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第34 私が生きる世界 4
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乗り込んだ馬車の中は不自然なくらいに静かだった。
喜んで見せないといけないことは分かっている。だって、私は男爵令嬢に過ぎない立場なのだから。辺境伯夫人であるマエリス様にあそこまで言ってもらえたのなら、期待に胸を弾ませるのが普通だろう。
それなのに、色々な事が重なりすぎて私の心はくたくただった。
もう何から考えれば良いのかが分からない。でも何を思ったのだとしてもエレナとしての私の心へは辛いのだ。だからいまは、ただ布団の中に潜り込みたかった。
『お前はこの世界には存在しない。お前が消えたところで、誰も気にしたりはしない』
『しょせんは私の予備だもの。特に無くなったってこまらないわ』
小さい頃からそう言われて、この世界から弾き飛ばされたときの私の逃げる先だった。
そのときだけは私の世界はその布団の中が全てになった。そこだけはエレンでもエレナでもない私が、私として存在できる場所だった。
「レナ、大丈夫かしら。顔色がとても悪いわ」
でも、もう子どもではないのだから。そうやって逃げきれるわけがない。それは分かっていることだった。
「申し訳ございません。少し疲れが出て、馬車に酔ってしまったのかもしれません」
だから私はそう言って、マエリス様へ微笑んで見せた。
「そう言えばマエリス様。先ほどの父との会話ですが、あのような事を仰ってしまって、リオネル様に叱られはしませんか?」
「そうね…叱られてしまうかもしれないわね…」
「やっぱり…」
そう言って私はクスクス笑ってみせた。今までだってさんざんエレンとして、心を殺して振る舞うことが多かったのだ。
だから今だってきっと上手く笑えている。そんな自信が私にはちゃんとあったのだ。だけどそんな私を見つめるマエリス様の表情はなぜか悲しんでいるように見えていた。
「マエリス様? どうされましたか?」
「ごめんなさいね、レナ。今日はどうしてもこうやって、一緒に家に帰りたかったのよ。その結果、いま貴女に辛い思いをさせてしまって…本当に申し訳なく思っているわ…」
もしかしたら私が思っている以上に顔色が悪いのかもしれない。
無理やり馬車に乗せてしまったとマエリス様がそこまで落ち込んでしまうような、ひどい様子を見せているのだとしたら、それはとても申し訳なかった。
「大丈夫ですよ、マエリス様。私も馬車を行き帰りとご一緒させて頂いてとても助かっておりますから」
だから善意でこうやって馬車へ乗せて頂いたことも、お父様へあぁやって私を望んで下さったのも、全てマエリス様には何の落ち度もないことだった。
ただ、私の存在の歪さが全てをおかしくしてしまっているだけなのだから。
そんな私の手をキュッと握りしめていたマエリス様が私の横へと座り直す。
「レナ、大丈夫。大丈夫ですからね」
そう言って、そっと身体を引き寄せられた。
きっと体調を気遣ってくれてのことだろう。
私は一度も甘えた記憶なんてなかったけど。
体調を崩していたエレンが母に甘えていた時も、こういった温もりや感触だったのかもしれない。
そんな過去を思い出せば、心に染みこむ温もりに涙がジワリと浮かんでくる。私はその涙を息をそっと大きく吸って、気付かれない内に飲み込んだ。
喜んで見せないといけないことは分かっている。だって、私は男爵令嬢に過ぎない立場なのだから。辺境伯夫人であるマエリス様にあそこまで言ってもらえたのなら、期待に胸を弾ませるのが普通だろう。
それなのに、色々な事が重なりすぎて私の心はくたくただった。
もう何から考えれば良いのかが分からない。でも何を思ったのだとしてもエレナとしての私の心へは辛いのだ。だからいまは、ただ布団の中に潜り込みたかった。
『お前はこの世界には存在しない。お前が消えたところで、誰も気にしたりはしない』
『しょせんは私の予備だもの。特に無くなったってこまらないわ』
小さい頃からそう言われて、この世界から弾き飛ばされたときの私の逃げる先だった。
そのときだけは私の世界はその布団の中が全てになった。そこだけはエレンでもエレナでもない私が、私として存在できる場所だった。
「レナ、大丈夫かしら。顔色がとても悪いわ」
でも、もう子どもではないのだから。そうやって逃げきれるわけがない。それは分かっていることだった。
「申し訳ございません。少し疲れが出て、馬車に酔ってしまったのかもしれません」
だから私はそう言って、マエリス様へ微笑んで見せた。
「そう言えばマエリス様。先ほどの父との会話ですが、あのような事を仰ってしまって、リオネル様に叱られはしませんか?」
「そうね…叱られてしまうかもしれないわね…」
「やっぱり…」
そう言って私はクスクス笑ってみせた。今までだってさんざんエレンとして、心を殺して振る舞うことが多かったのだ。
だから今だってきっと上手く笑えている。そんな自信が私にはちゃんとあったのだ。だけどそんな私を見つめるマエリス様の表情はなぜか悲しんでいるように見えていた。
「マエリス様? どうされましたか?」
「ごめんなさいね、レナ。今日はどうしてもこうやって、一緒に家に帰りたかったのよ。その結果、いま貴女に辛い思いをさせてしまって…本当に申し訳なく思っているわ…」
もしかしたら私が思っている以上に顔色が悪いのかもしれない。
無理やり馬車に乗せてしまったとマエリス様がそこまで落ち込んでしまうような、ひどい様子を見せているのだとしたら、それはとても申し訳なかった。
「大丈夫ですよ、マエリス様。私も馬車を行き帰りとご一緒させて頂いてとても助かっておりますから」
だから善意でこうやって馬車へ乗せて頂いたことも、お父様へあぁやって私を望んで下さったのも、全てマエリス様には何の落ち度もないことだった。
ただ、私の存在の歪さが全てをおかしくしてしまっているだけなのだから。
そんな私の手をキュッと握りしめていたマエリス様が私の横へと座り直す。
「レナ、大丈夫。大丈夫ですからね」
そう言って、そっと身体を引き寄せられた。
きっと体調を気遣ってくれてのことだろう。
私は一度も甘えた記憶なんてなかったけど。
体調を崩していたエレンが母に甘えていた時も、こういった温もりや感触だったのかもしれない。
そんな過去を思い出せば、心に染みこむ温もりに涙がジワリと浮かんでくる。私はその涙を息をそっと大きく吸って、気付かれない内に飲み込んだ。
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