕方ないですよねぇ。お兄様から愛想を尽かされてしまったのですから、これ以上関係を続けていく理由もないというものですものねぇ」
そもそも婚約破棄のきっかけを作ったのはあなたでしょうに、自分はまったくかかわっていないという態度を崩さない彼女。
あくまで自分は私の味方だけれど、助ける事ができなかったというストーリーで行きたいらしい。
「お兄様は最初こそお姉様の事を愛されていましたけど、すぐにお姉様の本性を見抜かれたのでしょうねぇ。私の事を一方的に悪く言ってきてばかりですから、仲良くなれるはずもありませんでしたし」
それは私のセリフなのだけれど…。
私は義理にも姉妹となる関係にあるマリンとの距離を、自分なりに縮めていこうといろいろと考えていた。
けれど彼女は私の事を一方的に毛嫌いし続けており、その思いに答えようとはしなかった。
おそらくは、マティウス様から向けられる溺愛の感情を私に横取りされることを恐れたのだと思うけれど。
「でもご心配はいりませんよお姉様。お兄様の事はおそばで私がきちんと支えて差し上げますから。後の事はどうぞおまかせください」
あなたは最初からこれをやりたかったのでしょう?
私が気づいていないとでも?
「マティウス様はあなたの事を溺愛されているみたいね。あなたが何を言っても信頼されているから」
「それが私たちの間の絆というものです。お姉様にはそれが全くなかったのですよ。だからこうして婚約破棄をされるようなことになってしまったのです。ここから追い出された後に、よくよく反省なさってくださいませ?」
「反省することもないような気がしているけれど…。あなたの好き嫌いだけでこうなることになったわけだから」
結局私の事が気に入らなかった、彼女の中にあるのはその理由だけなのでしょうね。
そのやり方がどこまで通用するかはわからなかったけれど、実際にやってみるとマティウス様は想像以上に彼女の方に肩入れをしていたから、なおさら彼女の自信を増進させる結果になったのでしょう。
「言わせていただきますけれど、お姉様なんて最初からいてもいなくてもどちらでもよかったのですよ。お兄様はそれくらいにしかお姉様の事なんて考えていなかったと思いますよ?その事がようやく理解できましたか?」
「ええ、そうね」
そうでもなかったら、私の事を婚約は記なんて言い出しもしないでしょうからね。
ここまで急に婚約破棄を決めてくるという事は、その程度にしか私との関係は考えられていなかったというなによりの証なのでしょう。
「けれど、これから先あなたが愛され続けるかどうかも私にはわからないわ。マティウス様にはなにか、お考えがあるようだけれど?」
「はい?負け惜しみですか?私たちの絆を壊そうとしたってそうはいきませんよ?お兄様が私に愛想を尽かすはずがないでしょう?自分がそうされたからって私にあたってこないでくださーい」
楽観的な口調でそう言葉を返してくるマリン。
けれど、私はそうなるだけの理由がきちんと浮かんでいるからこそ彼女にこの事を告げているのだけれど…。
「あなたがどこまで私の言葉を受け入れるかどうかは知らないけれど、一応警告だけしておいてあげるから。マティウス様はきっと、これから先は今までのようにはいかないわよ?あなたの事を無償で愛し続けたりはしないわよ?」
それは、私がここに婚約者として連れてこられたことを考えればわかるはず。
…マティウス様は、マリンの身代わりを求めている。
「どうしてマティウス様がわざわざ新しい婚約者を探しているのか…その事をよく考えてみるのね。あなたにもわかることがあると思うけれど」
「負け惜しみには付き合ってられませんから。もうこのくらいでいいですか?」
マリンは乱暴に会話を切り上げると、そのまま私の前から姿を消していった。
…それはどこか、私の言葉を聞いて嫌な予感を抱えたような雰囲気にも感じられた。
229
あなたにおすすめの小説
【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』
恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り
リリアーナ・レーヴェン(17)
容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる
完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢”
エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生
ユリウス・エルンスト(17)
誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“
祖父たちが、親しい学友であった縁から
エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに
5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。
果たして、この婚約は”政略“なのか?
幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー
今日もリリアーナの胸はざわつく…
🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨
【完結】妹の代わりなんて、もううんざりです
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
私アイラと妹マリンは、いわゆる双子だった。一卵性で同じ格好をしてしまえば、見分けがつかないほど姿かたちも声もすべて似ていた。
しかし病弱な妹は私よりも人に愛される術にたけていた。だから気づけば両親の愛も、周りの人たちの評判もすべて妹が独占してしまう。
それでも私には、自分を理解してくれる唯一の味方である婚約者のリオンがいる。それだけを支えに生きてきた。
しかしある日、彼はこう告げた。「君よりも妹の方を愛してしまったと」
そこから全てが狂い出す。私の婚約者だった彼は、妹の婚約者となった。そして私の大切なものが全てなくなった瞬間、妹はすべて自分の計画通りだと私をあざ笑った。
許せない、どうしても。復讐をしてしまいたいと思った瞬間、妹はあっけなく死んでしまった。どんどんと狂い出すは歯車に私は――
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
愛されヒロインの姉と、眼中外の妹のわたし
香月文香
恋愛
わが国の騎士団の精鋭二人が、治癒士の少女マリアンテを中心とする三角関係を作っているというのは、王宮では当然の常識だった。
治癒士、マリアンテ・リリベルは十八歳。容貌可憐な心優しい少女で、いつもにこやかな笑顔で周囲を癒す人気者。
そんな彼女を巡る男はヨシュア・カレンデュラとハル・シオニア。
二人とも騎士団の「双璧」と呼ばれる優秀な騎士で、ヨシュアは堅物、ハルは軽薄と気質は真逆だったが、女の好みは同じだった。
これは見目麗しい男女の三角関係の物語――ではなく。
そのかたわらで、誰の眼中にも入らない妹のわたしの物語だ。
※他サイトにも投稿しています
侯爵家を守るのは・・・
透明
恋愛
姑に似ているという理由で母親に虐げられる侯爵令嬢クラリス。
母親似の妹エルシーは両親に愛されすべてを奪っていく。
最愛の人まで妹に奪われそうになるが助けてくれたのは・・・
婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?
柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。
わたしには、妹なんていないのに。
嘘の誓いは、あなたの隣で
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。
けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。
噂、沈黙、そして冷たい背中。
そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、
一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。
――愛を信じたのは、誰だったのか。
カルバンが本当の想いに気づいた時には、
もうミッシェルは別の光のもとにいた。
好き避けするような男のどこがいいのかわからない
麻宮デコ@SS短編
恋愛
マーガレットの婚約者であるローリーはマーガレットに対しては冷たくそっけない態度なのに、彼女の妹であるエイミーには優しく接している。いや、マーガレットだけが嫌われているようで、他の人にはローリーは優しい。
彼は妹の方と結婚した方がいいのではないかと思い、妹に、彼と結婚するようにと提案することにした。しかしその婚約自体が思いがけない方向に行くことになって――。
全5話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる