110 / 204
第二章
沈黙の里《九》
しおりを挟む
「この、紛いもんが」
そう言った男からは、確かに沙麼蘿は紛い物に見えたことだろう。
灰簾石色の髪と睛眸を持つ道神が、聖神である愛染明王一族しか身に纏うことが許されない猩々緋色の衣を着ているのだ。
この見た目だけならば、聖神の衣を纏った道神。道神と仏神の斑、自分達と同じ交ざり者に見えても仕方がない。
男があえて “紛いもん” と言ったのは、この男が住む修羅界では、他種族の血が交われば交わるほど力が強くなり、修羅界での立場も強くなるからだ。
偉そうに天上界に住み、数多を見下げて暮らしているだけの道神と仏神の二つだけしか血が交じっていないように見えた沙麼蘿は、幾つもの血が交ざり合った自分から見れば、確かに斑としては紛い物に見えた。
変わって、沙麼蘿から見た男はどうか。卯の花色の髪だけ見れば、確かに鬼神のようには見える。だが、その睛眸は蛋白石の遊色効果のように、様々な色が交じり合っている。
いったい、どれほどの種族をかけ合わせた末に、この男は生まれたのか。
「ふん」
今度は、沙麼蘿が鼻で笑うばんだった。鬼神の王であった阿修羅の直系と、聖神の頂点の一角である愛染明王の直系の間に生まれた沙麼蘿は、この世界で唯一と言われる禁忌の生き物だ。
例え幾つもの種族を交ざり合わせたとしても、邪神達のお遊びの結果とも言える場所で生まれたにすぎないこの男は、ただの作り上げられた交ざり者でしかない。
「鬼神の、紛い物が」
そう沙麼蘿からすれば、目の前の斑こそが鬼神の紛い物だった。
「なんだと、てめえ!!」
刀を持つ斑の男が、その手を上げた瞬間沙麼蘿の前に移動して刀を振り下ろす。沙麼蘿はニヤリと笑って右手を上げる、すると手首の腕釧から剣が現れてその攻撃を防いだ。
キーンと氣がぶつかり合う音がして、沙麼蘿の髪が白金に双眸が鳩の血色に変わった。
「な、に…!!」
「私は、お前のような紛い物の鬼神とは、わけが違うぞ」
ブアッと沙麼蘿の身体から氣が溢れ出すと、沙麼蘿の睛眸が男の睛眸を覗き込む。その睛眸の中には、様々な種族の名残があった。
数をかけ合わせた斑だけのことはあり、沙麼蘿と睛眸が合っても消え去ることはない。その力は伊達ではないと言うことだ、相手が沙麼蘿でなければ。
「そうか、そうかよ。てめえが、あの裏切りもんの阿修羅一族かぁ!」
修羅界に住む斑なら、この修羅界を捨て自分達だけが天界に昇った阿修羅一族の話は、一度は何処かで聞く話だ。その話が、如何に歪曲されていようと、そんなことは関係がない。
邪神達のいいように作り上げられた話など、あってないようなものだからだ。だが、裏切り者を手に掛けることができれば名も上げることができる。
「あぁ、やっと俺達にも運が向いてきたってわけだ。この斑の力で、てめえを切り刻む!」
斑は、天上人との闘いに勝つために作り上げられた生き物だ。その血により持つ力は違うが、目の前の男は闘うことに秀でたタイプのようだ。
「玄奘!」
悟空の如意金箍棒が伸びて、玄奘に向かって刀を振るおうとしていた男達に一撃をくらわせる。鬼神の男はあっという間に沙麼蘿に斬りかかっていったが、残った仲間の男達も一斉に玄奘達に向かって攻撃をしかけていた。
その男達の中でも、独特の氣を発する者が四人。それが斑なのだと言うことは、見た目から明らかだった。
二人は髪に斑がり、一人は指の爪に斑が、そしてもう一人は片腕の皮膚に斑を持つ、同じ顔をした四人の男。
「おめえ、面白いもん持ってんな。龍神の匂いがする武器なんざぁ珍しい。欲しい、欲しいなぁ」
「誰がやるかよ!」
「決めんのは、おめえじゃねぇんだよ!」
「え…っ」
それは、一瞬のことだった。爪に斑を持つ男が、自分の武器を悟空の持つ如意金箍棒と全く同じに変化させたのだ。
「お前はまた、他人のもん欲しがりやがって。だが、しゃねぇな。てめえら皆、面白い武器を持ってやがるぜ。その宝具は、俺達がいただくとするか!」
