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第47 初めまして、愛される日々 4
しおりを挟む「あら、エバース伯爵夫人ではございませんか」
突然私の後ろに声をかけたマエリス様に、私は驚いて振り返る。いつの間にかそこには恰幅の良い夫人と、たぶんその娘だろう。私と同じぐらいの令嬢が立っていた。
「ごきげんよう、カナトス辺境伯夫人。あちらの席からお姿をお見かけしましたので、ご挨拶にお伺い致しました。これは私の娘のミカエラでございます」
「お初にお目にかかります、ミカエラと申します。本日はお会いできて嬉しく存じます」
ミカエラ様はそう言って、フワリと微笑みながら淑女の礼をした。穏やかそうに微笑む笑顔が、優しげな雰囲気を醸し出している。
「ごきげんよう、ミカエラ。以前舞踏会でお見かけしたことがありましたが、エバース伯爵令嬢でしたのね」
「まぁ、顔を覚えて頂けていて光栄でございます」
フフッと笑う姿も嬉しそうに見えながら、どこか控え目で品を感じられる笑みは好ましかった。だが。
「こちらはブランシャール男爵令嬢ですわ」
マエリス様のその紹介でミカエラ様の目がハッキリと私に向けられたのは一瞬だけだった。その後は上手く逸らされている様子に私は感心してしまう。
以前の舞踏会でのエディス様の一瞬で変わった表情にも驚いたが、さんざん社交界で鍛えられた令嬢はこの程度のスキルは身についているものらしい。
商会での取引でも笑顔はもちろん武器だった。笑顔を浮かべながら腹の中は読ませない、そういう交渉の場面を何度も目にしたことがある。それを思い出させる光景に私は尊敬さえ抱いてしまう。
「まぁ! リオネル様のおケガのサポートに男爵令嬢が付いていらっしゃるとお噂をうかがっておりましたが、本当のことでいらっしゃったのですね」
「えぇ、レナに手伝ってもらっておりますの。お陰で領地の運営が滞ることがなくて、助かっておりますわ」
驚いて見せたエバース伯爵夫人にマエリス様がにこやかに言葉を返す。
「それでしたら、お声をかけて頂ければ私どものミカエラをお手伝いへ向かわせましたのに」
「ミカエラ様をですか?」
「えぇ、よろしければ今からでもいかがでしょうか? 我が家でございましたら、いざとなれば伯爵家としてお力に成れることもあるかと存じますわ」
たしかに男爵家と伯爵家となれば後ろ盾がまったく違ってくるだろう。しかも私には実家の後ろ盾なんて何もないような状態なのだ。
それでもリオネル様のお役に立てるようにこの数ヶ月を私だって過ごしてはいる。後ろ盾なんてない分だけ、私が唯一持てる知識でサポートを試みていたつもりだった。
「いえ、いまで十分に事足りておりますので、そのような心遣いは不要ですわ」
「そうは仰いましても、 リオネル様の将来的なことを考えますと、そばに置かれる者はそろそろ真剣に考えられた方がよろしいかと存じますわ」
その言葉にマエリス様の身体がピクッと動いた。
「そうですわね、それでは改めて検討しましょう」
言葉と一緒に浮かんだマエリス様の笑顔は、とても艶やかで人目を引いた。私もまたマエリス様のそんな表情から視線が外せなくなってしまう。
だってずっとご一緒していた私はもう知っているのだ。マエリス様のその笑顔が、実はとても怒っている時の笑みだということを。
「ではミカエラ様へいくつか質問させてもらいましょう。ミカエラ様、今年のリブラの実の収穫はどうなってるかしら?」
「リブラの実…ですか?」
「えぇ、カナトス領内の主力の作物ですもの。リオネルの執務の手伝いを、ということでしたら、せめてこれぐらいは知っていらっしゃいますでしょう?」
にこやかに笑ったマエリス様の言葉にミカエラ様が目を見開いていた。
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