2 / 6
第2話
「お母様、頼まれていた紅茶をお届けに…」
「あら、あなたには頼んでいないはずだけれど?私はフューエルに頼んでいたはずだけれど?」
「伯爵様はお仕事がございまして、代わりに私が…」
「はぁ…。あなたの顔を見たらせっかくの紅茶がまずくなっちゃうじゃない。あと、私のティーカップに勝手に触らないでもらえる?気持ちが悪いから」
「……」
誰の目にも分かるほどの嫌悪感を放ちながら、そう言葉を発するお母様。
フューエル様との婚約関係を結んだ私の事を最も受け入れられない存在であるのは、彼女だった。
「あなたに仕事をあげるわ。そのカップ、捨てておいてちょうだい」
「そ、それは…」
「だって、あなたが触ったものでしょう?汚くて見たくもないわ」
「……」
こんな言葉をかけられるのは、決して今に始まった事ではない。
私が伯爵様との婚約関係を結んでからというもの、お母様との関係はずっとこのような感じだった。
…それこそ、私は最初の事はもう心が壊れてしまいそうな思いを抱いていた。
今も、そうではないとは言い切れないけれど…。
「はぁ…。どれだけ考えても分からないわ…。どうしてフューエルがあなたみたいな女を婚約者として決めたのか…。伯爵家の将来の事を考えるなら、もっとふさわしい相手がいたでしょうに…」
毎日の用にかけられるこのような小言。
私が伯爵様に相談すれば少しは変わってくるのかもしれないけれど、それは私にはできなかった。
伯爵様は私の事を本当に愛してくださっていて、それを私も心で感じている。
伯爵様は私がやりやすいように色々な人たちに声をかけて回ってくれていて、その気遣いに私は助けられっぱなしなのだ。
…だからこそ、ここで伯爵様の仕事を増やしてしまうような事は、私はしたくなかった。
「言っておくけれど、私があなたの事を受け入れる日は永久に訪れないから。何を言ってフューエルに取り入ったのかは知らないけれど、どうせこの伯爵家を我が物にすることしか考えていないのでしょう?そんなろくでもない女の狙い通りになんて、絶対にさせませんから」
「……」
「周りの誰も言わないみたいだから、私がはっきり教えてあげるわ。あなた、フューエルの婚約相手としてふさわしくなんかないわよ。私にはあなたの魅力が全く感じられないんだもの。それでもフューエルが婚約関係を維持するというのなら、それはもうあなたに誘惑されているとか、なにか弱みを握られているとしか思えないわ」
そんな事何もないと何度も何度も言っているのに、一向に私の話を聞こうとはしてくれないお母様。
それどころか、ありもしない妄想に憑りつかれる光景は日を追うごとに益々悪化しているように感じられた。
「ですから、私の事を誘ってくださったのは伯爵様の方からで、私はその思いに答えさせていただく形で…」
「そんなの信じられないわ。あなたが作り上げた都合のいいストーリーに過ぎないのでしょう?」
「ま、前にも伯爵様からお話頂いたではありませんか…。それをお聞きになっていたでしょう…?」
「あれだって、彼が本心から言ったものかどうかは分からないわ。あなたが裏でそう言わせているって可能性の方が高いじゃない」
「……」
「私は彼の母親なんだから、彼の考えていることはよくわかるの。その直感が言ってるのよ。あなたは伯爵夫人として全く相応しくないってね」
「……」
「それなのに、一体いつまでここに居座るつもりなのかしら…。その神経の図太さは
尊敬されるレベルかもしれないけれど、周りの迷惑を考えられない無神経さはどうかしら。尊敬されるものかしら?」
「……」
私がどれだけ事実をお話しても、あるいは正直な思いを言葉にしても、お母様から帰ってくる言葉はいつもこのようなものだった。
…お母様には完全に、自分の信じるものしか見えていない様子…。
「まったく、フューエルもいつになったら私の言葉を聞き入れるのかしら…。私はずっと、侯爵令嬢のミレナ様が相手としてふさわしいとずっと言っているのに…」
そのミレナ様こそ、私が聞く限り全く性格の良い人ではなかった。
同時に複数の男性との関係を持つことが当たり前の状態になっているらしく、そこにためらいも全く持たないタイプの人だという話だ。
自分の事を好きな男性同士を競わせるようなやり方を行うのもいつもの事で、彼女に人生を狂わされてしまった男性は多いという噂…。
「ミレナ様は、私に会った時非常に心地の良い挨拶をしてくれたわ。それに、私が喜ぶだけのものをプレゼントしてくださったしね。ああいう気遣いができる子こそ、フューエルには相応しいとずっと言っているのに…。どうして私のいう事が聞けないのかしら…」
それはプレゼントではなく、賄賂と呼ぶんですよお母さま…。
私はその事を心の底から教えて差し上げたかったけれど、それこそ1を言って100が返ってくるような気しかしなかったために、自分の心の中だけにとどめておくこととした。
「あなたにはミレナのような魅力はないものね。私の事なんて全く尊敬もしていないのでしょう?そんな可愛げのない女、やっぱりここで受け入れるわけにはいかないわ」
少し落ち着いたかと思ったら、お母様は再び私に対して攻撃を始める。
その様子はもう慣れた光景ではあるけれど、それでも腹立たしさを感じずにはいられないもの…。
