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第一章
残花、その名残を 《七》
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昨日初めて『鬼滅○刃』を見ました。残酷な場面がチラホラあって、映像としてあれを見たら、華魂の話はあまり残酷じゃないかも…と思ってしまいました。(^_^;)
今回、ひどい場面はたぶんありません。次回ちょっと残酷になるかもしれませんが、その時は前書きでお知らせします。m(__)m
********
「そん…な…。何か、何か方法があるはずだ! 頼む、教えてくれ沙麼蘿!!」
悟浄の手が沙麼蘿に伸ばされ、その身体を掴もうと動く。だが、沙麼蘿と悟浄の間に割って入ってきた琉格泉が、沙麼蘿を守るように牙を剥き悟浄を威嚇した。
「言ったはずだ。あれを生かすためにお前ができることなど、何一つない」
沙麼蘿の睛眸が花韮を捕らえ、冷たげに悟浄に呟く。悟浄が唇を噛みしめ、花韮のその双眸からハラリと泪がこぼれ落ちた。
「私…は…、人の命を奪う、道具なんか…に…、なりたく…ないッ!! 私…は、そんなモノに…なるよ…り、大切な…家族、弟を守る…ための、何か…に、なりたいッ!!」
花韮の美しい面が泪に濡れ、悟浄を見た。そして
「お願い…ッ、悟浄、私を…助け…て。私の、この胸を、その短剣で…、貫いて。私…を、殺し…て」
と、言った。“ッ…!!” と悟浄が息を飲み、双眸がこれでもかと見開かれる。悟浄の足元近くに転がる短剣が、それに反応するようにキラリと光った。
「そんな…こと、できるわけないだろう!!」
悟浄は叫ぶ。どんな理由があるにせよ、悟浄が花韮に剣を突き立てるなどできるはずがない。あの時、村を襲われ花韮と二人で逃げた時、邪神が放った矢から悟浄を守るように身体を滑りこませたのは花韮だった。
あの日、死ぬのは花韮ではなかった。あの日、邪神の矢に貫かれるのは、悟浄だったのかも知れないのだ。花韮の胸元に植え付けられた華魂は、本来なら悟浄に植え付けられたものかも知れない。それをわかっていながら、花韮の胸に短剣を突き立てろと言うのか。そんなこと、できるはずがない。
「一度は邪神に奪われたはずのその命を、細い身体で命懸けで俺を守ってくれた姉貴を、この手で殺めろと言うのか!! 再びその命を、俺に奪えと言うのか!! 俺に、姉殺しになれと言うのかァァーーッ!!」
それは、悟浄の悲鳴だった。命懸けで、自分達を逃がすために死んでいった母。そしてその身を犠牲にして自分を守ってくれた姉。それが悟浄の中にどれだけの深い傷を残したか。
その傷を隠すため、悟浄はわざと飄々として生きてきた。たった一人、傭兵をしながら。そんな悟浄の傷口にさらに塩を塗るようなことをしろと、いったい誰が言うのか。だが
「お願いよ、悟浄。姉さんを…、姉さんを助けて。宝具なんかに、なりたく…、ないッ」
花韮が、すがるように悟浄にその手を伸ばす。
「やめてくれ、やめてくれよ、姉貴!!」
悟浄の身体が、花韮の指先から逃げるようにわずかに後ずさる。ハラハラと泪を流す花韮の顔が歪み、その睛眸がいぬくように悟浄を見た。そして、ニヤリと笑う。
「ふっふふふ。悟浄は、姉さんに剣を突き立てたりしないわよね。だから大丈夫。この身体は、わたしが、殺してあげる。あっはははは!!」
その姿は今までと変わりないのに、まるで人格だけが変わったかのように花韮は笑う。“悟…浄…” 優しかった姉の声が僅かに悟浄の耳元で聞こえ、そして消えて行った気がした。
「姉貴ーー!!」
「バカね。この胸元にその短剣を突き刺してさえいれば、この女の願いを叶えられたかも知れないのに。いいえ、例え胸を貫かれても、この女の魂は渡さないけど。弟が腑抜けで助かるわ、ねぇ悟浄」
そこに、花韮の姿はなかった。花韮の顔をした焔魂が、まるでこれこそが自分の身体と言わんばかりに悟浄を挑発し、そしてその目の前で花韮の身体を傷つけた。
「やめろーー!!」
花韮の白く細い指先が、いつの間にか自らの首筋を掴み、そこにひどく尖った爪を突き立てる。悟浄を見る顔だけは笑っているのに、指先は容赦なく首筋に牙を向き血が流れ落ちた。
「俺に、この俺に、どうしろって言うんだ!!」
悟浄の叫び声に答えたのは、玄奘だった。悟浄の苦しみを、誰よりも知る者。嘗て、それに自らの手で決着をつけた者。
