20 / 204
第一章
白木蓮の女怪 《六》
しおりを挟む
※後半、残酷で胸くそ悪くなるような表現がございます。ストレスを感じると思われる方はお読みにならないで下さい。m(__)m
********
華魂には、様々な形があると言われている。その中で、氷の花の形をした物を雪魂と言う。あの女怪の胸元には、薄い水色をした水晶の花が埋め込まれていた。
華魂は、生きながらにして植え付けられた者の魂をすいとり、その身を消滅させる。すいとられた魂が復活することは、二度とない。
華魂は、本人、それ以外を問わず、魂をすうたびに大きくなり、その力を発揮する。邪神や鬼神は、大きな物を好む。それ故に、様々な生きとし生ける者に植え付け、大きくしていく。すいとった魂が多ければ多いほど、その力は邪悪で大きくなるからだ。
悪神と呼ばれる奴等が好きそうな物だ。
玄奘は抗戦を強いられる中、何かを探るように女怪の睛眸を見つめている沙麼蘿の姿に気がついて、思わず後退りその動きを止めた。
嫌な予感がした。知りたくないもの、知らなければよかった何かを、この女が暴き出すような気がして……。
「お前達は何故、早くこの女に止めを刺さなかった。何故、捨て置くような真似をした!」
突然叫んだ沙麼蘿のその声に、この女怪を知る者達は振り返った。
「何故だと」
ふざけるなと、玄奘は思った。本当に良い子だったのだ、親思いで明るく優しい、誰をも思いやることができる子だったのだ。
だから皆、目の前にどんな地獄が広がっていたとしても、躊躇われたのだ。この少女の命を絶ちきることが。元の、心優しいあの娘を知っていればこそ。
“フン”と、沙麼蘿は馬鹿にするように鼻で笑った。
「お前達は、己がおかした罪を見るがいい。神仏に仕える身でありながら、見誤ったのだ。お前達さえことの本質を見逃さなければ、こんなにも苦しめることはなかっただろうに」
沙麼蘿の言葉に、十二年前をしる者達は、自分の全身が粟立つのを感じた。何を見落とした、何を見誤った、と。
ソロリと、大神が動きだし、沙麼蘿の足元にやって来ると、夜空に輝く月を見て “ウォーーーン!!” と吠えた。次の瞬間、沙麼蘿が
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・ガララヤン・ソワカ」
と呟き、その指先が何かの印を結んだ。すると、女怪の回りに薄赤い透明な壁のような物が現れて取り囲む。
女怪は行く手を壁にはばまれ身動きが取れなくなった。だがそれでも、何とか壁を抜け玄奘の元に向かおうと暴れていた。
「……!!」
女怪を取り囲む壁に、何かがうっすらと浮き出るように現れる。それはまるで、絵巻物が流れるように過去を写し出していった。
そう、あの日の知られざる真実を。彼らが、決して見ようとしなかった、その真実の姿を。
その日は、良い天気だった。少女はいつものように、その身体にしては大きな桶を持ち、川へ水汲みに来ていた。桶一杯に水を入れると、右手で汗をかく額をぬぐった。その時、少女の後方の大地に音もなく亀裂が入り、その亀裂から二人の男が現れた。
青みを帯びた深い緑色である、木賊色の髪と睛眸をして、地中から現れたその男達は、すっーと宙に浮いた。
“ちょうどいい”
“あぁ、この雪魂に食わせるにはぴったりだ”
“あの方は、大きな雪魂がお望みだ。少しでも多くの魂を、この雪魂に食わせるのだ”
桶を両手で持って振り返った少女は、目の前に浮かぶ男達を見て
「ひぃ……っ……!」
と言葉にならぬ声を上げ、手にしていた桶を落とした。ガラガラと、思いの外大きな音をたてて桶が転がって行く。少女は僅かに後退りした。木賊色の髪と睛眸が何者を意味するのか、それは子供でも知っている。物語や紙芝居で見る彼らは、銀色の髪と赤い睛眸を持つ鬼神と共に、この地上に厄災を運ぶ悪神だ。
