4 / 6
④
しおりを挟む
「ノ、ノエリア?」
「ち、ちがいます! わ、私は嘘はついておりません!!」
そんな拗れそうな二人を前にして、私は巻き込まれる前にここを立ち去ることにした。
「あっ、あとはお二人でお願い致します」
万が一にでも、婚約破棄の撤回なんてことになったら堪らないのだ。うちに帰って傷心旅行とでも銘打って田舎の方の療養地へでも逃げ出す準備をした方が良さそうだった。
家に戻ってからの計画を頭の中で考えながら、私は2人に向かって淑女の礼をする。そしてそのまま退席しようとした瞬間だった。
「待ってくれ、シリル嬢」
私を呼び止める声が聞こえてくる。正直なところこの方には、いまの状況ではあまり遭遇したくなかった。でも声を掛けられた以上は仕方がない。聞こえてきたその声を無視することは、ここに居る誰にも認められていないのだ。
「セヴラン殿下、お騒がせをして、申し訳ございません」
私は振り返って微笑んだ。
案の定、視線の先にいた本日の主役となるセヴラン殿下に、私は同じように淑女の礼をして見せる。
ガイラス様と違って、聡明で人望の厚い方だった。でも正直私は少し苦手なのだ。
顔だけは良かったガイラス様と同じように、セヴラン殿下も精悍な顔立ちで社交界ではとても人気がある方だった。
それでもどなたへも靡かないお姿に加えて、宮中内でお会いする度に私を見て溜息を吐かれる状態なのだ。
正直女性がお好きではない上に、ことさら私を嫌っているのだろう。ずっとそう思ってきたのだから、こうやって呼び止められたことには驚いた。
まぁ真相は、せっかくのパーティーで騒ぎを起こしたことへ苦言を言いにきたのかもしれない。今回のことは正直に言って、私はただの被害者なはずなのだ。だから文句を言うのなら、セヴラン殿下の弟君であるガイラス様へ直接お願いしたかった。
「一部始終を見ていた。ガイラスが婚約破棄を宣言する所もだ」
あぁ、やっぱりたったいまの騒動に関することらしい。
「あの弟の愚行によって与えてしまった傷を思えば、非常識だと腹も立つだろう。だけど、どうにか考えて欲しいことがあるのだ」
でもパーティーでの騒動を責めるつもりはないのか、セヴラン殿下の声には批難するような響きはなかった。むしろセヴラン殿下が嫌っているだろう私へお願いごとだなんて、あまりに珍しくて少しだけ嬉しくなってくる。
婚約破棄をきっかけに宮中から去る私なのだ。最後に少しだけ歩み寄る姿勢を見せてくれたのかもしれない。
決して知らない中ではなかったのだから気まずい思いのままお別れになるよりは、その方が良いときっとセヴラン殿下もそう思ってくれたのだろう。
「かしこまりました、それで何を考えるべきなのでしょう?」
私の婚約者はガイラス様だったから、いつだってガイラス様にばかり振り回される日々だった。最後ぐらいはセヴラン殿下へ向かい合うのも悪くないはずだ。だけど。
「私との婚約をだ」
「へっ???」
そんな中で聞こえてきたセヴラン殿下のセリフに、私の口から思わず零れ出た言葉は、淑女らしからぬ声だった。
「まっ、待って下さい!!」
「何を待つのだ?」
「…えっ!? セヴラン殿下は女性が苦手なのではないんですか!?」
それなのに何をいったい言っているのだろう。私は思わずセヴラン殿下に質問してしまう。
「私は別に女性が苦手でなければ、そう言った話をシリル嬢、貴女とした覚えもないが」
その言い方に、女性が苦手ではなくて私がキライだったのかと、一瞬思った後にそれならなぜ私に婚約の申し込みを? と不思議になってしまった。
「ち、ちがいます! わ、私は嘘はついておりません!!」
そんな拗れそうな二人を前にして、私は巻き込まれる前にここを立ち去ることにした。
「あっ、あとはお二人でお願い致します」
万が一にでも、婚約破棄の撤回なんてことになったら堪らないのだ。うちに帰って傷心旅行とでも銘打って田舎の方の療養地へでも逃げ出す準備をした方が良さそうだった。
家に戻ってからの計画を頭の中で考えながら、私は2人に向かって淑女の礼をする。そしてそのまま退席しようとした瞬間だった。
「待ってくれ、シリル嬢」
私を呼び止める声が聞こえてくる。正直なところこの方には、いまの状況ではあまり遭遇したくなかった。でも声を掛けられた以上は仕方がない。聞こえてきたその声を無視することは、ここに居る誰にも認められていないのだ。
「セヴラン殿下、お騒がせをして、申し訳ございません」
私は振り返って微笑んだ。
案の定、視線の先にいた本日の主役となるセヴラン殿下に、私は同じように淑女の礼をして見せる。
ガイラス様と違って、聡明で人望の厚い方だった。でも正直私は少し苦手なのだ。
顔だけは良かったガイラス様と同じように、セヴラン殿下も精悍な顔立ちで社交界ではとても人気がある方だった。
それでもどなたへも靡かないお姿に加えて、宮中内でお会いする度に私を見て溜息を吐かれる状態なのだ。
正直女性がお好きではない上に、ことさら私を嫌っているのだろう。ずっとそう思ってきたのだから、こうやって呼び止められたことには驚いた。
まぁ真相は、せっかくのパーティーで騒ぎを起こしたことへ苦言を言いにきたのかもしれない。今回のことは正直に言って、私はただの被害者なはずなのだ。だから文句を言うのなら、セヴラン殿下の弟君であるガイラス様へ直接お願いしたかった。
「一部始終を見ていた。ガイラスが婚約破棄を宣言する所もだ」
あぁ、やっぱりたったいまの騒動に関することらしい。
「あの弟の愚行によって与えてしまった傷を思えば、非常識だと腹も立つだろう。だけど、どうにか考えて欲しいことがあるのだ」
でもパーティーでの騒動を責めるつもりはないのか、セヴラン殿下の声には批難するような響きはなかった。むしろセヴラン殿下が嫌っているだろう私へお願いごとだなんて、あまりに珍しくて少しだけ嬉しくなってくる。
婚約破棄をきっかけに宮中から去る私なのだ。最後に少しだけ歩み寄る姿勢を見せてくれたのかもしれない。
決して知らない中ではなかったのだから気まずい思いのままお別れになるよりは、その方が良いときっとセヴラン殿下もそう思ってくれたのだろう。
「かしこまりました、それで何を考えるべきなのでしょう?」
私の婚約者はガイラス様だったから、いつだってガイラス様にばかり振り回される日々だった。最後ぐらいはセヴラン殿下へ向かい合うのも悪くないはずだ。だけど。
「私との婚約をだ」
「へっ???」
そんな中で聞こえてきたセヴラン殿下のセリフに、私の口から思わず零れ出た言葉は、淑女らしからぬ声だった。
「まっ、待って下さい!!」
「何を待つのだ?」
「…えっ!? セヴラン殿下は女性が苦手なのではないんですか!?」
それなのに何をいったい言っているのだろう。私は思わずセヴラン殿下に質問してしまう。
「私は別に女性が苦手でなければ、そう言った話をシリル嬢、貴女とした覚えもないが」
その言い方に、女性が苦手ではなくて私がキライだったのかと、一瞬思った後にそれならなぜ私に婚約の申し込みを? と不思議になってしまった。
304
あなたにおすすめの小説
婚約破棄が私を笑顔にした
夜月翠雨
恋愛
「カトリーヌ・シャロン! 本日をもって婚約を破棄する!」
学園の教室で婚約者であるフランシスの滑稽な姿にカトリーヌは笑いをこらえるので必死だった。
そこに聖女であるアメリアがやってくる。
フランシスの瞳は彼女に釘付けだった。
