天上の桜

乃平 悠鼓

文字の大きさ
115 / 204
第二章

始まりの終わり《三》

しおりを挟む
しばらくは“天上の桜”誕生秘話となりますので、玄奘一行の登場場面はありませんm(_ _)m









********

 山奥にある小さな村。その昔はこの集落には沢山の鬼が住み、にぎわい栄えていたと言うが、今その面影おもかげ何処どこにもない。
 各地に存在し交流し合っていた鬼の里もその数を減らし、今やわずかに手紙のやり取りがあるのみ。東西に長い作りの村は、住人が減るに従い住居は東側のみとなり、西側は廃墟はいきょの状態となっていた。

「母さん、俺が行ってくるよ」
「でも…」
「大丈夫、もらって来るだけでしょ!」
「えぇ、そうよ。でも…、やっぱり母さんが行って来るわ」

 鬼が住む集落の西側にある小さな家。本来なら誰も住むはずのないその場所に、人間の母親と頭に一本だけ角を生やした子供が暮らしていた。





 この廃墟しかない西側の一番東寄りの家を修理し、人間の女を連れた鬼が住み始めたのは今から十五年ほど前のこと。村の近くで始まったいくさに参戦していた鬼の一人が、人間の女を連れ戻って来たのだ。
 その昔、鬼がなだらかに数を減らし始めた頃、鬼達は生存の危機を感じ他種族から伴侶はんりょを娶めとることも試してみた。だが、それはうまくは行かず、他種族との間に生まれた子供は鬼とは認められなかった。
 それ以来、余程よほどの変わり者でもない限り他種族から伴侶を娶る者はおらず、鬼とは認められない他種族との子供は、いつの間にかさげすみの対象にさえなっていた。

『角が二本ない者は鬼ではない。力のない者、知識のない者は鬼ではない。何より、我らの半分も生きられぬ者は鬼ではない』

 かつて言われたその言葉は、決して蔑みの為の言葉ではなかった。だが長い年月がたち、その言葉を発した者の真意は失われて行った。
 最初、人間の女を連れ帰った鬼は皆と同じく集落の東側に住んでいた。しかし、女が鬼ではないと言う理由だけで他の鬼からよく思われていないと知ると、一人東側の外れ西側の廃墟で一番東寄りの中で使えそうな家に手を加え、二人でそちらに移り住んだのだった。
 鬼は昼間は皆と狩りに行ったり東側で仕事をし、女は家の裏に鬼が作った畑を耕すなどして二人で暮らしていたが、そこに変化が現れたのは数年後、女が息子を産んでからのことだった。
 その頃各地では激しいいくさが始まり、それはまたもや鬼達の集落を脅かす所までやって来ていた。集落の中でも力が強く、先のたかたいでも戦場におもむいた鬼は、度々女と子供を残したたかいに参戦することになる。
 戦に出たり戻ったりを繰り返していたある日、鬼が亡骸なきこらとなり帰って来た。その日以来、女と子は二人だけで西側に住み暮らしていたのだ。





「母さん!」

 家を出て行こうとしていた母親の身体がグラリと揺れる。息子は驚いて母親に近寄ると

「俺が、俺が行ってくるから。母さんは休んでて」

 と言って、元気よく家を出て行った。
 親子の食事のほとんどは、裏庭にある畑を耕して収穫した物だけだった。だが月に二度は、鬼達が狩りで手に入れた肉や山の果物が親子に配られる。
 いくさで戦死した鬼は、その息を引き取る直前 “自分亡き後は、くれぐれも妻と息子を頼む” と、親友の鬼に言い残していた。村を守るため戦に出てその命を落とした鬼の言葉は村の長老達に伝えられ、残された親子のことは親友であった鬼を中心に村全体で面倒を見ると決められた。
 ただそれでも、鬼しかいないこの村では人間である母親や、半分しか鬼の血を持たない子供は異分子でしかない。言葉を交わすこともなく、冷たい視線を浴びることも多い。
 だから、二人はずっと西側の家で暮らし、親友の鬼が肉や果物を親子に運んでいた。だが、親友の鬼が忙しく来れないこともある。そんな時は、母親が食料をもらいに行っていたのだ。

半端者はんぱものだ!」
「何しに来た、こっちに来るな!」

 親子に対し、大人達はまるでない者のように扱う。何も言われることがないそれは、ある意味気が楽と言えば楽だった。
 だが、子供達は違う。彼等かれらは、自分達とは違う者に対しては容赦ようしゃがなく残酷だった。親から西側に住む親子について何も聞かされておらず、角のない母親や一本しか角を持たない子供はよそ者でしかない。
 自分達とは違う容姿を持ったよそ者に対して、子供達は良い感情を持たなかった。それは、自分達の親の態度から感じ取ったものかも知れないが、一本角の子供に向ける彼等の視線は厳しい。

「力もないよそ者の癖に、帰れ!」

 そんな言葉と共に何かが飛んできて、ゴツンと額にあたる。途端とたん傷みが襲い、思わず一本しか角を持たない子供は額を押さえた。

「何をしている、お前達!!」

 突然子供達の後ろから大人の声がして、“わ~っ!” と声を上げ子供達は蜘蛛の子を散らすように駆け出して行く。

「大丈夫か」
「は…い」

 大きな手で額に手を当てたのは、父親の親友だと言う身体の大きな鬼だった。子供にとって、父親の面影おもかげは殆ど無い。なんとなく、誰か大きな男の人の膝の上に座っていた思い出があるだけだ。

「手当をしよう」

 鬼であれば、石をぶつけられたくらいでは傷がつくことも血が流れることもない。だが、半分しか鬼の血を引いていない子供は弱く、簡単に傷がつく。

「家に上げないで下さいね」

 辿たどり着いた鬼の家で、親友の妻は冷たく言い放った。“半端者を家に上げるなんてとんでもない” そんな声が聞こえ、子供は鬼の後をついて裏庭へと回る。

「これでいい。今日は、母さんはどうしたんだ」

 母親が、こちらに子供を越させたくないことはよく知っている。我が子がどんな目に合うか、分かっているからだ。額の手当を終えた鬼の言葉に

「ちょっと、気分が悪そうだったから」

 うつ向き加減に喋る子供に、“そうか” とだけ答えると、子供が持つには大きな包みを鬼は手渡した。

「肉を多めに入れてある。うまいもんを母さんに作って貰って、二人とも栄養をつけろ。お前がもう少し大きくなれば、母さんの助けにもなるし、生活も楽になるはずだ。いいか、気をつけて帰れよ」

 大きな手が子供の頭を撫で、“うん” とうなずいた子供は、鬼に見送られ家へと帰って行った。








********

面影→記憶によって心に思い浮かべる顔や姿。あるものを思い起こさせる顔つき•ようす
廃墟→建物、集落、都市、鉄道等の施設が長期間使われず、荒廃した状態になっているもの
蔑む→他人を、自分より能力•人格の劣るもの、価値の低いものとみなす。見下げる。見くだす
嘗て→過去のある一時期を表す語。以前。昔
赴く→その方向へゆく•向かって行くことを意味する語
亡骸→死んで魂の抜けてしまったからだ。死体。しかばね。遺体
異分子→一団の中で周囲の多数のものと性質•種類などが異なっているもののこと
容赦ない→遠慮や、情による手加減などがないさま。情け容赦がないさまなどを表現する語
蜘蛛の子を散らす→蜘蛛の子ははいっている袋をやぶって四方八方に散ることから、大勢のものが散り散りに逃げることを言うたとえ


次回投稿は11日か12日が目標です。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...