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⑲
しおりを挟む「……なぁ、怒っていないのか?」
「何をですか?」
心配そうなヴィルトス様に、心当たりのない私は、キョトンとしてしまう。
「あの日に、お前に弁解もさせないまま、王城から追放した事だ」
「まさか、怒るはずありません。むしろ寛大な処置だったと思います」
「だが、あの時に私が黙っていれば、お前はあの場所を失う事はなかった」
「でも、正しい事ではありません。それに私のため……だったのでしょう?」
向かい合って、頬に手を添える。
その手に顔をすり寄せたヴィルトス様が、手の平にキスをした。これまでの時間を惜しむように、触れる仕草が恥ずかしくて仕方がない。
でも、かつて私を突き放した事が、どれだけヴィルトス様にとっても苦しかったのか。重なった手に絡まり合う指や。
「あぁ……手が届く場所に置いて、万が一にでも、お前を傷付けたくなかった……」
そう私へ告げた声から、伝わってくるから。温もりや感触を、求めてくるヴィルトス様に、ダメだと強くは言えなかった。
「……素直になれずに、だいぶ遠回りをしましたね」
少しでも心に従って、素直に生きていたなら、もっと早く寄り添う事ができたのだろう。
「そうだな、気持ちを下手に誤魔化して、互いをムダに傷付けた」
だから、もうプライドや体裁に囚われるのは止めるのだ。
相手のためだと思って、飲み込んだ気持ちや、行為さえ。蓋を開ければ、独り善がりで誰も幸せにならなかったのだから。
「ヴィルトス様、約束しましょう。これからは2人とも素直に生きると」
「あぁ」
「もしかしたら、喧嘩になるかもしれない。でも、その時は、ちゃんと2人で話しをして、お互いに譲り合いましょう」
「譲り合うか……」
何に引っかかったのか、ヴィルトス様が言葉を止めた。王太子だった立場を思えば、誰かに歩みよるのは、気持ち的になかなか難しいのかもしれない。
「ずっと一緒に居るためには、そういった気持ちは大切ですよ」
だから分かって欲しいと、想いを込めて真っ直ぐに見上げる。
「だが、さっきも言ったように、リリナ以外は要らないからな。こうやって私のそばに居て、触れさせてくれるのなら、俺は十分だ。あとはお前の好きにすれば良い」
本気なのか、そう言って、軽いリップ音を立ててキスをしたヴィルトス様が、満足そうに笑っていた。
「はあ……」
記憶にある姿とかけ離れた、甘い言葉や甘い態度。休む間もなく与えられ続けるそれに、跳ねすぎた私の心臓は、もう疲れ果てていた。
お陰で力が抜けたそんな言葉しか出てこない。だけどそんな態度さえ、ヴィルトス様は気にならないのか。相変わらず嬉しそうに笑っていた。
あえて言葉にしなくても、すでに自分の気持ちに素直に生きているヴィルトス様に、何だかおかしくなってくる。
「……じゃあ、お話しはこれぐらいにして、食事の準備をしますので、少し離れてくださいますか?」
話しをしている間に、日が落ち始めている。領地を賜ったというヴィルトス様と、ずっとここに暮らすとは思わないが、今日はさすがに移動はないだろう。
「なら、私も手伝おう」
「えっ? ヴィルトス様がですか?」
「あぁ、どう転んでもお前と生きていけるように、5年間で色々エフガァに叩き込まれたからな」
だから料理だって作れるぞ。
誇らしげに言うヴィルトス様が、私の手を取って立ち上がった。細さの消えた身体や大きな手が、しっかりと私を支えてくれる。
これからの日々に、心が躍っているのだろう。柔らかなジェードの瞳で見下ろしながら、幸せそうに笑っていた。
5年間ずっと、一緒に居るために頑張ってきてくれた人。その想いで作り上がった、今のヴィルトス様にもう1度手を伸ばす。
「ヴィルトス様」
「うん?」
どうした? と、伺うようにヴィルトス様の顔が近付いた。
「愛してます。今度こそ、2人で幸せになりましょう」
想いを込めて伝えれば、嬉しそうに破顔する。
「あぁ、必ず幸せにする。だから、俺も幸せにしてくれ」
そっと唇が触れてくる。
感触を味わうように、何度か角度を変えたあと。差し込まれた柔らかな舌が、私の舌を絡めとった。
〔完〕
***************************************
予定よりも伸びてしまいましたが、お付き合いありがとうございました!
このままだとR指定になってしまいそうなので、ここで終わりたいと思います。(この辺りまでならR指定無しでも大丈夫ですよね??)
