我輩は竜である。名前などつけてもらえるはずもない。

どらぽんず

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よっつめの話

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 戦闘という行為が発生してしまったのならば、必ず被害と呼べるものが出る。

 その戦闘における当事者が死に至るか、あるいは動けないほどの傷を負うというのはもちろんのことだが。一対一か、一対多数か、あるいは集団同士の争いであるのかに関わらず、周辺にあるだけのものにさえ被害を出してしまう。

 なぜならば、戦いの最中においてはお互いに、相手を倒したいと思い、自分は死にたくないと願っているがゆえに、攻撃は目標に当たらない場合もあるからだった。

 その結果として目標以外の何か――周囲の環境までをも破壊してしまうのである。

 ……もっとも、首尾よく当たったからと言ってそれ以外に被害が出ないわけでもなかろうが。

 とにかく、戦闘という行為が環境へ悪影響を与えることには間違いない。

 だから。
 我輩はこの場で、戦闘などと呼ばれる野蛮な交流をするつもりは毛頭なかった。

 ……奇跡のような偶然で残っているこの環境を不用意に荒らす真似はせぬとも。

 我輩がこの地に留まるようになってからずっと、何かがやってきたときに戦闘が発生する余地など無くなるように、あらかじめ手を打っておいた。

 準備をしておいた。

 ……最初の戦いで学んだことだ。

 我輩の身ひとつで成し遂げられることには限りがある。
 あらゆることは順番に対応するしかない。
 複数の成果を同時に上げることは難しい。

 ――しかし、事前に準備さえ整っていれば。
   同時と呼べるほどに連続して目的を達成することも決して不可能ではない。





 交渉決裂によって人間たちが身構えた。
 否、身構えようとした。

 しかし、我輩がそこから先の行動を許さなかった。

 ――幾重にも折り重なった金属音が空へ抜けるように響き渡る。

 その音に続くのは、生き物が痛みを堪える苦悶の声だ。

「……っ!」

 周囲の物陰に隠れて様子を伺っていた人間も含めて、敵対生物の位置は把握している。

 ……会話で時間も稼げたからな。

 位置がわかれば後は簡単だ。

 既に各所へと潜ませていたヒトガタをもって制圧するだけである。

 ……我輩が作っていたヒトガタはひとつだけではないとも。

 仮想敵は人間だ。
 人間とは群れを作って役割を分担し、数の暴力でもって外敵を退け、勢力図を広げてきた生き物である。

 ……どれほど強大な個であろうとも、物量の前には敵わない。

 それはひとつの真理である。

 我輩もそこに否やを唱えるつもりもない。

 だから、我輩もその真理に基づいて準備をしておいた。

 ――いまや作ったヒトガタの数は四桁を上回る。

 そのひとつひとつが、かつて出会った、竜を倒さんとする実力者の動作機序を組み込んだ暴力の塊だ。

 数で勝っていればまず負けぬ。
 質で劣っていても数の有利でどうにかなる。 

 ……質も劣らぬようにと、我輩も無い知恵を絞って改良を重ねたものであるが。

 どうしてこんなことをやっているのだろうかと思うこともあった。
 無駄な努力になってくれたほうがよいと考えていた。
 
 今こうして、実際に用意したそれらを活用する機会が訪れたことによって費やした時間と苦労は報われた形となるわけだが、それをよしと思うこともない。

 ……我輩も未熟であるな。

 目の前に現実となった結果を見て、思うことはそれだけだ。

「物騒なのはやめましょうよ。お互いに、ね?」

 我輩の用意したヒトガタは、今回やってきた相手の殆どを制圧できたが。
 たった一人の人間だけは、我輩の準備を上回っていた。

 その一人には、見覚えがあった。

「私もこんなステキな場所を荒らす真似はしたくないんです。
 話し合いで解決、できませんかね?」

 用意したヒトガタの一撃を軽くいなして抑え込み、そう言って笑いかけてくる人間は、かつて我輩を倒さんと一方的に武器を向けてきた者だった。
  
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