30 / 58
第30 あの日に出会った貴女がいない 6
しおりを挟む
彼女がブランシャール男爵家に隠されていることが分かった後は、男爵家の内部だけを集中的に調べるようにした。そのおかげで少しは彼女の情報が手に入るようになっていた。
まぁ、正確には。エレナ=ブランシャールについてではなく、エレン嬢に似た使用人。おそらくブランシャール卿の落とし胤といった人物についての情報だった。
家人が過ごすプライベートなエリアで使用人として働いているらしい彼女が、外部と接触を取ることは難しいらしい。
『どうするんだ。中へ誰かを潜り込ませるか?』
『いざとなればな……だが、これはカナトス家というよりは俺個人の問題だ。潜入する者の危険を考えればできる限りそれは避けたい』
少しずつ彼女に対する情報を集めながら、ずっと彼女とコンタクトを取る機会を俺は狙っていた。
事故が起きたのはそんな事態がなかなか進展せずに、焦れているような最中だったのだ。
『あれはブランシャール家の……』
見慣れた馬車を思わぬタイミングで見かけて、俺は愛馬イルクスの手綱を引いた。こんな風に遭遇することは珍しい。ブランシャール男爵家の家紋が入った馬車だった。
こんな所で見かけたのも、何か意味があるのかもしれない。そんな神頼みに近いようなことを思いながら、俺は少し離れた木立の中にイルクスの手綱を繋いでその周辺を調べ出した。
どこかのギルドの倉庫なのだろう。ブランシャール卿の仕事を思えば、特に怪しいわけではない。
商会の仕入れ関係の用事だと思えば、ここを調べたとしても有効な情報が得られることはないだろう。それでも直接的にエレナにつながることでなくても、何か使えるような情報が少しでもないか気になるのだ。
それでも結局は有効なことは何も手に入らないままだった。分かっていたとはいっても、あせりと苛立ちに気が滅入りそうになる。
『とりあえず戻るか……』
疲れた、といっこうに進まない状況に俺は思わず呟いた。
『キャアァァ!!!』
そんな俺の言葉と重なるように、甲高い女性の悲鳴が聞こえてくる。
悲鳴の方を慌てて見れば、隠すように木立へ繋いでいた俺の愛馬イルクスのそばにいつの間にか女性が立っていた。
馬は繊細な生き物なのだ。突然の甲高い悲鳴なんてもってのほかだった。
そんなことは子どもだって知っている。しかも他人の馬には勝手に近付かないことも常識なはずだった。
それでケガをするのなら、本当なら不用意に近付いた側の問題だろう。だけど見えたその姿が誰か認識した瞬間、俺は思わず全力で走り出していた。
怯えたイルクスがいななき、後ろ脚で立ち上がる。いまにもその前脚を振り下ろそうとしていた女性はブランシャール男爵令嬢、その人だったのだ。
彼女がどちらなのかは分からなかった。これまでの状況を考えても、そして行為の愚かさを思ってもエレナの方とは思えなかった。
だけど万が一にでも彼女がエレナだったとしたら。
俺は一生後悔を抱えていくだろう。
とっさにイルクスの脚から庇いながら、どちらかわからないブランシャール男爵令嬢を俺は胸に抱え込んだのだ。
まぁ、正確には。エレナ=ブランシャールについてではなく、エレン嬢に似た使用人。おそらくブランシャール卿の落とし胤といった人物についての情報だった。
家人が過ごすプライベートなエリアで使用人として働いているらしい彼女が、外部と接触を取ることは難しいらしい。
『どうするんだ。中へ誰かを潜り込ませるか?』
『いざとなればな……だが、これはカナトス家というよりは俺個人の問題だ。潜入する者の危険を考えればできる限りそれは避けたい』
少しずつ彼女に対する情報を集めながら、ずっと彼女とコンタクトを取る機会を俺は狙っていた。
事故が起きたのはそんな事態がなかなか進展せずに、焦れているような最中だったのだ。
『あれはブランシャール家の……』
見慣れた馬車を思わぬタイミングで見かけて、俺は愛馬イルクスの手綱を引いた。こんな風に遭遇することは珍しい。ブランシャール男爵家の家紋が入った馬車だった。
こんな所で見かけたのも、何か意味があるのかもしれない。そんな神頼みに近いようなことを思いながら、俺は少し離れた木立の中にイルクスの手綱を繋いでその周辺を調べ出した。
どこかのギルドの倉庫なのだろう。ブランシャール卿の仕事を思えば、特に怪しいわけではない。
商会の仕入れ関係の用事だと思えば、ここを調べたとしても有効な情報が得られることはないだろう。それでも直接的にエレナにつながることでなくても、何か使えるような情報が少しでもないか気になるのだ。
それでも結局は有効なことは何も手に入らないままだった。分かっていたとはいっても、あせりと苛立ちに気が滅入りそうになる。
『とりあえず戻るか……』
疲れた、といっこうに進まない状況に俺は思わず呟いた。
『キャアァァ!!!』
そんな俺の言葉と重なるように、甲高い女性の悲鳴が聞こえてくる。
悲鳴の方を慌てて見れば、隠すように木立へ繋いでいた俺の愛馬イルクスのそばにいつの間にか女性が立っていた。
馬は繊細な生き物なのだ。突然の甲高い悲鳴なんてもってのほかだった。
そんなことは子どもだって知っている。しかも他人の馬には勝手に近付かないことも常識なはずだった。
それでケガをするのなら、本当なら不用意に近付いた側の問題だろう。だけど見えたその姿が誰か認識した瞬間、俺は思わず全力で走り出していた。
怯えたイルクスがいななき、後ろ脚で立ち上がる。いまにもその前脚を振り下ろそうとしていた女性はブランシャール男爵令嬢、その人だったのだ。
彼女がどちらなのかは分からなかった。これまでの状況を考えても、そして行為の愚かさを思ってもエレナの方とは思えなかった。
だけど万が一にでも彼女がエレナだったとしたら。
俺は一生後悔を抱えていくだろう。
とっさにイルクスの脚から庇いながら、どちらかわからないブランシャール男爵令嬢を俺は胸に抱え込んだのだ。
244
あなたにおすすめの小説
地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】2人の幼馴染が私を離しません
ユユ
恋愛
優しい幼馴染とは婚約出来なかった。
私に残されたのは幼馴染という立場だけ。
代わりにもう一人の幼馴染は
相変わらず私のことが大嫌いなくせに
付き纏う。
八つ当たりからの大人の関係に
困惑する令嬢の話。
* 作り話です
* 大人の表現は最小限
* 執筆中のため、文字数は定まらず
念のため長編設定にします
* 暇つぶしにどうぞ
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は、公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日、ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
両親に溺愛されて育った妹の顛末
葉柚
恋愛
皇太子妃になるためにと厳しく育てられた私、エミリアとは違い、本来私に与えられるはずだった両親からの愛までも注ぎ込まれて溺愛され育てられた妹のオフィーリア。
オフィーリアは両親からの過剰な愛を受けて愛らしく育ったが、過剰な愛を受けて育ったために次第に世界は自分のためにあると勘違いするようになってしまい……。
「お姉さまはずるいわ。皇太子妃になっていずれはこの国の妃になるのでしょう?」
「私も、この国の頂点に立つ女性になりたいわ。」
「ねえ、お姉さま。私の方が皇太子妃に相応しいと思うの。代わってくださらない?」
妹の要求は徐々にエスカレートしていき、最後には……。
見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです
珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。
その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。
それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる