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第二章
厄災の大地《四》
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ヒリヒリと、肌が焼けるような灼熱が流れ出し、沙麼蘿が作り出した氷の壁が溶け始めたのだと気づく。
「村人を洞窟から出すな、そしてお前達も此処から動くな」
洞窟の入口で、皇は玄奘達にそう言った。
「動くなとは、どう言うことだ」
「動かなきゃ何もできないだろうが」
「そうだぞ」
白刃を手に持ち出て行く直前の皇に、玄奘や悟浄や金角が言葉を投げかけると皇は酷く尊大な態度で “邪魔だからに決まっているだろう” と呟く。こんな時はだいたい琅牙がいて間に入ってくれるものだが、今この場に彼はいない。この闘いしかない場所では、商人である琅牙では足手まといになるとわかっているからだ。その代わりは、妾季が行う。
「この洞窟の入口にも、宝具を設置しました。あの魔神の大きさから言ってすべの熱を防げるとは思いません。しかし、此処から離れて闘うよりはましなはずです。我々は最前線にいますが皇様と公女様の話では、闘いの中で魔神から流れでる血は辺り一面に降り注ぐとのこと。宝具を持った我等ならいざ知らず、普通の人間がそれを浴びればただではすみません。どうか隠れる場所がある洞窟を背にして闘ってください。いざと言う時は洞窟の中に避難を、村人を頼みます」
「どう闘う」
玄奘は、唯一対抗策を持っていそうな沙麼蘿に問うた。だが、沙麼蘿の答えははっきりしないものだった。
「アレを封印できるのは仏神のみ。私と皇にできるのは、せいぜい足止めくらいだろうさ」
「では、どうすと」
沙麼蘿なら何とかできるかも知れないと、八戒は思っていた。沙麼蘿が何もできなければ、自分達にできることなどおそらくないだろう。
「腕を一本、もらう」
「腕一本でなんとかなるのかよ」
「一時的に止めることは、できるだろう。だがそれだけだ、時が過ぎればまた動きだす。そうなる前に、仏神を引きずり出すしかない」
「仏神は、出でくるのか」
沙麼蘿の言葉に、悟浄や悟空もこれから訪れるであろう地獄のような事態が容易に想像できてしまった。
「そう簡単には出てこないだろうな、孫悟空。上位になればなるほど、道界でも仏界でも面倒な手続きがいることになる。だが、そんなことよりも、まずはあの魔神から降り注ぐことになる沛雨の如き血だけは浴びるなよ。アレの血はおそらく沙麼蘿と変わりない、少量でもその身にうければ人間など一溜りもあるまい。覚悟はいいか、玄奘三蔵」
「無論だ、見縊るな」
皇に答えた玄奘の言葉に全員が頷き、沙麼蘿と皇は魔神めがけて飛び出した。
ドスン、ドスンと地響きの音がして、その度に身体が揺れ熱風が吹き抜ける。如何に宝具があろうとも、魔神が動く度に流れ来る灼熱は防ぎきれるものではなく、焼け付くような熱が汗が滲み出る程の風に変わったのみ。
「暑…い」
そう呟いたのは誰だったか。見上げても顔を見ることができない程の大きな魔神の腕一本とは、一体どれほどのものか。恐らく、沙麼蘿や皇の宝具である剣を持ってしても、一太刀や二太刀では切り取れるはずもない。斬りつける間中流れ落ちてくるであろう魔神の血と、切り落とされた時に流れ出る血の雨を思い顔面蒼白になったとしても、誰も責められないだろう。
「ふざけているのか」
思わず、皇の口からそんな言葉が出た。目の前にある魔神の片腕は、紫微宮を支える巨大な柱と変わりないようにも見える。しかも、魔神の体から発せられる灼熱が皇と沙麼蘿の身体に直接降り注ぐ。
「この中でこれが切り取れると。切り取るまでにどれだけの時間がかかる、その間この灼熱に絶え続けろと。下にいる妾季や玄奘達が、何時までもつか」
皇の言う通り、まずは魔神が発する熱を奪わなければ、いくら皇と沙麼蘿でも魔神には近づけない。
「魔神を凍らせる。来い氷龍!!」
沙麼蘿が本気で魔神を氷漬けにすれば、それは魔神の体だけではなく下界も氷で包まれることになるだろう。それだけの冷氣でなければ魔神の体を全て凍りつかせることはできない。だから
