妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。

桗梛葉 (たなは)

文字の大きさ
58 / 58

終話 心の中に宿るもの

しおりを挟む
あれからの毎日は忙しいのに、驚くぐらいに穏やかだった。

社交界の中からエレンの名前が消え去って、エレナの名前が当たり前になるまでのスピードは、私が思った以上に早かった。

もしかしたらリオネル様がケガをされてからの1年間、エレンが身を潜めていたことも影響したのかもしれない。

それでも始めの頃は違和感を持った人達も多かったと思う。だけど私のそばにはずっとリオネル様が寄り添ってくれる状態だった。そんな風にカナトス家が後ろ盾になってくれていたのだ。だから何かがおかしい、と思った人達も私に何も言えなかったのかもしれない。

そうしている内にリオネル様と結婚をして、今ではブランシャール男爵家の名前はすっかりと表にでなくなっていた。

そのせいか今では私を見て訝しそうな顔をする人も居なければ、エレナと当たり前に呼んで貰える状態だった。

社交界の中ではブランシャール家は大きな事業に失敗して、カナトス家に商会を売り払ったことになっている。
そして買い上げた商会をカナトス家が所持しながら、運営はクラウス様が日々駆け回っている状態だった。

今ではもう遠くなってしまった日を思い出しながら、私はそばでキラキラとした目を向ける2組の眼を見つめ返した。

「そうして魔女は国を追われて、女の子はずっと幸せに暮らしました」

最後のページをめくり終わって、手に持った本を私はパタンと閉じた。何度もせがまれるままに繰り返し読み聞かせた物語は、いつだって幸せになった主人公の姿で終わっている。

「ねぇお母様。この魔女はこのあとどうなったんですか?」

こちらに向いたアルサスは優しげな表情に、心配そうな目をしていた。そんなアルサスに私が応える前に。

「バカだな! 悪者だったんだから、このままやっつけられてお終いだよ!」

そんなレクトルの声が聞こえてきて、私は思わず苦笑した。双子だというのに正反対の2人なのだ。表情も弟のアルサスに反してレクトルは、勝ち気な表情を浮かべていた。

「分かんないじゃん! もしかしたら心を入れ替えたかもしれないだろ!」

そんなレクトルにアルサスがムキになって言い返す。

「それだったら、逆にまた悪巧みをしている可能性だってあるからな!」

だけどレクトルも負けずに言い返すのだ。いつものように、そんな正反対のことを言い合う2人の息子を、私は「コラッ!」と嗜めた。

「「お母様はどちらが正しいと思いますか!?」」

「どちらが正しいとは言えないですが、どちらも間違っていない、と思いますよ。アルサスの優しさに救われたり、慕って付いてくる人達はいるでしょう。でもレクトルの視野は、このカナトス領を守るために、どうしても必要となることもあるでしょう」

この物語を読む度に、別れとなったあの日のことやあの人達を思い出す。だけど無邪気な2人の言葉はいつだって、そんな私を救って支えてくれていた。

かつての私のように双子で生まれた息子達の頭を私は愛おしさを込めて撫でていく。さらに規模を増した大きな商会とこの領土をそれぞれ背負っていく息子達だった。

納得したようなしていないような、まだお互いへ少しむくれた顔を向けている。そんな正反対の2人だけど、日頃から何かとお互いを補う姿が見える状況なのだ。だからそんな争う様子でさえも、私は心配どころか微笑ましくてしかたがなかった。

「またその本を読んでいるのか?」

そんな私たちの後からいつの間に部屋に入って来たのか、リオネル様の声が聞こえてくる。

「あなた、お仕事は休憩ですか?」

途端に2人が私の腰にしがみつき、眠ったふりを始めていた。さっきまで喧嘩をしていたはずだったのに。相変わらずこんな時の息の合った姿に私は思わず笑ってしまう。

だけど、そんな2人に。

「またか、こいつらはいつもいつも」

そんな文句をブツブツ言ったリオネル様の手が、2人の脇腹に伸びていった。

「ほら、さっさと離れろ」

「「ヒャ、ハハハハッ~~~!!」」

慌てて飛び起きた2人の間から、私の身体がグイッと引き起こされて腕の中に抱えられる。そのまま膝裏をすくわれてしまうのだから、私は口を意味なくパクパクと開閉するしか出来なかった。

「「父上!!」」

「何だ悔しければお前らも、レナのような自分の伴侶を探してこい」

反対のソファーに私を降ろした後に横を陣取ったリオネル様が、怒ったような2人にニヤッと笑い返していた。

「……子どもとまともに戦わないで下さい」

「仕方がないだろう。3人ともレナの横に座りたいのだから」

はぁっ、と溜息を吐いた私の頬に見せつけるようにキスをするリオネル様に呆れてしまう。それでも。

「「父上をやっつけるぞ!!」」

「お前達がか、まだまだ早い」

そんな父親を協力して倒そうとする2人の姿にリオネル様も笑っていた。

かつては忌み子と言われた双子だった。

だけど私たちの大切な双子がもたらすそんな幸せな時間は、何よりもかけがえがなく愛おしかった。

だから今日もそんな宝物を前にして、私とリオネル様は視線を交わして微笑み合う。そんな私の心に宿った温かいモノに満たされて、もう心に穴は感じなかった。




〔完〕






************************************
あとがきを少しだけ。

日々『妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。』をお読み頂きありがとうございました。

コメントのお返しはネタバレ防止のために控えておりましたが、日々の励みになりました。

初めて挑戦するジャンルで色々と苦戦しつつも、とても勉強になりました。

こちらの作品は完結となりますが、また別な短編やショートの投稿がこの後は続くと思います。そちらでもお付き合い頂けると嬉しいです。

それでは重ねてとなりますが、この一月半のお付き合いありがとうございました!
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

いつも隣にいる

はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。

【完結】氷の令嬢は愛を請わない - 捨て子の『義妹』に愛も家族も奪われたマリーローズの逆襲

恋せよ恋
恋愛
銀髪紫眼の美貌の侯爵令嬢、マリーローズ。 完璧な淑女に育った彼女だったが、母は捨て子ジュリエットを寵愛。 婚約者の公爵家嫡男アレックスも、友人も、次々に奪われる――。 家族に裏切られ、すべてを失った彼女が下した決断は、 家族を見かぎり、国を捨て、自らの人生を取り戻すこと。 理不尽な悲恋を力に変え、運命をひっくり返す令嬢の逆転劇! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

処理中です...