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終話 心の中に宿るもの
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あれからの毎日は忙しいのに、驚くぐらいに穏やかだった。
社交界の中からエレンの名前が消え去って、エレナの名前が当たり前になるまでのスピードは、私が思った以上に早かった。
もしかしたらリオネル様がケガをされてからの1年間、エレンが身を潜めていたことも影響したのかもしれない。
それでも始めの頃は違和感を持った人達も多かったと思う。だけど私のそばにはずっとリオネル様が寄り添ってくれる状態だった。そんな風にカナトス家が後ろ盾になってくれていたのだ。だから何かがおかしい、と思った人達も私に何も言えなかったのかもしれない。
そうしている内にリオネル様と結婚をして、今ではブランシャール男爵家の名前はすっかりと表にでなくなっていた。
そのせいか今では私を見て訝しそうな顔をする人も居なければ、エレナと当たり前に呼んで貰える状態だった。
社交界の中ではブランシャール家は大きな事業に失敗して、カナトス家に商会を売り払ったことになっている。
そして買い上げた商会をカナトス家が所持しながら、運営はクラウス様が日々駆け回っている状態だった。
今ではもう遠くなってしまった日を思い出しながら、私はそばでキラキラとした目を向ける2組の眼を見つめ返した。
「そうして魔女は国を追われて、女の子はずっと幸せに暮らしました」
最後のページをめくり終わって、手に持った本を私はパタンと閉じた。何度もせがまれるままに繰り返し読み聞かせた物語は、いつだって幸せになった主人公の姿で終わっている。
「ねぇお母様。この魔女はこのあとどうなったんですか?」
こちらに向いたアルサスは優しげな表情に、心配そうな目をしていた。そんなアルサスに私が応える前に。
「バカだな! 悪者だったんだから、このままやっつけられてお終いだよ!」
そんなレクトルの声が聞こえてきて、私は思わず苦笑した。双子だというのに正反対の2人なのだ。表情も弟のアルサスに反してレクトルは、勝ち気な表情を浮かべていた。
「分かんないじゃん! もしかしたら心を入れ替えたかもしれないだろ!」
そんなレクトルにアルサスがムキになって言い返す。
「それだったら、逆にまた悪巧みをしている可能性だってあるからな!」
だけどレクトルも負けずに言い返すのだ。いつものように、そんな正反対のことを言い合う2人の息子を、私は「コラッ!」と嗜めた。
「「お母様はどちらが正しいと思いますか!?」」
「どちらが正しいとは言えないですが、どちらも間違っていない、と思いますよ。アルサスの優しさに救われたり、慕って付いてくる人達はいるでしょう。でもレクトルの視野は、このカナトス領を守るために、どうしても必要となることもあるでしょう」
この物語を読む度に、別れとなったあの日のことやあの人達を思い出す。だけど無邪気な2人の言葉はいつだって、そんな私を救って支えてくれていた。
かつての私のように双子で生まれた息子達の頭を私は愛おしさを込めて撫でていく。さらに規模を増した大きな商会とこの領土をそれぞれ背負っていく息子達だった。
納得したようなしていないような、まだお互いへ少しむくれた顔を向けている。そんな正反対の2人だけど、日頃から何かとお互いを補う姿が見える状況なのだ。だからそんな争う様子でさえも、私は心配どころか微笑ましくてしかたがなかった。
「またその本を読んでいるのか?」
そんな私たちの後からいつの間に部屋に入って来たのか、リオネル様の声が聞こえてくる。
「あなた、お仕事は休憩ですか?」
途端に2人が私の腰にしがみつき、眠ったふりを始めていた。さっきまで喧嘩をしていたはずだったのに。相変わらずこんな時の息の合った姿に私は思わず笑ってしまう。
だけど、そんな2人に。
「またか、こいつらはいつもいつも」
そんな文句をブツブツ言ったリオネル様の手が、2人の脇腹に伸びていった。
「ほら、さっさと離れろ」
「「ヒャ、ハハハハッ~~~!!」」
慌てて飛び起きた2人の間から、私の身体がグイッと引き起こされて腕の中に抱えられる。そのまま膝裏をすくわれてしまうのだから、私は口を意味なくパクパクと開閉するしか出来なかった。
「「父上!!」」
「何だ悔しければお前らも、レナのような自分の伴侶を探してこい」
反対のソファーに私を降ろした後に横を陣取ったリオネル様が、怒ったような2人にニヤッと笑い返していた。
「……子どもとまともに戦わないで下さい」
「仕方がないだろう。3人ともレナの横に座りたいのだから」
はぁっ、と溜息を吐いた私の頬に見せつけるようにキスをするリオネル様に呆れてしまう。それでも。
「「父上をやっつけるぞ!!」」
「お前達がか、まだまだ早い」
そんな父親を協力して倒そうとする2人の姿にリオネル様も笑っていた。
かつては忌み子と言われた双子だった。
だけど私たちの大切な双子がもたらすそんな幸せな時間は、何よりもかけがえがなく愛おしかった。
だから今日もそんな宝物を前にして、私とリオネル様は視線を交わして微笑み合う。そんな私の心に宿った温かいモノに満たされて、もう心に穴は感じなかった。
〔完〕
************************************
あとがきを少しだけ。
日々『妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。』をお読み頂きありがとうございました。
コメントのお返しはネタバレ防止のために控えておりましたが、日々の励みになりました。
初めて挑戦するジャンルで色々と苦戦しつつも、とても勉強になりました。
こちらの作品は完結となりますが、また別な短編やショートの投稿がこの後は続くと思います。そちらでもお付き合い頂けると嬉しいです。
それでは重ねてとなりますが、この一月半のお付き合いありがとうございました!