彼女と出会ったことでカトリーヌの運命は大きく変わってしまう。
短編を小分けにして投稿しています。よろしくお願いします。
【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……
小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。
この作品は『小説家になろう』でも公開中です。
【完結】死がふたりを分かつとも
杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」
私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。
ああ、やった。
とうとうやり遂げた。
これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。
私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。
自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。
彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。
それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。
やれるかどうか何とも言えない。
だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。
だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺!
◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。
詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。
◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。
1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。
◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます!
◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。
本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。
しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。
そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。
このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。
しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。
妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。
それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。
それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。
彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。
だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。
そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。
有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい
マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。
理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。
エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。
フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。
一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。
バカ二人のおかげで優秀な婿と結婚できるお話
下菊みこと
恋愛
バカ二人が自滅するだけ。ゴミを一気に処分できてスッキリするお話。
ルルシアは義妹と自分の婚約者が火遊びをして、子供が出来たと知る。ルルシアは二人の勘違いを正しつつも、二人のお望み通り婚約者のトレードはしてあげる。結果、本来より良い婿を手に入れることになる。
小説家になろう様でも投稿しています。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?
百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」
妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。
私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。
「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」
ぶりっ子の妹は、実はこんな女。
私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。
「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」
「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」
「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」
淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。
そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。
彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。
「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」
「えっ?」
で、惚れられてしまったのですが。
その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。
あー、ほら。言わんこっちゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる