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第二章
始まりの終わり《七》
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玄奘一行が出ないので、できるだけ簡単に進めようと思っているのに、終わらない!(> <)
十話で終わるのか…?(T_T)
********
「桜花、どうだ」
「駄目みたい」
雨が降り続く山奥で、天女と一本角の鬼が出逢ってから十ヶ月が経つ。あの日、本来なら人気があるはずもないこの山奥に、誰かの気配があることに鬼は気がついた。
一本角の鬼にとって、鬼は自分を虐げる者であったし、人間は自分を恐れ恐怖の対象として見る者で、どちらであったにしても自分に向ける眼差しは酷いものだと知っている。
できることなら、鬼や人間には会いたくない。だが、僅かに感じたられたその気配は、自分が知る鬼や人間とは違うようで、思わず一本角の鬼は木々の合間を抜け “誰か…いるのか?” と、声をかけた。
『て、天女…!』
大きな樹木の根元に座り込んでいたのは、泥で汚れた衣を纏った天女だった。まだ幼い子供だった頃、母が聞かせてくれた寝物語に天女の話があった。
天女は天帝の使いで美しいキラキラと輝く天衣を纏って天上界から下界に降りてくると。天女は下界の人間とは違い、その髪や瞳は天人に近く紫みの青色をしている。ただ天人と違うのは、天女の瞳は遊色効果があり天衣と同じようにキラキラと輝いて見えると言うことだった。
目の前の泥で薄汚れた女の睛眸は、キラキラと輝いている。それは、母親が話をしてくれた天女そのもので、鬼は驚きその双眸を見開いた。
『お…に?』
天女もまた、突然現れた頭に角を持つ青年を見つけ呟く。紫微宮で教えられた下界に住む者の中に、頭に二本の角を持つ鬼がいた。
目の前の青年は一本しか角はないが、角があるからには鬼のはずだ。だが天女に鬼と言われた青年は、その呟きに眉間にシワをよせた。
一本角の鬼の青年風信は木の根元に座り込んでいた天女を家に連れて帰った。鬼にも人間にも受け入れられなかった風信は、鬼里からも人里からも離れた山奥に、今にも崩れ落ちそうな小さな小さな小屋を見つけ、その建物を自分一人で修理補強し住めるようにしたのだった。
その場所は、鬼の血を引く風信から見れば寝るだけの場所しかない。それを少しずつ手を加え、今では家と言えるまでに作り変えた。
寒さ暑さに強く力がある鬼の血が、風信に住処を作る力を与えた。母親や鬼達が家の修理をしているのを見ていた風信は、見様見真似でこの家を作り上げたのだ。
だが、それは一筋縄では行かなかった。それでも、もう風信には行く所など何処にもない。頼れる人だっていないのだ。
たった一人誰もいない山奥で、なんとか雨風をしのぎ失敗を繰り返しながらも、時間をかけ何とか家を作り上げた。それからと言うもの、風信は誰とも関わることなく一人で生きてきた。この天女に巡り逢うまでは。
風信は、家に連れ帰った天女を甲斐甲斐しく世話した。天女は陽の氣を浴びて生きている為、食事を取る必要はない。
それでも、天衣を無くし山を彷徨う天女の為に食事を作り、その泥で汚れた衣を洗った。天女は初めて見る下界の食事に興味を示し、風信に言われるまま食事をとり風信の家で眠りにつく。
その日以来、天女は毎日狩りに出かける風信と共に天衣を捜しに行くようになった。夕暮れ時まであちこち歩き回って天衣を捜しては家に戻る、そんな毎日を送っていたのだ。
『名前?』
『あぁ、そうだ』
天上界にあって、天人達とは違い短い生しかもたない天女に名前はない。だが一向に見つかる気配のない天衣。毎日一緒に暮らす上では、呼び名がないと不便に思うことも多い。
『桜花は、どうだろうか?』
“名前なんて言われても、わからないわ”、そう言って困った素振りを見せる天女に風信が告げたのは、母親が好きだった花の名前。
山でしか育ったことのない風信は山桜しか見たことはないが、母が育った村には大きな桜の木があり、毎年それはそれは美しい花を咲かせていたのだと言っていた。
桜が満開になると、村人達が集まって秋の豊作を願い、桜の下で予祝をするのだと。そんな母から聞いた話を思い出しながら語る風信の顔を、天女は笑顔で見つめる。
『きっと、とても美しい花の名前なのね。そんな美しい花の名を私に?』
人間のように弱くもなく食事をとる必要もない天女に、風信は本当によくしてくれた。三度の食事を作り、寒い冬の日には鬼よりも寒さなど気にならない天女に自分の衣や布団を着せ、自分はそのまま眠りにつくこともあった。
仲間達と別れ、本来ならたった一人で天衣を捜すはずだった天女にとって、風信と出逢い共に過ごす日々は、とても穏やかで優しいものだった。一人ぼっちの寂しさも、寝る場所に困ることもない。
天女の話をよく聞いてくれ、時に慰め笑いかけ “きっと天衣は見つかる、俺も捜すから大丈夫だ。天上界に帰れる!” と天女を励まし、狩りをしながら天衣も捜してくれていた。
そんな風信が自分につけてくれた、美しい花の名前。天女は何度もその名を口ずさみ、いつしか天女と呼ばれるよりも、“桜花” と呼ばれる方が自分のことなのだと思えるようになっていた。
「今日はもう帰ろう、日が暮れてきた」
「えぇ、そうね」
夕陽が辺り一面を染め上げ、風信は桜花に声をかけた。いったい、何時になったら天衣は見つかるのか。“もう、見つけることはできないかも知れない”、桜花は最近そんなことを考えるようになった。
今の桜花には、天衣よりももっと気にかかることがある。捜していた場所から立ち上がり、風信の元に行こうとした時
「あ…っ」
「桜花!!」
フラリと桜花の身体が揺れ、地面に両手をついた。
「大丈夫か、桜花!」
「大丈夫…よ。ちょっと、躓いただけ」
力なく微笑む桜花を背中に背負い、風信は歩き出す。
「軽くなった」
「天女だもの。人のように重くはないわ」
そんなことはない、確かに桜花はやつれてきた。天女が下界で生きる時間は短い、時が迫っているのだ。
********
虐げる→むごい扱いをして苦しめる。虐待する。いじめる
衣→きぬ。身にまとうもの
纏う→みにつける。着る
遊色効果→宝石などが示す光学効果の一種で、表面に近い結晶の層状構造により干渉光が反射しているため、虹のような多色の色彩を示す現象
住処→住まい
見様見真似→人のするのを見て、そのまねをすること
一筋縄→一本の縄。また転じて、普通のやり方
甲斐甲斐しい→動作などがいかにも手際よく、きびきびしているさま。骨身を惜しまずに仕事に打ち込むさま
彷徨う→あてもなく歩きまわる。一か所にとどまらず、あちこち動く
予祝→あらかじめ祝うこと。前祝い
慰める→何かをして、一時の悲しみや苦しみをまぎらわせる。心を楽しませる
次回投稿は28日か29日が目標です。
十話で終わるのか…?(T_T)
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「桜花、どうだ」
「駄目みたい」
雨が降り続く山奥で、天女と一本角の鬼が出逢ってから十ヶ月が経つ。あの日、本来なら人気があるはずもないこの山奥に、誰かの気配があることに鬼は気がついた。
一本角の鬼にとって、鬼は自分を虐げる者であったし、人間は自分を恐れ恐怖の対象として見る者で、どちらであったにしても自分に向ける眼差しは酷いものだと知っている。
できることなら、鬼や人間には会いたくない。だが、僅かに感じたられたその気配は、自分が知る鬼や人間とは違うようで、思わず一本角の鬼は木々の合間を抜け “誰か…いるのか?” と、声をかけた。
『て、天女…!』
大きな樹木の根元に座り込んでいたのは、泥で汚れた衣を纏った天女だった。まだ幼い子供だった頃、母が聞かせてくれた寝物語に天女の話があった。
天女は天帝の使いで美しいキラキラと輝く天衣を纏って天上界から下界に降りてくると。天女は下界の人間とは違い、その髪や瞳は天人に近く紫みの青色をしている。ただ天人と違うのは、天女の瞳は遊色効果があり天衣と同じようにキラキラと輝いて見えると言うことだった。
目の前の泥で薄汚れた女の睛眸は、キラキラと輝いている。それは、母親が話をしてくれた天女そのもので、鬼は驚きその双眸を見開いた。
『お…に?』
天女もまた、突然現れた頭に角を持つ青年を見つけ呟く。紫微宮で教えられた下界に住む者の中に、頭に二本の角を持つ鬼がいた。
目の前の青年は一本しか角はないが、角があるからには鬼のはずだ。だが天女に鬼と言われた青年は、その呟きに眉間にシワをよせた。
一本角の鬼の青年風信は木の根元に座り込んでいた天女を家に連れて帰った。鬼にも人間にも受け入れられなかった風信は、鬼里からも人里からも離れた山奥に、今にも崩れ落ちそうな小さな小さな小屋を見つけ、その建物を自分一人で修理補強し住めるようにしたのだった。
その場所は、鬼の血を引く風信から見れば寝るだけの場所しかない。それを少しずつ手を加え、今では家と言えるまでに作り変えた。
