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第10 豪華な牢??
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「さてと」
開いたクローゼットの中には、一通りの衣装は揃っていた。その中から、少しでも動きやすそうなルームドレスに着替えて、邸の中の散策に向かう。
道すがら見掛けた扉という扉を開いていけば、目立たない位置にあった扉や通路に気がついた。その先を進めば、使用人の使う裏方の通路や、地下の貯蔵庫へ降りる階段へと繋がっていた。
裏方や地下といっても、だいぶ手を掛けていたのだろう。埃っぽさや湿っぽさなども一切なく、清潔に整えられている。
(こんなに立派な場所なのに、どうして放棄しちゃったのかしら……)
ハッキリとした理由は分からない。可能性として考えられるのは、リュシェラの幽閉先とするため。そんなところだった。
でも貯蔵庫や部屋に設えられていた物を見る限り、もともと幽閉して、放置するつもりだったとは思えない。
(それなら、きっとイヴァシグス様を拒絶してしまったせいよね……)
寝室の振る舞いが、きっと不興を買ってしまったのだ。だからといって、和平の証として嫁いだ人間の妃を牢獄に突っ込んだりしては、きっと外聞が悪いのだ。
(だから、このまま放置する事にしたってところかしら?)
自分たちでは手を掛けずに、あわよくば死んでくれたら幸いだ。もしかしたら、そういう事なのかもしれない。
(まぁ、普通の王女様なら、立場を儚んで死んじゃうかもしれないものね)
そこまでいかなかったとしても、自分で何もできないお姫様では、生きようたって生きられない事は、分かりきっているのだから。
「でも、残念ね。私は自分の事ぐらい、自分でどうにかできちゃうもの」
肝心な食料だって、貯蔵庫にあるのを見つけてある。これだけあればリュシェラなら、当分の間はどうにかできる。もちろん限りがある以上は、何も手をこまねいたままでは居られないけど、いますぐ飢える心配はない。
今もまた、切なく鳴いて主張する腹の虫は、どうにか宥めきれるのだ。
「まずは、しっかり食事を摂りましょう」
さっさと厨房に戻ったリュシェラは、備え付けの保冷庫から、卵とハムを取り出した。保冷庫にも、冷却機能がある魔石が埋め込まれているらしい。取り出した食材は、しっかりと冷えて鮮度は保たれているようだった。
(こんなに素敵な設備ばかりなのに。捨てちゃうなんてもったいない)
それなら、しっかりと自分が活用させてもらう事にする。
言い訳よりも、むしろ『ムダにしなかった私に、感謝でもして欲しいぐらいだ』と開き直りながら、グルリと周りの設備を見回した。
突然の状況に戸惑いはしたけど、きままな一人暮らしだと思えば、ここはなかなか快適な環境だ。しかも回りくどいこんな方法を取るぐらいなのだから、積極的にリュシェラを殺す気まではないのだろう。
(王族への不敬罪は、一般的には死罪だもの)
ちょっとだけ感謝をしつつ、リュシェラは浅鍋を取り出して、発火石が備わった焜炉に置いて火を掛けた。
「まずはパンを焼いて……」
日持ちするように、固めに焼かれたパンにサッと水を吹きかけて、蓋をした鍋の中でパンを蒸しながら焼いていく。パンを焼き終えれば、そこに卵とハムを投入して、上手く油が出てきたところで卵を落として焼けば、立派な朝食が完成だった。
順調な新しい生活のスタートに、リュシェラのお腹も喜ぶように、グ~グ~と音を立てている。
リュシェラは手近な椅子を引き寄せて、作業台に皿を並べて手を合わせた。
(どうせ1人なんだもの。わざわざダイニングに運ぶ必要はないわよね)
その方が片付けだって楽だし、何よりも目の前で美味しそうな匂いがしているハムや艶やかな卵、ふっくらとしたパンをこれ以上、我慢なんてできそうにない。
「いただきます!!」
リュシェラはお腹が満たされる幸せを感じながら、肉と卵をパンに挟んで、即席のサンドイッチにパクッと大きく噛みついた。
開いたクローゼットの中には、一通りの衣装は揃っていた。その中から、少しでも動きやすそうなルームドレスに着替えて、邸の中の散策に向かう。
道すがら見掛けた扉という扉を開いていけば、目立たない位置にあった扉や通路に気がついた。その先を進めば、使用人の使う裏方の通路や、地下の貯蔵庫へ降りる階段へと繋がっていた。
裏方や地下といっても、だいぶ手を掛けていたのだろう。埃っぽさや湿っぽさなども一切なく、清潔に整えられている。
(こんなに立派な場所なのに、どうして放棄しちゃったのかしら……)
ハッキリとした理由は分からない。可能性として考えられるのは、リュシェラの幽閉先とするため。そんなところだった。
でも貯蔵庫や部屋に設えられていた物を見る限り、もともと幽閉して、放置するつもりだったとは思えない。
(それなら、きっとイヴァシグス様を拒絶してしまったせいよね……)
寝室の振る舞いが、きっと不興を買ってしまったのだ。だからといって、和平の証として嫁いだ人間の妃を牢獄に突っ込んだりしては、きっと外聞が悪いのだ。
(だから、このまま放置する事にしたってところかしら?)
自分たちでは手を掛けずに、あわよくば死んでくれたら幸いだ。もしかしたら、そういう事なのかもしれない。
(まぁ、普通の王女様なら、立場を儚んで死んじゃうかもしれないものね)
そこまでいかなかったとしても、自分で何もできないお姫様では、生きようたって生きられない事は、分かりきっているのだから。
「でも、残念ね。私は自分の事ぐらい、自分でどうにかできちゃうもの」
肝心な食料だって、貯蔵庫にあるのを見つけてある。これだけあればリュシェラなら、当分の間はどうにかできる。もちろん限りがある以上は、何も手をこまねいたままでは居られないけど、いますぐ飢える心配はない。
今もまた、切なく鳴いて主張する腹の虫は、どうにか宥めきれるのだ。
「まずは、しっかり食事を摂りましょう」
さっさと厨房に戻ったリュシェラは、備え付けの保冷庫から、卵とハムを取り出した。保冷庫にも、冷却機能がある魔石が埋め込まれているらしい。取り出した食材は、しっかりと冷えて鮮度は保たれているようだった。
(こんなに素敵な設備ばかりなのに。捨てちゃうなんてもったいない)
それなら、しっかりと自分が活用させてもらう事にする。
言い訳よりも、むしろ『ムダにしなかった私に、感謝でもして欲しいぐらいだ』と開き直りながら、グルリと周りの設備を見回した。
突然の状況に戸惑いはしたけど、きままな一人暮らしだと思えば、ここはなかなか快適な環境だ。しかも回りくどいこんな方法を取るぐらいなのだから、積極的にリュシェラを殺す気まではないのだろう。
(王族への不敬罪は、一般的には死罪だもの)
ちょっとだけ感謝をしつつ、リュシェラは浅鍋を取り出して、発火石が備わった焜炉に置いて火を掛けた。
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リュシェラは手近な椅子を引き寄せて、作業台に皿を並べて手を合わせた。
(どうせ1人なんだもの。わざわざダイニングに運ぶ必要はないわよね)
その方が片付けだって楽だし、何よりも目の前で美味しそうな匂いがしているハムや艶やかな卵、ふっくらとしたパンをこれ以上、我慢なんてできそうにない。
「いただきます!!」
リュシェラはお腹が満たされる幸せを感じながら、肉と卵をパンに挟んで、即席のサンドイッチにパクッと大きく噛みついた。
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