「あ……ぁ……」
少女は邪神がいる反対側に向かって駆け出した。“お父さん! お母さん!” 優しい養父母の元に帰りたくて、抱きしめてほしくて、ただ足を動かした。だが、しかし。
「……!!」
あっと言う間に、邪神達は少女の前に現れる。後ろに逃げても、横へ逃げても……。
少女は逃げた、転んで足や手を擦りむいても、ただただ逃げた。
彼らにとって、少女を手折ることなどたやすい。だが、邪神達は楽しんでいるのだ、少女が逃げまどう、その姿を。
そして彼らは、少女の手を掴んだ。
「ひぃ……。は……離……して」
「離すわけがなかろう」
「そう、これをお前に埋め込むまでは、な」
そう言って彼らは少女の手を引き寄せ、雪魂を見せた。
「や、やめて! お父さん! お母さん!」
少女の目には、その小さな花の形をした水晶が、とてつもなく恐ろしい物に見えた。
「い、いや! やめてーーー!!」
少女の叫び声は、誰にも届かなかった。
邪神達は、少女の胸元に持っていた雪魂を埋め込む。とたんに、異物が身体に入ってくる感覚と、その異物が放つ電流のような激しい痺れに少女は意識を手放し、硬い地面の上に崩れ落ちた。
意識を失う直前少女に見えたのは、自分に向かって優しく微笑む父と母の姿だった。
「これでいいだろう。後は雪魂がやってくれる」
「我らは高みの見物。いや、すべてが終わった頃に来るとしよう」
「そうだな。雨が降るか、ちょうどいい」
邪神達は、笑いなが消えさって行った。
空を雨雲が覆い、ポツポツと雨が降りだしていく。気を失い倒れたままの少女は、ただ降り続くその雨に打たれていた。
どれくらいの時間が過ぎた頃だろうか、激しい雨が降り続く中、あの少女が両手をついてそっと立ち上がった。
だが、立ち上がった少女に先ほどまでの面影はなかった。何故なら、少女の睛眸は曇り、ギラギラと怪しい輝きを見せ、その口元はニヤリと歪んでいたからだ。
********
********
華魂には、様々な形があると言われている。その中で、氷の花の形をした物を雪魂と言う。あの女怪の胸元には、薄い水色をした水晶の花が埋め込まれていた。
華魂は、生きながらにして植え付けられた者の魂をすいとり、その身を消滅させる。すいとられた魂が復活することは、二度とない。
華魂は、本人、それ以外を問わず、魂をすうたびに大きくなり、その力を発揮する。邪神や鬼神は、大きな物を好む。それ故に、様々な生きとし生ける者に植え付け、大きくしていく。すいとった魂が多ければ多いほど、その力は邪悪で大きくなるからだ。
悪神と呼ばれる奴等が好きそうな物だ。
玄奘は抗戦を強いられる中、何かを探るように女怪の睛眸を見つめている沙麼蘿の姿に気がついて、思わず後退りその動きを止めた。
嫌な予感がした。知りたくないもの、知らなければよかった何かを、この女が暴き出すような気がして……。
「お前達は何故、早くこの女に止めを刺さなかった。何故、捨て置くような真似をした!」
突然叫んだ沙麼蘿のその声に、この女怪を知る者達は振り返った。
「何故だと」
ふざけるなと、玄奘は思った。本当に良い子だったのだ、親思いで明るく優しい、誰をも思いやることができる子だったのだ。
だから皆、目の前にどんな地獄が広がっていたとしても、躊躇われたのだ。この少女の命を絶ちきることが。元の、心優しいあの娘を知っていればこそ。
“フン”と、沙麼蘿は馬鹿にするように鼻で笑った。
「お前達は、己がおかした罪を見るがいい。神仏に仕える身でありながら、見誤ったのだ。お前達さえことの本質を見逃さなければ、こんなにも苦しめることはなかっただろうに」
沙麼蘿の言葉に、十二年前をしる者達は、自分の全身が粟立つのを感じた。何を見落とした、何を見誤った、と。