社交界の中からエレンの名前が消え去って、エレナの名前が当たり前になるまでのスピードは、私が思った以上に早かった。
もしかしたらリオネル様がケガをされてからの1年間、エレンが身を潜めていたことも影響したのかもしれない。
それでも始めの頃は違和感を持った人達も多かったと思う。だけど私のそばにはずっとリオネル様が寄り添ってくれる状態だった。そんな風にカナトス家が後ろ盾になってくれていたのだ。だから何かがおかしい、と思った人達も私に何も言えなかったのかもしれない。
そうしている内にリオネル様と結婚をして、今ではブランシャール男爵家の名前はすっかりと表にでなくなっていた。
そのせいか今では私を見て訝しそうな顔をする人も居なければ、エレナと当たり前に呼んで貰える状態だった。
社交界の中ではブランシャール家は大きな事業に失敗して、カナトス家に商会を売り払ったことになっている。
そして買い上げた商会をカナトス家が所持しながら、運営はクラウス様が日々駆け回っている状態だった。
今ではもう遠くなってしまった日を思い出しながら、私はそばでキラキラとした目を向ける2組の眼を見つめ返した。
「そうして魔女は国を追われて、女の子はずっと幸せに暮らしました」
最後のページをめくり終わって、手に持った本を私はパタンと閉じた。何度もせがまれるままに繰り返し読み聞かせた物語は、いつだって幸せになった主人公の姿で終わっている。
「ねぇお母様。この魔女はこのあとどうなったんですか?」
こちらに向いたアルサスは優しげな表情に、心配そうな目をしていた。そんなアルサスに私が応える前に。
「バカだな! 悪者だったんだから、このままやっつけられてお終いだよ!」
そんなレクトルの声が聞こえてきて、私は思わず苦笑した。双子だというのに正反対の2人なのだ。表情も弟のアルサスに反してレクトルは、勝ち気な表情を浮かべていた。
「分かんないじゃん! もしかしたら心を入れ替えたかもしれないだろ!」
そんなレクトルにアルサスがムキになって言い返す。
「それだったら、逆にまた悪巧みをしている可能性だってあるからな!」
だけどレクトルも負けずに言い返すのだ。いつものように、そんな正反対のことを言い合う2人の息子を、私は「コラッ!」と嗜めた。
「「お母様はどちらが正しいと思いますか!?」」
「どちらが正しいとは言えないですが、どちらも間違っていない、と思いますよ。アルサスの優しさに救われたり、慕って付いてくる人達はいるでしょう。でもレクトルの視野は、このカナトス領を守るために、どうしても必要となることもあるでしょう」
この物語を読む度に、別れとなったあの日のことやあの人達を思い出す。だけど無邪気な2人の言葉はいつだって、そんな私を救って支えてくれていた。
かつての私のように双子で生まれた息子達の頭を私は愛おしさを込めて撫でていく。さらに規模を増した大きな商会とこの領土をそれぞれ背負っていく息子達だった。
納得したようなしていないような、まだお互いへ少しむくれた顔を向けている。そんな正反対の2人だけど、日頃から何かとお互いを補う姿が見える状況なのだ。だからそんな争う様子でさえも、私は心配どころか微笑ましくてしかたがなかった。
「またその本を読んでいるのか?」
そんな私たちの後からいつの間に部屋に入って来たのか、リオネル様の声が聞こえてくる。
「あなた、お仕事は休憩ですか?」
途端に2人が私の腰にしがみつき、眠ったふりを始めていた。さっきまで喧嘩をしていたはずだったのに。相変わらずこんな時の息の合った姿に私は思わず笑ってしまう。
だけど、そんな2人に。
「またか、こいつらはいつもいつも」
そんな文句をブツブツ言ったリオネル様の手が、2人の脇腹に伸びていった。
「ほら、さっさと離れろ」
「「ヒャ、ハハハハッ~~~!!」」
慌てて飛び起きた2人の間から、私の身体がグイッと引き起こされて腕の中に抱えられる。そのまま膝裏をすくわれてしまうのだから、私は口を意味なくパクパクと開閉するしか出来なかった。
「「父上!!」」
「何だ悔しければお前らも、レナのような自分の伴侶を探してこい」
反対のソファーに私を降ろした後に横を陣取ったリオネル様が、怒ったような2人にニヤッと笑い返していた。
「……子どもとまともに戦わないで下さい」
「仕方がないだろう。3人ともレナの横に座りたいのだから」
はぁっ、と溜息を吐いた私の頬に見せつけるようにキスをするリオネル様に呆れてしまう。それでも。
「「父上をやっつけるぞ!!」」
「お前達がか、まだまだ早い」
そんな父親を協力して倒そうとする2人の姿にリオネル様も笑っていた。
かつては忌み子と言われた双子だった。
だけど私たちの大切な双子がもたらすそんな幸せな時間は、何よりもかけがえがなく愛おしかった。
だから今日もそんな宝物を前にして、私とリオネル様は視線を交わして微笑み合う。そんな私の心に宿った温かいモノに満たされて、もう心に穴は感じなかった。
〔完〕
************************************
あとがきを少しだけ。
日々『妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。』をお読み頂きありがとうございました。
コメントのお返しはネタバレ防止のために控えておりましたが、日々の励みになりました。
初めて挑戦するジャンルで色々と苦戦しつつも、とても勉強になりました。
こちらの作品は完結となりますが、また別な短編やショートの投稿がこの後は続くと思います。そちらでもお付き合い頂けると嬉しいです。
それでは重ねてとなりますが、この一月半のお付き合いありがとうございました!
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