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第16 交渉で、大切なのは結果です
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「申し訳ございません。まさかイヴァシグス様が、苗の1つさえご準備頂くのが難しいほど、困窮されているとは、存じませんでした。今の言葉は忘れて下さい」
本気でそう思っているわけじゃない。でも、かなり短絡的で、直情型な様子のディファラートなのだ。こんな風に言われれば、黙って受け流しはしないだろう。
「そんな訳がないだろう!! 」
そして案の定、声を荒げたディファラートに、リュシェラは口元に添えた手に隠れて、わずかに口角を持ち上げた。
「大丈夫ですよ。私は誰にも言いません。そもそも、他へ伝える術もありませんから。ご安心下さい」
穏やかに、でも慰めるように。眉の動きから、指先まで気をつける。そして声を潜めながら、仲間意識を感じていると、好意が伝わるように、声音も十分気をつけた。
「そうではない、と言っている! 貴様なんかと、同じにするな!!」
「そうですね、分かってます」
「そうじゃない! 人の話しを聞け!」
「大丈夫です。皆まで仰らなくても、ご事情は伝わりましたから」
ディファラートの叫び声に、リュシェラは訳知り顔で頷いて見せた。
「あぁぁ!! クソっ!苗ぐらいすぐに準備をしてやる! 何の苗が欲しいんだ!?」
「ありがとうございます。それでは、レティス、コルタナ、ホウスタスを、3株ずつ。あとカボルとピアガン、マバウドの種もお願いします」
望んだ言葉に、リュシェラはすかさず、欲しい苗とついでに種の名前を並べていく。
手の平を返したような切り替わりに、一瞬、はっ?といった空気が流れ、全員の動きが止まっていた。そんな中でいち早く我に返ったのは、ディファラードの後に控えていた使用人だった。
慌てて懐から出したメモ帳に、リュシェラが並べた名前を書き留めていく。それからワンテンポ遅れて、ディファラートもようやく嵌められた事に気が付いたようだった。
「貴様!!」
よほど腹に据えかねたのか。再び顔を赤くしたディファラートの目は、怒りに大きく見開かれて、血走って赤くなっていた。
「はい?」
そんなディファラートを前にしても、恐れを感じない自分が、リュシェラも不思議だった。
「さすが卑しい人間だな!」
「では人と違い、貴い魔族のディファラート様は、きっと1度口に出された言葉は、しっかり守ってくださいますね。ありがとうございます」
誰も頼れない。自分でどうにかしなければ、生きていく事さえ難しい。
そんな1ヶ月間の経験が、きっとリュシェラを強かにしたのだろう。
憎々しげにリュシェラを睨んだディファラートを前にしても、リュシェラはディファラートの言葉の揚げ足を取っていく。
1歩も引く様子がないリュシェラに、ついにディファラートが盛大な舌打ちをして黙り込んだ。睨む視線はそのまま、真っ直ぐにリュシェラへ注がれている。
「……これっきりだ。次はない」
そして流れた沈黙の後。ディファラートは絞り出すような声でそう言った。
「ご安心下さい。これ以上は望みません。始めにお話ししたように、あとは放置されてかまいません」
状況がどうであれ、一応はこちらの要望を飲んでもらったのだ。リュシェラはディファラートへ頭を下げた。
「あぁ。せいぜい、悔いながら野垂れ死ね」
頭上から、フンッ。と鼻を鳴らす音がする。
そのまま踵を返したのだろう。
苛立ちに任せた荒々しい足音が、リュシェラの側から離れていく。その音がすっかり聞こえなくなった後、リュシェラはようやく頭を上げた。
「……疲れたわ」
フラフラと東屋の下に戻って、イスにドサッと腰掛ける。
無意識に、だいぶムリをしていたのだろう。張っていた気が緩めば、身体がひどく重たかった。そんなリュシェラの頬を風が優しく撫でていく。それに合わせて、サワサワと葉ずれの音が聞こえてくる。
「静かね……」