ソロリと、大神が動きだし、沙麼蘿の足元にやって来ると、夜空に輝く月を見て “ウォーーーン!!” と吠えた。次の瞬間、沙麼蘿が
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・ガララヤン・ソワカ」
と呟き、その指先が何かの印を結んだ。すると、女怪の回りに薄赤い透明な壁のような物が現れて取り囲む。
女怪は行く手を壁にはばまれ身動きが取れなくなった。だがそれでも、何とか壁を抜け玄奘の元に向かおうと暴れていた。
「……!!」
女怪を取り囲む壁に、何かがうっすらと浮き出るように現れる。それはまるで、絵巻物が流れるように過去を写し出していった。
そう、あの日の知られざる真実を。彼らが、決して見ようとしなかった、その真実の姿を。
その日は、良い天気だった。少女はいつものように、その身体にしては大きな桶を持ち、川へ水汲みに来ていた。桶一杯に水を入れると、右手で汗をかく額をぬぐった。その時、少女の後方の大地に音もなく亀裂が入り、その亀裂から二人の男が現れた。
青みを帯びた深い緑色である、木賊色の髪と睛眸をして、地中から現れたその男達は、すっーと宙に浮いた。
“ちょうどいい”
“あぁ、この雪魂に食わせるにはぴったりだ”
“あの方は、大きな雪魂がお望みだ。少しでも多くの魂を、この雪魂に食わせるのだ”
桶を両手で持って振り返った少女は、目の前に浮かぶ男達を見て
「ひぃ……っ……!」
と言葉にならぬ声を上げ、手にしていた桶を落とした。ガラガラと、思いの外大きな音をたてて桶が転がって行く。少女は僅かに後退りした。木賊色の髪と睛眸が何者を意味するのか、それは子供でも知っている。物語や紙芝居で見る彼らは、銀色の髪と赤い睛眸を持つ鬼神と共に、この地上に厄災を運ぶ悪神だ。
「あ……ぁ……」
少女は邪神がいる反対側に向かって駆け出した。“お父さん! お母さん!” 優しい養父母の元に帰りたくて、抱きしめてほしくて、ただ足を動かした。だが、しかし。
「……!!」
あっと言う間に、邪神達は少女の前に現れる。後ろに逃げても、横へ逃げても……。
少女は逃げた、転んで足や手を擦りむいても、ただただ逃げた。
彼らにとって、少女を手折ることなどたやすい。だが、邪神達は楽しんでいるのだ、少女が逃げまどう、その姿を。
そして彼らは、少女の手を掴んだ。
「ひぃ……。は……離……して」
「離すわけがなかろう」
「そう、これをお前に埋め込むまでは、な」
そう言って彼らは少女の手を引き寄せ、雪魂を見せた。
「や、やめて! お父さん! お母さん!」
少女の目には、その小さな花の形をした水晶が、とてつもなく恐ろしい物に見えた。
「い、いや! やめてーーー!!」
少女の叫び声は、誰にも届かなかった。
邪神達は、少女の胸元に持っていた雪魂を埋め込む。とたんに、異物が身体に入ってくる感覚と、その異物が放つ電流のような激しい痺れに少女は意識を手放し、硬い地面の上に崩れ落ちた。
意識を失う直前少女に見えたのは、自分に向かって優しく微笑む父と母の姿だった。
「これでいいだろう。後は雪魂がやってくれる」
「我らは高みの見物。いや、すべてが終わった頃に来るとしよう」
「そうだな。雨が降るか、ちょうどいい」
邪神達は、笑いなが消えさって行った。
空を雨雲が覆い、ポツポツと雨が降りだしていく。気を失い倒れたままの少女は、ただ降り続くその雨に打たれていた。
どれくらいの時間が過ぎた頃だろうか、激しい雨が降り続く中、あの少女が両手をついてそっと立ち上がった。
だが、立ち上がった少女に先ほどまでの面影はなかった。何故なら、少女の睛眸は曇り、ギラギラと怪しい輝きを見せ、その口元はニヤリと歪んでいたからだ。
********
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる