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第1話
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「ミリア、今日は君に大事な話がある。よく聞いてくれ」
厳かな雰囲気でそう言葉を発するのは、私の婚約者であるレーベット侯爵様。
独特の緊張感が私たち二人を包んでいくけれど、彼が言いたいであろう言葉の内容に私は心当たりがあった。
「ミリア、君との婚約は今日をもって終わりにすることに決めた。他でもない、君が僕の思いを裏切ったためだ」
「……」
やはりそうか、と私は心の中で言葉をつぶやく。
果たして本当に思いを裏切ったのは、私ではなくあなたの方なのではないかと言いたくて仕方がないけれど、ここでそんなことを言ったところでなんにもならない。
「リナリーからの話によれば、君は社交界の場で他の貴族家の男たちと好き勝手楽しんでいたそうじゃないか。僕が不在であることをいいことにそんなことをするなど、僕に対する裏切り以外の何物でもない。これは罪として断罪されても文句の言えないものだぞ?」
「……」
堂々とした口調でそう説明を重ねるレーベット侯爵様。
今彼が口にしたリナリーというのは、彼にとって幼馴染に当たる人物。
侯爵様はリナリーの事を心から溺愛しており、彼女のいう事を何でも受け入れていた。
リナリーはリナリーで自分が侯爵様から溺愛を受けていることを当然知っているため、その感情を利用して気に入らない相手の事を下げにかかる行動をこれまで何度もとってきていた。
「リナリーは本当に僕の事を心配してくれてそう言葉をかけてくれたんだ。きっと、その心の中ではいろいろな思いがあったに違いない。僕は彼女の言葉に報いればならないんだ」
「……」
自分から婚約関係を半ば強引に結んでおいて、少し調子が悪くなるとこうして一方的に関係を破棄する。
そのやり方もリナリーの入れ知恵であるのは間違いなく、侯爵様は彼女が思い描いた通りに行動してしまっていた。
「…それでは、もう私は必要ないという事でしょうか?」
「簡単に言えばそうなるな。ミリア、君も彼女のようにふるまっていればよかったと思うぞ?どうしてそうしなかったのか僕には疑問でならないが…」
「それは、リナリーが自分の事しか考えない性格だからで…」
「……」
私がそこまで口にした時、侯爵様は分かりやすく怪訝そうな表情を浮かべる。
彼女の事を溺愛するその身にとって、私の言う言葉は決して受け入れられるものではなかったのだろう。
自分にその心当たりがないのならなおさら。
「ミリア、君はなにか勘違いしているんじゃないのか?僕に言わせれば、リナリーの事を悪く言おうとする君の方こそ問題があるように見えてならないが?彼女は本当に僕の事を思ってくれていて、君との関係だってなにかとアドバイスをくれていたんだ。しかし、そんな期待を裏切ったのは君の方だろう?」
そのアドバイスに問題があると言っているのに…。
たぶん、私の事を一方的に悪く言う内容で自分の印象を良くするものばかりを公爵様に吹き込んでいたのだろう。
そしてそれをそのまま信じてしまった侯爵様は、その考えがますますこりかたまっていってしまって…。
「ミリア、君がなんと言い訳をしようとも婚約破棄はもう決めたことだ。いまさら何を言われたとしても撤回することはない。まだ自分にもチャンスがあると思っているのかもしれないが、もうそれは過去の話だ。今の僕にとってはなによりリナリーが大切であり、全てなのだから」
「……」
うれしそうな口調でそう言葉を発する侯爵様の姿は、彼がどれだけリナリーの事を溺愛しているのかを物語っている。
幼馴染とは、そんなにいいものなのだろうか…?
ただただ年齢が一緒というだけで、そんなに一方的な信頼を置いてしまってもいいものなのだろうか…?
今婚約をしている立場だというのに、幼馴染の事を好いているから婚約者を冷遇してもいいなど、ましてや婚約を破棄することなど、認められるのだろうか…?
「ミリア、婚約破棄の原因はあくまで君の方にあるという事を忘れるんじゃないぞ?まるで自分は被害者であるかのような表情をしているが、君は被害者ではなく加害者なのだからな」
「……」
私の気持ちなんて、なんとも思っていない様子の侯爵様。
そこにはリナリーに対する思いだけが見え隠れしていて、かつて私に愛の言葉をかけてくれた人の姿とは到底思えなかった。
「ミリア、すぐにここから出て行く準備をしてくれたまえ。君の使っていた部屋にはそのままリナリーに入ってもらおうと思っているからな」
「…どうしてわざわざ私の部屋に?」
「彼女がそうしてくれと言ったんだよ。君の思いをそのまま引き継いでみせると言ってね。なんと美しい感情だろう、そう思わないか?」
「美しい…?」
それをどう受け取ったら美しいものだと思えるのだろう…。
それはどう考えたって、私に対するあてつけでしかない。
私の過ごしていた部屋をそのまま自分のものにすることで、彼女は婚約者としての立場を私から完全に奪い取ったとアピールしたいのだろう…。
「そこまでお考えなのならもういいです…。婚約破棄いたしましょう」
厳かな雰囲気でそう言葉を発するのは、私の婚約者であるレーベット侯爵様。
独特の緊張感が私たち二人を包んでいくけれど、彼が言いたいであろう言葉の内容に私は心当たりがあった。
「ミリア、君との婚約は今日をもって終わりにすることに決めた。他でもない、君が僕の思いを裏切ったためだ」
「……」
やはりそうか、と私は心の中で言葉をつぶやく。
果たして本当に思いを裏切ったのは、私ではなくあなたの方なのではないかと言いたくて仕方がないけれど、ここでそんなことを言ったところでなんにもならない。
「リナリーからの話によれば、君は社交界の場で他の貴族家の男たちと好き勝手楽しんでいたそうじゃないか。僕が不在であることをいいことにそんなことをするなど、僕に対する裏切り以外の何物でもない。これは罪として断罪されても文句の言えないものだぞ?」
「……」
堂々とした口調でそう説明を重ねるレーベット侯爵様。
今彼が口にしたリナリーというのは、彼にとって幼馴染に当たる人物。
侯爵様はリナリーの事を心から溺愛しており、彼女のいう事を何でも受け入れていた。
リナリーはリナリーで自分が侯爵様から溺愛を受けていることを当然知っているため、その感情を利用して気に入らない相手の事を下げにかかる行動をこれまで何度もとってきていた。
「リナリーは本当に僕の事を心配してくれてそう言葉をかけてくれたんだ。きっと、その心の中ではいろいろな思いがあったに違いない。僕は彼女の言葉に報いればならないんだ」
「……」
自分から婚約関係を半ば強引に結んでおいて、少し調子が悪くなるとこうして一方的に関係を破棄する。
そのやり方もリナリーの入れ知恵であるのは間違いなく、侯爵様は彼女が思い描いた通りに行動してしまっていた。
「…それでは、もう私は必要ないという事でしょうか?」
「簡単に言えばそうなるな。ミリア、君も彼女のようにふるまっていればよかったと思うぞ?どうしてそうしなかったのか僕には疑問でならないが…」
「それは、リナリーが自分の事しか考えない性格だからで…」
「……」
私がそこまで口にした時、侯爵様は分かりやすく怪訝そうな表情を浮かべる。
彼女の事を溺愛するその身にとって、私の言う言葉は決して受け入れられるものではなかったのだろう。
自分にその心当たりがないのならなおさら。
「ミリア、君はなにか勘違いしているんじゃないのか?僕に言わせれば、リナリーの事を悪く言おうとする君の方こそ問題があるように見えてならないが?彼女は本当に僕の事を思ってくれていて、君との関係だってなにかとアドバイスをくれていたんだ。しかし、そんな期待を裏切ったのは君の方だろう?」
そのアドバイスに問題があると言っているのに…。
たぶん、私の事を一方的に悪く言う内容で自分の印象を良くするものばかりを公爵様に吹き込んでいたのだろう。
そしてそれをそのまま信じてしまった侯爵様は、その考えがますますこりかたまっていってしまって…。
「ミリア、君がなんと言い訳をしようとも婚約破棄はもう決めたことだ。いまさら何を言われたとしても撤回することはない。まだ自分にもチャンスがあると思っているのかもしれないが、もうそれは過去の話だ。今の僕にとってはなによりリナリーが大切であり、全てなのだから」
「……」
うれしそうな口調でそう言葉を発する侯爵様の姿は、彼がどれだけリナリーの事を溺愛しているのかを物語っている。
幼馴染とは、そんなにいいものなのだろうか…?
ただただ年齢が一緒というだけで、そんなに一方的な信頼を置いてしまってもいいものなのだろうか…?
今婚約をしている立場だというのに、幼馴染の事を好いているから婚約者を冷遇してもいいなど、ましてや婚約を破棄することなど、認められるのだろうか…?
「ミリア、婚約破棄の原因はあくまで君の方にあるという事を忘れるんじゃないぞ?まるで自分は被害者であるかのような表情をしているが、君は被害者ではなく加害者なのだからな」
「……」
私の気持ちなんて、なんとも思っていない様子の侯爵様。
そこにはリナリーに対する思いだけが見え隠れしていて、かつて私に愛の言葉をかけてくれた人の姿とは到底思えなかった。
「ミリア、すぐにここから出て行く準備をしてくれたまえ。君の使っていた部屋にはそのままリナリーに入ってもらおうと思っているからな」
「…どうしてわざわざ私の部屋に?」
「彼女がそうしてくれと言ったんだよ。君の思いをそのまま引き継いでみせると言ってね。なんと美しい感情だろう、そう思わないか?」
「美しい…?」
それをどう受け取ったら美しいものだと思えるのだろう…。
それはどう考えたって、私に対するあてつけでしかない。
私の過ごしていた部屋をそのまま自分のものにすることで、彼女は婚約者としての立場を私から完全に奪い取ったとアピールしたいのだろう…。
「そこまでお考えなのならもういいです…。婚約破棄いたしましょう」
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