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第24話 やって来ない未来

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「あのね。イヴァシグス様は魔族の王様でしょ?」

「うん、そうだよ。だから皆のために、寝る間も惜しんで、いつも頑張ってくれてるんだって」

 アラルトの言葉に続けて「だから、イヴァシグス様にお願いしたら、大丈夫だから」と、ティガァがリュシェラを説得してくる。 

「でもね、それだけ魔族のみんなを守るのにお忙しい方だもの。人間の私まで守るのは、とても難しい事なのよ」

 リュシェラの言葉にショックを受けたのか、2人が思い詰めた顔で黙ってしまった。そして、しばらくの沈黙があった後。

「なら……」

 アラルトが声を出したタイミングで、ティガァも真っ直ぐにリュシェラの方を見つめてくる。そんな2人の静かな様子は、今までとどこか違っていた。

「リュシェラ様は誰に守って貰うの?」

「ここにはリュシェラ様以外には、人間は誰もいないんだよ」

 子供らしく泣いて、怒り出したいのを、グッと堪えているのだろう。涙声でそう聞いてくる2人に、リュシェラは曖昧に笑ってみせた。

「そうね、だから私自身で頑張らないといけないわね」

 だけどリュシェラの側に立った2人に、そんな誤魔化しは効かなかったのか。さっきまでおやつを強請っていた雛鳥のような様子はない。

 ただ2人とも黙ったまま、互いに視線を重ね合う。そして何かを確認するように頷いて、リュシェラへアラルトがソッと手を差し出した。

 リュシェラが握り返す事はないと分かりつつ、いつでも握れるようにと差し出された手に、胸の奥が切なく痛む。

「戻って、傷をどうにかしよう」

「前に俺達が持ってきた物に、薬と包帯はあったでしょ? それを使おう。もし足りない物があれば、家から取ってくるから」

 ティガァが荷物を全て抱えて、アラルトが優しくリュシェラを誘導する。
 リュシェラの傷に響かないように、ゆっくりと歩きながら、2人がぽつぽつと同じ速度で話し出した。

「俺達さ、どっちがリュシェラ様に相応しいか、ずっと勝負をしてたんだ」

 ティガァの言葉に驚いて、リュシェラが目を瞬かせる。

「お父さんに言ったら、じゃあ強くならないとな、って言われたから。だから、強い方がリュシェラ様をお嫁さんに貰おうって、ティガァと2人で決めてたんだ」

 領地でも小さな子供が、母親に強請っていた結婚の約束と同じようなものだろう。そんな2人の子供らしい言葉に、こんな時でもフフッと口元が綻んでしまう。


「でもさ、リュシェラ様が1人なら、俺かアラルトのどっちかじゃなくてさ、俺達2人とも側に居る」

「ずっと俺達が一緒ならさ、リュシェラ様は1人で頑張らなくても良いでしょう?」

 だから、ずっと俺達と一緒に居よう。
 真っ直ぐで、優しくて。叶うことのない、おとぎ話のようなプロポーズに、鼻の奥が痛くなった。

「それは、素敵ね。そうなったら、嬉しいわ」

 そんな日々は来ないと知っているからこそ、リュシェラは何のしがらみもなく、素直に嬉しいと笑い返せた。
 それは子供の口約束だと、決して侮っている訳じゃなくて。まだ何も知らない子供だからこそ、共に居ることが出来ただけなのだ、とリュシェラはちゃんと分かっているから。

─── ずっと一緒に居られたら良いのに……。

 でも彼等がもう少し成長した頃。子供のする事だと、言う事が出来なくなる頃には。リュシェラは彼等に、お別れを言わなくてはいけないのだ。

─── でも、もしも。そんな日々が過ごせたなら……。

「……きっと、楽しいわね」

 遠くを見つめながら、リュシェラはポツリと呟いた。同時に2人が、何か言ったかと、リュシェラの方を仰ぎ見る。それにリュシェラは何でもない、と首を振り返す。

 告げる事の出来ない望みは、明るい光に紛れて、消えていった。
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