婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!

桗梛葉 (たなは)

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「大丈夫です。おいおい財務担当の方から報告があるかと思いますから」

そう言って担当されていらっしゃる宮中伯へ視線をむければ、掌に顔を埋めて男泣きされている姿が目に入った。きっとこれからの苦労を思ってお辛いのかもしれない。お可哀想に思うけれどもそこはもう割り切らせて頂くことにする。

「あと来月予定されていらっしゃいましたパーティーについても、納期と費用の兼ね合いで商会の方と交渉が難航しております。取りあえず明日の面会のお約束はいったん白紙に致しますので、あらためて調整をされてくださいね」

他にも何かあったような気がするけれど、ささいな事だったのかもしれない。なかなか思い出せなくて、私はコテンと首を傾げた。

「シリル様が優秀でいらっしゃって、色々行われていたことは分かりましたわ! ですが、その優秀さを鼻に掛けてガイラス様を無碍に扱われることは間違っていらっしゃると思います!」

そうやって聞こえたノエリア様の声に私はようやく忘れていたことを思い出した。

「そ、そうだ! お前はその辺の優しさが足りない! いくら優秀だったとしても、そんなお前にどうやって安らぎを見いだせと言うんだ! ノエリアの慈悲深さをお前も少しは見習わなければ、結局はお前を妻にもらう者などおらんだろうな!」

直前まで呆然とするだけだったガイラス様が、ノエリア様の言葉に励まされたのだろう。勢いよくそんなことを言ってくる。

私はそんなガイラス様の言葉に思いっきり呆れてしまった。

「ガイラス様、闇雲に信じる前に信じるに値する言葉かをしっかり吟味なさってください」

今回のこともあまりにお粗末な方法なのだ。だからまさかそんな方法でノエリア様が私を陥れようとしている事に、私も気がつけなかったぐらいだけど。

「本当に慈悲深い方は、他の令嬢を陥れてまで、婚約者へ成り代わろうとは致しません」

「ど、どういうことでしょうか!? 私がシリル様を陥れたと仰るのですか!?」

「えぇ、その証拠となるのがいまお召しになっているドレスの染みでございます」

私はノエリア様のドレスに染みこんだ赤い染みを指差した。

「私がグラスの中身をノエリア様へわざと零して嫌がらせをした、ということでございましたが、そもそもグラスを見て下さい」

私はこの茶番劇の始めからずっと持ち続けているグラスを目線の高さに上げた。

「それがなんだ?」

ガイラス様もノエリア様も気が付かない様子だったが、私たちを取り巻いて成り行きを見ていた方々は気付いた方が多いようだった。

「あぁ!!」

「あのグラスならあの染みはないわ」

そんな声があちらこちらから聞こえてくる。

「なっ、なんですの?」

「私が持っているグラスはシャンパン用のフルート型でございます。本日のシャンパンはセヴラン殿下の好みによって、白のみでピンクは準備されておりません」

白いシャンパンをノエリア様のドレスに向かってぶちまけたところで、ピンク色には染まらないはずなのだ。

「そしてノエリア様のドレスの染みはピンク色。ノエリア様のお手元にあるグラスから見ても、ロゼが入っていたのはノエリア様のグラスの方だったと思いませんか?」

そんな初歩的なところを考慮もせずに陥れようとする人がいるなんて思わなかったのだ。おかげで何を言われているのか気が付くまでに時間がかかってしまったのは、今後に向けた反省だった。

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