16 / 33
第16 交渉で、大切なのは結果です
しおりを挟む
「申し訳ございません。まさかイヴァシグス様が、苗の1つさえご準備頂くのが難しいほど、困窮されているとは、存じませんでした。今の言葉は忘れて下さい」
本気でそう思っているわけじゃない。でも、かなり短絡的で、直情型な様子のディファラートなのだ。こんな風に言われれば、黙って受け流しはしないだろう。
「そんな訳がないだろう!! 」
そして案の定、声を荒げたディファラートに、リュシェラは口元に添えた手に隠れて、わずかに口角を持ち上げた。
「大丈夫ですよ。私は誰にも言いません。そもそも、他へ伝える術もありませんから。ご安心下さい」
穏やかに、でも慰めるように。眉の動きから、指先まで気をつける。そして声を潜めながら、仲間意識を感じていると、好意が伝わるように、声音も十分気をつけた。
「そうではない、と言っている! 貴様なんかと、同じにするな!!」
「そうですね、分かってます」
「そうじゃない! 人の話しを聞け!」
「大丈夫です。皆まで仰らなくても、ご事情は伝わりましたから」
ディファラートの叫び声に、リュシェラは訳知り顔で頷いて見せた。
「あぁぁ!! クソっ!苗ぐらいすぐに準備をしてやる! 何の苗が欲しいんだ!?」
「ありがとうございます。それでは、レティス、コルタナ、ホウスタスを、3株ずつ。あとカボルとピアガン、マバウドの種もお願いします」
望んだ言葉に、リュシェラはすかさず、欲しい苗とついでに種の名前を並べていく。
手の平を返したような切り替わりに、一瞬、はっ?といった空気が流れ、全員の動きが止まっていた。そんな中でいち早く我に返ったのは、ディファラードの後に控えていた使用人だった。
慌てて懐から出したメモ帳に、リュシェラが並べた名前を書き留めていく。それからワンテンポ遅れて、ディファラートもようやく嵌められた事に気が付いたようだった。
「貴様!!」
よほど腹に据えかねたのか。再び顔を赤くしたディファラートの目は、怒りに大きく見開かれて、血走って赤くなっていた。
「はい?」
そんなディファラートを前にしても、恐れを感じない自分が、リュシェラも不思議だった。
「さすが卑しい人間だな!」
「では人と違い、貴い魔族のディファラート様は、きっと1度口に出された言葉は、しっかり守ってくださいますね。ありがとうございます」
誰も頼れない。自分でどうにかしなければ、生きていく事さえ難しい。
そんな1ヶ月間の経験が、きっとリュシェラを強かにしたのだろう。
憎々しげにリュシェラを睨んだディファラートを前にしても、リュシェラはディファラートの言葉の揚げ足を取っていく。
1歩も引く様子がないリュシェラに、ついにディファラートが盛大な舌打ちをして黙り込んだ。睨む視線はそのまま、真っ直ぐにリュシェラへ注がれている。
「……これっきりだ。次はない」
そして流れた沈黙の後。ディファラートは絞り出すような声でそう言った。
「ご安心下さい。これ以上は望みません。始めにお話ししたように、あとは放置されてかまいません」
状況がどうであれ、一応はこちらの要望を飲んでもらったのだ。リュシェラはディファラートへ頭を下げた。
「あぁ。せいぜい、悔いながら野垂れ死ね」
頭上から、フンッ。と鼻を鳴らす音がする。
そのまま踵を返したのだろう。
苛立ちに任せた荒々しい足音が、リュシェラの側から離れていく。その音がすっかり聞こえなくなった後、リュシェラはようやく頭を上げた。
「……疲れたわ」
フラフラと東屋の下に戻って、イスにドサッと腰掛ける。
無意識に、だいぶムリをしていたのだろう。張っていた気が緩めば、身体がひどく重たかった。そんなリュシェラの頬を風が優しく撫でていく。それに合わせて、サワサワと葉ずれの音が聞こえてくる。
「静かね……」
耳に届いたその微かな音のせいで、ますますこの場所の静けさを感じてしまい、リュシェラはソッと目を伏せた。さっきまで大勢居たせいか、慣れたはずの孤独が、今だけは少し身にしみた。
本気でそう思っているわけじゃない。でも、かなり短絡的で、直情型な様子のディファラートなのだ。こんな風に言われれば、黙って受け流しはしないだろう。
「そんな訳がないだろう!! 」
そして案の定、声を荒げたディファラートに、リュシェラは口元に添えた手に隠れて、わずかに口角を持ち上げた。
「大丈夫ですよ。私は誰にも言いません。そもそも、他へ伝える術もありませんから。ご安心下さい」
