敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)

文字の大きさ
2 / 33

第2 どうやら初夜です

しおりを挟む
「リュシェラ様は、こちらでお待ち下さい」

 湯浴みをさせられ、薄手の寝衣に着替えさせられる。
 パタン、と扉が閉まったのを確認して、リュシェラは部屋をグルリと見回した。

 予想もしていなかった状況だった。

「どうしよう……バルコニーから外に逃げるには高すぎるし、扉の前には見張りの兵士も立っているし……」

 狭くない部屋の中で、同じ所をグルグル歩いて考える。でも、何もアイディアが浮かばないまま、時間だけが経ってしまう。

 婚姻の夜となれば、初夜は初夜だ。こうやって身体を磨き上げられて、夫となる者をベッドで待つのが、淑女なら当たり前なのかもしれない。

 だけど、婚姻とは名ばかりで、実際は人質として差し出されただけだった。イヴァシグスには、すでに6人も綺麗な魔族の妃がいる。そんな人(魔人?)が、まさか自分のような平凡な人間を。まさか抱こうと思うとは。ちっとも思っていなかったのだ。

「何にしたって、抱かれる訳にはいかないもの」

 あいつらが言っていたのは、きっとこの機会なんだと思う。このまま初夜なんて迎えたら、きっと魔石は爆発される。そんな確信に近い予感に、リュシェラは体を震わせた。

 まだ、やりたい事だっていっぱいある。
 叶うかどうか、分からない事ばかりだけど。それでも、こんな風に死にたくない。まして、誰かを巻き込みながら死ぬなんて、絶対にご免だった。

(アイツらの思い通りになるのもイヤだし、アイツらのせいで、なんで私が恨まれなきゃいけないの)

 キリキリと痛む胃に、ギリギリと歯ぎしりしてしまう。

 そんな中で、ガチャッと扉の開く音が聞こえてきた。
 逃げ出す方法が何も思いつかないまま、タイムリミットが来たらしい。

 ヒュッ!

 思わず喉が鳴る。意味はないって分かりながらも、リュシェラは部屋の扉とは反対の、寝台の横に蹲って隠れてみた。

 扉がパタンと閉まった音が聞こえてくる。その後に続いた足音は、きっとイヴァシグスの足音だろう。それが少し聞こえた後に、音がピタッと止まっていた。

(私が居ないって気がついたの?)

 気付かれないわけがないし、見つからないわけがない。分かっていても、出て行く気にもなれなくて、リュシェラはギュッと小さくなっていた。

「隠れていても、意味がないと分かるだろう。取りあえず、さっさと出てこい」

 イヴァシグスの声がする。冷たくて、少しも好感なんて持っていない。それがハッキリ伝わるような声だった。

(そんなに嫌っているなら、お願い、そのまま放っておいて)

 そうすれば、きっとまだ少しは長く生きて居られる気がするのだ。

(まだ死にたくない。生きていたい。関係ない人を、殺して終わる最後なんてイヤだ)

 蹲ったリュシェラの背中を、イヤな汗が流れていく。恐怖に固まった身体は、カタカタ震えるだけで動かない。そんな中で、イヴァシグスがしびれを切らしたのか、また足音が聞こえ始めた。

 居場所なんて筒抜けだったのか、その音が真っ直ぐにリュシェラの方へ向かってくる。

「そこで何をしてるんだ。取りあえず、さっさと立ち上がれ」

 イヴァシグスの手が伸びてきた。その手がリュシェラの手首を掴んだときに、埋められた魔石がドクッドクって脈を打った。

(やっぱり、これが目的なんだ)

 埋め込んだ奴らのニヤニヤした、腹の立つ顔を思い出す。ドンドン強くなっていく拍動に、リュシェラは「離して!!」と手を大きく振りほどいた。

「お前!!」

「イヤっ!! 死にたくない、触らないで!!」

「なんだと!?」

 リュシェラの叫び声に怯んだのか、掴んでいたイヴァシグスの手が一瞬緩んだ。その瞬間、リュシェラはバッと踵を返した。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

襲われていた美男子を助けたら溺愛されました

茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。 相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。 イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。 なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。 相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。 イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで…… 「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」 「……は?」 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

イシュタル
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

処理中です...