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第二章
始まりの終わり《二》
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その昔、鬼は山奥で自然と共に生き、一大勢力として繁栄を極めていた。だが、その繁栄は長くは続かなかった。他種族より長寿な鬼だったが、ある時を境にその数を減らして行く事になったからだ。
彼等は閉鎖的で、どの種族とも大きな交流を持たなかったし、山奥で自給自足をし、自分達だけの世界を築いていた。そして何より、他種族の血を取り込むことを嫌った。神仏でさえ他の種族と交流を持ち、時に子を成し沢山の血を取り込んで行ったと言うのに。
閉鎖的な狭い世界でのみ生きた鬼達の血は濃さを増し、ある時から子ができにくくなった。一時期、自分達の生存の危機を感じた鬼の中には、他種族から伴侶を娶る者も出た。だが、それもうまくは行かなかった。
何故なら、他種族の伴侶との間に生まれた子供は、鬼としては半端者だったからだ。鬼である事の印であり、鬼の力の源とも言われる彼等にとっては無くてはならない自慢の二本の角を一本しか持たず、中には一本の角もない者もいた。
角のない鬼は、ただの人だ。角が一本しかない、あるいは角を持たないから、鬼本来の強い力も身体能力もなく、寿命も他種族よりは長いが鬼よりは遥かに短い。寿命が短いから親より先に死出の旅に出て、彼等のように長い時をかけ多くを学び、数多の知識を得ることもできなかった。
力も知識もないから、自然の中で生き抜くことも難しく弱い。そんな子供達は、鬼本来の力を尊ぶ彼等にとっては、出来損ないの半端者にしか見えなかったのだ。
『角が二本ない者は鬼ではない。力のない者、知識のない者は鬼ではない。何より、我らの半分も生きられぬ者は鬼ではない』
それが、鬼達が出した答えだった。鬼達は他種族を受け入れ鬼本来の力が薄れることを、本来の鬼の力をなくしてまで生き延びることを望まなかった。
自分達の生きる意味を、鬼としての血を薄めてまで、力や知識をなくし自然と共に生きることを捨ててまで、見出すことはできなかったのだ。鬼達は話に話し合い
『いつか自分達が滅ぶと言うのらば、それも自然の摂理であろう。我等は自然の中に生き、そして土に帰ろう』
そう言って自分達の世界へと閉じこもり、表舞台から消え、この世界の全てから消え去り、土へと帰して行った。
この世界から消えて行くモノは、この世界から生まれて来るモノと同等で、数多くある。鬼のように消え去ってはいないが、地上で見ることがなくなったモノの一つに天女がある。
その昔は、空を優雅に駆け巡り、天界と下界を繋ぐ存在として動き回る天女の姿をよく見かけたものだ。キラキラと輝く天衣を羽ばたかせる天女の姿を、下界の人間達は眩しそうに見つめていた。
天界において、道界と仏界の間にあるモノと言えば、殆どの天上人は樹廻廊だと答えるだろう。細く長く折れ曲がった形で道界と仏界を繋ぐ樹廻廊は、緑に覆われた場所だ。そこには珍しい植物が数多あると言われている。
蔦で覆われた樹廻廊はまるで緑の迷宮のようで、迷わずこの樹廻廊を通り抜けられるのは天帝一族や釈迦や菩薩だけだと言われているくらいだ。そんな樹廻廊よりもさらに高い場所、道界と仏界のちょうど真ん中に、天女が生まれ出る場所がある。
大地はまるで緑の草原だが、空は薄っすらと青く、大地と空以外は全てが白い。時折綿飴のような雲が流れ、心地よい風が吹く。太陽はないが、どこからか光が降り注ぐ。
その光は天界に渦を巻く陽の氣の塊が溢れ出たもので、大地と空しかないその場所に生命の誕生を促した。長い間降り注いだ陽の氣は、緑の大地と薄っすらと青い空に育まれ、人形を形どる。
ソレを天上人は天女と呼んだ。天女は女性の姿をしてはいるが、人ではない。その見た目とは違い、どちらかと言えば植物に近いのかもしれない。
