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第3話
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――それから一週間後の事――
「なんだかすごいことになっているみたいだな…。エリステル、まさかお前がここまで度胸のある娘だったとは…」
「べ、別に計算してやったわけではありませんから!!」
「だとしても、結果的に大きな影響をもたらすに至っている様子じゃないか。なかなかできることじゃないと思うぞ?」
侯爵様の元を勢いのままに飛び出してきた私は、そのまま元いた自分の家族のもとに戻った。
最初は何と言われるかわからなくて不安を抱えていたけれど、戻ってきた私の事をみんなは明るく迎え入れてくれて、今こうして私に率直な言葉をかけてくれている。
一人はお父様、もう一人は私のお兄様。
「私はもともと二人の婚約には反対だったからな。こうなってくれて大いに喜んでいるわけだが…」
「にしても父さん、侯爵様はなかなか大変なことになっているらしいですよ?」
「大変?どういう意味だ?」
「貴族の知り合いづてに聞いた話なのですが、婚約した女性に婚約式典の前に逃げられるというのは、長い貴族の歴史の中でも前代未聞の事のようで、かなり注目を集めているようです。そんな中で侯爵様に対して上がっている声が、侯爵様は本当に侯爵の位を持つにふさわしい人物なのかどうか、というものらしく…」
お兄様の話によると、私がいなくなった後の侯爵様はなかなかに忙しい日々を送っているらしい。
それ自体は聞こえはいいことだけれど、その実態は絶え間なく寄せられる批判的な言葉への対応なのでしょうね。
「自業自得としか言いようがないな。侯爵はエリステルの事を愛さなかったばかりか、その道中で別の女の事を自分の元に招き入れたらしいじゃないか。こうなったら二人ともどもまとめて天罰が下ってほしいものだ」
「それが実際、そうなりそうなのですよ。侯爵様の存在を面白くおもっていない者たちが勢いを持ち始めているようですし、近い将来それは実現することになるかもしれません」
私に婚約破棄をしてほしい、侯爵様はあの時そうつぶやいた。
その心の中にあった考えははっきりとは分からなかったけれど、向こうがそう言うのなら私はそれとは違うやり方で侯爵様との関係を終わりにしたいと考えた。
だって、言われたままに婚約破棄を伯爵様にお願いするだけでは、なんだか言われた通りに動いたみたいで嫌だったんだもの。
「それで父さん、侯爵様のほうは何か言ってきていないのですか?今大変な立場に置かれている彼の性格を考えれば、動きを見せてきてもおかしくはないかと思うのですが…」
「もちろん、動いているとも。その証拠に、エリステルが侯爵の所から戻って来てからというもの、毎日のように私の元に侯爵からの手紙が届けられている。その内容は決まって、エリステルの事を自分の元に戻してほしい、というものだ。やはり、エリステルが自らいなくなったことがかなり効いている様子だな」
最初は侯爵様に言われたことと違うやり方で、と思っただけだったけれど、それがまさかこんな形になるとは思ってもいなかった。
侯爵様を取り巻く環境は日に日に悪くなっていっているようで、向こうも私に戻って来てほしくて必死らしい。
「それでエリステル、君はどうするんだ?」
「どうするもなにも、戻るわけがないでしょう?お兄様だって、同じ立場だったらそうするでしょう?」
その手紙、今日届いたものは私も見させてもらった。
そこには性懲りもなく、自分は本当は君の事を愛している、それが伝わっていなかったようで悲しい、これからはそうならないように気を付けるから、ひとまず戻ってきてほしい、といった内容の言葉が書かれていた。
今更そんなうすっぺらい言葉に引き寄せられるわけもないというのに、彼はどこまでも頭の中が能天気な様子。
「侯爵様は私にいなくなってほしかった様子だったのですから、私はそれを叶えて差し上げただけなのです。それを後になって文句を言われても困りますから」
「クックック、エリステル、どうやら君は侯爵と婚約を果たしてから一回り以上強い存在になったらしい。勇ましいお前の姿を見られて、私もうれしいよ」
「ですね。こうなったら侯爵様には、最後の最後まで楽しませてもらう事にしましょう。他の貴族家の人々はすでに水面下で動きを始めているようですし、貴族会の勢力図が少しずつ変わってきていることは間違いありません。侯爵の浮気相手というのが誰なのかも気になりますしね」
「大方、他の貴族家の連中が気にしているのもそこだろうな。エリステルを失踪に追い込んでまで関係を深める相手と言うのなら、それはそれは大きな存在であることには間違いないと言われている。…もしかしたら自分の娘がそうなのかもしれない、なんて考えに憑りつかれてしまったら、いくら貴族家の長とは言えどとても冷静ではいられないだろうからな」
思いがけず多くの人々を巻き込んでの話になっていき、私は自分でも驚きを隠せない。
しかし、こうなってしまったなら最後までこの状況を楽しんだ方が良いに決まっている。