今度はそれを見ていた片腕に斑を持つ男が、自分の武器を悟浄の持つ刀と同じに変化させ、その隣にいた髪に斑を持つ男が八戒の持つ弓と瓜二つの弓を出現させ手に持つ。
「どうなってんだ、これは」
「わかりません。形を変える力を持った武器なのか、それとも、そう言う斑の力なのか」
悟浄と八戒は、向かってくる敵を倒しながら、目の前の同じ武器を持つ斑と対峙することになる。
「てめえの武器はなんだ。数珠か、玻璃の数珠なのか」
“キャハ” と馬鹿にしたような笑い声を上げ、もう一人の髪に斑を持つ男が玄奘と対峙すると、玄奘は僅かに眉をひそめた。
「どうした、怯えて声も出ねえのか」
何を勘違いしたのか、不機嫌に顔を歪める玄奘を見て呟く男に、真っ先に手を出したのもまた、玄奘だった。
玄奘の動きはこの場のだよりも早く、咄嗟に帯革の尾錠の前で両手を交差させると、現れた双剣を掴み取り男の喉元に突きつけた。
「…!!」
「どうした、驚きすぎて声も出せないか」
冷たい玄奘の声が響き渡る。目の前の男は知らなかったのだ、一番闘いとは遠い場所にいるはずの僧侶であるはずの玄奘が、誰よりも血にまみれ修羅場をくぐり抜けて来たと言うことを。
*********
猩々緋色→緋の中でも特に強い黄みがかった朱色
卯の花色→卯の花のようなわずかに黄みがかった白色
遊色効果→宝石などが示す光学効果の一種。表面に近い結晶の層状構造により、干渉光が反射しているため、虹のような多色の色彩を示す現象
鼻で笑う→相手を見下してあざ笑う。鼻でふんと笑う
鳩の血色→濃い赤で内側から真紅の光が輝くような赤色
伊達ではない→単なる飾りや見掛け倒しではない
歪曲→ゆがみまがること。また、ゆがめまげること。事実などをいつわってゆがめること
眉をひそめる→怪訝であったり不愉快であったりして、眉間にシワを寄せること
次回投稿は18日か19日が目標です。
そう言った男からは、確かに沙麼蘿は紛い物に見えたことだろう。
灰簾石色の髪と睛眸を持つ道神が、聖神である愛染明王一族しか身に纏うことが許されない猩々緋色の衣を着ているのだ。
この見た目だけならば、聖神の衣を纏った道神。道神と仏神の斑、自分達と同じ交ざり者に見えても仕方がない。
男があえて “紛いもん” と言ったのは、この男が住む修羅界では、他種族の血が交われば交わるほど力が強くなり、修羅界での立場も強くなるからだ。
偉そうに天上界に住み、数多を見下げて暮らしているだけの道神と仏神の二つだけしか血が交じっていないように見えた沙麼蘿は、幾つもの血が交ざり合った自分から見れば、確かに斑としては紛い物に見えた。
変わって、沙麼蘿から見た男はどうか。卯の花色の髪だけ見れば、確かに鬼神のようには見える。だが、その睛眸は蛋白石の遊色効果のように、様々な色が交じり合っている。
いったい、どれほどの種族をかけ合わせた末に、この男は生まれたのか。
「ふん」
今度は、沙麼蘿が鼻で笑うばんだった。鬼神の王であった阿修羅の直系と、聖神の頂点の一角である愛染明王の直系の間に生まれた沙麼蘿は、この世界で唯一と言われる禁忌の生き物だ。
例え幾つもの種族を交ざり合わせたとしても、邪神達のお遊びの結果とも言える場所で生まれたにすぎないこの男は、ただの作り上げられた交ざり者でしかない。
「鬼神の、紛い物が」
そう沙麼蘿からすれば、目の前の斑こそが鬼神の紛い物だった。
「なんだと、てめえ!!」
刀を持つ斑の男が、その手を上げた瞬間沙麼蘿の前に移動して刀を振り下ろす。沙麼蘿はニヤリと笑って右手を上げる、すると手首の腕釧から剣が現れてその攻撃を防いだ。
キーンと氣がぶつかり合う音がして、沙麼蘿の髪が白金に双眸が鳩の血色に変わった。
「な、に…!!」
「私は、お前のような紛い物の鬼神とは、わけが違うぞ」
ブアッと沙麼蘿の身体から氣が溢れ出すと、沙麼蘿の睛眸が男の睛眸を覗き込む。その睛眸の中には、様々な種族の名残があった。
数をかけ合わせた斑だけのことはあり、沙麼蘿と睛眸が合っても消え去ることはない。その力は伊達ではないと言うことだ、相手が沙麼蘿でなければ。
「そうか、そうかよ。てめえが、あの裏切りもんの阿修羅一族かぁ!」
修羅界に住む斑なら、この修羅界を捨て自分達だけが天界に昇った阿修羅一族の話は、一度は何処かで聞く話だ。その話が、如何に歪曲されていようと、そんなことは関係がない。
邪神達のいいように作り上げられた話など、あってないようなものだからだ。だが、裏切り者を手に掛けることができれば名も上げることができる。
「あぁ、やっと俺達にも運が向いてきたってわけだ。この斑の力で、てめえを切り刻む!」
斑は、天上人との闘いに勝つために作り上げられた生き物だ。その血により持つ力は違うが、目の前の男は闘うことに秀でたタイプのようだ。
「玄奘!」
悟空の如意金箍棒が伸びて、玄奘に向かって刀を振るおうとしていた男達に一撃をくらわせる。鬼神の男はあっという間に沙麼蘿に斬りかかっていったが、残った仲間の男達も一斉に玄奘達に向かって攻撃をしかけていた。
その男達の中でも、独特の氣を発する者が四人。それが斑なのだと言うことは、見た目から明らかだった。
二人は髪に斑がり、一人は指の爪に斑が、そしてもう一人は片腕の皮膚に斑を持つ、同じ顔をした四人の男。
「おめえ、面白いもん持ってんな。龍神の匂いがする武器なんざぁ珍しい。欲しい、欲しいなぁ」
「誰がやるかよ!」
「決めんのは、おめえじゃねぇんだよ!」
「え…っ」
それは、一瞬のことだった。爪に斑を持つ男が、自分の武器を悟空の持つ如意金箍棒と全く同じに変化させたのだ。
「お前はまた、他人のもん欲しがりやがって。だが、しゃねぇな。てめえら皆、面白い武器を持ってやがるぜ。その宝具は、俺達がいただくとするか!」
今度はそれを見ていた片腕に斑を持つ男が、自分の武器を悟浄の持つ刀と同じに変化させ、その隣にいた髪に斑を持つ男が八戒の持つ弓と瓜二つの弓を出現させ手に持つ。
「どうなってんだ、これは」
「わかりません。形を変える力を持った武器なのか、それとも、そう言う斑の力なのか」
悟浄と八戒は、向かってくる敵を倒しながら、目の前の同じ武器を持つ斑と対峙することになる。
「てめえの武器はなんだ。数珠か、玻璃の数珠なのか」
“キャハ” と馬鹿にしたような笑い声を上げ、もう一人の髪に斑を持つ男が玄奘と対峙すると、玄奘は僅かに眉をひそめた。
「どうした、怯えて声も出ねえのか」
何を勘違いしたのか、不機嫌に顔を歪める玄奘を見て呟く男に、真っ先に手を出したのもまた、玄奘だった。
玄奘の動きはこの場のだよりも早く、咄嗟に帯革の尾錠の前で両手を交差させると、現れた双剣を掴み取り男の喉元に突きつけた。
「…!!」
「どうした、驚きすぎて声も出せないか」
冷たい玄奘の声が響き渡る。目の前の男は知らなかったのだ、一番闘いとは遠い場所にいるはずの僧侶であるはずの玄奘が、誰よりも血にまみれ修羅場をくぐり抜けて来たと言うことを。
*********
猩々緋色→緋の中でも特に強い黄みがかった朱色
卯の花色→卯の花のようなわずかに黄みがかった白色
遊色効果→宝石などが示す光学効果の一種。表面に近い結晶の層状構造により、干渉光が反射しているため、虹のような多色の色彩を示す現象
鼻で笑う→相手を見下してあざ笑う。鼻でふんと笑う
鳩の血色→濃い赤で内側から真紅の光が輝くような赤色
伊達ではない→単なる飾りや見掛け倒しではない
歪曲→ゆがみまがること。また、ゆがめまげること。事実などをいつわってゆがめること
眉をひそめる→怪訝であったり不愉快であったりして、眉間にシワを寄せること
次回投稿は18日か19日が目標です。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる