天上の桜

乃平 悠鼓

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第一章

残花、その名残を 《十二》

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今回まで、残酷な場面があります。

“この世の地獄” と言う表現をした割には、あまり酷くはなかった…(^_^;)

多分、次回でこの話は終わります。そして、第一章も終わりますm(__)m






********

 地面の上で両膝をつき、まるで腹を切るようにダオを突き立てた父は、その紅葉色の双眸を悟浄に向けた。

「悟浄、お前は間違うな。俺のようには、なるな。鬼神でありながら、妻も娘も守れなかった。そればかりか、花韮かきゅうの身体に、あの華魂かこんを植え付けた」

 “ぐはッ” っと父親が血を吐き、膝立ちの上半身が揺らぐ。

「親父!!」

 片手をつき、かおを上げる父の言葉は止まらない。

「例え…、あの時、俺がいたとしても、村を守ることは…、できなかった。だが、俺がいれば…、お前と花韮は、助けてやれた…。我が子、二人だけは…、どんなことをしてでも…、逃がしてやれた。あの時、村にいなかったこの俺が、今何を言っても…、負け犬の遠吠え…だがな」

 その時、刀が怪しく光る。その光は大きくなり、悟浄の父親を包み込もうとする。だが、父親からも鬼神独特の氣が放たれ、その両手が刀のつかを握りしめる手に力を込めた。

「親父、やめてくれ!!」

 その姿は、父親がさらに深く刀を差し込んだように悟浄には見えた。

「悟浄、よく聞け…。俺が以前持っていた刀は、確かに…下級ではあったが、宝具…だった。だが…は、妖刀ようとう…だ。華魂のように、持ち主の魂を吸いとり、その身体を…支配する。俺の、残された魂は、あと…わずか、しかない。邪神の若様に、いいように、だまされた…。今の俺に、できること…は、お前に、コレを…、残してやる、こと、それだけ…だ」

 苦し気に言葉をつむぐ父親の姿を、見てはいられないとばかりに悟浄が近寄り、その肩に手を掛ける。

「親父。俺は、俺は、刀なんかいらない! だから、しっかりしてくれよ親父!!」

 泪を流しながら叫ぶ息子に、フッと笑ってみせた父親は

「いいか…、悟浄。お前は、生き…て、生きて、一生を終え…、母さんのいる、天に…行け。俺は、この刀に…なり、魂も残らず、輪廻の…輪にも入らず…、花韮と共に、無に…帰す。ただの、刀に…、成り…果てる」

 と、言葉を繋いだ。

「親…父…」
「俺は…、家族を守ること…が、できなかった…。だが…、お前の大切なモノは、皆…守ってやる。どんな、ことをしても…、この刀が、必ず…守る。そのためなら、どんなモノでも、斬り…倒す。忘れるな、悟…浄。お前の、大切なモノを…守るため、俺が…、斬って、斬って、斬り…倒す」

 そう言った父親の身体が、力なく悟浄の方に向かって倒れて行く。

「しっかりしろ! 親父!!」
「花韮も…、言っただろう。たった一人残る弟を…守るため、その弟が守るモノを守れる…、そんな華魂になる…と。いいか、悟浄…。刀と華魂で…、お前だけの宝具を…作れ。俺と花韮が、必ず…、お前を守る、から…な」

 父親は、最後の力を振り絞り上半身を起こすと沙麼蘿さばらを見た。

「公…女、お願い…申し上げ…る」

 それは、その男に残された最後の力だっただろうか。沙麼蘿は男に近づくと、花韮の時のように男の襟元をつかみ上げ、その双眸を見た。
 鬼神とは言え下級神である男が、沙麼蘿の睛眸ひとみの威力に耐えられるはずがない。だが、男は沙麼蘿の睛眸を見た瞬間

阿修羅我らが王の…睛眸と、よく…似ておられる…」

 それだけを呟くと身体の中から崩れ落ちるように消え去って行く。沙麼蘿は男が完成に消え去るまで、決して視線を離さなかった。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・ガララヤン・ソワカ」

 阿修羅が男に与えた最後の慈悲じひは、沙麼蘿を通して男に注がれる。下級神が強大な阿修羅の力に耐えられるとは限らない。だが、娘の花韮はその力に耐えきって、焔魂に勝ってみせた。ならば、父親のお前も妖刀に勝てと、沙麼蘿の双眸は物語っている。

「己の力で勝ち抜き、圧倒的な力で刀を屈伏くっぷくさせろ。あとは、引き受けてやる」

 沙麼蘿のその言葉は、消え去った男に届いたか。親の顔さえ知らぬ沙麼蘿に、その睛眸が阿修羅に似ていると言った男。
 男の身体が全て消え去り、刀がボトリと地面に落ちる。すると、地面の上で刀がガタガタと揺れた。花韮の時のように、一つの刀の中で刀と男がせめぎ合う。
 男が勝つことは、沙麼蘿にはよくわかっている。刀は沙麼蘿に刃先を握られた時点で、その力の一部を削られた。だからこそ、これから悟浄がこの刀を使いこなすためにも、妖刀の氣など一つも残らぬほどの、圧倒的な力で勝たなければならない。
 ガタガタと揺れていた刀が月白色薄い青みを含んだ白にピカッと光り、その光が目映まばゆいばかりに大きくなって、すぅーと刀の中に消えて行く。すると刀の揺れが止まり、色と形を変えた刀がそこにはあった。
 刃先自体は変わりないが、柄は悟浄の握りやすい大きさに変わり、紅葉色の組紐が巻かれている。刀首の部分には、新たに華魂を入れられるようなくぼみができていた。
 妖刀の色形を変えるほど、圧倒的な力で男は勝ったのだ。家族の中で、たった一人残された息子のため、父親は確かに勝った。だが、これで悟浄の家族は消え去った。
 どんなに会いたいと、話がしたいと願っても、悟浄が家族に会うことはもう二度とない。この刀の中に、悟浄が父の姿を見いだせるのはいつまでか。
 これから作り上げられる宝具を見るたびに、悟浄は自分が手に掛けた姉を、自分のためにその身を捨てた父を、二人の血にまみれた姿を思いだすだろう。そこに、悟浄は光を見いだすことができるだろうか。







********

負け犬の遠吠え→臆病者が本人の前では出来ないくせに、陰では威張っり悪口を言ったりすることのたとえ
紡ぐ→言葉をつなげて文章を作る
慈悲→いつくしみ。あわれむこと。なさけ。仏・菩薩が人々をあわれみ、楽しみを与え苦しみを取り除くこと
屈伏→相手の強さ、勢いに負けて従うこと。力尽きて服従すること
目映い→光が明るすぎて、まともに見られない。まぶしい。まともに見られないほどきらびやかで美しい


次回投稿は15日か16日が目標です。
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