そんなに義妹が好きだと言うなら、邪魔者の婚約者である私は静かに消えてあげます

睡蓮

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第2話

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私がマティウス様から婚約破棄を告げられ、部屋を出た直後、これをはじめから狙っていたかのようなタイミングでマリンが私の前に姿を現した。

「ミレーナお姉様、お兄様と何かお話をされていたのですか?どのようなお話を?」

その表情は非常に楽しそうな雰囲気を放っており、彼女はすでに私が婚約破棄を告げられたことなど計算通りといった様子だった。

「マリン、私はマティウス様から婚約破棄をされてしまったわ。あなたの事を虐げたのが理由だそうよ」
「まぁ、それはお気の毒ですねぇ。私はお姉様の事をここに残してくださるようお兄様には掛け合っていたのですけれど…。それを聞き入れてもいただけないほどにお兄様はお怒りのご様子ですねぇ」

口でこそそう言葉を発するマリンだけれど、その言葉は間違いなく嘘なのだろう。
彼女が私のためにマティウス様に言葉をかけることなどあるはずがないのだから。

「そんな気を遣ってくれていたのね、それはどうもありがとう」
「婚約破棄ですかぁ。でも仕方ないですよねぇ。お兄様から愛想を尽かされてしまったのですから、これ以上関係を続けていく理由もないというものですものねぇ」

そもそも婚約破棄のきっかけを作ったのはあなたでしょうに、自分はまったくかかわっていないという態度を崩さない彼女。
あくまで自分は私の味方だけれど、助ける事ができなかったというストーリーで行きたいらしい。

「お兄様は最初こそお姉様の事を愛されていましたけど、すぐにお姉様の本性を見抜かれたのでしょうねぇ。私の事を一方的に悪く言ってきてばかりですから、仲良くなれるはずもありませんでしたし」

それは私のセリフなのだけれど…。
私は義理にも姉妹となる関係にあるマリンとの距離を、自分なりに縮めていこうといろいろと考えていた。
けれど彼女は私の事を一方的に毛嫌いし続けており、その思いに答えようとはしなかった。
おそらくは、マティウス様から向けられる溺愛の感情を私に横取りされることを恐れたのだと思うけれど。

「でもご心配はいりませんよお姉様。お兄様の事はおそばで私がきちんと支えて差し上げますから。後の事はどうぞおまかせください」

あなたは最初からこれをやりたかったのでしょう?
私が気づいていないとでも?

「マティウス様はあなたの事を溺愛されているみたいね。あなたが何を言っても信頼されているから」
「それが私たちの間の絆というものです。お姉様にはそれが全くなかったのですよ。だからこうして婚約破棄をされるようなことになってしまったのです。ここから追い出された後に、よくよく反省なさってくださいませ?」
「反省することもないような気がしているけれど…。あなたの好き嫌いだけでこうなることになったわけだから」

結局私の事が気に入らなかった、彼女の中にあるのはその理由だけなのでしょうね。
そのやり方がどこまで通用するかはわからなかったけれど、実際にやってみるとマティウス様は想像以上に彼女の方に肩入れをしていたから、なおさら彼女の自信を増進させる結果になったのでしょう。

「言わせていただきますけれど、お姉様なんて最初からいてもいなくてもどちらでもよかったのですよ。お兄様はそれくらいにしかお姉様の事なんて考えていなかったと思いますよ?その事がようやく理解できましたか?」
「ええ、そうね」

そうでもなかったら、私の事を婚約は記なんて言い出しもしないでしょうからね。
ここまで急に婚約破棄を決めてくるという事は、その程度にしか私との関係は考えられていなかったというなによりの証なのでしょう。

「けれど、これから先あなたが愛され続けるかどうかも私にはわからないわ。マティウス様にはなにか、お考えがあるようだけれど?」
「はい?負け惜しみですか?私たちの絆を壊そうとしたってそうはいきませんよ?お兄様が私に愛想を尽かすはずがないでしょう?自分がそうされたからって私にあたってこないでくださーい」

楽観的な口調でそう言葉を返してくるマリン。
けれど、私はそうなるだけの理由がきちんと浮かんでいるからこそ彼女にこの事を告げているのだけれど…。

「あなたがどこまで私の言葉を受け入れるかどうかは知らないけれど、一応警告だけしておいてあげるから。マティウス様はきっと、これから先は今までのようにはいかないわよ?あなたの事を無償で愛し続けたりはしないわよ?」

それは、私がここに婚約者として連れてこられたことを考えればわかるはず。
…マティウス様は、マリンの身代わりを求めている。

「どうしてマティウス様がわざわざ新しい婚約者を探しているのか…その事をよく考えてみるのね。あなたにもわかることがあると思うけれど」
「負け惜しみには付き合ってられませんから。もうこのくらいでいいですか?」

マリンは乱暴に会話を切り上げると、そのまま私の前から姿を消していった。
…それはどこか、私の言葉を聞いて嫌な予感を抱えたような雰囲気にも感じられた。
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