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第53 終わりが始まる 3
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「まぁ…ごめんなさい。ツラいことを聞いてしまいましたわね」
「いえ、もう過去のことですので」
どんな顔をしてそんなことを言っているのかは分からなかった。こうやって簡単になかったことにできるぐらい、私はどうでもいい存在なのだ。
ハッキリと告げられた事実に、私はもう疲れていた。
「でも人頭帳へは娘は2人と登録されているようですが、あれは抹消漏れなのかしら?」
「は、はい! そうです!」
「でもそれなら、この方はやはり赤の他人なんですね」
だから王太后様が言ったその言葉もどこかボンヤリと聞いていた。
「お父様!!」
突然開かれた扉の向こうからエレンが部屋に入ってくる。その両サイドには兵隊なのか、厳つい男達が付き添っていた。
これはどういうことだろう。こちらへ駆け寄ろうとしたエレンを交差した槍で押しとどめている状況だった。
「カナトス領の領境近くで、ブランシャール家の令嬢を名乗る者が居たらしいのです」
王太后様がそう言いながら、不審者を見るような冷たい目をエレンの方へ向けていた。
「ただブランシャール家の令嬢は我が家でお預かりしているエレナ様お一人なはず。それで念のためブランシャール卿にも事前に確認させて頂いたのですよ」
王太后の言葉を引き継いだマエリス様もいったい何を言っているのか分からなかった。
状況が飲み込めないまま話がどんどん進んでいく。
「いや、違う。娘はエレナでは…」
それはお父様達も同じなのかもしれない。顔色を真っ青にしたまましどろもどろに答える声は震えていた。
「違うというのは? さきほど双子の妹は亡くなって、娘は1人だと王太后へも仰っていたのはブランシャール卿、貴方自身だったはずだが?」
この言葉を吐いているのは誰だろう。1度も聞いたことがないような冷たい声音だった。初めて見るリオネル様の姿に私は唖然としてしまっていた。
「そうです! だから亡くなったのはエレナの方で!」
「何を言ってるんだ。人頭帳には長女はエレナと登録されている。そして次女に登録されていたのがエレンだ」
「それは登録が間違っているのです!」
「そんなはずがない。忘れたのなら教えておこう。不要な相続争いを生まないように、爵位を持つ家の人頭帳への登録は子を取り上げた医師の役目だ。 先日のレヴァスト子爵家の舞踏会の時に、ブランシャール家の出産を取り扱った医師と話す機会もあったからな、そこで確認させてもらった」
あの舞踏会の時に会っていた相手がまさかそんな相手だとは思わなかった。
「ただでさえ大きな商会の双子を取り上げて、その上なぜか、その出産を取り扱った後からは患者が遠のき、色々な不遇が重なってカナトス領を出るしかなかったらしいからな。だからよくブランシャール家の双子のことは覚えていたぞ」
クッと口角を上げるような笑い方を浮かべた顔もまるで見知らぬ人のようだった。
「先に生まれた娘をエレナ、後に生まれた娘をエレンとして登録することをブランシャール卿に確認したと言っていた。まぁ、忌み子の因習があった時代は後から生まれた方を長女としていたはずだが、今の時代にそんな習慣はないからな。ちゃんと医師は先に生まれたエレナを長女としたらしい」
そこまで言ったリオネル様が、今度は打って爽やかに笑ってみせた。
「まぁ、ブランシャール卿がまさか忌み子の扱いをするはずがないのだから、関係のない話だったな。それにそもそもブランシャール家の娘が1人で、ここにいる私の婚約者がエレナである以上は、亡くなった方がエレナだというのはムリがあるだろう?」
「そうですわね。我が家にずっとブランシャール男爵令嬢としてお預かりしていたのは、本日私が一緒に参りましたこのエレナ嬢でございますから。ならば、ブランシャール男爵令嬢はエレナ嬢で間違いないではありませんか?」
リオネル様の言葉にマエリス様も合わせてくる。そしてそのまま小首を傾げて私に向かって優しく微笑んだ。
「そうですわね、エレナ」
「……はい」
この後はどうなるのだろう。でもここまできて、否定のしようもないはずなのだ。
「エレナ!!お前は!!」
