敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)

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第7 1人の時間

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 突然意識が浮上したリュシェラは、ガバッと寝台の上で身体を起こした。いつの間に眠ってしまったのか、夜は完全に明けており、壁紙の模様までハッキリ見えるぐらい、部屋の中は明るくなっている。

 カーテンが引かれたままなせいで、外の様子は分からなかった。でも、布越しに薄らと感じる光から、十分に太陽が昇っている事が伝わってくる。

 リュシェラは慌てて寝衣を確認してホッと息を吐き出した後、周りをキョロキョロと見回した。

(私、1人? イヴァシグス様は……?)

 もう仕事にでも行ったのかもしれない。部屋の中からは、もう誰の気配も感じなかった。初夜を迎えた夫婦だというのに……一瞬だけ、そんな事が頭を過る。

(でも、その肝心の初夜を拒絶したのは、私なのよね……)

 幼い頃から夢見ていた訳ではない。だが、特別だと言われる一夜や後朝が、まさかこんな形になるとは思わなかったが、世間的に薄情だとも見えるイヴァシグスの行為は責められない。

(むしろ、1人にして貰えて、良かったかもしれない……)

 顔を合わせたとしても、どうすれば良いのか分からず、考える事は豊富にあったのだ。

 目下の悩みとしては、今晩も同じようにイヴァシグスの訪いがあるのか、という事だった。
 もし昨夜のような事があるなら、今日も見逃してもらうには、どうすれば良いのか。いや、そもそもいつまでも逃れきれるはずがないのだ。それなら、これからどうしたら良いのか。
 
 触れ合ってしまえば、魔石は爆発するだろう。いくらリュシェラが爆発が広がらないように、自分を中心に結界を張っていたとしても、肌を触れ合わせる距離では意味が無い。
 
「それに、やっぱりまだ死にたくないな……」
 
 それなら、正直に告げるしかないのかもしれない。
 
「でも、言ったら最後だと思うのよね」
 
 魔族の王様がどれだけ非情なのかは分からない。一応は血が繋がっているはずの人間の王族は、クズだと言っても差し支えがない人達だった。
 
「昨日の様子を見る限り、あれよりはマシだと思うけど、結局は同じ王族だもの」
 
 イヴァシグスも、あの人達と同じよう、リュシェラの命は同じ価値を持っていないだろう。それを分かっているだけに、部屋の中を永遠と行ったり来たりしながら、他の方法を考える。
 
 窓から差し込んでいた、柔らかな光が強まっていく。ガラス越しに見える青空も、そのまぶしさを増していた。澄み渡っていく爽やかな空に反して、解決策の見つからないリュシェラの表情は曇っていく。
 
 そしてだいぶ時間が経ったころ、リュシェラは大きな溜息を吐き出した。
 
「逃げ出す事も出来ないんだもの……」
 
 やっぱり素直に告げるしかないのだろう。
 
「でも……」
 
(きっと殺されて、終わりだわ……)
 
 言葉にしてしまえば本当の事になりそうで、リュシェラは口を思わず噤んだ。不安にゾクッと身体が震えて、暖めるように二の腕をさする。
 
 最近では暖かくなってきたとはいっても、夕方近くなればさすがに部屋が冷えてきていた。目覚めた時には、日の強さから考えてもまだ午前中だったはずなのに、いつの間にか時間は夕刻に近付いていた。
 
(1人にして欲しかったけど、ここまで放って置かれるなんて)
 
 くぅ~。

 部屋に備え付けられていたわずかな果物と、水差しからのお水を飲んだっきり、朝食も、昼食も食べていないお腹が空腹を訴えてくる。
 
 リュシェラは宥めるようにお腹を擦って立ち上がった。これからどうしたら良いか、なんてまだ分からない。でも、空腹を訴える胃に、何か食べ物を入れたかった。
 
 日が本格的に落ちてしまえば、灯りのない状態ではきっと暗すぎて動けない。部屋の中を見回せば、火の点っていない暖炉の上に、オイルランプが1つあった。しかも手に取って確認したそれは、発火石が内蔵された高級品だった。
 
 もともとリュシェラは日常魔法が苦手なのだ。中途半端に流れる王族の血のせいか、身体に抱えたマナの量は多いらしい。スピードの速い馬車の制御が難しいように、センスのないリュシェラにはそれを上手く扱う事ができなかった。
 
 加えて今のリュシェラは、大半のマナを垂れ流して消費している状態なのだ。細かい調整が必要な発火魔法を、使えるとは思わなかっただけに、この高級ランプはありがたかった。
 
 摘まみを少し回せば、中から小さなカチッカチッと音が数回聞こえてくる。
 その直後に、灯心の先にポッと小さな灯りが点った。摘まみを回せば火種が大きくなり、部屋の中を明るく照らす。
 まだ灯りが必要な時間ではないが、準備はしておいた方が良いだろう。
 
 取りあえず、食事のためにも誰かとコンタクトを取らなくてはいけない。リュシェラはランプを片手に扉へ向かった。
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