妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)

文字の大きさ
25 / 58

第25 あの日に出会った貴女がいない 1

しおりを挟む
彼女と始めて会ったのは15歳の頃だった。

『お前も婚約者を決めるために、そろそろ本気で相手を探せ』

そんなことを言われて、騙されるように参加させられたお茶会での時だ。

ヴァラハテール国を隣国とするカナトス領は、その立地からも大きな権限を持っている。だからこそ。

『宮中内の派閥だとか、家同士のつながりだとか、そういったことは気にせずにお前が本当に望む者を探せば良い』

つねづねそう言われていた俺は、将来カナトス領を共に治めていける器量を持った相手を探していた。だけどそんな女性はなかなか見つからない状態だったのだ。

今なら体裁を取り繕う方法も学んだが、当時の俺は本人が思った以上にまだまだ子どもだったのだろう。

中身のないおべっかや虚栄心がぶつかり合う様子はひどくうんざりさせられて、見ているだけで疲れていた。そんな中、思わず逃げ込んだ先にいたのが同じように逃げ出した彼女だったのだ。

始めはこんな所に隠れていることに興味を持っただけだった。でも他のどの令嬢とも違う頭の回転の早さに博識さ。そんな彼女と話す時間は、いままで過ごしたどの令嬢との時間よりも楽しかったのだ。

名前を聞いた時に、少しだけ黙り込んでエレン=ブランシャールだと名乗られた。そこで始めて前の戦争で爵位を賜った男爵家で、あの大きな商会のひとり娘だとようやく知った。

名乗る直前の沈黙も身分差に躊躇って、思わず口ごもってしまったのだとあの時の俺は思っていた。

だけどどんなに大きな身分差でも『お前が望む者を』と言われていたのだから。

『カナトス領でもっとも大切なのは何だと思う?』

他の令嬢と同じように彼女へもそんな質問を投げてみたのだ。

ただ問題なのは、この質問への回答として何が正解なのか、俺自身も漠然としか分かっていないという事だった。

それでもこれまで聞いた『兵力』や『この地を立派に治めているカナトス家そのもの』、『いざという時の後ろ盾となる強い貴族間のつながり』といった回答が、俺が求めたものと違うことだけは確かなのだ。

『領民とその領民の穏やかな日々でしょうか?』

そんな中で聞こえた彼女の回答に、俺は思わず目を見開いた。

『なぜそう思うんだ?』

『カナトス領は辺境で、隣国は停戦中のヴァラハテール国です』

『あぁ、そうだな』

『国防の要のこの土地で、防御の要となるのは領民です。人は守りたいもののために戦いますから』

彼女はまだ13歳だと聞いていた。

『ですので、いまの日々が平穏で大切であればあるほど、戦争となって失われそうになった時に領民は一致団結して立ち上がってくれるでしょう。逆に内に不満の火種が燻っていれば、戦争の混乱に乗じて内乱がおきてもおかしくありません』

だけどそこでニコッと笑った彼女は誰よりも大人びていて、誰よりも綺麗だったのだ。

そんな彼女へ恋に落ちた。結婚するなら彼女しかない。俺はそう思ってその日の内に両親へ彼女との婚約を望んでいた。

そしてその時の俺は、その日が彼女を見かける最初で最後の日になるなんて、少しも思ってはいなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

処理中です...