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第5 全ての始まり 4

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「こちらが急に呼び立ててしまったせいで申し訳ない」

リオネル様の言葉に、私は血の気が引いた。さっきの言葉がまるで責めているように聞こえることに、ようやく気が付いたのだ。

「申し訳ございません!決してそういうつもりではございません」

「いや、レナが詫びることではない。むしろこちらの配慮が至らず申し訳なかった」

それこそリオネル様が詫びることではないはずだ。
ただ私が恥ずかしい思いをしないで良いようにそう言ってくれたのだろう。
これ以上このやり取りを繰り返してもリオネル様の配慮を無駄にしてしまう。

「お詫びと言ってはなんだが、私からドレスや必要な物を送らせてもらえないだろうか?1年間も世話になるんだ、これぐらいはさせてくれ」

だから私は恥ずかしく思いながらも、その言葉に甘える事にした。

だって必要になる着替えも、日用品もあの父がこれから手配をしてくれるとは思えなかった。
もしかしたら初めから辺境伯家へ負担させるつもりだったのかもしれない。あの父ならやりそうなことだ。

ケガの賠償として奉公に来たような立場なのに、どの口でそんな事をねだれただろう。恥ずかしくてしかたがない。

「レナにはどのようなドレスが似合うだろう。色の好みはあるだろうか?あぁ、他にも食事の好みなどもできたら教えてくれないか?夕食には間に合わないだろうが、朝食からは考慮するように伝えておく」

立て続けの質問で話題の中心が明日の朝食に変わっているのも、さりげないリオネル様の気遣いだろう。

どうしようもない状況を救ってくれたリオネル様に、私は心の底から感謝した。
精一杯お世話でお返しさせていただこう。そのためにはまず何をしたら良いのだろう。

「ありがとうございます。ですが、特に苦手な物はございません」

私でもお役に立てること。それを早く見つけなくてはいけないのに、これではまるでゲスト扱いだ。
なんだかチグハグな状況に私は小さく苦笑した。

「そうなのか、私はタナト芋が苦手だな…あの独特の風味がどうしても好きになれなくて」

「タナト芋ですか?」

たしかにこのカナトス領の北の地方の名産の芋だった。だけどどちらかと言えば庶民用の食材なのだ。栄養は豊富だけど、旨味も少ない。辺境伯家に並ぶような野菜だとは思えなかった。

それに何よりも美味しく食べるには調理に手間がかかる芋なのだ。

「独特の風味が残っているのでしたら、アク抜きの処理が足りないのかもしれないですね。タナト芋は食べる前日には皮を剥いて途中で2回は水を交換しながら水にさらさないとダメですし、下茹でもしたほうが良いですから」

「レナは調理に詳しいんだな」

いつもやっている事なので。そう言いかけた所で私はようやくハッとした。
ニコニコと笑うリオネル様は純粋に感心している様子だが、普通の令嬢は調理なんてしないのだ。

失敗してしまった。

そう思った私は、また血の気が引いていくようだった。
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