成人した女性の姿で生まれいでる天女達は、誕生してすぐに天帝や釈迦如来の使いとして、天界と下界を繋ぐ仕事を与えられる。彼女達は、陽の氣が体内にあるうちは人の姿を保っていられるが、生まれた場所から出ることで日々陽の氣を失い、最後には干からびて地に帰る存在だ。
そんな天女に、下界の人々は憧れ夢を見た。美しい天女はもちろんのこと、天女が空を駆けるために纏うキラキラと光り輝く天衣にも陽の氣が込められており、下界では様々な効能を生み出す天衣を欲する者も多かった。
基本、陽の氣だけを受けて生まれた天女は優しく陽気で朗らかで楽天的。それ故に人間に騙され、天衣を奪われることも多々あった。
天衣のない天女は、空を駆けることができないから天界に戻ることはできない。陽の氣が降り注ぐ天界ではそれなりの期間生きていられる天女達も、下界ではそう長くは生きられないのだ。
天衣をなくした天女達は、下界でソレを探すうちに自ら命の終わりを感じ取り、山に入って土となり、山々の植物として生まれ変わると言われている。山に入って珍しい植物を見つけたら、それは天女が生まれ変わった姿なのかもしれないと。
「今は、沢山の血が混ざり合えば斑と呼ばれ力が強くなる。だが、昔は違った。まだ、血の交わりがさほどなかった頃。血が交われば交わるほどその血は薄れ、弱くなって行った。天上の桜はそんな時代、鬼と天女が出逢って生まれた」
沙麼蘿が語るその話を、悟空や悟浄、八戒や玄奘はただ黙って聞いていた。
*********
伴侶→行動や考えをともにする人。なかま。つれ。また、特に配偶者をさしていうこともある
娶る→妻として迎えること
自慢→おごりたかぶること。また、自分のこと、自分の持ち物、自分が所属するものなどの良さを、他に対して得意げに示すこと
死出の旅→死出の山へ行くこと。冥土に行くこと。死ぬこと
見出す→見はじめる。見いだす。見つけだす
摂理→自然界を支配している法則。神あるいは、神的存在の被造物に対する計画•導きをいう
天衣→天人の着る衣。天人の羽衣
促す→物事を早くするようにせきたてる。また、ある行為をするように仕向ける。催促する
次回投稿は10月5日か6日が目標です
彼等は閉鎖的で、どの種族とも大きな交流を持たなかったし、山奥で自給自足をし、自分達だけの世界を築いていた。そして何より、他種族の血を取り込むことを嫌った。神仏でさえ他の種族と交流を持ち、時に子を成し沢山の血を取り込んで行ったと言うのに。
閉鎖的な狭い世界でのみ生きた鬼達の血は濃さを増し、ある時から子ができにくくなった。一時期、自分達の生存の危機を感じた鬼の中には、他種族から伴侶を娶る者も出た。だが、それもうまくは行かなかった。
何故なら、他種族の伴侶との間に生まれた子供は、鬼としては半端者だったからだ。鬼である事の印であり、鬼の力の源とも言われる彼等にとっては無くてはならない自慢の二本の角を一本しか持たず、中には一本の角もない者もいた。
角のない鬼は、ただの人だ。角が一本しかない、あるいは角を持たないから、鬼本来の強い力も身体能力もなく、寿命も他種族よりは長いが鬼よりは遥かに短い。寿命が短いから親より先に死出の旅に出て、彼等のように長い時をかけ多くを学び、数多の知識を得ることもできなかった。
力も知識もないから、自然の中で生き抜くことも難しく弱い。そんな子供達は、鬼本来の力を尊ぶ彼等にとっては、出来損ないの半端者にしか見えなかったのだ。
『角が二本ない者は鬼ではない。力のない者、知識のない者は鬼ではない。何より、我らの半分も生きられぬ者は鬼ではない』
それが、鬼達が出した答えだった。鬼達は他種族を受け入れ鬼本来の力が薄れることを、本来の鬼の力をなくしてまで生き延びることを望まなかった。
自分達の生きる意味を、鬼としての血を薄めてまで、力や知識をなくし自然と共に生きることを捨ててまで、見出すことはできなかったのだ。鬼達は話に話し合い
『いつか自分達が滅ぶと言うのらば、それも自然の摂理であろう。我等は自然の中に生き、そして土に帰ろう』
そう言って自分達の世界へと閉じこもり、表舞台から消え、この世界の全てから消え去り、土へと帰して行った。
この世界から消えて行くモノは、この世界から生まれて来るモノと同等で、数多くある。鬼のように消え去ってはいないが、地上で見ることがなくなったモノの一つに天女がある。
その昔は、空を優雅に駆け巡り、天界と下界を繋ぐ存在として動き回る天女の姿をよく見かけたものだ。キラキラと輝く天衣を羽ばたかせる天女の姿を、下界の人間達は眩しそうに見つめていた。
天界において、道界と仏界の間にあるモノと言えば、殆どの天上人は樹廻廊だと答えるだろう。細く長く折れ曲がった形で道界と仏界を繋ぐ樹廻廊は、緑に覆われた場所だ。そこには珍しい植物が数多あると言われている。
蔦で覆われた樹廻廊はまるで緑の迷宮のようで、迷わずこの樹廻廊を通り抜けられるのは天帝一族や釈迦や菩薩だけだと言われているくらいだ。そんな樹廻廊よりもさらに高い場所、道界と仏界のちょうど真ん中に、天女が生まれ出る場所がある。
大地はまるで緑の草原だが、空は薄っすらと青く、大地と空以外は全てが白い。時折綿飴のような雲が流れ、心地よい風が吹く。太陽はないが、どこからか光が降り注ぐ。
その光は天界に渦を巻く陽の氣の塊が溢れ出たもので、大地と空しかないその場所に生命の誕生を促した。長い間降り注いだ陽の氣は、緑の大地と薄っすらと青い空に育まれ、人形を形どる。
ソレを天上人は天女と呼んだ。天女は女性の姿をしてはいるが、人ではない。その見た目とは違い、どちらかと言えば植物に近いのかもしれない。
成人した女性の姿で生まれいでる天女達は、誕生してすぐに天帝や釈迦如来の使いとして、天界と下界を繋ぐ仕事を与えられる。彼女達は、陽の氣が体内にあるうちは人の姿を保っていられるが、生まれた場所から出ることで日々陽の氣を失い、最後には干からびて地に帰る存在だ。
そんな天女に、下界の人々は憧れ夢を見た。美しい天女はもちろんのこと、天女が空を駆けるために纏うキラキラと光り輝く天衣にも陽の氣が込められており、下界では様々な効能を生み出す天衣を欲する者も多かった。
基本、陽の氣だけを受けて生まれた天女は優しく陽気で朗らかで楽天的。それ故に人間に騙され、天衣を奪われることも多々あった。
天衣のない天女は、空を駆けることができないから天界に戻ることはできない。陽の氣が降り注ぐ天界ではそれなりの期間生きていられる天女達も、下界ではそう長くは生きられないのだ。
天衣をなくした天女達は、下界でソレを探すうちに自ら命の終わりを感じ取り、山に入って土となり、山々の植物として生まれ変わると言われている。山に入って珍しい植物を見つけたら、それは天女が生まれ変わった姿なのかもしれないと。
「今は、沢山の血が混ざり合えば斑と呼ばれ力が強くなる。だが、昔は違った。まだ、血の交わりがさほどなかった頃。血が交われば交わるほどその血は薄れ、弱くなって行った。天上の桜はそんな時代、鬼と天女が出逢って生まれた」
沙麼蘿が語るその話を、悟空や悟浄、八戒や玄奘はただ黙って聞いていた。
*********
伴侶→行動や考えをともにする人。なかま。つれ。また、特に配偶者をさしていうこともある
娶る→妻として迎えること
自慢→おごりたかぶること。また、自分のこと、自分の持ち物、自分が所属するものなどの良さを、他に対して得意げに示すこと
死出の旅→死出の山へ行くこと。冥土に行くこと。死ぬこと
見出す→見はじめる。見いだす。見つけだす
摂理→自然界を支配している法則。神あるいは、神的存在の被造物に対する計画•導きをいう
天衣→天人の着る衣。天人の羽衣
促す→物事を早くするようにせきたてる。また、ある行為をするように仕向ける。催促する
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