「喰らい尽くせ、氷龍!」
沙麼蘿の声に、天空より現れた氷龍が魔神の左腕に絡みつき、冷氣の渦を吐きながら咆哮を上げ、腕から肩、肩から半身と氷漬けにして行く。
「制御せよ、風龍!」
皇は、魔神の体から外にまで溢れ出そうとする冷気を制御しようと、現れた風龍を動かす。氷龍が魔神から発せられる邪氣と熱を奪い取り、風龍は魔神の頭上から氷龍の冷氣が地上にまで降りるのを防ぐ。魔神の片腕は完全に氷漬けにするつもりだが、魔神の体は上辺だけになるだろう。それでも、体から発せられる灼熱は防げるはずだ。だが、これには魔神も黙ってはいない。魔神の右手が炎を吐きながら氷龍の頭を押さえ込む。
「お前如きが!」
一瞬発せられた悲鳴にも似た氷龍の声に、沙麼蘿の氷龍神剣が氷に包まれ、魔神めがけて振り下ろされる。剣から溢れ出た冷氣の渦が魔神の右手に直撃し、炎と混ざり合ってジューと音を立て消えた。剣から発せられる冷氣では、全ての炎を押さえ込むことはできない。それでも氷龍が頭をあげ、辺り一面に冷氣の渦を振りまく。
風龍が空中より降りてきて、魔神の体を取り囲むように動きながら余分な冷氣を空中へと拡散させる。地上に冷氣が降り注ぐのを阻止するためそれらは天上界に向かうことになるが、そんな事は皇の知ったことではない。氷龍の冷氣が勝つか魔神の灼熱が勝つかと言うところだが、一瞬止めるだけなら氷龍と風龍の力の方が勝つ。
長くは持たないはずだが魔神の左腕が氷付き、それは左半身から薄っすらと右半身にわたり、右手からも灼熱が消えた。
「今だ!」
氷龍と風龍が細かな粒子となって消えて去り、沙麼蘿と皇の剣が魔神の左腕めがけて振り下ろされる。
********
白刃→鞘から抜いた刀
尊大→いばって、他人を見下げるような態度をとること
容易→たやすいこと。やさしいこと。また、そのさま
沛雨→沛然(はいぜん)と降る雨。激しく降る雨
一溜りもない→わずかの間ももちこたえられない
見縊る→軽視する。あなどる。見下げる
一太刀→刀で一度斬りつけること
咆哮→猛獣などが、吠えたげること。また、その声
次回投稿は25日か26日が目標です。
「村人を洞窟から出すな、そしてお前達も此処から動くな」
洞窟の入口で、皇は玄奘達にそう言った。
「動くなとは、どう言うことだ」
「動かなきゃ何もできないだろうが」
「そうだぞ」
白刃を手に持ち出て行く直前の皇に、玄奘や悟浄や金角が言葉を投げかけると皇は酷く尊大な態度で “邪魔だからに決まっているだろう” と呟く。こんな時はだいたい琅牙がいて間に入ってくれるものだが、今この場に彼はいない。この闘いしかない場所では、商人である琅牙では足手まといになるとわかっているからだ。その代わりは、妾季が行う。
「この洞窟の入口にも、宝具を設置しました。あの魔神の大きさから言ってすべの熱を防げるとは思いません。しかし、此処から離れて闘うよりはましなはずです。我々は最前線にいますが皇様と公女様の話では、闘いの中で魔神から流れでる血は辺り一面に降り注ぐとのこと。宝具を持った我等ならいざ知らず、普通の人間がそれを浴びればただではすみません。どうか隠れる場所がある洞窟を背にして闘ってください。いざと言う時は洞窟の中に避難を、村人を頼みます」
「どう闘う」
玄奘は、唯一対抗策を持っていそうな沙麼蘿に問うた。だが、沙麼蘿の答えははっきりしないものだった。
「アレを封印できるのは仏神のみ。私と皇にできるのは、せいぜい足止めくらいだろうさ」
「では、どうすと」
沙麼蘿なら何とかできるかも知れないと、八戒は思っていた。沙麼蘿が何もできなければ、自分達にできることなどおそらくないだろう。
「腕を一本、もらう」
「腕一本でなんとかなるのかよ」
「一時的に止めることは、できるだろう。だがそれだけだ、時が過ぎればまた動きだす。そうなる前に、仏神を引きずり出すしかない」
「仏神は、出でくるのか」
沙麼蘿の言葉に、悟浄や悟空もこれから訪れるであろう地獄のような事態が容易に想像できてしまった。