「あなたも心の中では自覚しているんじゃないの?自分は伯爵夫人としてふさわしくないと」
「そ、それは…」
それは確かに、私自身が心の中に抱いている思いではあった。
でも、そんな私でも構わないと伯爵様はずっと言ってくださっているし、だからこそ私も、一日も早く伯爵様の隣に立つものとしてふさわしい存在になれるよう頑張って…。
「その顔、自分でも思っているんでしょう?ならとっとと出て行ってくれないかしら?あなたがいなくなっても困る人なんて誰もいないし、むしろこの家にとってはその方がうれしい事なの。あなたももうわかっているんでしょう?」
「……」
ここまでの言葉を言われたのは、これが初めてだった。
…でも、その時私はそれまでとは少し違った考え方になった。
本当にその通りに、家出してみたらどうなるのだろうか、と…。
「あら、あなたには頼んでいないはずだけれど?私はフューエルに頼んでいたはずだけれど?」
「伯爵様はお仕事がございまして、代わりに私が…」
「はぁ…。あなたの顔を見たらせっかくの紅茶がまずくなっちゃうじゃない。あと、私のティーカップに勝手に触らないでもらえる?気持ちが悪いから」
「……」
誰の目にも分かるほどの嫌悪感を放ちながら、そう言葉を発するお母様。
フューエル様との婚約関係を結んだ私の事を最も受け入れられない存在であるのは、彼女だった。
「あなたに仕事をあげるわ。そのカップ、捨てておいてちょうだい」
「そ、それは…」
「だって、あなたが触ったものでしょう?汚くて見たくもないわ」
「……」
こんな言葉をかけられるのは、決して今に始まった事ではない。
私が伯爵様との婚約関係を結んでからというもの、お母様との関係はずっとこのような感じだった。
…それこそ、私は最初の事はもう心が壊れてしまいそうな思いを抱いていた。
今も、そうではないとは言い切れないけれど…。
「はぁ…。どれだけ考えても分からないわ…。どうしてフューエルがあなたみたいな女を婚約者として決めたのか…。伯爵家の将来の事を考えるなら、もっとふさわしい相手がいたでしょうに…」
毎日の用にかけられるこのような小言。
私が伯爵様に相談すれば少しは変わってくるのかもしれないけれど、それは私にはできなかった。
伯爵様は私の事を本当に愛してくださっていて、それを私も心で感じている。
伯爵様は私がやりやすいように色々な人たちに声をかけて回ってくれていて、その気遣いに私は助けられっぱなしなのだ。
…だからこそ、ここで伯爵様の仕事を増やしてしまうような事は、私はしたくなかった。
「言っておくけれど、私があなたの事を受け入れる日は永久に訪れないから。何を言ってフューエルに取り入ったのかは知らないけれど、どうせこの伯爵家を我が物にすることしか考えていないのでしょう?そんなろくでもない女の狙い通りになんて、絶対にさせませんから」
「……」
「周りの誰も言わないみたいだから、私がはっきり教えてあげるわ。あなた、フューエルの婚約相手としてふさわしくなんかないわよ。私にはあなたの魅力が全く感じられないんだもの。それでもフューエルが婚約関係を維持するというのなら、それはもうあなたに誘惑されているとか、なにか弱みを握られているとしか思えないわ」
そんな事何もないと何度も何度も言っているのに、一向に私の話を聞こうとはしてくれないお母様。
それどころか、ありもしない妄想に憑りつかれる光景は日を追うごとに益々悪化しているように感じられた。
「ですから、私の事を誘ってくださったのは伯爵様の方からで、私はその思いに答えさせていただく形で…」
「そんなの信じられないわ。あなたが作り上げた都合のいいストーリーに過ぎないのでしょう?」
「ま、前にも伯爵様からお話頂いたではありませんか…。それをお聞きになっていたでしょう…?」
「あれだって、彼が本心から言ったものかどうかは分からないわ。あなたが裏でそう言わせているって可能性の方が高いじゃない」
「……」
「私は彼の母親なんだから、彼の考えていることはよくわかるの。その直感が言ってるのよ。あなたは伯爵夫人として全く相応しくないってね」
「……」
「それなのに、一体いつまでここに居座るつもりなのかしら…。その神経の図太さは
尊敬されるレベルかもしれないけれど、周りの迷惑を考えられない無神経さはどうかしら。尊敬されるものかしら?」
「……」
私がどれだけ事実をお話しても、あるいは正直な思いを言葉にしても、お母様から帰ってくる言葉はいつもこのようなものだった。
…お母様には完全に、自分の信じるものしか見えていない様子…。
「まったく、フューエルもいつになったら私の言葉を聞き入れるのかしら…。私はずっと、侯爵令嬢のミレナ様が相手としてふさわしいとずっと言っているのに…」
そのミレナ様こそ、私が聞く限り全く性格の良い人ではなかった。
同時に複数の男性との関係を持つことが当たり前の状態になっているらしく、そこにためらいも全く持たないタイプの人だという話だ。
自分の事を好きな男性同士を競わせるようなやり方を行うのもいつもの事で、彼女に人生を狂わされてしまった男性は多いという噂…。
「ミレナ様は、私に会った時非常に心地の良い挨拶をしてくれたわ。それに、私が喜ぶだけのものをプレゼントしてくださったしね。ああいう気遣いができる子こそ、フューエルには相応しいとずっと言っているのに…。どうして私のいう事が聞けないのかしら…」
