敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)

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第3 あれ? ホントは優しい人?

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(どこに逃げたら良い?)
 
 後から思えば、パニック状態だったのだろう。次にリュシェラが駆け込んだのは、よりにもよってベッドの布団の中だった。
 
 実家に居た頃には、一度も触った事がない柔らかな布団。その中に潜り込んで、端っこをしっかりと握り締める。こんな物が役立つはずがない。分かってはいるけど、リュシェラを護ってくれる最後の砦なのだ。
 
 息を潜めて布団の中で震えていれば「ハァーッ」と溜息が聞こえてきた。
 
「嫌がる女を、無理やり抱く趣味はない」
 
 声の後、ドサッとベッドが揺れる。そのままマットが何度か揺れて、ついには音がしなくなり、部屋の中から気配が消えた。

(えっ? 出て行ったの?)
 
 部屋の扉が開く音はしなかった。だけど潜り込んだ布団の中からは、何一つ音が聞こえず誰の気配も感じなかった。

(諦めてくれた?)

 というよりは、不快になって部屋を出ていった、というところだろう。
 色気も何もない状態な上に、これだけハッキリと拒んでしまった状況なのだ。腹を立てながら、こんな部屋に留まり続ける理由は、イヴァシグスにはないだろう。

 それはそれでマズい事にはなりそうだが、いまのリュシェラには目の前に迫った危機を回避する事の方が大事なのだ。

(もう、大丈夫……?)

 そろそろ布団の中も息苦しくなってきた。周りの気配をもう1度伺って、リュシェラは恐る恐る、布団の裾をソッと捲った。
 
「───── ッ!!」

 不安と少しの期待を抱きながら、見回そうとした視線の先。手を伸ばせば届きそうな広い背中に、リュシェラは息を鋭く吸った。弾みでギシッと寝台が揺れる。それだけで、きっとイヴァシグスは、リュシェラが布団を捲った事に気が付いたかもしれない。
 獲物に見つかってしまいそうな恐怖が湧いて、また身体がカタカタ震えてしまう。

 不自然な沈黙が部屋の中に流れていた。しばらくたった後に、また小さな溜息が聞こえてくる。
 
「このタイミングで部屋を出るのも、色々まずい。手を出す気はないから、お前も眠れ」
 
 声はとても不機嫌そうだけど、どこか言い聞かせるような話し方だった。思ってもいなかった言葉に、リュシェラは目を瞬かせた。

(……まさか……この部屋に留まる理由を、説明してくれたの……)

 初夜の妃の部屋に来て『手を出す気はない』と言いながらも、出て行く素振りさえ見せないのだ。そのうえ。

(もしかして、距離を取ってくれているのかしら……?)

 よくよく見れば、横たわった身体は寝台の端ギリギリで、落ちてしまいそうなぐらいだった。

(魔族の王なはずなのに……)

 それなのに、そんな端に寄って眠っているのも、こちらに背中を向けているのも、リュシェラを怖がらせないように考えているのかもしれない。

(そんなに怖い人ではないのかしら……)
 
 だからといって、まだまだ安心する事もできなくて、リュシェラはイヴァシグスを警戒したまま布団に包まり続けていた。だけどそんな少しの安心と、柔らかな布団の感触は、緊張の連続で疲れ果てていたリュシェラの意識を、少しずつ遠ざけていく。そうして気が付けば、いつの間にか部屋は明るくなっていた。
 
 ガバッ ───!!
 
 身体を起こして、慌てて着ている服を確認する。寝乱れているところはあっても、リボンを解かれた様子はない。次に注意深く見回した部屋の中には、もう誰の気配も感じなかった。
 
「……1人?」
 
 朝になって、イヴァシグスは部屋を出て行ったのだろう。
 
「本当に、何もされなかった……」
 
 やっぱり、優しい人(魔物?)なのかもしれない。でも、ずっとこんな風に、見逃してはくれるわけがない。
 
「これから、どうしたら良いだろう……」
 
 いっそうの事、本当の事が言えたなら良かった。だけど、誰かに話せば、この魔石は途端に爆発する代物らしいし、そんな制御がなくても、厄介な石を持った危険人物なんて、早々に処分されてしまうはずだ。
 
 「アイツら、人をなんだと思ってるのよ!」
 
 思わず叫んだ瞬間に(あっ、違った……)と、リュシェラは心の中で呟いた。
 
 リュシェラへ魔石を埋め込ませた、一応血が繋がっているらしい王族の奴らも、埋め込んだ王宮魔道士も。そう言えば、自分たち以外は、駒や道具、下手をしたら虫けら程度にしか思っていない奴らだった。

「そう言えば、人を人とさえ認識できない奴らだったわね……」

 思いだした王宮でのわずかな日々に、リュシェラはますます奥歯を噛みしめた。
 
(せめて私にアイツらを、呪い殺せる力があれば良いのに……)
 
 そう思ったところでリュシェラに出来るのは、魔具を通じて、この身体の半径1メートル程度に結界を張る事ぐらいなのだ。
 
 「……取りあえず、着替えよう」
 
 無力感を首を振って払い飛ばしたリュシェラは、そのまま柔らかくて大きな寝台から立ち上がった。
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