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第8 ひとり、1人、独り?
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何の抵抗もなく扉は開き、リュシェラは隙間から恐る恐る顔を出した。昨日の夜までは確実に扉の前に居た、兵士達の姿がなかった。
「……出ても、良いのよね?」
誰に言うともなしに呟いて、リュシェラは扉を閉めて歩き出した。ハッキリとした行き先があるわけじゃない。
(取りあえず歩いていれば、その内、誰かに会うでしょう)
そんな事を思っただけだった。だって第7妃として『今日からこちらをお使い下さい』と、昨日紹介されながら足を踏み入れたエントランス。その両サイドに頭を垂れて控えた使用人達の数は、慣れないリュシェラが圧倒される程だったのだ。それなのに。
「……どうして、誰もいないの……?」
それどころか、生き物の気配が何も感じられないぐらい、邸の中は静まり返っている。
(昨日の人達は? みんなどこに?)
ようやく気がついた違和感に戸惑いながら、リュシェラは歩くスピードを少し上げた。広い通路の中に、自分だけの足音だけが響いていく。その音にゴクッと唾を飲み込んで。
「あの~、誰か居ませんか?」
思い切ってリュシェラは声を上げた。
淑女として、だいぶみっともない行為だろう。分かっていても、灯りを点す者がいない邸の中を、夜の闇が広がっていく。それに伴いゆっくりと、不安が心を占め始めていた。
だけど、呼びかけた声に応じる音は、やっぱりなかった。
(どういう事? いったい何があったの?)
日が落ちるのに合わせて、真っ暗になった邸の中。
リュシェラの声や足音だけが響いて聞こえる状況と、これだけ歩き回っても誰1人、遠くから影さえ見ないのだ。さすがに1人きりだと、分かってくる。
だけど、まさか。
結婚して2日目に、夫が今晩寝室へ訪うかどうか。そんな事を心配している内に、これだけ大きな邸の中に1人取り残されるとは、全く思っていなかったのだ。
あまりに予想外の状況に、呆然としながらリュシェラは歩き続けていた。気がつけば、覚えのある廊下を進んでいたのだろう。いつの間にか見覚えのあるダイニングへ、リュシェラは辿り着いていた。
当然灯りも点いておらず。広々とした空間は、静かで空気が冷えている。その中を進んで、何も食事が並んでいない立派な食卓に、リュシェラは手に持ったランプをコトリと置いた。
「何だか疲れちゃった……」
同じように立派な椅子を自分で引いて、力なく腰掛ければ、途端に身体が重たくなる。リュシェラはそのまま机に凭れて目を閉じた。
姿勢を崩したその姿は、ダイニングでの振る舞いとして正しい姿ではない。分かっている。だけど、誰がそれを咎めるというのか。ここにはリュシェラを見る者は、誰1人居ない。
(……戻らなきゃ……)
こんな所に居ても何の意味もない。ここに居たって、誰かが暖かいスープやパンをリュシェラへくれる訳じゃない。分かっているのに動けなかった。
(戻る? どこに? 私はどこに戻ろうとしてるの? いったいどこに、行き場所があるっていうの)
こんな魔石を抱えたまま。いつ死ぬかも分からないのに。突然フッと浮かんだ事だったが、言い得て妙で思わず苦笑が零れ落ちた。
空腹感よりも、虚無感に動く力が失われていく。
もうこれ以上考える事も、動く事も面倒なのだ。
「疲れ、ちゃったな……」
もう1度だけ呟いて、リュシェラは身体の力を抜いた。冷えきった部屋の中で、身体はどんどん冷えていくが、そんな事さえどうでもよかった。
そしてそのまま、リュシェラの意識は落ちていった。
「……出ても、良いのよね?」
誰に言うともなしに呟いて、リュシェラは扉を閉めて歩き出した。ハッキリとした行き先があるわけじゃない。
(取りあえず歩いていれば、その内、誰かに会うでしょう)
そんな事を思っただけだった。だって第7妃として『今日からこちらをお使い下さい』と、昨日紹介されながら足を踏み入れたエントランス。その両サイドに頭を垂れて控えた使用人達の数は、慣れないリュシェラが圧倒される程だったのだ。それなのに。
「……どうして、誰もいないの……?」
それどころか、生き物の気配が何も感じられないぐらい、邸の中は静まり返っている。
(昨日の人達は? みんなどこに?)
ようやく気がついた違和感に戸惑いながら、リュシェラは歩くスピードを少し上げた。広い通路の中に、自分だけの足音だけが響いていく。その音にゴクッと唾を飲み込んで。
「あの~、誰か居ませんか?」
思い切ってリュシェラは声を上げた。
淑女として、だいぶみっともない行為だろう。分かっていても、灯りを点す者がいない邸の中を、夜の闇が広がっていく。それに伴いゆっくりと、不安が心を占め始めていた。
だけど、呼びかけた声に応じる音は、やっぱりなかった。
(どういう事? いったい何があったの?)
日が落ちるのに合わせて、真っ暗になった邸の中。
リュシェラの声や足音だけが響いて聞こえる状況と、これだけ歩き回っても誰1人、遠くから影さえ見ないのだ。さすがに1人きりだと、分かってくる。
だけど、まさか。
結婚して2日目に、夫が今晩寝室へ訪うかどうか。そんな事を心配している内に、これだけ大きな邸の中に1人取り残されるとは、全く思っていなかったのだ。
あまりに予想外の状況に、呆然としながらリュシェラは歩き続けていた。気がつけば、覚えのある廊下を進んでいたのだろう。いつの間にか見覚えのあるダイニングへ、リュシェラは辿り着いていた。
当然灯りも点いておらず。広々とした空間は、静かで空気が冷えている。その中を進んで、何も食事が並んでいない立派な食卓に、リュシェラは手に持ったランプをコトリと置いた。
「何だか疲れちゃった……」
同じように立派な椅子を自分で引いて、力なく腰掛ければ、途端に身体が重たくなる。リュシェラはそのまま机に凭れて目を閉じた。
姿勢を崩したその姿は、ダイニングでの振る舞いとして正しい姿ではない。分かっている。だけど、誰がそれを咎めるというのか。ここにはリュシェラを見る者は、誰1人居ない。
(……戻らなきゃ……)
こんな所に居ても何の意味もない。ここに居たって、誰かが暖かいスープやパンをリュシェラへくれる訳じゃない。分かっているのに動けなかった。
(戻る? どこに? 私はどこに戻ろうとしてるの? いったいどこに、行き場所があるっていうの)
こんな魔石を抱えたまま。いつ死ぬかも分からないのに。突然フッと浮かんだ事だったが、言い得て妙で思わず苦笑が零れ落ちた。
空腹感よりも、虚無感に動く力が失われていく。
もうこれ以上考える事も、動く事も面倒なのだ。
「疲れ、ちゃったな……」
もう1度だけ呟いて、リュシェラは身体の力を抜いた。冷えきった部屋の中で、身体はどんどん冷えていくが、そんな事さえどうでもよかった。
そしてそのまま、リュシェラの意識は落ちていった。
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