17 / 21
よっつめの話
17
しおりを挟む我輩は人間から声をかけられてすぐにヒトガタを取り出した。
人間の側からすれば忽然と現れたように見えたのだろう。
視界に映る範囲においては、ただひとりを除いたすべての人間が驚いた様子を見せて、その中の一部においては武器に手をかけるものもいた。
我輩はそれらを無視してやって、言葉を作った。
『我輩はそのような仰々しい挨拶をされて喜ぶような性質は持ち合わせておらぬ。
それに、我輩は口調によって他者を判断する文化も持ち合わせていない。
ゆえに、率直に聞こう。
おまえたちはいったい何の用があって、こんな辺鄙なところにまでやってきたのだ?』
我輩の、人間の立場からしてみればおそらく不躾な言葉遣いに、我輩に声をかけてきたものは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに表情を取り繕って口を開いた。
「助力を願いに来ました」
『何のために』
「世界の脅威に立ち向かうためです」
『……世界の脅威?』
これはまた急に大きな主語が出てきたものだと、そう思って黙っていたら、人間が更に言葉を重ねてきた。
「つい先日のことです」
……聞かれてもいないのに話を始めるのは、どこにいるものも変わらんものであるなぁ。
事情がわからぬ我輩の立場からしてみれば、話を聞く分には構わぬのだが。
「世界のどこに居ても見えるほどの、大きな光柱が発生しました」
……身に覚えがある出来事であるな。
そう思って、過去を振り返る。
我輩、あの時は格下と看做されていた事実があまりにも気に入らなかったものだから、少しばかりはしゃぎすぎてしまっていたなぁと。
……流石に、再生不可能な状態へ至る破壊にならぬよう気をつけたつもりだが。
気にしていたのはそこだけだったというのも確かなことであり、どうやら外から見るとかなり派手なことになっていたようである。
……しかしそれを見たのであれば、なぜこの連中は我輩のところに来たのだ?
その光柱というものが、我輩が行った攻撃によるものだとするならば。
尋常な思考回路を持つ生き物であれば、わざわざ近寄ったりしないものだろうに。
……我輩が知らぬ間に、別の何かがそれを為したとでも言うのだろうか。
『…………』
我輩の感覚器が不調であった時期はない。
ゆえに、我輩の心当たりがある時機以外で世界のどこにいても見えるような光柱が発生したのなら、わからないはずがない。
……ううむ、わからん。
どういうことだ。
――そのようにして浮かんだ疑問は、人間の発した次の言葉によって解決した。
「その光柱によってもたらされた被害は尋常なものではありませんでした。
我々はその結果をもって、新たに世界の脅威となる存在が現れたものと結論を出しました。
よって、その脅威に対抗するための力を集めんがために、こうしてこの場に馳せ参じた次第でございます」
どうやら人間たちは、その光柱による破壊と我輩を紐付けすることが出来なかったらしい。
『――――』
生まれた直後に発した産声を、世界に対する恨みつらみと思い込み。
温かい日射しを浴びる喜びに浸りながら空を飛んでいた事実を、獲物を求めて彷徨う姿と見誤り。
勝手に生贄を差し出して満足した後で、まったく関連のないふたつの事柄を繋ぎ合わせて一本の物語を作り出してしまった思考回路は、今回の件ではまったく違った結論を導き出したようであった。
……人間とは真に勘違いの天才であるなぁ。
そんな言葉が脳裏を過ぎって現実逃避したくなってくる衝動に駆られたのは、我輩が至極正常な思考回路を有しているからだと思いたかった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる