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よっつめの話
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しおりを挟む我輩は竜である。
名前などつけてもらう必要はない。
不本意なあだ名や噂が流れていたとしても、わざわざ訂正する気にもならなくなった。
我輩の耳に入らない限りは、もう勝手にしていればよいのではなかろうか。
●
魔族からの勧誘はしっかりとお断りした後で、我輩はまた住処を変えた。
そこは、何も来ないだろう静かな環境を求めて世界を巡り、ようやく見つけた場所だった。
……ここは本当に、静かでいいところであるな。
なにせ、我輩の体躯をもってしても、苦労と我慢を重ねた末にようやく越えることができた過酷な空と大地の先に存在している空間である。
何にも侵されることなく育まれた、穏やかな自然がここにはある。
……しかし、ここにはそれだけしかない。
生存競争という意味での争いは存在するのだろうが、少なくとも人間のような半端に賢い生き物はいないようだったから、我輩にわざわざ絡んでくるようなものはいなかった。
その事実が、我輩にとって最も大きな幸いであった。
……ここであれば、騒がしくなることも早々あるまい。
ここでなれば、我輩は心の底から安堵してずっとまどろんでいられるであろうと確信していた。
――そう思っていた時期が確かにあった。
●
人間という生き物は本当に余計なことばかりをするものである。
工夫する知恵を持って生まれたばかりに。
行動力だけはどの生き物よりも優れているばかりに。
一度でも悪い想像をしてしまえば、勘違いをしてしまえば、動くことを止められない。
……知らないことを放置していられないという、未知への恐怖が拭いきれぬのかもしれんが。
結局のところ、この場所を囲むようにして存在する過酷な環境は、時間稼ぎになりはしても絶対の壁にはならなかったらしい。
魔族の勧誘を断るときに、我輩が脅威であることは確かに示したはずだと思うのだが。
その暴威を放置できないと思えば、越えられる程度の障害でしかなかったようである。
『――――』
気がつけば、周囲の環境が常に無いざわつきを孕んでいた。
ぴりぴりと緊張感のある空気を感じながら、この場所に元より存在していた無数の視線が向く先にあるものの正体を察して、我輩は大きなため息を吐いた。
当たり前だ。
「あなたのお姿を拝見することができ、光栄の至りでございます」
ここにやってきた人間たちの数は数える気にもならないほどに多く。
皆すべからく武装していたからだ。
そして、久しぶりに見た人間たちのうち、その一人が頭を下げながらそう言ってきた。
『…………』
武装と頭数を揃えた上でこんな場所までわざわざ足を運んでおきながら、よくそんな言葉が出てくるものだと、逆に感心したものであった。
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