侯爵様がこれからどんな行動をとるのかを楽しみに見物しつつ、今後の展開に胸を躍らせる私であった。
「なんだかすごいことになっているみたいだな…。エリステル、まさかお前がここまで度胸のある娘だったとは…」
「べ、別に計算してやったわけではありませんから!!」
「だとしても、結果的に大きな影響をもたらすに至っている様子じゃないか。なかなかできることじゃないと思うぞ?」
侯爵様の元を勢いのままに飛び出してきた私は、そのまま元いた自分の家族のもとに戻った。
最初は何と言われるかわからなくて不安を抱えていたけれど、戻ってきた私の事をみんなは明るく迎え入れてくれて、今こうして私に率直な言葉をかけてくれている。
一人はお父様、もう一人は私のお兄様。
「私はもともと二人の婚約には反対だったからな。こうなってくれて大いに喜んでいるわけだが…」
「にしても父さん、侯爵様はなかなか大変なことになっているらしいですよ?」
「大変?どういう意味だ?」
「貴族の知り合いづてに聞いた話なのですが、婚約した女性に婚約式典の前に逃げられるというのは、長い貴族の歴史の中でも前代未聞の事のようで、かなり注目を集めているようです。そんな中で侯爵様に対して上がっている声が、侯爵様は本当に侯爵の位を持つにふさわしい人物なのかどうか、というものらしく…」
お兄様の話によると、私がいなくなった後の侯爵様はなかなかに忙しい日々を送っているらしい。
それ自体は聞こえはいいことだけれど、その実態は絶え間なく寄せられる批判的な言葉への対応なのでしょうね。
「自業自得としか言いようがないな。侯爵はエリステルの事を愛さなかったばかりか、その道中で別の女の事を自分の元に招き入れたらしいじゃないか。こうなったら二人ともどもまとめて天罰が下ってほしいものだ」
「それが実際、そうなりそうなのですよ。侯爵様の存在を面白くおもっていない者たちが勢いを持ち始めているようですし、近い将来それは実現することになるかもしれません」
私に婚約破棄をしてほしい、侯爵様はあの時そうつぶやいた。
その心の中にあった考えははっきりとは分からなかったけれど、向こうがそう言うのなら私はそれとは違うやり方で侯爵様との関係を終わりにしたいと考えた。
だって、言われたままに婚約破棄を伯爵様にお願いするだけでは、なんだか言われた通りに動いたみたいで嫌だったんだもの。
「それで父さん、侯爵様のほうは何か言ってきていないのですか?今大変な立場に置かれている彼の性格を考えれば、動きを見せてきてもおかしくはないかと思うのですが…」
「もちろん、動いているとも。その証拠に、エリステルが侯爵の所から戻って来てからというもの、毎日のように私の元に侯爵からの手紙が届けられている。その内容は決まって、エリステルの事を自分の元に戻してほしい、というものだ。やはり、エリステルが自らいなくなったことがかなり効いている様子だな」
最初は侯爵様に言われたことと違うやり方で、と思っただけだったけれど、それがまさかこんな形になるとは思ってもいなかった。
侯爵様を取り巻く環境は日に日に悪くなっていっているようで、向こうも私に戻って来てほしくて必死らしい。
「それでエリステル、君はどうするんだ?」
「どうするもなにも、戻るわけがないでしょう?お兄様だって、同じ立場だったらそうするでしょう?」
その手紙、今日届いたものは私も見させてもらった。
そこには性懲りもなく、自分は本当は君の事を愛している、それが伝わっていなかったようで悲しい、これからはそうならないように気を付けるから、ひとまず戻ってきてほしい、といった内容の言葉が書かれていた。
今更そんなうすっぺらい言葉に引き寄せられるわけもないというのに、彼はどこまでも頭の中が能天気な様子。
「侯爵様は私にいなくなってほしかった様子だったのですから、私はそれを叶えて差し上げただけなのです。それを後になって文句を言われても困りますから」
「クックック、エリステル、どうやら君は侯爵と婚約を果たしてから一回り以上強い存在になったらしい。勇ましいお前の姿を見られて、私もうれしいよ」
「ですね。こうなったら侯爵様には、最後の最後まで楽しませてもらう事にしましょう。他の貴族家の人々はすでに水面下で動きを始めているようですし、貴族会の勢力図が少しずつ変わってきていることは間違いありません。侯爵の浮気相手というのが誰なのかも気になりますしね」
「大方、他の貴族家の連中が気にしているのもそこだろうな。エリステルを失踪に追い込んでまで関係を深める相手と言うのなら、それはそれは大きな存在であることには間違いないと言われている。…もしかしたら自分の娘がそうなのかもしれない、なんて考えに憑りつかれてしまったら、いくら貴族家の長とは言えどとても冷静ではいられないだろうからな」
思いがけず多くの人々を巻き込んでの話になっていき、私は自分でも驚きを隠せない。
しかし、こうなってしまったなら最後までこの状況を楽しんだ方が良いに決まっている。
侯爵様がこれからどんな行動をとるのかを楽しみに見物しつつ、今後の展開に胸を躍らせる私であった。
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