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第29 あの日に出会った貴女がいない 5
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『……忌み子ですか…』
母が美しいと称される眉尻を下げて、机の上に置かれた2枚の用紙を見比べていた。
1枚は国が管理する書類の写しで、もう1枚はこの領地内で管理する書類の写しだった。
国の分は人頭帳、この国の国籍を持つ者全てに課される人頭税を管理するために、それぞれの家族構成が書かれた書類だった。
そして各領地ごとの書類は領地帳、領民に対して領地税を課すために住んでいる者の構成を記録している書類だった。
人頭帳は領主ならば、自領の分は確認できる。
領主である父に掛け合ってもらい、国から手に入れた書類上には、このカナトス領内にブランシャール家は娘を2人持っていることになっていた。
そして領地帳の写しには、国側には載っていたエレナ=ブランシャールの名前は、彼女が産まれた年から1度も現れたことはない状況なのだ。
『まさかこの領地内でこんなことが起きてたなんて……』
もう今では廃れたはずの因習だった。そんな忌々しい因習のせいでずっと存在を殺されていた記憶の彼女を思い出す。
あの日になぜ名前を名乗ることを躊躇ったのか、今になってようやく分かった状況だった。
『彼女はやっぱりいました。ようやく彼女を見つけました』
『ええ、そうね。早く、お迎えしたいわね……』
『良いんですか?』
ここまで調べてもエレナに対する情報は今までろくに上がっていない。
思い返せばたまにいつもと様子が少しだけ違うエレン嬢の報告がいくつか紛れていたが、日ごろピンクを好むエレン嬢がギルドで青い花を買っていた、とかその程度のことだった。
彼女を未来の辺境伯夫人と決めるにはろくに調査はできていない。それでも認めてくれるのだろうか。
『でも貴方は彼女が良いのでしょう? 貴方がこれだけの時間をかけた方なんです。私達はそれを信じましょう』
父が黙って頷いていた。
母の指がそっとエレナの名前をなぞっていた。
その指を見ていた俺の目の奥が熱くなってくるようだった。
彼女が、エレナが婚約に「はい」と言ってくれたら良い。将来を一緒に歩いていきたいのだ。
ようやくそこまで思える未来が近付いたことが俺には何より嬉しかった。
『だが、いまはエレナ嬢自身を人質に取られているようなものだ。下手に動けば、影から影へと処分だってされかねない』
父が険しい顔で卓上の書類を見つめていた。
家族への権利はその家の家長が持つ。特に家長である父親の子への権利は大きいのだ。
そんな父親の支配の中から、どうにかエレナに危害が及ぶことがないように、彼女を手元に保護したかった。
『彼女さえこちらで保護をできたなら、その他はどうとでもできるはずなんですが……』
『だが日ごろからエレナ嬢は表には出てこないのだろう?』
そうなのだ。さんざんブランシャール家の周りを調べていた俺が彼女の姿を確認するまで、2年以上がかかっている。
せっかく見かけた彼女をどうすれば俺が守れるのか。
まだ彼女には手も声も届かない状況だった。
母が美しいと称される眉尻を下げて、机の上に置かれた2枚の用紙を見比べていた。
1枚は国が管理する書類の写しで、もう1枚はこの領地内で管理する書類の写しだった。
国の分は人頭帳、この国の国籍を持つ者全てに課される人頭税を管理するために、それぞれの家族構成が書かれた書類だった。
そして各領地ごとの書類は領地帳、領民に対して領地税を課すために住んでいる者の構成を記録している書類だった。
人頭帳は領主ならば、自領の分は確認できる。
領主である父に掛け合ってもらい、国から手に入れた書類上には、このカナトス領内にブランシャール家は娘を2人持っていることになっていた。
そして領地帳の写しには、国側には載っていたエレナ=ブランシャールの名前は、彼女が産まれた年から1度も現れたことはない状況なのだ。
『まさかこの領地内でこんなことが起きてたなんて……』
もう今では廃れたはずの因習だった。そんな忌々しい因習のせいでずっと存在を殺されていた記憶の彼女を思い出す。
あの日になぜ名前を名乗ることを躊躇ったのか、今になってようやく分かった状況だった。
『彼女はやっぱりいました。ようやく彼女を見つけました』
『ええ、そうね。早く、お迎えしたいわね……』
『良いんですか?』
ここまで調べてもエレナに対する情報は今までろくに上がっていない。
思い返せばたまにいつもと様子が少しだけ違うエレン嬢の報告がいくつか紛れていたが、日ごろピンクを好むエレン嬢がギルドで青い花を買っていた、とかその程度のことだった。
彼女を未来の辺境伯夫人と決めるにはろくに調査はできていない。それでも認めてくれるのだろうか。
『でも貴方は彼女が良いのでしょう? 貴方がこれだけの時間をかけた方なんです。私達はそれを信じましょう』
父が黙って頷いていた。
母の指がそっとエレナの名前をなぞっていた。
その指を見ていた俺の目の奥が熱くなってくるようだった。
彼女が、エレナが婚約に「はい」と言ってくれたら良い。将来を一緒に歩いていきたいのだ。
ようやくそこまで思える未来が近付いたことが俺には何より嬉しかった。
『だが、いまはエレナ嬢自身を人質に取られているようなものだ。下手に動けば、影から影へと処分だってされかねない』
父が険しい顔で卓上の書類を見つめていた。
家族への権利はその家の家長が持つ。特に家長である父親の子への権利は大きいのだ。
そんな父親の支配の中から、どうにかエレナに危害が及ぶことがないように、彼女を手元に保護したかった。
『彼女さえこちらで保護をできたなら、その他はどうとでもできるはずなんですが……』
『だが日ごろからエレナ嬢は表には出てこないのだろう?』
そうなのだ。さんざんブランシャール家の周りを調べていた俺が彼女の姿を確認するまで、2年以上がかかっている。
せっかく見かけた彼女をどうすれば俺が守れるのか。
まだ彼女には手も声も届かない状況だった。
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