だけどそんな私を見るお父様の目は、射殺してやりたいとでもいうような殺意がこもった眼差しだった。
「いえ、もう過去のことですので」
どんな顔をしてそんなことを言っているのかは分からなかった。こうやって簡単になかったことにできるぐらい、私はどうでもいい存在なのだ。
ハッキリと告げられた事実に、私はもう疲れていた。
「でも人頭帳へは娘は2人と登録されているようですが、あれは抹消漏れなのかしら?」
「は、はい! そうです!」
「でもそれなら、この方はやはり赤の他人なんですね」
だから王太后様が言ったその言葉もどこかボンヤリと聞いていた。
「お父様!!」
突然開かれた扉の向こうからエレンが部屋に入ってくる。その両サイドには兵隊なのか、厳つい男達が付き添っていた。
これはどういうことだろう。こちらへ駆け寄ろうとしたエレンを交差した槍で押しとどめている状況だった。
「カナトス領の領境近くで、ブランシャール家の令嬢を名乗る者が居たらしいのです」
王太后様がそう言いながら、不審者を見るような冷たい目をエレンの方へ向けていた。
「ただブランシャール家の令嬢は我が家でお預かりしているエレナ様お一人なはず。それで念のためブランシャール卿にも事前に確認させて頂いたのですよ」
王太后の言葉を引き継いだマエリス様もいったい何を言っているのか分からなかった。
状況が飲み込めないまま話がどんどん進んでいく。
「いや、違う。娘はエレナでは…」
それはお父様達も同じなのかもしれない。顔色を真っ青にしたまましどろもどろに答える声は震えていた。
「違うというのは? さきほど双子の妹は亡くなって、娘は1人だと王太后へも仰っていたのはブランシャール卿、貴方自身だったはずだが?」
この言葉を吐いているのは誰だろう。1度も聞いたことがないような冷たい声音だった。初めて見るリオネル様の姿に私は唖然としてしまっていた。
「そうです! だから亡くなったのはエレナの方で!」
「何を言ってるんだ。人頭帳には長女はエレナと登録されている。そして次女に登録されていたのがエレンだ」
「それは登録が間違っているのです!」
「そんなはずがない。忘れたのなら教えておこう。不要な相続争いを生まないように、爵位を持つ家の人頭帳への登録は子を取り上げた医師の役目だ。 先日のレヴァスト子爵家の舞踏会の時に、ブランシャール家の出産を取り扱った医師と話す機会もあったからな、そこで確認させてもらった」
あの舞踏会の時に会っていた相手がまさかそんな相手だとは思わなかった。
「ただでさえ大きな商会の双子を取り上げて、その上なぜか、その出産を取り扱った後からは患者が遠のき、色々な不遇が重なってカナトス領を出るしかなかったらしいからな。だからよくブランシャール家の双子のことは覚えていたぞ」
クッと口角を上げるような笑い方を浮かべた顔もまるで見知らぬ人のようだった。
「先に生まれた娘をエレナ、後に生まれた娘をエレンとして登録することをブランシャール卿に確認したと言っていた。まぁ、忌み子の因習があった時代は後から生まれた方を長女としていたはずだが、今の時代にそんな習慣はないからな。ちゃんと医師は先に生まれたエレナを長女としたらしい」
そこまで言ったリオネル様が、今度は打って爽やかに笑ってみせた。
「まぁ、ブランシャール卿がまさか忌み子の扱いをするはずがないのだから、関係のない話だったな。それにそもそもブランシャール家の娘が1人で、ここにいる私の婚約者がエレナである以上は、亡くなった方がエレナだというのはムリがあるだろう?」
「そうですわね。我が家にずっとブランシャール男爵令嬢としてお預かりしていたのは、本日私が一緒に参りましたこのエレナ嬢でございますから。ならば、ブランシャール男爵令嬢はエレナ嬢で間違いないではありませんか?」
リオネル様の言葉にマエリス様も合わせてくる。そしてそのまま小首を傾げて私に向かって優しく微笑んだ。
「そうですわね、エレナ」
「……はい」
この後はどうなるのだろう。でもここまできて、否定のしようもないはずなのだ。
「エレナ!!お前は!!」
だけどそんな私を見るお父様の目は、射殺してやりたいとでもいうような殺意がこもった眼差しだった。
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