耳に届いたその微かな音のせいで、ますますこの場所の静けさを感じてしまい、リュシェラはソッと目を伏せた。さっきまで大勢居たせいか、慣れたはずの孤独が、今だけは少し身にしみた。
本気でそう思っているわけじゃない。でも、かなり短絡的で、直情型な様子のディファラートなのだ。こんな風に言われれば、黙って受け流しはしないだろう。
「そんな訳がないだろう!! 」
そして案の定、声を荒げたディファラートに、リュシェラは口元に添えた手に隠れて、わずかに口角を持ち上げた。
「大丈夫ですよ。私は誰にも言いません。そもそも、他へ伝える術もありませんから。ご安心下さい」
穏やかに、でも慰めるように。眉の動きから、指先まで気をつける。そして声を潜めながら、仲間意識を感じていると、好意が伝わるように、声音も十分気をつけた。
「そうではない、と言っている! 貴様なんかと、同じにするな!!」
「そうですね、分かってます」
「そうじゃない! 人の話しを聞け!」
「大丈夫です。皆まで仰らなくても、ご事情は伝わりましたから」
ディファラートの叫び声に、リュシェラは訳知り顔で頷いて見せた。
「あぁぁ!! クソっ!苗ぐらいすぐに準備をしてやる! 何の苗が欲しいんだ!?」
「ありがとうございます。それでは、レティス、コルタナ、ホウスタスを、3株ずつ。あとカボルとピアガン、マバウドの種もお願いします」
望んだ言葉に、リュシェラはすかさず、欲しい苗とついでに種の名前を並べていく。
手の平を返したような切り替わりに、一瞬、はっ?といった空気が流れ、全員の動きが止まっていた。そんな中でいち早く我に返ったのは、ディファラードの後に控えていた使用人だった。
慌てて懐から出したメモ帳に、リュシェラが並べた名前を書き留めていく。それからワンテンポ遅れて、ディファラートもようやく嵌められた事に気が付いたようだった。
「貴様!!」
よほど腹に据えかねたのか。再び顔を赤くしたディファラートの目は、怒りに大きく見開かれて、血走って赤くなっていた。
「はい?」
そんなディファラートを前にしても、恐れを感じない自分が、リュシェラも不思議だった。
「さすが卑しい人間だな!」
「では人と違い、貴い魔族のディファラート様は、きっと1度口に出された言葉は、しっかり守ってくださいますね。ありがとうございます」
誰も頼れない。自分でどうにかしなければ、生きていく事さえ難しい。
そんな1ヶ月間の経験が、きっとリュシェラを強かにしたのだろう。
憎々しげにリュシェラを睨んだディファラートを前にしても、リュシェラはディファラートの言葉の揚げ足を取っていく。
1歩も引く様子がないリュシェラに、ついにディファラートが盛大な舌打ちをして黙り込んだ。睨む視線はそのまま、真っ直ぐにリュシェラへ注がれている。
「……これっきりだ。次はない」
そして流れた沈黙の後。ディファラートは絞り出すような声でそう言った。
「ご安心下さい。これ以上は望みません。始めにお話ししたように、あとは放置されてかまいません」
状況がどうであれ、一応はこちらの要望を飲んでもらったのだ。リュシェラはディファラートへ頭を下げた。
「あぁ。せいぜい、悔いながら野垂れ死ね」
頭上から、フンッ。と鼻を鳴らす音がする。
そのまま踵を返したのだろう。
苛立ちに任せた荒々しい足音が、リュシェラの側から離れていく。その音がすっかり聞こえなくなった後、リュシェラはようやく頭を上げた。
「……疲れたわ」
フラフラと東屋の下に戻って、イスにドサッと腰掛ける。
無意識に、だいぶムリをしていたのだろう。張っていた気が緩めば、身体がひどく重たかった。そんなリュシェラの頬を風が優しく撫でていく。それに合わせて、サワサワと葉ずれの音が聞こえてくる。
「静かね……」
耳に届いたその微かな音のせいで、ますますこの場所の静けさを感じてしまい、リュシェラはソッと目を伏せた。さっきまで大勢居たせいか、慣れたはずの孤独が、今だけは少し身にしみた。
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