「お前にできることは、一つしかない。姉の願いを叶えてやること、ただそれだけだ。華魂を植え付けられた身体に安らぎなどない。あるのは身体を切り裂くような苦痛のみ。華魂に吸いとられた魂は輪廻の輪から外れ、復活することはない。ならば、せめてその願いを叶え、安らかに行かせてやれ。それ以外、華魂を植え付けられた者の魂が救われることはない」
あの時、玉英は幼かった。そしてまた、華魂も小さかった。だからこそ、雪魂をその身に植え付けられても玉英の意識は消えることなく残っていて、それがさらに幼い玉英の心を傷つけた。そして最後は、その望み通り玄奘の双剣に身体を貫かれ息絶えることになる。
だが、最後のその顔は安らかだった。思い通り玄奘の手によって終止符を打たれ、全ての苦しみから解放されたのだから。沙麼蘿が差し出した天上の桜の力により、気が遠くなる程の長い長い年月がかかろうとも、何時かは輪廻の輪の中に戻ることが約束された。しかし
「その焔魂の大きさでは、いくら沙麼蘿でもどうすることもできまい。お前にできること、それはお前のその手で終わらせてやることだけだ。それ以外、魂が安らかに消えることはない」
そう言った玄奘の言葉は、悟浄に届いただろうか。立ち尽くす悟浄に向け、玄奘は更なる言葉を言い放った。
「だが、お前ができないのならば、この俺が殺る。その華魂が完成すれば、それは厄災級の代物になる。たった一人の女の最後の安らぎとは、比べようもない。覚えておけ悟浄、願った者以外の剣では、貫かれた者の魂が救われることはないと言うことを!」
********
飄々→性格や考え方などが世間一般とは異なっており、とらえどころのない様子を意味する表現
傭兵→金銭などの利益により雇われ直接に利害関係の無い戦争に参加する兵。または、その集団
傷口に塩を塗る→悪いことの上に、さらに災難や悪いことが重なることのたとえ
腑抜け→意気地がないこと。気力がなく、しっかりしていないこと。またその人や、そのさま。腰抜け
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
輪廻→命あるものが何度も転生し、人だけでなく動物なども含めた生類として生まれ変わること
代物→売買する品物。商品。人や物を、価値を認めたり、あるいは卑しめたり皮肉ったりなど、評価をまじえていう語
次回投稿は16日か17日が目標です。
今回、ひどい場面はたぶんありません。次回ちょっと残酷になるかもしれませんが、その時は前書きでお知らせします。m(__)m
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「そん…な…。何か、何か方法があるはずだ! 頼む、教えてくれ沙麼蘿!!」
悟浄の手が沙麼蘿に伸ばされ、その身体を掴もうと動く。だが、沙麼蘿と悟浄の間に割って入ってきた琉格泉が、沙麼蘿を守るように牙を剥き悟浄を威嚇した。
「言ったはずだ。あれを生かすためにお前ができることなど、何一つない」
沙麼蘿の睛眸が花韮を捕らえ、冷たげに悟浄に呟く。悟浄が唇を噛みしめ、花韮のその双眸からハラリと泪がこぼれ落ちた。
「私…は…、人の命を奪う、道具なんか…に…、なりたく…ないッ!! 私…は、そんなモノに…なるよ…り、大切な…家族、弟を守る…ための、何か…に、なりたいッ!!」
花韮の美しい面が泪に濡れ、悟浄を見た。そして
「お願い…ッ、悟浄、私を…助け…て。私の、この胸を、その短剣で…、貫いて。私…を、殺し…て」
と、言った。“ッ…!!” と悟浄が息を飲み、双眸がこれでもかと見開かれる。悟浄の足元近くに転がる短剣が、それに反応するようにキラリと光った。
「そんな…こと、できるわけないだろう!!」
悟浄は叫ぶ。どんな理由があるにせよ、悟浄が花韮に剣を突き立てるなどできるはずがない。あの時、村を襲われ花韮と二人で逃げた時、邪神が放った矢から悟浄を守るように身体を滑りこませたのは花韮だった。
あの日、死ぬのは花韮ではなかった。あの日、邪神の矢に貫かれるのは、悟浄だったのかも知れないのだ。花韮の胸元に植え付けられた華魂は、本来なら悟浄に植え付けられたものかも知れない。それをわかっていながら、花韮の胸に短剣を突き立てろと言うのか。そんなこと、できるはずがない。
「一度は邪神に奪われたはずのその命を、細い身体で命懸けで俺を守ってくれた姉貴を、この手で殺めろと言うのか!! 再びその命を、俺に奪えと言うのか!! 俺に、姉殺しになれと言うのかァァーーッ!!」
