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みっつめの話
15:みっつめの話、エピローグ
しおりを挟む――その日、この世界にいる誰もがひとつの光を目にすることになった。
なぜならば。
あらゆる場所の空が一色に染まるほどの光量が、ある場所から立ち昇ったからである。
●
前触れはなかった。
気がついたときには、既にその光は発生していた。
世界を純粋な青色に染め上げていた。
夜だというのに昼もかくやというほどに明るい光が目に飛び込んでくれば、どんな生き物の意識も覚醒するものである。
光の到来で異変が起こった事実を認識させられた直後に、衝撃がやってくればなおさらだ。
その衝撃が、建物の中にいようとも走り抜けた感覚を肌に残していく轟音によるものだと理解できたのは、建物が余波でぐらぐらと揺れて音を立ててくれたからだった。
……何が起こった。
そう思い、建物から外に出て空を眺めてみれば、そこには、大地から空を繋ぐように伸びる太い光柱が立っていた。
……なんだあれは。
光の色が示すのは炎の温度だ。
その場にいるわけでもないのに、光を見ているだけで熱を感じるほどの熱量がそこにある。
光の規模が示すのは破壊の大きさだ。
遥か遠くで、下手をすれば小さな国くらいは消し飛ぶほどの範囲が燃え尽きたことを示している。
――何であればそんなことが出来るのか。
咄嗟に浮かんだ疑問に対する答えを、答えと成り得る可能性のひとつの存在を、私は知っていた。
●
世界に終焉をもたらすモノが現れたと、そう語られるようになった出来事が起こった日から数日が経った。
あの夜に光柱を見上げたすぐ後から移動を開始して、ようやくその発生源と思しき場所へとたどり着いた私は、現場を見て心底から恐怖した。
そこに広がっていたのは、確かに凄まじいまでの惨状だった。
広範囲にわたって地面が割れ、焼け焦げて、荒れ果てていた。
しかし、それだけだった。
……あの光の規模を考えれば被害が小さすぎる。
ここに来る直前までは、まだ誰も近づくことさえ出来ないほどの熱が残っていてもおかしくないと思っていたのだが。
……やはり現場に来ることでわかることは多いな。
心の中でそんな言葉を思いながら、周囲の観察を続けた。
観察の結果としてわかったことは、あの光が魔術によるものであることはほぼ間違いないということであり、それを行ったのがあの竜である可能性が高いということだった。
……魔術の行使には跡が残る。
特に大規模な魔術を行使した場合には、空間に傷をつけるような形で、感じられるものがその場に残るのだ。
そしてその気配には、魔術の行使に慣れ親しんだものであれば、誰のものであるのかがわかる程度の差が存在する。
知っていればそれと必ずわかる違いが、そこには存在している。
「…………」
誰が何をやったのかはわかった。
その上で思うことがあるとすれば、ひとつだけだ。
……どちらなのだろうな。
私が知っているあの竜は、自らの力をいたずらにひけらかすような真似はしそうにない。
そうであれば、この惨状を生み出した一撃は戦闘に際して放たれたものと見るべきだろう、と思う。
ただ、その一撃は。
今見えている程度の被害しか生み出さないものであったのか。
それとも、そこまでの被害に留めるように抑え込んでいたのか。
私にはとても判断できそうになかった。
……普通に考えれば、あの光は派手な演出だったと結論づけるのが自然な流れだが。
あの竜であれば、自らの全力を出した上で環境に配慮し、必要十分となる最低限の被害に留めるくらいはしそうだなと思う気持ちもあったのだ。
……だって、私のときがそうだったもんなぁ。
まだ力の扱い方に慣れていなかったのだろうあの竜は、それでも、竜退治の英雄として祭り上げられるに足る実力をもった私を軽く退けた上で、自らが壊してしまったあの環境を戻す努力を諦めずにやり遂げたのだ。
……まぁその努力に私が気づいたのは、見逃されてから随分と時間が経ってからだったけど。
でも、その事実に気づけたからこそ。
私は、あの竜が周囲に対する配慮を忘れない謙虚な生き物であることを知っているのだ。
「……そのうち確かめる機会もあるかな」
そう言って、今後のことを思う。
――あの光が演出によるものであろうとなかろうと、あの竜に対する警戒度は上がる。
脅威に対してどう接するかを決めるにあたって、手を出すか否かを決めるのは保有する暴力の質か量だ。
あの竜が示したこの結果を見て、暴力の質に疑いの余地を持つものはいまい。
手を出そうと思う人間は少数派となるだろう。
その上で、相手がこちらの言葉を聞く頭があるとわかっているのであれば、話し合いという手段に思い至ることになる。
……その流れが来れば、竜退治の英雄にも声はかかることだろうさ。
人類の存亡をかけて話し合いの場が設けられることになる。
そんな未来を思い描いて、
「そのときにはきっと、私の目的も達成されていることだろう」
私はその時が来るのが待ち遠しいと、思わず笑みがこぼれてしまった。
●
・――世界に終わりをもたらすものが現れた、という風説が流れ始めました。
・――世界の敵というあだ名が追加されました。
・――一人の信者による暗躍が始まっています。
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