それはプレゼントではなく、賄賂と呼ぶんですよお母さま…。
私はその事を心の底から教えて差し上げたかったけれど、それこそ1を言って100が返ってくるような気しかしなかったために、自分の心の中だけにとどめておくこととした。
「あなたにはミレナのような魅力はないものね。私の事なんて全く尊敬もしていないのでしょう?そんな可愛げのない女、やっぱりここで受け入れるわけにはいかないわ」
少し落ち着いたかと思ったら、お母様は再び私に対して攻撃を始める。
その様子はもう慣れた光景ではあるけれど、それでも腹立たしさを感じずにはいられないもの…。
「あなたも心の中では自覚しているんじゃないの?自分は伯爵夫人としてふさわしくないと」
「そ、それは…」
それは確かに、私自身が心の中に抱いている思いではあった。
でも、そんな私でも構わないと伯爵様はずっと言ってくださっているし、だからこそ私も、一日も早く伯爵様の隣に立つものとしてふさわしい存在になれるよう頑張って…。
「その顔、自分でも思っているんでしょう?ならとっとと出て行ってくれないかしら?あなたがいなくなっても困る人なんて誰もいないし、むしろこの家にとってはその方がうれしい事なの。あなたももうわかっているんでしょう?」
「……」
ここまでの言葉を言われたのは、これが初めてだった。
…でも、その時私はそれまでとは少し違った考え方になった。
本当にその通りに、家出してみたらどうなるのだろうか、と…。
あなたにおすすめの小説
幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか
ラムネ
恋愛
侯爵令嬢リオナは、婚約者アルベルトが「幼馴染が可哀想だから」と約束を破り続ける日々に耐えていた。領地再建の帳簿も契約も、実はリオナが陰で支えていたのに、彼は「君は強いから」と当然のように扱う。決定的な侮辱の夜、リオナは怒らず泣かず、完璧な笑顔で婚約指輪だけを返して屋敷を去った――引継ぎは、何一つ残さずに。
翌日から止まる交易、崩れる資金繰り、露出する不正。追いすがるアルベルトを置き去りに、リオナは王立監査院の臨時任官で辺境へ。冷徹と噂される監察騎士レオンハルトと共に、数字と契約で不正を断ち、交易路を再生していく。
笑顔で去っただけなのに、泣くのは捨てた側だった。
完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。
結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに
「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……
病弱な姉は、何でも許されると勘違いしている。だから、あえて婚約者を譲ってやった。が、姉は知らない。彼は「病弱な幼馴染」を最優先することを
ぽんた
恋愛
※全七話
ラン・ブラックバーン伯爵令嬢には、病弱な姉がいる。姉は、病弱をいいことにランからいろいろなものを奪っている。そして、今回は婚約者。ランの生まれながらの婚約者をよこせという。ランは、抵抗した。婚約者を姉にさしだすことを渋った。しかし、姉を愛する両親と兄からも譲るようきつく言われ、ランはついに了承する。しかし、ランの婚約者には「病弱な幼馴染」がいて、ランの婚約者はすべてにおいてその「病弱な幼馴染」を優先するのだった。はたして病弱な姉は、「病弱な幼馴染」に勝てるのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
初夜に放置された花嫁は、不誠実な男を許さない~不誠実な方とはお別れして、誠実な方と幸せになります~
明衣令央
恋愛
初夜に新郎は元婚約者の元へと走り、放置された侯爵令嬢セシリア。
悲しみよりも屈辱と怒りを覚えた彼女は、その日のうちに父に連絡して実家に帰り、結婚相手に婚姻無効叩きつけた。
セシリアを軽んじた新郎と元婚約者は、社交界の制裁を受けることになる。
追い詰められた元婚約者の男爵家が放った刺客に襲われそうになったセシリアを救ったのは、誠実で不器用な第三騎士団副隊長レオン。
「放置どころか、一晩中、離すつもりはないよ」
初夜から始まったセシリアの物語は、やがて前回とは違う初夜へと辿り着く――。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
わたしに冗談なんて通じません。だから二度と婚約者面なんてしないでくださいね
うさこ
恋愛
特殊な騎士の家で育った私には婚約者がいた。
今思えば、彼は私に好きになれと強要していた。
そんな私は婚約破棄を言い渡されーー
※ざまぁです
妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。
しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。
ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。
セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。