それは、悟浄の悲鳴だった。命懸けで、自分達を逃がすために死んでいった母。そしてその身を犠牲にして自分を守ってくれた姉。それが悟浄の中にどれだけの深い傷を残したか。
その傷を隠すため、悟浄はわざと飄々として生きてきた。たった一人、傭兵をしながら。そんな悟浄の傷口にさらに塩を塗るようなことをしろと、いったい誰が言うのか。だが
「お願いよ、悟浄。姉さんを…、姉さんを助けて。宝具なんかに、なりたく…、ないッ」
花韮が、すがるように悟浄にその手を伸ばす。
「やめてくれ、やめてくれよ、姉貴!!」
悟浄の身体が、花韮の指先から逃げるようにわずかに後ずさる。ハラハラと泪を流す花韮の顔が歪み、その睛眸がいぬくように悟浄を見た。そして、ニヤリと笑う。
「ふっふふふ。悟浄は、姉さんに剣を突き立てたりしないわよね。だから大丈夫。この身体は、わたしが、殺してあげる。あっはははは!!」
その姿は今までと変わりないのに、まるで人格だけが変わったかのように花韮は笑う。“悟…浄…” 優しかった姉の声が僅かに悟浄の耳元で聞こえ、そして消えて行った気がした。
「姉貴ーー!!」
「バカね。この胸元にその短剣を突き刺してさえいれば、この女の願いを叶えられたかも知れないのに。いいえ、例え胸を貫かれても、この女の魂は渡さないけど。弟が腑抜けで助かるわ、ねぇ悟浄」
そこに、花韮の姿はなかった。花韮の顔をした焔魂が、まるでこれこそが自分の身体と言わんばかりに悟浄を挑発し、そしてその目の前で花韮の身体を傷つけた。
「やめろーー!!」
花韮の白く細い指先が、いつの間にか自らの首筋を掴み、そこにひどく尖った爪を突き立てる。悟浄を見る顔だけは笑っているのに、指先は容赦なく首筋に牙を向き血が流れ落ちた。
「俺に、この俺に、どうしろって言うんだ!!」
悟浄の叫び声に答えたのは、玄奘だった。悟浄の苦しみを、誰よりも知る者。嘗て、それに自らの手で決着をつけた者。
「お前にできることは、一つしかない。姉の願いを叶えてやること、ただそれだけだ。華魂を植え付けられた身体に安らぎなどない。あるのは身体を切り裂くような苦痛のみ。華魂に吸いとられた魂は輪廻の輪から外れ、復活することはない。ならば、せめてその願いを叶え、安らかに行かせてやれ。それ以外、華魂を植え付けられた者の魂が救われることはない」
あの時、玉英は幼かった。そしてまた、華魂も小さかった。だからこそ、雪魂をその身に植え付けられても玉英の意識は消えることなく残っていて、それがさらに幼い玉英の心を傷つけた。そして最後は、その望み通り玄奘の双剣に身体を貫かれ息絶えることになる。
だが、最後のその顔は安らかだった。思い通り玄奘の手によって終止符を打たれ、全ての苦しみから解放されたのだから。沙麼蘿が差し出した天上の桜の力により、気が遠くなる程の長い長い年月がかかろうとも、何時かは輪廻の輪の中に戻ることが約束された。しかし
「その焔魂の大きさでは、いくら沙麼蘿でもどうすることもできまい。お前にできること、それはお前のその手で終わらせてやることだけだ。それ以外、魂が安らかに消えることはない」
そう言った玄奘の言葉は、悟浄に届いただろうか。立ち尽くす悟浄に向け、玄奘は更なる言葉を言い放った。
「だが、お前ができないのならば、この俺が殺る。その華魂が完成すれば、それは厄災級の代物になる。たった一人の女の最後の安らぎとは、比べようもない。覚えておけ悟浄、願った者以外の剣では、貫かれた者の魂が救われることはないと言うことを!」
********
飄々→性格や考え方などが世間一般とは異なっており、とらえどころのない様子を意味する表現
傭兵→金銭などの利益により雇われ直接に利害関係の無い戦争に参加する兵。または、その集団
傷口に塩を塗る→悪いことの上に、さらに災難や悪いことが重なることのたとえ
腑抜け→意気地がないこと。気力がなく、しっかりしていないこと。またその人や、そのさま。腰抜け
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
輪廻→命あるものが何度も転生し、人だけでなく動物なども含めた生類として生まれ変わること
代物→売買する品物。商品。人や物を、価値を認めたり、あるいは卑しめたり皮肉ったりなど、評価をまじえていう語
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