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第3話
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――マティウス第一王子視点――
「マリン、ミレーナの事は婚約破棄したからもう安心だ。これで君の事を悪く言う者は誰もいなくなった」
「まぁ!ありがとうございますお兄様!」
僕の言葉を聞いたマリンは、心の底から嬉しそうな表情を見せてくれる。
ミレーナの存在を追い出すことくらい僕にとっては何でもない事ではあるのが、それでもこうして明るい表情を見せてくれるだけで、日々の頑張りが報われるような感覚を抱いていた。
「お姉様はずっと私のことが気に入らなかったみたいで、ずっといじめてきていたんです…」
「ああ、ずっと君から聞いていたからね。最後まで助けられずに、申し訳ない。許してくれ」
「そんな、とんでもありません。お兄様が謝られる必要なんてどこにもありません。私たちの関係を壊そうとしてきていたのはお姉様ではありませんか。お兄様はそんな相手から、私たちの絆を守ってくださったのです。私にはもう、どう感謝の言葉をお伝えしたらいいのかわかりません」
なかなか二人の関係が悪いという事に気づけなかったのは、すべて僕の責任だ。
元々は僕の始めた婚約関係であったため、そこまで考えが及んでいなかった。
…ミレーナならばマリンの代わりとなるに十分な魅力を持っているものと思っていたのだが、どうやらそうでもなかったらしい…。
「お兄様、これで私たちの平和な王宮は守られました。この記念に、どこかにお出かけしたい気分です!」
「おでかけか、確かに気分転換にはいいかもしれないな。ミレーナの事もひと段落着いたことだし、いっそ二人きりで楽しんで来ようか」
僕にとってマリンの申し出は意外なものだった。
ミレーナの事を追い出したとはいっても、いまだその心の中にはミレーナに負わされた傷が残っているものだと思っており、しばらくはこの王宮の中に引きこもってしまうのではないかという事を懸念していたのだ。
しかし、どうやら僕のそんな心配は全く不要なものであった様子。
「しかしマリン、本当に大丈夫なのかい?ミレーナによっていじめられていたんだから、少しくくらい無理をしてしまっているんじゃないのか?僕の前ではそれを隠す必要はどこにも…」
「……」
…その時、一瞬だけマリンがしまったという表情を浮かべた、ように僕には見えた。
それは確信を抱くには不十分すぎる時間であり、僕も心からそうだったと言えるものではなく、もしかしたらそうかもしれない、と言うにとどめられるほどのものだった。
…しかし、僕の心の中にはその光景が妙にひっかかった。
マリンが心の中に何を持っているのかは、もしかしたら僕の思っているものと違っているのかもしれない…。
「お兄様、私の心配をしてくださっているのですね…!本当にありがとうございます!でも、私はこの通り大丈夫ですよ!もちろん、お姉様からいじめられていた時は酷く傷ついてしまっていましたけれど、こうしてお兄様が私の事を助けてくださって、どこまでも私の味方でいてくださったおかげで、私は心を清潔に保つことができているのです!ですから御心配には及びません!」
「そうか、それならいいのだけれど…」
僕の前に限って、マリンが偽りの自分を演じているとは決して思いたくないものだった。
もちろん僕自身そんなものを信じてなどいないが、それでもなにか引っかかるものを感じずにはいられず…。
「…マリン、ミレーナの事を追い出した今だからこそ教えてほしいんだが、彼女からはどんな言葉を…」
「お兄様!過ぎ去った過去はもうどうでもいいではありませんか!私たちはあるべき姿に戻ることができたのですから、あとはもうこれまで通りに楽しい毎日に戻りましょう!ほら!」
…マリンの様子は明らかに、何かを隠しているように見て取れた…気がした。
もちろん彼女に二面性があるなどと僕は認めていないため、それが真実であるとは思っていない。
しかし、それでも僕の中に残り続ける言葉があった。
去り際にミレーナが僕にはなった、あの言葉…。
『私の予見は当たりますよ、元旦那様?』
あの時はただの苦し紛れの言葉だろうと思っていたのだが、今になって妙に気になってしまう…。
彼女にはどんな未来が予見されていたというのか…。
今にして思えば、婚約破棄を告げた時の彼女の雰囲気は非常に落ち着いていた。
まるで、そうなることが最初から分かっていたかのような…。
であるなら、彼女の発したあの言葉には何らかの意図があるという事となるわけだが、それにマリンが関連しているとでも言うのか…?
「お兄様、どうされたのですか?どこか体調でもすぐれないのですか?それなら私がお兄様のお仕事を代わりに勤めておきますから、今日は少しお休みになってはいかがですか?お兄様からの許可が得られていれば、誰も反対意見を言ってきたりはしないと思いますよ?」
…マリン、君はその言葉をどこまで本気で言っているんだ…。
僕にはそんな簡単な前提条件でさえも、濁って見えてきているような気がしてならなかった…。
「マリン、ミレーナの事は婚約破棄したからもう安心だ。これで君の事を悪く言う者は誰もいなくなった」
「まぁ!ありがとうございますお兄様!」
僕の言葉を聞いたマリンは、心の底から嬉しそうな表情を見せてくれる。
ミレーナの存在を追い出すことくらい僕にとっては何でもない事ではあるのが、それでもこうして明るい表情を見せてくれるだけで、日々の頑張りが報われるような感覚を抱いていた。
「お姉様はずっと私のことが気に入らなかったみたいで、ずっといじめてきていたんです…」
「ああ、ずっと君から聞いていたからね。最後まで助けられずに、申し訳ない。許してくれ」
「そんな、とんでもありません。お兄様が謝られる必要なんてどこにもありません。私たちの関係を壊そうとしてきていたのはお姉様ではありませんか。お兄様はそんな相手から、私たちの絆を守ってくださったのです。私にはもう、どう感謝の言葉をお伝えしたらいいのかわかりません」
なかなか二人の関係が悪いという事に気づけなかったのは、すべて僕の責任だ。
元々は僕の始めた婚約関係であったため、そこまで考えが及んでいなかった。
…ミレーナならばマリンの代わりとなるに十分な魅力を持っているものと思っていたのだが、どうやらそうでもなかったらしい…。
「お兄様、これで私たちの平和な王宮は守られました。この記念に、どこかにお出かけしたい気分です!」
「おでかけか、確かに気分転換にはいいかもしれないな。ミレーナの事もひと段落着いたことだし、いっそ二人きりで楽しんで来ようか」
僕にとってマリンの申し出は意外なものだった。
ミレーナの事を追い出したとはいっても、いまだその心の中にはミレーナに負わされた傷が残っているものだと思っており、しばらくはこの王宮の中に引きこもってしまうのではないかという事を懸念していたのだ。
しかし、どうやら僕のそんな心配は全く不要なものであった様子。
「しかしマリン、本当に大丈夫なのかい?ミレーナによっていじめられていたんだから、少しくくらい無理をしてしまっているんじゃないのか?僕の前ではそれを隠す必要はどこにも…」
「……」
…その時、一瞬だけマリンがしまったという表情を浮かべた、ように僕には見えた。
それは確信を抱くには不十分すぎる時間であり、僕も心からそうだったと言えるものではなく、もしかしたらそうかもしれない、と言うにとどめられるほどのものだった。
…しかし、僕の心の中にはその光景が妙にひっかかった。
マリンが心の中に何を持っているのかは、もしかしたら僕の思っているものと違っているのかもしれない…。
「お兄様、私の心配をしてくださっているのですね…!本当にありがとうございます!でも、私はこの通り大丈夫ですよ!もちろん、お姉様からいじめられていた時は酷く傷ついてしまっていましたけれど、こうしてお兄様が私の事を助けてくださって、どこまでも私の味方でいてくださったおかげで、私は心を清潔に保つことができているのです!ですから御心配には及びません!」
「そうか、それならいいのだけれど…」
僕の前に限って、マリンが偽りの自分を演じているとは決して思いたくないものだった。
もちろん僕自身そんなものを信じてなどいないが、それでもなにか引っかかるものを感じずにはいられず…。
「…マリン、ミレーナの事を追い出した今だからこそ教えてほしいんだが、彼女からはどんな言葉を…」
「お兄様!過ぎ去った過去はもうどうでもいいではありませんか!私たちはあるべき姿に戻ることができたのですから、あとはもうこれまで通りに楽しい毎日に戻りましょう!ほら!」
…マリンの様子は明らかに、何かを隠しているように見て取れた…気がした。
もちろん彼女に二面性があるなどと僕は認めていないため、それが真実であるとは思っていない。
しかし、それでも僕の中に残り続ける言葉があった。
去り際にミレーナが僕にはなった、あの言葉…。
『私の予見は当たりますよ、元旦那様?』
あの時はただの苦し紛れの言葉だろうと思っていたのだが、今になって妙に気になってしまう…。
彼女にはどんな未来が予見されていたというのか…。
今にして思えば、婚約破棄を告げた時の彼女の雰囲気は非常に落ち着いていた。
まるで、そうなることが最初から分かっていたかのような…。
であるなら、彼女の発したあの言葉には何らかの意図があるという事となるわけだが、それにマリンが関連しているとでも言うのか…?
「お兄様、どうされたのですか?どこか体調でもすぐれないのですか?それなら私がお兄様のお仕事を代わりに勤めておきますから、今日は少しお休みになってはいかがですか?お兄様からの許可が得られていれば、誰も反対意見を言ってきたりはしないと思いますよ?」
…マリン、君はその言葉をどこまで本気で言っているんだ…。
僕にはそんな簡単な前提条件でさえも、濁って見えてきているような気がしてならなかった…。
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