寒さ暑さに強く力がある鬼の血が、風信に住処を作る力を与えた。母親や鬼達が家の修理をしているのを見ていた風信は、見様見真似でこの家を作り上げたのだ。
だが、それは一筋縄では行かなかった。それでも、もう風信には行く所など何処にもない。頼れる人だっていないのだ。
たった一人誰もいない山奥で、なんとか雨風をしのぎ失敗を繰り返しながらも、時間をかけ何とか家を作り上げた。それからと言うもの、風信は誰とも関わることなく一人で生きてきた。この天女に巡り逢うまでは。
風信は、家に連れ帰った天女を甲斐甲斐しく世話した。天女は陽の氣を浴びて生きている為、食事を取る必要はない。
それでも、天衣を無くし山を彷徨う天女の為に食事を作り、その泥で汚れた衣を洗った。天女は初めて見る下界の食事に興味を示し、風信に言われるまま食事をとり風信の家で眠りにつく。
その日以来、天女は毎日狩りに出かける風信と共に天衣を捜しに行くようになった。夕暮れ時まであちこち歩き回って天衣を捜しては家に戻る、そんな毎日を送っていたのだ。
『名前?』
『あぁ、そうだ』
天上界にあって、天人達とは違い短い生しかもたない天女に名前はない。だが一向に見つかる気配のない天衣。毎日一緒に暮らす上では、呼び名がないと不便に思うことも多い。
『桜花は、どうだろうか?』
“名前なんて言われても、わからないわ”、そう言って困った素振りを見せる天女に風信が告げたのは、母親が好きだった花の名前。
山でしか育ったことのない風信は山桜しか見たことはないが、母が育った村には大きな桜の木があり、毎年それはそれは美しい花を咲かせていたのだと言っていた。
桜が満開になると、村人達が集まって秋の豊作を願い、桜の下で予祝をするのだと。そんな母から聞いた話を思い出しながら語る風信の顔を、天女は笑顔で見つめる。
『きっと、とても美しい花の名前なのね。そんな美しい花の名を私に?』
人間のように弱くもなく食事をとる必要もない天女に、風信は本当によくしてくれた。三度の食事を作り、寒い冬の日には鬼よりも寒さなど気にならない天女に自分の衣や布団を着せ、自分はそのまま眠りにつくこともあった。
仲間達と別れ、本来ならたった一人で天衣を捜すはずだった天女にとって、風信と出逢い共に過ごす日々は、とても穏やかで優しいものだった。一人ぼっちの寂しさも、寝る場所に困ることもない。
天女の話をよく聞いてくれ、時に慰め笑いかけ “きっと天衣は見つかる、俺も捜すから大丈夫だ。天上界に帰れる!” と天女を励まし、狩りをしながら天衣も捜してくれていた。
そんな風信が自分につけてくれた、美しい花の名前。天女は何度もその名を口ずさみ、いつしか天女と呼ばれるよりも、“桜花” と呼ばれる方が自分のことなのだと思えるようになっていた。
「今日はもう帰ろう、日が暮れてきた」
「えぇ、そうね」
夕陽が辺り一面を染め上げ、風信は桜花に声をかけた。いったい、何時になったら天衣は見つかるのか。“もう、見つけることはできないかも知れない”、桜花は最近そんなことを考えるようになった。
今の桜花には、天衣よりももっと気にかかることがある。捜していた場所から立ち上がり、風信の元に行こうとした時
「あ…っ」
「桜花!!」
フラリと桜花の身体が揺れ、地面に両手をついた。
「大丈夫か、桜花!」
「大丈夫…よ。ちょっと、躓いただけ」
力なく微笑む桜花を背中に背負い、風信は歩き出す。
「軽くなった」
「天女だもの。人のように重くはないわ」
そんなことはない、確かに桜花はやつれてきた。天女が下界で生きる時間は短い、時が迫っているのだ。
********
虐げる→むごい扱いをして苦しめる。虐待する。いじめる
衣→きぬ。身にまとうもの
纏う→みにつける。着る
遊色効果→宝石などが示す光学効果の一種で、表面に近い結晶の層状構造により干渉光が反射しているため、虹のような多色の色彩を示す現象
住処→住まい
見様見真似→人のするのを見て、そのまねをすること
一筋縄→一本の縄。また転じて、普通のやり方
甲斐甲斐しい→動作などがいかにも手際よく、きびきびしているさま。骨身を惜しまずに仕事に打ち込むさま
彷徨う→あてもなく歩きまわる。一か所にとどまらず、あちこち動く
予祝→あらかじめ祝うこと。前祝い
慰める→何かをして、一時の悲しみや苦しみをまぎらわせる。心を楽しませる
次回投稿は28日か29日が目標です。
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