婚約破棄でかまいません!だから私に自由を下さい!

桗梛葉 (たなは)

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「ノ、ノエリア?」

「ち、ちがいます! わ、私は嘘はついておりません!!」

そんな拗れそうな二人を前にして、私は巻き込まれる前にここを立ち去ることにした。

「あっ、あとはお二人でお願い致します」

万が一にでも、婚約破棄の撤回なんてことになったら堪らないのだ。うちに帰って傷心旅行とでも銘打って田舎の方の療養地へでも逃げ出す準備をした方が良さそうだった。

家に戻ってからの計画を頭の中で考えながら、私は2人に向かって淑女の礼をする。そしてそのまま退席しようとした瞬間だった。

「待ってくれ、シリル嬢」

私を呼び止める声が聞こえてくる。正直なところこの方には、いまの状況ではあまり遭遇したくなかった。でも声を掛けられた以上は仕方がない。聞こえてきたその声を無視することは、ここに居る誰にも認められていないのだ。

「セヴラン殿下、お騒がせをして、申し訳ございません」

私は振り返って微笑んだ。

案の定、視線の先にいた本日の主役となるセヴラン殿下に、私は同じように淑女の礼をして見せる。

ガイラス様と違って、聡明で人望の厚い方だった。でも正直私は少し苦手なのだ。

顔だけは良かったガイラス様と同じように、セヴラン殿下も精悍な顔立ちで社交界ではとても人気がある方だった。

それでもどなたへも靡かないお姿に加えて、宮中内でお会いする度に私を見て溜息を吐かれる状態なのだ。

正直女性がお好きではない上に、ことさら私を嫌っているのだろう。ずっとそう思ってきたのだから、こうやって呼び止められたことには驚いた。

まぁ真相は、せっかくのパーティーで騒ぎを起こしたことへ苦言を言いにきたのかもしれない。今回のことは正直に言って、私はただの被害者なはずなのだ。だから文句を言うのなら、セヴラン殿下の弟君であるガイラス様へ直接お願いしたかった。

「一部始終を見ていた。ガイラスが婚約破棄を宣言する所もだ」

あぁ、やっぱりたったいまの騒動に関することらしい。

「あの弟の愚行によって与えてしまった傷を思えば、非常識だと腹も立つだろう。だけど、どうにか考えて欲しいことがあるのだ」

でもパーティーでの騒動を責めるつもりはないのか、セヴラン殿下の声には批難するような響きはなかった。むしろセヴラン殿下が嫌っているだろう私へお願いごとだなんて、あまりに珍しくて少しだけ嬉しくなってくる。

婚約破棄をきっかけに宮中から去る私なのだ。最後に少しだけ歩み寄る姿勢を見せてくれたのかもしれない。

決して知らない中ではなかったのだから気まずい思いのままお別れになるよりは、その方が良いときっとセヴラン殿下もそう思ってくれたのだろう。

「かしこまりました、それで何を考えるべきなのでしょう?」

私の婚約者はガイラス様だったから、いつだってガイラス様にばかり振り回される日々だった。最後ぐらいはセヴラン殿下へ向かい合うのも悪くないはずだ。だけど。

「私との婚約をだ」

「へっ???」

そんな中で聞こえてきたセヴラン殿下のセリフに、私の口から思わず零れ出た言葉は、淑女らしからぬ声だった。

「まっ、待って下さい!!」

「何を待つのだ?」

「…えっ!? セヴラン殿下は女性が苦手なのではないんですか!?」

それなのに何をいったい言っているのだろう。私は思わずセヴラン殿下に質問してしまう。

「私は別に女性が苦手でなければ、そう言った話をシリル嬢、貴女とした覚えもないが」

その言い方に、女性が苦手ではなくて私がキライだったのかと、一瞬思った後にそれならなぜ私に婚約の申し込みを? と不思議になってしまった。
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