またお付き合い頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
「何をですか?」
心配そうなヴィルトス様に、心当たりのない私は、キョトンとしてしまう。
「あの日に、お前に弁解もさせないまま、王城から追放した事だ」
「まさか、怒るはずありません。むしろ寛大な処置だったと思います」
「だが、あの時に私が黙っていれば、お前はあの場所を失う事はなかった」
「でも、正しい事ではありません。それに私のため……だったのでしょう?」
向かい合って、頬に手を添える。
その手に顔をすり寄せたヴィルトス様が、手の平にキスをした。これまでの時間を惜しむように、触れる仕草が恥ずかしくて仕方がない。
でも、かつて私を突き放した事が、どれだけヴィルトス様にとっても苦しかったのか。重なった手に絡まり合う指や。
「あぁ……手が届く場所に置いて、万が一にでも、お前を傷付けたくなかった……」
そう私へ告げた声から、伝わってくるから。温もりや感触を、求めてくるヴィルトス様に、ダメだと強くは言えなかった。
「……素直になれずに、だいぶ遠回りをしましたね」
少しでも心に従って、素直に生きていたなら、もっと早く寄り添う事ができたのだろう。
「そうだな、気持ちを下手に誤魔化して、互いをムダに傷付けた」
だから、もうプライドや体裁に囚われるのは止めるのだ。
相手のためだと思って、飲み込んだ気持ちや、行為さえ。蓋を開ければ、独り善がりで誰も幸せにならなかったのだから。
「ヴィルトス様、約束しましょう。これからは2人とも素直に生きると」
「あぁ」
「もしかしたら、喧嘩になるかもしれない。でも、その時は、ちゃんと2人で話しをして、お互いに譲り合いましょう」
「譲り合うか……」
何に引っかかったのか、ヴィルトス様が言葉を止めた。王太子だった立場を思えば、誰かに歩みよるのは、気持ち的になかなか難しいのかもしれない。
「ずっと一緒に居るためには、そういった気持ちは大切ですよ」
だから分かって欲しいと、想いを込めて真っ直ぐに見上げる。
「だが、さっきも言ったように、リリナ以外は要らないからな。こうやって私のそばに居て、触れさせてくれるのなら、俺は十分だ。あとはお前の好きにすれば良い」
本気なのか、そう言って、軽いリップ音を立ててキスをしたヴィルトス様が、満足そうに笑っていた。
「はあ……」
記憶にある姿とかけ離れた、甘い言葉や甘い態度。休む間もなく与えられ続けるそれに、跳ねすぎた私の心臓は、もう疲れ果てていた。
お陰で力が抜けたそんな言葉しか出てこない。だけどそんな態度さえ、ヴィルトス様は気にならないのか。相変わらず嬉しそうに笑っていた。
あえて言葉にしなくても、すでに自分の気持ちに素直に生きているヴィルトス様に、何だかおかしくなってくる。
「……じゃあ、お話しはこれぐらいにして、食事の準備をしますので、少し離れてくださいますか?」
話しをしている間に、日が落ち始めている。領地を賜ったというヴィルトス様と、ずっとここに暮らすとは思わないが、今日はさすがに移動はないだろう。
「なら、私も手伝おう」
「えっ? ヴィルトス様がですか?」
「あぁ、どう転んでもお前と生きていけるように、5年間で色々エフガァに叩き込まれたからな」
だから料理だって作れるぞ。
誇らしげに言うヴィルトス様が、私の手を取って立ち上がった。細さの消えた身体や大きな手が、しっかりと私を支えてくれる。
これからの日々に、心が躍っているのだろう。柔らかなジェードの瞳で見下ろしながら、幸せそうに笑っていた。
5年間ずっと、一緒に居るために頑張ってきてくれた人。その想いで作り上がった、今のヴィルトス様にもう1度手を伸ばす。
「ヴィルトス様」
「うん?」
どうした? と、伺うようにヴィルトス様の顔が近付いた。
「愛してます。今度こそ、2人で幸せになりましょう」
想いを込めて伝えれば、嬉しそうに破顔する。
「あぁ、必ず幸せにする。だから、俺も幸せにしてくれ」
そっと唇が触れてくる。
感触を味わうように、何度か角度を変えたあと。差し込まれた柔らかな舌が、私の舌を絡めとった。
〔完〕
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予定よりも伸びてしまいましたが、お付き合いありがとうございました!
このままだとR指定になってしまいそうなので、ここで終わりたいと思います。(この辺りまでならR指定無しでも大丈夫ですよね??)
またお付き合い頂けたら嬉しいです。よろしくお願いします。
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