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第14 奉公人ですよね…? 2
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「それでは2週間後のパーティーをお願いしますよ」
「あっ、はい。かしこまりました」
思わず「はい」と返事を返してしまい、胃の辺りがスウッと冷たくなっていく。
マエリス様のそのお話の前後を全く聞いていなかった私には、2週間後のパーティーが何なのか全く分かっていなかった。
承諾の返事は、拒否を許されてこなかった習慣からのものなのだ。だからそんな条件反射のような返事に1番驚いているのは、返事をしたはずの私自身だった。
いったい自分が何を承ってしまったのかが分からない。
「それではさっそくお返事をお返ししましょう。レナのドレスを誂えるために、明日にでも仕立屋が来るように手配してちょうだい」
そばにいた使用人がマエリス様の言葉を頭を下げて承っている。
話しをしっかりと聞いていなかった事もまずければ、内容を知らないまま承諾してしまったことはとてもまずかった。下手をすれば信用問題にだって発展してしまう。
だけどこのまま黙っていたとしても、肝心のするべきことが分からないのではどうしようもないのだ。
私は覚悟を決めてマエリス様へ声をかけようとした。だけどタイミングが悪かった。その瞬間、私を呼ぶリオネル様の声が重なってしまう。
「あっ、はい。いかがされましたでしょうか?」
自分の予定をリオネル様のご用より優先することはできないのだ。私はマエリス様へ声を掛けるのを止めてリオネル様へ向き直った。
その間に立ち上がったマエリス様がそのまま退室される姿を横目で見送りながら、私は途方に暮れてしまう。
時間や日にちが空けばあくほど、聞き出しにくくなってしまうのだ。
「レナ、私たちも執務室へ行こう」
執事の方と打ち合わせをされていたカナトス卿へ先に退席する事を断ったリオネル様が促すように私の背中をそっと押した。
「…パーティーの事については向かいながら私が説明しよう」
「パーティーについて、ですか……?」
「内容も分からないままで承諾するのは止めるように。1度でも承諾してしまえば取り返せないことも多い。危ないぞ」
どうやら聞いていなかったことをリオネル様はすでに気がついていらっしゃったようだ。マエリス様へお声を掛けようとした瞬間に重なったリオネル様の声も私を助けてくれてのものだろう。
その窘めるような声に私は身体を縮こまらせた。
「……申し訳ございません。本当に失礼なことを致しました」
いつもお仕えするためにこちらに滞在していると言っているのは自分なのに、肝心な時には用件を聞いてさえいないのではお話しにならなかった。
「責めている訳ではない。ただ心配をしている。いつでも私がフォローできるなら良いが、それはムリだろうからな」
1年だけしかおそばに居られないのだから。その先を心配して頂けているのだろう。
「…はい、気をつけます……」
向けられた優しさは嬉しかった。限られた期間だけでも体験できて良かったと思う。だけど来年の今日にはもうそばにリオネル様がいらっしゃることがないのだと思って、少し寂しかった。
「あぁ、そうして欲しい」
叱られて落ち込んでいると思ったのかもしれない。リオネル様が小さな子どもを慰めるように私の頭をポンポンと撫でた。
「あっ、はい。かしこまりました」
思わず「はい」と返事を返してしまい、胃の辺りがスウッと冷たくなっていく。
マエリス様のそのお話の前後を全く聞いていなかった私には、2週間後のパーティーが何なのか全く分かっていなかった。
承諾の返事は、拒否を許されてこなかった習慣からのものなのだ。だからそんな条件反射のような返事に1番驚いているのは、返事をしたはずの私自身だった。
いったい自分が何を承ってしまったのかが分からない。
「それではさっそくお返事をお返ししましょう。レナのドレスを誂えるために、明日にでも仕立屋が来るように手配してちょうだい」
そばにいた使用人がマエリス様の言葉を頭を下げて承っている。
話しをしっかりと聞いていなかった事もまずければ、内容を知らないまま承諾してしまったことはとてもまずかった。下手をすれば信用問題にだって発展してしまう。
だけどこのまま黙っていたとしても、肝心のするべきことが分からないのではどうしようもないのだ。
私は覚悟を決めてマエリス様へ声をかけようとした。だけどタイミングが悪かった。その瞬間、私を呼ぶリオネル様の声が重なってしまう。
「あっ、はい。いかがされましたでしょうか?」
自分の予定をリオネル様のご用より優先することはできないのだ。私はマエリス様へ声を掛けるのを止めてリオネル様へ向き直った。
その間に立ち上がったマエリス様がそのまま退室される姿を横目で見送りながら、私は途方に暮れてしまう。
時間や日にちが空けばあくほど、聞き出しにくくなってしまうのだ。
「レナ、私たちも執務室へ行こう」
執事の方と打ち合わせをされていたカナトス卿へ先に退席する事を断ったリオネル様が促すように私の背中をそっと押した。
「…パーティーの事については向かいながら私が説明しよう」
「パーティーについて、ですか……?」
「内容も分からないままで承諾するのは止めるように。1度でも承諾してしまえば取り返せないことも多い。危ないぞ」
どうやら聞いていなかったことをリオネル様はすでに気がついていらっしゃったようだ。マエリス様へお声を掛けようとした瞬間に重なったリオネル様の声も私を助けてくれてのものだろう。
その窘めるような声に私は身体を縮こまらせた。
「……申し訳ございません。本当に失礼なことを致しました」
いつもお仕えするためにこちらに滞在していると言っているのは自分なのに、肝心な時には用件を聞いてさえいないのではお話しにならなかった。
「責めている訳ではない。ただ心配をしている。いつでも私がフォローできるなら良いが、それはムリだろうからな」
1年だけしかおそばに居られないのだから。その先を心配して頂けているのだろう。
「…はい、気をつけます……」
向けられた優しさは嬉しかった。限られた期間だけでも体験できて良かったと思う。だけど来年の今日にはもうそばにリオネル様がいらっしゃることがないのだと思って、少し寂しかった。
「あぁ、そうして欲しい」
叱られて落ち込んでいると思ったのかもしれない。リオネル様が小さな子どもを慰めるように私の頭をポンポンと撫でた。
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