穏やかに、でも慰めるように。眉の動きから、指先まで気をつける。そして声を潜めながら、仲間意識を感じていると、好意が伝わるように、声音も十分気をつけた。
「そうではない、と言っている! 貴様なんかと、同じにするな!!」
「そうですね、分かってます」
「そうじゃない! 人の話しを聞け!」
「大丈夫です。皆まで仰らなくても、ご事情は伝わりましたから」
ディファラートの叫び声に、リュシェラは訳知り顔で頷いて見せた。
「あぁぁ!! クソっ!苗ぐらいすぐに準備をしてやる! 何の苗が欲しいんだ!?」
「ありがとうございます。それでは、レティス、コルタナ、ホウスタスを、3株ずつ。あとカボルとピアガン、マバウドの種もお願いします」
望んだ言葉に、リュシェラはすかさず、欲しい苗とついでに種の名前を並べていく。
手の平を返したような切り替わりに、一瞬、はっ?といった空気が流れ、全員の動きが止まっていた。そんな中でいち早く我に返ったのは、ディファラードの後に控えていた使用人だった。
慌てて懐から出したメモ帳に、リュシェラが並べた名前を書き留めていく。それからワンテンポ遅れて、ディファラートもようやく嵌められた事に気が付いたようだった。
「貴様!!」
よほど腹に据えかねたのか。再び顔を赤くしたディファラートの目は、怒りに大きく見開かれて、血走って赤くなっていた。
「はい?」
そんなディファラートを前にしても、恐れを感じない自分が、リュシェラも不思議だった。
「さすが卑しい人間だな!」
「では人と違い、貴い魔族のディファラート様は、きっと1度口に出された言葉は、しっかり守ってくださいますね。ありがとうございます」
誰も頼れない。自分でどうにかしなければ、生きていく事さえ難しい。
そんな1ヶ月間の経験が、きっとリュシェラを強かにしたのだろう。
憎々しげにリュシェラを睨んだディファラートを前にしても、リュシェラはディファラートの言葉の揚げ足を取っていく。
1歩も引く様子がないリュシェラに、ついにディファラートが盛大な舌打ちをして黙り込んだ。睨む視線はそのまま、真っ直ぐにリュシェラへ注がれている。
「……これっきりだ。次はない」
そして流れた沈黙の後。ディファラートは絞り出すような声でそう言った。
「ご安心下さい。これ以上は望みません。始めにお話ししたように、あとは放置されてかまいません」
状況がどうであれ、一応はこちらの要望を飲んでもらったのだ。リュシェラはディファラートへ頭を下げた。
「あぁ。せいぜい、悔いながら野垂れ死ね」
頭上から、フンッ。と鼻を鳴らす音がする。
そのまま踵を返したのだろう。
苛立ちに任せた荒々しい足音が、リュシェラの側から離れていく。その音がすっかり聞こえなくなった後、リュシェラはようやく頭を上げた。
「……疲れたわ」
フラフラと東屋の下に戻って、イスにドサッと腰掛ける。
無意識に、だいぶムリをしていたのだろう。張っていた気が緩めば、身体がひどく重たかった。そんなリュシェラの頬を風が優しく撫でていく。それに合わせて、サワサワと葉ずれの音が聞こえてくる。
「静かね……」
耳に届いたその微かな音のせいで、ますますこの場所の静けさを感じてしまい、リュシェラはソッと目を伏せた。さっきまで大勢居たせいか、慣れたはずの孤独が、今だけは少し身にしみた。
83
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
襲われていた美男子を助けたら溺愛されました
茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。
相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。
イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。
なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。
相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。
イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで……
「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」
「……は?」
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる