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第15 願うのは、このまま忘れてしまうこと
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図星を指されると腹を立てるのは、人も魔族も同じようだった。一か八かの賭けだったが、その様子にリュシェラはホッとした。
突然始まった状況だけに、どこまで身の安全が保証されているのかが分からなかったのだ。
(質問をした時の反応からみても、やっぱり死んでしまっても構わないけど、殺す気までは無い、ってところのようね……)
それに、その後の挑発への反応から見ても、イヴァシグスの命令も同じようなものなのだろう。
「貴様、こちらが下手に出ていれば、図に乗りやがって!!!」
かなりプライドが高いのかもしれない。周りの者達の様子を見るに、身分なのか立場なのかは分からないが、それなりに高位の者ではあるようだ。
だが、簡単に激昂して感情に振り回されるのは、どうか、と思ってしまう。あまりに短絡的な姿に、リュシェラは少し呆れていた。
動じる様子がないリュシェラに、ますます腸が煮えくり返ったのか。その男がズイッとリュシェラへ近付いた。
「ディファラート様、落ち着いて下さい!!」
慌てたように、さっきのトカゲの男を含む数人の魔人が、ディファラートと呼ばれた男を押し留めた。
「イヴァシグス様は、私を害しろと仰ってないはず。それなのに、イヴァシグス様の言葉に背かれるのですか?」
ここで引いてしまえば、今の穏やかな日々さえ守れない。そんな気がして、リュシェラも1歩前に出た。
ディファラートの言動に、別に腹を立てた訳ではない。
リュシェラとしては、穏やかに生きていきたい。ただそれだけなのだから。
尋ねたのは、確認というより、念押しに近い感覚だった。
「私の世話をして欲しい、とは望みません。今まで通り、ここへ私を捨て置いてくだされば、それだけで十分です」
お互いの為にも、きっとその方が良いはずなのだ。
小さく微笑めば、毒気が抜かれたのか。今にも掴みかかりそうだったディファラートが、舌打ちをして、勢いを緩めた。
「離せ」
押し留めていた者達を、肩を振って、引き離す。
「……その強がりも、いったいどれぐらい持つ事やら」
ディファラートとしては、納得できない様子だった。それでも王であるイヴァシグスの言葉には、逆らう気は無いようだ。
ディファラートは吐き捨てるようにそう言って、リュシェラへ背を向け歩き出した。
(嵐のような人だったけど、取りあえず無事に済んで良かったわ)
これで、ここで末永く、田畑を耕しながら生きていける。安心して、リュシェラは「はぁーっ」と息を吐いた。
(でも、何か忘れているような……)
うーん、と首を傾げて周りを見回す。青々とした葉っぱが、もともと花壇だった場所で揺れていた。自給自足の為に、大切な野菜達だった。
「あぁぁ!!!」
思い出した瞬間に、思わず大きな声が出た。
(そうよ! 大切な食料に関する事じゃない!!)
「な、なんだ!?」
リュシェラの突然の大声に、ディファラート達一行も、だいぶ驚いたようだった。少し離れた位置で足を止め、遠目にも驚いているとわかる表情を向けている。
「あの、葉野菜の苗を頂けませんか?」
だいぶ腹を立てていたようだから、素直に応じて貰えるとは思わない。だけど、言うだけはタダだし。まずは伝えてみない事には、叶うものさえ叶わない。
「ハッ! あれだけ大口を叩いておきながら、さっそく物資の無心か、さすが強欲な人間だな」
その言葉に、リュシェラは口元に手を添えて、視線を伏せた。
突然始まった状況だけに、どこまで身の安全が保証されているのかが分からなかったのだ。
(質問をした時の反応からみても、やっぱり死んでしまっても構わないけど、殺す気までは無い、ってところのようね……)
それに、その後の挑発への反応から見ても、イヴァシグスの命令も同じようなものなのだろう。
「貴様、こちらが下手に出ていれば、図に乗りやがって!!!」
かなりプライドが高いのかもしれない。周りの者達の様子を見るに、身分なのか立場なのかは分からないが、それなりに高位の者ではあるようだ。
だが、簡単に激昂して感情に振り回されるのは、どうか、と思ってしまう。あまりに短絡的な姿に、リュシェラは少し呆れていた。
動じる様子がないリュシェラに、ますます腸が煮えくり返ったのか。その男がズイッとリュシェラへ近付いた。
「ディファラート様、落ち着いて下さい!!」
慌てたように、さっきのトカゲの男を含む数人の魔人が、ディファラートと呼ばれた男を押し留めた。
「イヴァシグス様は、私を害しろと仰ってないはず。それなのに、イヴァシグス様の言葉に背かれるのですか?」
ここで引いてしまえば、今の穏やかな日々さえ守れない。そんな気がして、リュシェラも1歩前に出た。
ディファラートの言動に、別に腹を立てた訳ではない。
リュシェラとしては、穏やかに生きていきたい。ただそれだけなのだから。
尋ねたのは、確認というより、念押しに近い感覚だった。
「私の世話をして欲しい、とは望みません。今まで通り、ここへ私を捨て置いてくだされば、それだけで十分です」
お互いの為にも、きっとその方が良いはずなのだ。
小さく微笑めば、毒気が抜かれたのか。今にも掴みかかりそうだったディファラートが、舌打ちをして、勢いを緩めた。
「離せ」
押し留めていた者達を、肩を振って、引き離す。
「……その強がりも、いったいどれぐらい持つ事やら」
ディファラートとしては、納得できない様子だった。それでも王であるイヴァシグスの言葉には、逆らう気は無いようだ。
ディファラートは吐き捨てるようにそう言って、リュシェラへ背を向け歩き出した。
(嵐のような人だったけど、取りあえず無事に済んで良かったわ)
これで、ここで末永く、田畑を耕しながら生きていける。安心して、リュシェラは「はぁーっ」と息を吐いた。
(でも、何か忘れているような……)
うーん、と首を傾げて周りを見回す。青々とした葉っぱが、もともと花壇だった場所で揺れていた。自給自足の為に、大切な野菜達だった。
「あぁぁ!!!」
思い出した瞬間に、思わず大きな声が出た。
(そうよ! 大切な食料に関する事じゃない!!)
「な、なんだ!?」
リュシェラの突然の大声に、ディファラート達一行も、だいぶ驚いたようだった。少し離れた位置で足を止め、遠目にも驚いているとわかる表情を向けている。
「あの、葉野菜の苗を頂けませんか?」
だいぶ腹を立てていたようだから、素直に応じて貰えるとは思わない。だけど、言うだけはタダだし。まずは伝えてみない事には、叶うものさえ叶わない。
「ハッ! あれだけ大口を叩いておきながら、さっそく物資の無心か、さすが強欲な人間だな」
その言葉に、リュシェラは口元に手を添えて、視線を伏せた。
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