敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)

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第23話 優しい王様

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「リュシェラ様!!」

 2人の声が重なって、慌てながらリュシェラへ近付いてくる。

「ご、ごめんなさい!!」

 思ってもいなかった事態に、また声を揃えて謝った2人は、だいぶおろおろと動揺していた。

 2人の間にあった剣呑な雰囲気が掻き消えて、いつも通りの様子に、リュシェラはホッと息を吐き出した。たぶん気持ちが緩んだせいだろう。途端にズキズキと痛みが増してくる。弱くはない痛みに、リュシェラは恐る恐る、腕の内側を確認すれば、痛みの強さから予想した通り、袖が破れた箇所は、真っ赤に染まっていた。

 運悪く、折れた枝にでも、引っ掛けてしまったのかもしれない。

「ち、血がーーっ!」

「 お、おれ、お父さんを呼んでくる!!」

 ティガァの引き攣った声に弾かれるように、アラルトがとっさに駆け出しそうになる。

「待って!!」

 リュシェラはそんなアラルトを慌てて引き止めて。

「呼びに行かないで」

 首を振って、困ったように笑った。

「どうして!? だって、こんなに血が出るぐらい、ケガしてるのに!!」

 怒ったようにも、でも泣き出しそうにも感じる表情だった。
 
 日頃、見慣れない表情だと、トカゲの造形をしたリザードであるアラルトの表情を確実に読み取る事は難しかった。でも、水気を帯びた声に加えて、そんな見慣れない表情だからこそ。泣き出しそうな状態で必死に堪えているのだと、リュシェラははっきりと分かってしまった。

「心配してくれて、ありがとう。でも、私は呪いを持っているから、誰も関わらせちゃいけないの」

「関わったらどうなるの?」

「呪いだもの。関わった人が危険になるわ。それだけじゃないのよ! なんと、関わった人は、ものスゴく叱られてしまうのよ」

 ね、怖いでしょう? と笑って見せるリュシェラにも、アラルトの口は横一門に結ばれたままだった。リュシェラの冗談めいた様子に誘われて、いつもの様に笑う気配もなければ、子供らしく叱られるという言葉に、怯えるような様子もない。

「誰に叱られるの?」

 そんなリュシェラとアラルトのやり取りを聞いていたティガァが、怒ったような声で聞いてくる。
 
「……さあ、誰だったかしら。うーん、今は思い出せないわ」

 リュシェラは曖昧な笑顔を浮かべて「それよりも」と、話しをどうにか切り上げようと試みた。

─── だって、2人には言えないもの……。

 死を望まれている隷妃なのだと。
 だから、誰も私の命を助けたりはしないと。
 2人が信頼する父にしても、表だって動いてしまえば、彼ら自身が危うくなると。

 そんな事を、まだ幼いこの2人が、わざわざ知る必要はないのだから。だから、この話しに2人をこれ以上、巻き込みたくなかった。それなのに。
 
「イヴァシグス様に言って、そんな奴、叱ってもらう!! みんなイヴァシグス様は、優しいって言ってたよ。だからリュシェラ様、待ってて」

 思ってもいなかった言葉の後、今度は揃って走りだそうとする2人に、リュシェラはさっき以上に慌ててしまった。

 2人の言う、イヴァシクスこそが、リュシェラの死を願う張本人なのだ。子どもの訴えが、イヴァシグスへ直接届くとは微塵も思わないが、万が一を警戒したい。
 それに、2人にとってイヴァシグスは、いざとなれば縋りたいと想うような王なのだろう。その想いを穢してしまう気がして、リュシェラは何だか居たたまれなかった。
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