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第14 価値があるなら、大切に
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「畑を耕してますが?」
髪を1つに結わえて、動きやすいようにズボンを穿いて。傍らには鍬だって転がっている状態なのだ。どう見たって、優雅に庭園を眺めながら、お茶をしているようには見えないだろう。
リュシェラは取りあえず答えながら、さっきのトカゲの男以外にも複数の兵士や使用人らしき魔族を連れた、人型の男の後ろを指差した。
「ちなみに、あっちからそこまではトマイで、あっちの蔓棚はナベルです」
野菜の内、種が取れるものは、始めの頃に全て種を取って栽培している。ナス科やウリ科の野菜はそういった風に栽培出来て幸運だった。
特に夏野菜の苦みの強いニーグルは、味はともかくビタミンが豊富で栄養価もとても高い。その上、栽培もしやすい心強い野菜だった。
種から発芽をさせたせいで、どの野菜もまだ伸びきっておらず、茎も太っていない状態だった。だが、分かる者が見れば、青々とした葉を備えた畑は、だいぶ立派な出来なのだ。
リュシェラはこの1ヶ月の成果を改めて眺めて、満足げに微笑んだ。
「ここにあった花はどうした?」
だけど、この細身で神経質そうな男は、この状況が気に入らなかったのか。周囲を見回す表情は、ハッキリと不快そうに歪んでいる。
「引っこ抜きました」
だけどそんな男の態度にも、リュシェラは微笑んだままだった。
「どういう事だ?」
「要らなかったので」
「お前のような野蛮な種族には、ここの庭園の価値は分からなかったようだな」
男なりに気に入っていた庭園だったのか。
それともたかが人間の妃ごときに、素晴らしかった庭園をダメにされた事が気に入らなかったのか。
その両方なのかは、分からない。だけど、男は忌々しそうに舌打ちをして、リュシェラを鋭く睨み付けた。
「価値と仰られても、食べられませんので」
「はっ?」
「ちなみに、あの花は食べられるので残しています」
リュシェラはさっき指差した畑とは別の、一角の生け垣を指差した。
「たくさんの花を付けますし、季節を問いませんし。そのままではあまり食べられないですけど、素揚げにすると、一気に美味しく頂けますよ」
「な、何を言っている?」
「それはこちらの言葉です。もしかしたら、ご存じないかもしれないので、お伝えしておきますが、花や草木といった植物は、定期的に水を遣ったり、お世話をしないとダメなんですよ?」
「だから何だ!? それぐらい知っているに決まっているだろう!!」
「なら、なぜそこまで惜しむのに、この1ヶ月間放置されたのですか?」
もしも私が引っこ抜いたりしなくても、全く手つかずだった1ヶ月間で、どちらとしても同じだったと、なぜ思わないのか。
「それにもう1つ。実は人間も、同じなんです。1ヶ月間、飲まず食わずでは死んでしまうって、ご存じでしたか?」
「それは、もちろん……」
「知っていました? なら、これから私を殺しますか?」
「なにを……ッ!?」
なぜそこで、驚いた表情をするのか、リュシェラには全く分からなかった。だって、死ぬことを分かりつつ、放っておいたのは、この人達のはずなのだ。
「あぁ、でも。きっと直接手をかける事は、出来ないのでしょうね。外交の問題もありますし」
和平の証として、嫁いだ妃が殺された。
そうなれば、魔族は野蛮な種族だと、人間は信じるはずなのだ。魔族を人間に対する脅威と見なされれば、再び紛争が生じる可能性は高いだろう。その時は、アガンシアだけの規模では済まなくなる。
「だから、こんな回りくどい方法を選ばれたのでしょう?」
男の顔が、どんどん赤くなっていく。
「人間ごときが!」
吐き捨てて睨み付けてくる目も、赤く血走っていた。
髪を1つに結わえて、動きやすいようにズボンを穿いて。傍らには鍬だって転がっている状態なのだ。どう見たって、優雅に庭園を眺めながら、お茶をしているようには見えないだろう。
リュシェラは取りあえず答えながら、さっきのトカゲの男以外にも複数の兵士や使用人らしき魔族を連れた、人型の男の後ろを指差した。
「ちなみに、あっちからそこまではトマイで、あっちの蔓棚はナベルです」
野菜の内、種が取れるものは、始めの頃に全て種を取って栽培している。ナス科やウリ科の野菜はそういった風に栽培出来て幸運だった。
特に夏野菜の苦みの強いニーグルは、味はともかくビタミンが豊富で栄養価もとても高い。その上、栽培もしやすい心強い野菜だった。
種から発芽をさせたせいで、どの野菜もまだ伸びきっておらず、茎も太っていない状態だった。だが、分かる者が見れば、青々とした葉を備えた畑は、だいぶ立派な出来なのだ。
リュシェラはこの1ヶ月の成果を改めて眺めて、満足げに微笑んだ。
「ここにあった花はどうした?」
だけど、この細身で神経質そうな男は、この状況が気に入らなかったのか。周囲を見回す表情は、ハッキリと不快そうに歪んでいる。
「引っこ抜きました」
だけどそんな男の態度にも、リュシェラは微笑んだままだった。
「どういう事だ?」
「要らなかったので」
「お前のような野蛮な種族には、ここの庭園の価値は分からなかったようだな」
男なりに気に入っていた庭園だったのか。
それともたかが人間の妃ごときに、素晴らしかった庭園をダメにされた事が気に入らなかったのか。
その両方なのかは、分からない。だけど、男は忌々しそうに舌打ちをして、リュシェラを鋭く睨み付けた。
「価値と仰られても、食べられませんので」
「はっ?」
「ちなみに、あの花は食べられるので残しています」
リュシェラはさっき指差した畑とは別の、一角の生け垣を指差した。
「たくさんの花を付けますし、季節を問いませんし。そのままではあまり食べられないですけど、素揚げにすると、一気に美味しく頂けますよ」
「な、何を言っている?」
「それはこちらの言葉です。もしかしたら、ご存じないかもしれないので、お伝えしておきますが、花や草木といった植物は、定期的に水を遣ったり、お世話をしないとダメなんですよ?」
「だから何だ!? それぐらい知っているに決まっているだろう!!」
「なら、なぜそこまで惜しむのに、この1ヶ月間放置されたのですか?」
もしも私が引っこ抜いたりしなくても、全く手つかずだった1ヶ月間で、どちらとしても同じだったと、なぜ思わないのか。
「それにもう1つ。実は人間も、同じなんです。1ヶ月間、飲まず食わずでは死んでしまうって、ご存じでしたか?」
「それは、もちろん……」
「知っていました? なら、これから私を殺しますか?」
「なにを……ッ!?」
なぜそこで、驚いた表情をするのか、リュシェラには全く分からなかった。だって、死ぬことを分かりつつ、放っておいたのは、この人達のはずなのだ。
「あぁ、でも。きっと直接手をかける事は、出来ないのでしょうね。外交の問題もありますし」
和平の証として、嫁いだ妃が殺された。
そうなれば、魔族は野蛮な種族だと、人間は信じるはずなのだ。魔族を人間に対する脅威と見なされれば、再び紛争が生じる可能性は高いだろう。その時は、アガンシアだけの規模では済まなくなる。
「だから、こんな回りくどい方法を選ばれたのでしょう?」
男の顔が、どんどん赤くなっていく。
「人間ごときが!」
吐き捨てて睨み付けてくる目も、赤く血走っていた。
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