「出て行け!」と言われたのですから、本当に出て行ってあげます!

睡蓮

文字の大きさ
2 / 6

第2話

しおりを挟む
――アレス視点――

「(さて、あれほど強く言葉をかけたなら、今まで以上にこの僕に従うこととなるだろう。人間を従えるというのはこやはり簡単なことだとも♪)」

第一王子である以上、相手の心を掌握するというのは非常に重要な能力となる。
それが自らの婚約者であるというのなら、その影響はさらに大きなものであろう。

「(これで本当にイザベラがいなくなるはずがない。逆に言えば、今まで以上に僕に対して逆らえないような思いにさせることができたはずだ。クックック、ここまで思惑通りに事が運べるとなんだか笑い声が出てくるな…♪)」

イザベラが第一王子であるこの僕に逆らうことなどありえない。
それはつまり、どれだけ強く言葉をかけようとも彼女はここを出ていくことなどありえないということになる。
ゆえに、僕はどれだけ彼女の事を強く縛ろうとも僕の自由であり、誰からの影響を受けることもなくイザベラの心を自分の思惑通りに操ることが可能なのだ。

「(婚約相手の心を自分の好き勝手に操る、男にとってこれほど至上の喜びと言えるものはないだろう。これから先もイザベラの心を縛り続けることで、彼女は僕にとって非常に都合のいい存在となるのだ)」

イザベラは整った顔立ちをしており、容姿はそれなりに美人と言っていい部類である。
だからこそ僕の周りの連中も彼女との婚約をうらやましがっており、実際僕が手を出さなければ僕以外の相手との婚約が早急に決まっていた可能性が高かった。
本人はその事をまったく理解していない様子だったが、そんな人気のある彼女だからこそ、僕は自分の言う通りに動く人形のようにしてしまいたいのだ。

「(僕に完全に付き従っているイザベラの様子を見せつければ、他の者たちは僕の事を心の底からうらやんでくるだろう。その時こそ僕は本当の意味で第一王子としての羨望のまなざしを向けられることになるのだ…!)」

これから先の展望を頭の中で妄想しつつ、僕はその日の活動を終えることとした。
さて、この国に住まう全員から羨望のまなざしを向けられるためにも、明日からも頑張らなければな…♪

――翌日――

「アレス様!!!アレス様はいらっしゃいますか!!!」

朝っぱらからうるさいなぁ…。
たぶんこの声は僕の世話担当のクメールだろう。
いつもいつも大したことのない知らせで大声を出しては、僕の心を逆なでしてくる存在だ。

「なんだ、朝っぱらからみっともない。少しは落ち着いたらどうだ」
「アレス様!!大変なのです!!!」

僕の部屋の扉越しに大きな声を上げてくるクメール。
どうせ大したことではないだろうと確信を持っている僕は、クメールの勢いについていくつもりもない。

「じゃあさっさと言ってくれ。どうせ大したことではないんだろ…」
「イザベラ様のお姿がどこにも見られないのです!!!」
「…はぁ??」

…想定外の言葉をかけられたことで、僕は少しあっけにとられてしまう。

「ど、どういうことだ?」
「く、詳しくはわからないのです…。ただ、気づいた時にはどこにもイザベラのお姿が見られないのです…!アレス様、なにかお心あたりなどはありませんか?」
「……」

心当たりがないかと言われれば、大ありだ。
つい昨日、あんな会話を行ったばかりだからだ。
…それじゃあまさか、彼女はあの時の会話をそのまま現実に再現し、本当にいなくなったというのか…?

「アレス様?どうですか、アレス様?」
「……」

…ただ、その事を口にできるほど僕は負けを認めたくはなかった。
出ていきたいなら出て行けと言って本当に出ていかれるほど、間抜けな男はいない。
それを気にしているのならなおの事…。
これをそのままクメールに言ってしまったなら、僕の行いの全てが王宮中、ひいては国中に広まっていくこととなり、その全員から指をさされて笑われることになってしまいかねない…。

「こ、心当たりなどあるはずがないだろう。落ち着け、きっと少し散歩にでも出ているんだろう」
「し、しかしアレス様、今までこのような状況が一度もなかったわけですから、最悪の可能性を想定して動かれる方がいいかと思うのですが…」
「……」

普段はたいして役にも立たないくせに、こういうときだけは冷静で的確な言葉をかけてくる…。
しかし、今回ばかりはその的確な言葉に従うわけにはいかない。

「いいから落ち着け、大事にするんじゃない。こんなことが貴族家や他の王族に知られたりしたなら、大きな混乱をもたらすかもしれない。このことは絶対に表にするんじゃない」
「は、はい……」

混乱などどうでもいい。
しかしこのことを知られてしまっては、僕の思い描いていた誰からも羨望される理想の第一王子から大きく遠ざかってしまう。
それだけはなんとしても阻止しなければ…。

「(イザベラのやつ、まさかここまで本気だったとは…。これは絶対に内密に解決しなければ…)」

第一王子として、婚約前に婚約者に逃げられることほど哀れなことはない。
…こんな恥ずかしい事実、絶対に誰にも知られるわけにはいかないのだ…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「無理をするな」と言うだけで何もしなかったあなたへ。今の私は、大公家の公子に大切にされています

葵 すみれ
恋愛
「無理をするな」と言いながら、仕事も責任も全部私に押しつけてきた婚約者。 倒れた私にかけたのは、労りではなく「失望した」の一言でした。 実家からも見限られ、すべてを失った私を拾い上げてくれたのは、黙って手を差し伸べてくれた、黒髪の騎士── 実は、大公家の第三公子でした。 もう言葉だけの優しさはいりません。 私は今、本当に無理をしなくていい場所で、大切にされています。 ※他サイトにも掲載しています

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした

今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。 二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。 しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。 元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。 そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。 が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。 このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。 ※ざまぁというよりは改心系です。 ※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。

今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから

毛蟹
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。 ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。 彼女は別れろ。と、一方的に迫り。 最後には暴言を吐いた。 「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」  洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。 「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」 彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。 ちゃんと、別れ話をしようと。 ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。

この結婚には、意味がある?

みこと。
恋愛
公爵家に降嫁した王女アリアは、初夜に夫から「オープンマリッジ」を提案される。 婚姻関係を維持しながら、他の異性との遊戯を認めろ、という要求を、アリアはどう解釈するのか? 王宮で冷遇されていた王女アリアの、密かな目的とは。 この結婚は、アリアにとってどんな意味がある? ※他のサイトにも掲載しています。 ※他タイトル『沈黙の聖女は、ある日すべてを暴露する』も収録。←まったく別のお話です

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

処理中です...