愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)

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「……なぁ、怒っていないのか?」

「何をですか?」

 心配そうなヴィルトス様に、心当たりのない私は、キョトンとしてしまう。

「あの日に、お前に弁解もさせないまま、王城から追放した事だ」

「まさか、怒るはずありません。むしろ寛大な処置だったと思います」

「だが、あの時に私が黙っていれば、お前はあの場所を失う事はなかった」

「でも、正しい事ではありません。それに私のため……だったのでしょう?」

 向かい合って、頬に手を添える。
 その手に顔をすり寄せたヴィルトス様が、手の平にキスをした。これまでの時間を惜しむように、触れる仕草が恥ずかしくて仕方がない。
 でも、かつて私を突き放した事が、どれだけヴィルトス様にとっても苦しかったのか。重なった手に絡まり合う指や。

「あぁ……手が届く場所に置いて、万が一にでも、お前を傷付けたくなかった……」

 そう私へ告げた声から、伝わってくるから。温もりや感触を、求めてくるヴィルトス様に、ダメだと強くは言えなかった。

「……素直になれずに、だいぶ遠回りをしましたね」

 少しでも心に従って、素直に生きていたなら、もっと早く寄り添う事ができたのだろう。

「そうだな、気持ちを下手に誤魔化して、互いをムダに傷付けた」

 だから、もうプライドや体裁に囚われるのは止めるのだ。
 相手のためだと思って、飲み込んだ気持ちや、行為さえ。蓋を開ければ、独り善がりで誰も幸せにならなかったのだから。

「ヴィルトス様、約束しましょう。これからは2人とも素直に生きると」

「あぁ」

「もしかしたら、喧嘩になるかもしれない。でも、その時は、ちゃんと2人で話しをして、お互いに譲り合いましょう」

「譲り合うか……」

 何に引っかかったのか、ヴィルトス様が言葉を止めた。王太子だった立場を思えば、誰かに歩みよるのは、気持ち的になかなか難しいのかもしれない。

「ずっと一緒に居るためには、そういった気持ちは大切ですよ」

 だから分かって欲しいと、想いを込めて真っ直ぐに見上げる。

「だが、さっきも言ったように、リリナ以外は要らないからな。こうやって私のそばに居て、触れさせてくれるのなら、俺は十分だ。あとはお前の好きにすれば良い」

 本気なのか、そう言って、軽いリップ音を立ててキスをしたヴィルトス様が、満足そうに笑っていた。

「はあ……」

 記憶にある姿とかけ離れた、甘い言葉や甘い態度。休む間もなく与えられ続けるそれに、跳ねすぎた私の心臓は、もう疲れ果てていた。

 お陰で力が抜けたそんな言葉しか出てこない。だけどそんな態度さえ、ヴィルトス様は気にならないのか。相変わらず嬉しそうに笑っていた。

 あえて言葉にしなくても、すでに自分の気持ちに素直に生きているヴィルトス様に、何だかおかしくなってくる。

「……じゃあ、お話しはこれぐらいにして、食事の準備をしますので、少し離れてくださいますか?」

 話しをしている間に、日が落ち始めている。領地を賜ったというヴィルトス様と、ずっとここに暮らすとは思わないが、今日はさすがに移動はないだろう。

「なら、私も手伝おう」

「えっ? ヴィルトス様がですか?」

「あぁ、どう転んでもお前と生きていけるように、5年間で色々エフガァに叩き込まれたからな」

 だから料理だって作れるぞ。

 誇らしげに言うヴィルトス様が、私の手を取って立ち上がった。細さの消えた身体や大きな手が、しっかりと私を支えてくれる。

 これからの日々に、心が躍っているのだろう。柔らかなジェードの瞳で見下ろしながら、幸せそうに笑っていた。

 5年間ずっと、一緒に居るために頑張ってきてくれた人。その想いで作り上がった、今のヴィルトス様にもう1度手を伸ばす。

「ヴィルトス様」

「うん?」

 どうした? と、伺うようにヴィルトス様の顔が近付いた。

「愛してます。今度こそ、2人で幸せになりましょう」

 想いを込めて伝えれば、嬉しそうに破顔する。

「あぁ、必ず幸せにする。だから、俺も幸せにしてくれ」

 そっと唇が触れてくる。
 感触を味わうように、何度か角度を変えたあと。差し込まれた柔らかな舌が、私の舌を絡めとった。





〔完〕


***************************************

予定よりも伸びてしまいましたが、お付き合いありがとうございました!
このままだとR指定になってしまいそうなので、ここで終わりたいと思います。(この辺りまでならR指定無しでも大丈夫ですよね??)
またお付き合い頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
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感想 10

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みんなの感想(10件)

2022.04.03 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

解除
Kodoc戦士
2021.12.21 Kodoc戦士

いい話でした(T^T)
泣く手前で止めたのに鼻水がたれるぐらい...笑
その後の領主となったヴィルトス夫妻の様子が読みたくなる最後でした(*´∀`*)

解除
どら
2021.10.31 どら

こんばんは(*^^*) 

今更ではないですよー
幸せそうなその後話なんて読めるのは至福です( ´∀`)
他の方もきっと読みたいな〜と思ってる人いると思います。  
お気に入りキープしてるとお知らせ来るから…



『敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります』お忙しい中更新ありがとう御座いましたm(_ _)m
更新が有るとウキウキ♪しちゃいます(´∀`*)ウフフ
何か大事になったのか、冷遇急展開に繋がるのか目が離せません!!


ちょっと厚かましいお願いです もし、もし思いついたら、気が向いたらで構いません 
 「大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。」のその後も読みたいよー 
ただの作品ファンの我儘です(_ _;)

失礼致しました。

2021.11.20 桗梛葉 (たなは)

どら様、度々コメントありがとうございます🙏💦
返信が遅くなってしまい、すみません😭

「大好きなあなたが……」ですね🤔
こちらは実は文体が、すごく書く時に苦手としている文体なので、書くとなればだいぶ時間が掛かってしまいそうです💦

どうにかネタ出しして、プロットが立てきれるか、検討してみますね😅

作品にこれだけ興味を持って頂けて、作者冥利につきます。更新の意欲を下さり、本当にありがとうございます😊

解除

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