「そう簡単には出てこないだろうな、孫悟空。上位になればなるほど、道界でも仏界でも面倒な手続きがいることになる。だが、そんなことよりも、まずはあの魔神から降り注ぐことになる沛雨の如き血だけは浴びるなよ。アレの血はおそらく沙麼蘿と変わりない、少量でもその身にうければ人間など一溜りもあるまい。覚悟はいいか、玄奘三蔵」
「無論だ、見縊るな」
皇に答えた玄奘の言葉に全員が頷き、沙麼蘿と皇は魔神めがけて飛び出した。
ドスン、ドスンと地響きの音がして、その度に身体が揺れ熱風が吹き抜ける。如何に宝具があろうとも、魔神が動く度に流れ来る灼熱は防ぎきれるものではなく、焼け付くような熱が汗が滲み出る程の風に変わったのみ。
「暑…い」
そう呟いたのは誰だったか。見上げても顔を見ることができない程の大きな魔神の腕一本とは、一体どれほどのものか。恐らく、沙麼蘿や皇の宝具である剣を持ってしても、一太刀や二太刀では切り取れるはずもない。斬りつける間中流れ落ちてくるであろう魔神の血と、切り落とされた時に流れ出る血の雨を思い顔面蒼白になったとしても、誰も責められないだろう。
「ふざけているのか」
思わず、皇の口からそんな言葉が出た。目の前にある魔神の片腕は、紫微宮を支える巨大な柱と変わりないようにも見える。しかも、魔神の体から発せられる灼熱が皇と沙麼蘿の身体に直接降り注ぐ。
「この中でこれが切り取れると。切り取るまでにどれだけの時間がかかる、その間この灼熱に絶え続けろと。下にいる妾季や玄奘達が、何時までもつか」
皇の言う通り、まずは魔神が発する熱を奪わなければ、いくら皇と沙麼蘿でも魔神には近づけない。
「魔神を凍らせる。来い氷龍!!」
沙麼蘿が本気で魔神を氷漬けにすれば、それは魔神の体だけではなく下界も氷で包まれることになるだろう。それだけの冷氣でなければ魔神の体を全て凍りつかせることはできない。だから
「喰らい尽くせ、氷龍!」
沙麼蘿の声に、天空より現れた氷龍が魔神の左腕に絡みつき、冷氣の渦を吐きながら咆哮を上げ、腕から肩、肩から半身と氷漬けにして行く。
「制御せよ、風龍!」
皇は、魔神の体から外にまで溢れ出そうとする冷気を制御しようと、現れた風龍を動かす。氷龍が魔神から発せられる邪氣と熱を奪い取り、風龍は魔神の頭上から氷龍の冷氣が地上にまで降りるのを防ぐ。魔神の片腕は完全に氷漬けにするつもりだが、魔神の体は上辺だけになるだろう。それでも、体から発せられる灼熱は防げるはずだ。だが、これには魔神も黙ってはいない。魔神の右手が炎を吐きながら氷龍の頭を押さえ込む。
「お前如きが!」
一瞬発せられた悲鳴にも似た氷龍の声に、沙麼蘿の氷龍神剣が氷に包まれ、魔神めがけて振り下ろされる。剣から溢れ出た冷氣の渦が魔神の右手に直撃し、炎と混ざり合ってジューと音を立て消えた。剣から発せられる冷氣では、全ての炎を押さえ込むことはできない。それでも氷龍が頭をあげ、辺り一面に冷氣の渦を振りまく。
風龍が空中より降りてきて、魔神の体を取り囲むように動きながら余分な冷氣を空中へと拡散させる。地上に冷氣が降り注ぐのを阻止するためそれらは天上界に向かうことになるが、そんな事は皇の知ったことではない。氷龍の冷氣が勝つか魔神の灼熱が勝つかと言うところだが、一瞬止めるだけなら氷龍と風龍の力の方が勝つ。
長くは持たないはずだが魔神の左腕が氷付き、それは左半身から薄っすらと右半身にわたり、右手からも灼熱が消えた。
「今だ!」
氷龍と風龍が細かな粒子となって消えて去り、沙麼蘿と皇の剣が魔神の左腕めがけて振り下ろされる。
********
白刃→鞘から抜いた刀
尊大→いばって、他人を見下げるような態度をとること
容易→たやすいこと。やさしいこと。また、そのさま
沛雨→沛然(はいぜん)と降る雨。激しく降る雨
一溜りもない→わずかの間ももちこたえられない
見縊る→軽視する。あなどる。見下げる
一太刀→刀で一度斬りつけること
咆哮→猛獣などが、吠えたげること。また、その声
次回投稿は25日か26日が目標です。
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